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エピローグ
ドライヤーの音は眠くなるらしい。
優しく梳かす若井の細くて長い指も安心するし、サラサラと髪が流れるその心地よさに睡魔が襲ってくる。
(まぁ、運動した後だしね。。。)
なんてことをぼんやり考えていたら「はい、乾いたよ」って言って終わらせられてしまった。
若井はドライヤーやタオルをもってランドリールームへ片付けに行ってるらしい。
白い大きなソファの上で両膝を折って丸くなってると、さっきまで若井が座っていたところがまだ暖かいのがわかって、ホントにいるんだなと安心する。
残った微かな温もりに指を這わせる。
「わか、い…。」
あのさ、時々無性に恐ろしくなるんだ。
もう詩が綴れなくなったら。
唄えなくなったら。
走れなくなって、膝をついて。
その間にどんどん忘れ去られていったら?
誰からもひつようと…
「もとき。大丈夫?」
気付くと、若井が床に座ってコチラを心配そうにのぞき込んでいた。
「あ、うん。だい、じょうぶ…」
若井の顔を見返したら、さっきのバスルームでの出来事が思い出されて脈が上がるのが分かった。
そんな俺に気付いたのか、気付かないのか。
「そっか」と笑うと隣に腰を下ろした。
「元貴。ハイ、こっちこっち。」
「え…。ちょっ…。」
自分の膝をぽんぽんと叩いてから、俺の腕を取ると抱えるようにして引き寄せる。
若井の足の間にすっぽり収まると、お気に入りのブランケットを肩から掛けてくれて。
なんだか二人で雪だるまになったみたいだ。
「元貴…あのさ。」
若井の声のトーン少しだけ下がったのが分かって、俺は身構えた。
そりゃそうだよな。きっと呆れられてる。
だいぶ不安定だったし。バスルームで無茶して倒れるし、若井にはあんな事言うし…
でも、若井の声は優しいままで。
肩にかかったブランケットがずれ落ちないようにそっと俺ごと包んでくれる。
「大丈夫だよ。とか、気の利いた事言えないけどさ。
元貴が不安な時は泣いていいよ。代わりに俺が隣で笑うからさ。そしたらあくまだって逃げてくだろ?
走れなくなったら、俺が代わりに走るし、唄えなくなったら俺が唄うよ。
いつかみんなに受け入れられなくなる日がきたら、またあの頃みたいに小さなスタジオでライブやってさ。
涼ちゃんも一緒にもう一度ゼロから始めればいいよ。今ってもうそういうのできないから、ちょっとワクワクするじゃん。」
「…っ。」
思いがけない言葉に不意にブワッと涙が溢れて、自分でも動揺した。
欲しいときに欲しい言葉がもらえると、こんな気持ちになるんだな。
涙を見られた照れ隠しに「俺がケガしたら、どうするの。」って聞いたら。
「え、えーと、そん時は一緒にケガする?じゃ意味ないか。はは!」って優しい顔で笑った。
若井はいつもそうだ。
逃げたり隠れたりしないで、隣を歩いてくれる。
この人を、失いたくない。
思わず反射的に若井の首にしがみついて、首筋にまだ涙の痕が残る頬を埋めた。
「…元貴?」
ああ、どうかこの笑顔が曇ることなくずっと続きますように。
そう願う事だけは誰にも邪魔させない。
「若井。ごめんね。
自分の弱さから逃げ出したくて。
若井は断れないって分かってたのに。」
「大丈夫だよ。 あ、でもさ、元貴。
……もとき?」
若井が俺の名前を呼ぶのは分かったけど。
…眠いな。
最近眠れなかったのがウソみたいだ。
ふわふわとした夢心地の中でそっと俺を抱きしめた若井に
「…もとき、今度は優しくさせてね。」
そう囁かれたのは何とか分かったけど。
もう返事もできなくて。
小さく頷いたのを最後に眠りに落ちた。
fin
やっぱり甘いのがスキ