男性が妊娠できるようになり早10年。妊婦死亡率は未だ高いものの男同士のカップルから産まれた子供も増え、男性専用の産婦人科もメジャーになっていた。
彼に恋をした。此れからも、其の先も、ずっと人生薔薇色だと思っていた。
「中也!此れからは三人で暮らそうね。」
彼に新しい家族ができたと報告した時、彼が浮かべたのは笑顔でもなく、涙でもなくただ眉を顰めただけ。
嬉しくなかったかと聞くと彼は不器用に笑い嬉しいと云った。
その時はほっとして彼に抱きついたが、よくよく彼の表情を思い出すと、困ったような、厄介事が出来たような顔をした。言葉が詰まって、苦しい。
多分これが1つ目の原因だったんだと思う。
2つ目は、私のお腹が膨らんできた頃。彼は毎晩夜遅くにでかけて、朝早くに帰ってくることが何日も続いた。何度も理由を問いただしても彼は仕事としか云わない。
3つ目は今現在。夫婦喧嘩をしている。喧嘩の内容は「堕ろせ」と云われたこと。
中也は終始堕ろせとしか云わない。彼に怒鳴っても、泣きついても、殴っても。堕ろせと。
彼は私達の間にできた子供を喜んでいるのだろうか。
私は再び此の問を自分に嘆かる事になった。だから、思い切って聞いてみたんだ。
「中也は嬉しいのか?私のことを見捨てようとしているんじゃないのか」とすると彼は手を震わせた。そして手の甲に涙を一つ落として、何も云わず静かに家を出ていった。
嗚呼。捨てられた。
私は彼にふさわしくなかった。そう確信し次の日森さんのところに訪ねた。
用事は一つ堕胎だ。本来人工妊娠中絶を受けられるのは22週未満だが、なにぶん森さんは闇医者なので法に縛られることはそうない。だから藁にもすがる思いで医務室の戸を叩いた。
「君は本当にそれで良いのかい?もう一度中也くんと話してからでも良いんだよ」
森さんの其の優しい声が頭の中で何度も再生される。
森さんは私に堕ろして欲しくないらしい。然しそんな事なんてどうでも良い。
私は森さんに堕ろさせて下さいと、頭を下げた。
確かにこんな事を云う親のもとにこの子は生まれたくないだろう。産まれたとしても、腹の子が地獄を見る。だったらその地獄を味わう前に殺してあげる方が良いじゃないか。
自己催眠を掛けながら分娩台に上がり、点滴を打つ。中身はおそらく陣痛促進剤。一定の速度で落ちる薬を見ていると何故か涙が溢れてきた。
後悔と自責。
私がもっと中也と上手くやれていたら。私がもっと中也の話を聞いていれば。私がもっと中也に寄り添っていたら。私がもっと、、、
「いっ、、」
突然腹部を刺される様な痛みに襲われた。陣痛が始まった。命を殺すための陣痛だ。私は今中也との子を殺そうとしている。目尻に浮かぶ涙は頬を伝って枕の染みとなった。
数時間痛みと戦い解放された時、産声は聞こえず、夫の励ます声も聞こえず、途轍もない喪失感と、虚無感に襲われた。
森さんが私の子を取り上げ胸にそっと置いてくれた。臨月に近かったからか、子供の顔は嫌なぐらいにはっきりしていて、髪色も中也そっくりで、僅かな温もりが胸を伝い、肉を伝い、骨を伝い。此の子と三人で暮らせたらどれだけ良かったことかと。
涙が次から次へと落ちてくる。
「堕ろしたのか」中也の冷たい声が私の体と心を抉た。
彼は私を抱擁し耳元でごめんと呟き、私の唇に口付けを一つ落とした。
クイズ!!と云っても答えはないけれど、どうして中也は太宰に堕ろせと云ったのか!コメントに書いてみてください
コメント
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太宰さんが死んで欲しくないからか、中也は人間じゃないだから中也と太宰さんの赤ちゃんも人間じゃなくなるかもだからとか?
天才だ
ススススランプってなんだろう ?(゜ロ゜) 神のスランプとはこんな高クオなのか(゜ロ゜) え?中也の考え??(・_・;? 国語評点4のやつにわかるわけねぇ!d(⌒ー⌒)!