コメント
33件
「…俺を」
奏橙「先輩!こっちです!」
竜央「あ、奏橙!」
2人の男女が、嬉しそうに向き合う。
何分か雑談し、少し涼しげな木の下のベンチに2人は座る。
奏橙「先輩は京極組に入ったんですよね?最近どうなんですか?」
竜央「まー…楽しいな!」
ニコッと元気に笑う。
奏橙「そ、…うですか。…あ、俺の組にも雷華君って言う1つ年下の子が戻ってきたんですよ!」
オッドアイの少し小柄な青年は、目の前の女性の少し無防備なTシャツ姿と笑顔に、少し顔を赤く染めながら会話を進める。
竜央「そっかー!それは楽しいだろうな。あー…私も天羽組ちょっといってみたかったかも。」
奏橙「な、なぜ?」
竜央「なんか楽しそーだなって思ったから。」
奏橙「ふふ…っ…まぁ俺も先輩がいたら楽しいですよ。暇しなさそうなんで。」
竜央「おう!毎日楽しくしてやる!」
そんな話をしていると、いつの間にやら時間が過ぎてた。
竜央「あ、もうこんな時間か。…じゃ、奏橙。また今度!」
奏橙「…っ」
また今度。青年はその言葉に冷や汗を流す。彼の家族はまた今度ねと言って青年を残して家を出ていった。
また今度。誰もが使う言葉にトラウマがあるようだ。
奏橙「…。」
青年は女性に抱きつく。
竜央「お?ど、どうした?」
突然の出来事に足が止まる。
奏橙「あっ…ご、めんな…さい」
謝りながらも、幼児のように手を話さない青年に、女性…竜央は何かを察したようだ。
竜央「あー、1人、嫌なのか?」
優しく寄り添うような声で青年…奏橙に話しかける。
奏橙「は、はい…ごめんなさい…もう随分と前の事なのに…みっともないですよね…」
そんなに自分を卑下しなくとも良いのに…と思ってるようだ。
竜央「みっともなくねぇよ。」
竜央は奏橙を自分の目の前に来るようにする。
奏橙「えっ…?」
竜央「私は、お前のことみっともないなんて思ったことねぇよ。奏橙は私の…自慢の後輩だ。もし誰かが奏橙の事を悪く言っていたら私はそいつをボコボコにできるぜ?」
竜央はそこまで言うと、ゆっくり息を吸う
竜央「だから、悲しくなることなんてねぇぞ。」
そう言うと、少し目尻が赤くなった奏橙の頭をポンっと撫でる。
奏橙は、弱々しく息を吸い竜央に言う
奏橙「…俺を…1人に…しないで…」
硝子のように繊細な、すぐ壊れてしまいそうな声で言う。
竜央「もちろんだ。」
落ち着いた様子の奏橙は
「ごめんなさい」
と竜央にいい帰路を歩く
竜央「…」
奏橙「…」
竜央/奏橙「…恥ずかし……」
別々の道を歩いているが、声は揃っていた。
「…俺を」[完]