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アイノウ
夜12時
玄関の方から音がした
早足めに向かうと目立つピンク色の髪をした彼が俯いていた
「どしたん」声をかけるとぱっと顔を上げた
「とびきり優しく抱いて 恋人みたいにさ」
彼から言うのは珍しかった
「ええよ 優しく抱いたるからまず風呂入り」
胸の方からくぐもった声が聞こえた
────────────────────
こんな関係になったのはいつからだろうか
初めは酔った勢いだった
夜12時
2人きりの部屋でただ何も話さずちびちびと缶の中身を飲んでいくだけ
空になった缶を見つめていると
目の前のピンクの男に声をかけられた
「ね、抱いてくれない?」
夜1時
初めて彼と身体を重ねた
言葉は交わさず甲高い声だけが部屋に響く
お酒のせいだろうか、彼はずっと涙を流し、「ごめん」と言った
そしてトぶ前に一言
「ありがと」
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「まろ」
彼に声をかけられて我に返る
「大丈夫?今日やめとく?」
初めて身体を重ねた時のことを思い出してたみたいだった
「ごめん、大丈夫 動くな」
優しく優しく恋人にするみたいに
ゆっくりと腰を動かすと甘い声が部屋中に広がる
恋人みたいに、なんて言いながらキスもしない好きなんて甘い言葉も言わない
そこにあるのはただ挿れて動くだけの行為
何処か満たされるけど 缶の底に穴が空いてるみたいに満たされたものは流れ落ちていく
けど一瞬でも満たされるんだ 一瞬でも満たされないよりはマシ
マシなんだろう
コレをする時ないこはいつも快楽に溺れているように見えた 俺を溺れさせようとしてるようにも見えた
それが怖くなって溺れる寸前までチョコレートに身体を沈める
決してチョコレートに溺れないように
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友人の家でお酒を飲んでいた時だっただろうか
急に来た俺にびっくりしたようだったが 笑いながらコンビニの膨らんだ袋を持ち上げると何も言わず家に入れてくれた
度数の低いのと高いのを同じぐらい買って
彼がよく飲んでいるお酒は少し多めに
ツマミも買ってきたが袋を開けることはなかった
何も言わずただお酒を飲むという変な光景ができた
耳に入ってくるのは次々に開けられていく缶の音 いつもは気にならない時計や息を吐く音
そして無意味についているテレビの音
「ね、抱いてくんない?」
今日この部屋で初めて発した言葉だった
夜1時
彼に抱いてもらった
きっと彼は俺のことが好きじゃないから
諦めるからさ 最後に思いっきり抱いて欲しい
こんな自己満で彼にやりたくもないことをやらせてしまってるのだ
甘く高い声を出しながら謝った
ごめん、ごめんって
彼は何も言わずにただ静かに抱いてくれた
*
「とびきり優しく抱いて 恋人みたいにさ」
なんで今もこんな関係なのかわかんない
だけどまろが一時でも俺を見てくれる俺を大事にしてくれる
それが嬉しくていつもまろに甘えてしまう
だけど今日は少しぼーっとしてた
何かを思い出してるような そんな感じ
「まろ 大丈夫?」
名前を呼んでもどこかを見て俺を見てくれない
「今日 やめとく?」
二言目にやっと俺を見てくれた
「ごめん、大丈夫 動くな」
うん、やっぱり今は俺を見ててよ
俺を溺れさせたんだからまろも溺れてしまえばいい
悪いと思う
俺だけ見てよなんて自分勝手な思いも
変で都合のいいこの関係も
変なことに巻き込んでしまったことも
1回で終わらせるつもりだったのにずるずるとこの関係を長引かせてる
彼が優しく甘えさせて許してくれるのが悪いんだ
俺が甘えて悪気なく許させるのが悪いんだ
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この関係に愛がなくてよかった
愛なんてものがないからこんな都合のいい存在でいられる都合のいい存在でいてくれる
愛がないなんてわかってるよ
期待なんてしたこともなかったよ
はー、よかったまろが俺を好きにならなくて
愛がなくても欲はある
愛されなくても傍にいてくれる
君とのチョコに溺れても君には溺れないように頑張るから
適当な相手とヤってもすぐ満たされた気持ちが流れ落ちていくだけ
まろとやるから満たされる
俺のアナをひと時でも愛してくれる
大好き 愛してるよ ずっと
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朝8時
青い髪の彼はいない
十中八九朝ご飯をつくっているんだろう
朝は俺より先に起きて片付けをして朝ご飯をつくってくれる
恋人みたいだ けどコレをしてしまった
そんなものにはなれないだろう
恋人みたいに抱いてもらっても恋人になんてなれない
チョコレートに溺れてもいいから都合のいいこの関係でもいいから
ずっと絶対傍にいてね
痛くない腰を上げて、リビングに向かった
パンケーキとチョコレートの匂いが鼻をかすめた
8⁄10