テラーノベル
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駅前で待ち合わせをして、もう三十分くらい経つ。
「……遅い」
仁人がスマホを見ながら呟いたところで、
後ろから声がした。
「ごめん。待った?」
振り返ると、柔太郎が立っていた。
「いや、今来たとこ」
「絶対うそ」
笑いながら、柔太郎が隣に並ぶ。
今日は仕事じゃないから、いつもより少しだけラフな服装。
仁人は何気なくその服を見て、それから目を上げた。
――目が合う。
「……なに?柔太郎」
「いや」
柔太郎が少し笑う。
「その服、いいじゃん。似合ってる」
「……急に言うなって」
「本当に思ったから」
さらっと言われて、仁人は視線を逸らした。
こういうところがずるい。
大げさに褒めるわけでもない。
特別なことを言っているような顔もしない。
ただ、本当にそう思ったから言った、みたいな顔をする。
「じゃあ、行こう」
「うん」
並んで歩き始める。
目的地なんて、実は決めていない。
適当に店を見て、気になったものがあれば入って。疲れたらカフェにでも入ればいい。
服屋を出たところで、仁人の髪が風に煽られる。
「……ちょっと」
柔太郎が足を止めた。
「ん?」
「髪」
そう言って、仁人の前髪に手を伸ばす。
指先が、髪に触れる。
ほんの一瞬。
「少し直すね。うん、、、可愛い」
「……あ、そう」
「うん」
手を離される。
それだけなのに、妙に意識してしまう。
「仁ちゃん?」
「……なに」
「顔、赤くない?」
「暑いだけ」
「今日、そんなに暑くないけど」
「うるさい」
笑われる。
そのまま歩き出した柔太郎を、仁人も追いかける。
少しだけ距離を空けて。
でも、信号待ちで並んだときには、また肩が触れそうなくらい近くにいる。
「ねえ」
「ん?」
「今日さ」
仁人が前を向いたまま言う。
「……楽しい?」
柔太郎は少しだけ考えてから、
「楽しいよ」
と答えた。
「仁ちゃんは?」
「……まあ」
「まあ?」
「楽しい」
「そっか」
それだけ。
それだけなのに、なんだか嬉しい。
信号が青になる。
二人で歩き出す。
しばらくして、柔太郎が小さな声で言った。
「仁ちゃん」
「ん?」
「俺、距離近い?」
仁人は足を止めた。
柔太郎も止まる。
目が合う。
今度は、どちらも逸らさなかった。
「……嫌?」
そう聞かれて、仁人は少し迷う。
嫌じゃない。
むしろ――。
「……嫌じゃない」
柔太郎が、ほんの少しだけ目を細めた。
「じゃあ」
一歩だけ近づく。
「信じてもいいの?」
仁人は何も言えなかった。
ただ、逃げなかった。
そのことだけで、柔太郎には十分だったみたいに、優しく笑った。
コメント
3件
第1話、読ませていただきました。 柔太郎のさらっとした優しさが、すごく心地よかったです。「髪、直すね」って言って前髪に触れるところ、ああいう何気ない仕草って、結構重い意味を持ったりするから……仁人の「嫌じゃない」に、じんと来ました。 信号待ちで肩が触れそうなくらい近づく距離感、そして「信じてもいいの?」って問いかけ。まだ1話なのに、二人の空気が丁寧で、この後どうなっていくんだろうって画面の前で静かに期待してます。 続きも読ませてくださいね、 みぅ🖤
#YJ
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1
いとこんにゃく
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