今まで考えてこなかった。「死」というものが近づいてくることを。
「…おばあ…ちゃん?」
私は、16歳になるまで、「人の死」というものとは無縁の人生だった。ペットが死んだ時以外は「死」というものに出くわさなかった。だから、葬式なんて行ったこともない。身近な人の「死」を考えることはなかった。
「危ない状況です。そう長くはもたないでしょう。」
何も関係のなかった「死」というものが手を伸ばしてきていることを急に実感した。「死」などどうってことない。人間いつかは死ぬのだし、そんなに怖いものではない。そんな風に考えている私に「死」は現実を与えに来ているんだと思った。「死」というものの現実を。妹が母親に聞いていた
「おばあちゃんは大丈夫なの?」
「……」
答えられるわけもない。重苦しい沈黙が家族を包んだ。私の嫌いな空気。私の嫌いな時間。「死」はそんなものも私たちにもたらしている気がした。いついなくなるか分からない。そんな恐怖に駆り立てられたのか、母親は祖母に付きっきりだった。そんな中での生活に耐えなければいけない日々が続いた。
「行ってきます!」
笑顔を作って元気なフリをした。学校でも、いつも通り過ごした。心の中に「この先どうなってしまうのか」という不安のようなものを抱えながら。今思えば、訪れる「死」というものに対しての心持ちが足りなかったのかもしれない。日に日に痩せ細っていく祖母を見て、目をそらしたくなった。変わり果てた姿を見たくなかった。少しずつ確実に迫ってくる「死」の全貌を見た。これが「死」なんだ、と確信した。
「子供達は制服で行けばいいかな、私達も服を買わなくちゃ…」
両親が話しているのを聞いた。まだ死んでいないのに、まだ死なないかもしれないのに。「死」の現実を見ながらもそう考えてしまった。「死」が迫る。そのことは、ただ死ぬのではなく、残る者達にダメージを与えていくことでもある。
きっと、私は「死」が来ることも、いなくなることも受け止めてしまうだろう。全てを受け入れ、何も無かったかのように、同じ日々を送ってしまうだろう。「冷たい生き物だ」と言われながら。
きっと、次の質問の答えは出ないだろう。この先もずっと。
「死」は何をもたらすのか。