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「傷口からの侵食が止まらない」
天儀は額の汗を拭いながらそう呟く。
彼は怪我人であったヒムロとハルの治療を行っていたのである。シオンとアーシャから離れた後、更生施設区画の廊下で可能な限りを尽くしていた。こんな場所での治療などあまり褒められたことではないが、一刻を争う事情が生まれた。
「どういうことよ!」
「銃創から高濃度デミオンが侵入し、赫竜病を誘発させています。急性侵蝕赫竜病による竜人化現象です」
セリカが問い詰め、天儀は苦々しく答える。
呻くヒムロとハルは、先の出来事でイーグル小隊に撃たれてしまった。傷そのものは既に治りかけているが、その傷から侵入したデミオンが状況を悪化させている
「竜人による攻撃と同じです。本来なら緩やかに進行する赫竜病が、ドラゴンスレイヤーの細胞と反応して急性化しています」
「どうして!? 普通ただの負傷で竜人化なんて……」
「濃度の問題です。あの部屋は濃度レベルが異常に高かった。傷を修復しようとするドラゴンスレイヤー細胞がデミオンを過剰に取り込んでしまったのでしょう」
デミオン濃度レベル五。
それが最終的にあの部屋で示されていた濃度だ。デミオンが物質を竜結晶化させ、全てを赤く染め上げる。そんな危険濃度である。耐性のあるドラゴンスレイヤーですら、長時間滞在すれば赫竜病を発症させる。
ヒムロとハルは運が悪かった。
傷さえなければ、氷花やセリカのように耐えれた可能性が高かったのだ。
「どうにかなりませんか?」
「最善は尽くします」
氷花の懇願に応えるべく、天儀は手持ちのアタッシュケースを開いた。
そこから注射器とアンプルを取り出して、慎重に二人へと投与していく。すると竜胆が反応した。
「天儀? それ」
「僕が開発した赫竜病対抗薬。ドラゴンスレイヤーならば少しは症状を抑えられることが分かっている。君のお陰でね」
「私に使っているもの……です?」
「うん。竜胆や親父にも投与しているやつだよ。臨床試験中だけど、四の五の言っていられない」
だが医者として救える命は救いたい。天儀はその一心で治療を続ける。
赫竜病は治療方法が立証されていない難病だ。進行を遅らせることしかできていない。それは氷花もセリカもよく知る事実だ。
「二人は助かるのですか?」
「対抗薬って言ったわよね。どうなの?」
「僕が開発した薬はドラゴンスレイヤーにしか効果が認められていません。ですが実際、ここにいる竜胆や親父の症状は抑えられています。でも急性侵蝕赫竜病に効果があるかは……」
驚くべき告白だった。
しかし保障はない。氷花もセリカも、ただ見守って祈ることしかできない。
(親父も無茶をするなよ。あんたも限界なんだ)
外で続く戦いの音に少しだけ心を奪われながら、天儀は処置を続けた。
◆◆◆
源三をも巻き込んだ大型ドラゴンの大爆発は大きな被害をもたらしていた。爆発と同時に散布された大量のデミオンが地上を叩きつけ、幾人かに赫竜病が発症する。身体に赤い鱗が現れ始め、そのことで阿鼻叫喚となっていた。
これは口内から喉にかけて溜め込まれた超高圧デミオンが傷口を押し広げることで生じた爆発である。源三は大型ドラゴンの喉を傷つけ、それによってデミオンブレスの放射を止めてみせたのだ。
そして肝心の源三だが、見当たらない。
「獅童さん! 獅童さんはどうなった!?」
誰かがそう叫ぶ。
いくらドラゴンスレイヤーが頑丈でも、あんな爆発に耐え切れるとは思えない。まして普通の爆発ではなく、高圧状態のデミオンが爆発したのだ。至近距離であんなものを浴びれば、一瞬で竜結晶化して死ぬだろう。
「あんた……やりやがったな」
郷士は悔しそうに言葉を漏らす。
(竜人化を覚悟してデミオンブレスを不発に終わらせ、それどころか逆に利用して頭部を吹き飛ばす。そして自分は竜人となる前に死ぬ。それがあんたの最期だってのか)
恩人である源三にそのような最期を強いてしまった自分が不甲斐ない。それゆえに彼は激しく怒りを覚え、歯ぎしりした。
頭部を失い、落下しつつある大型ドラゴンを見遣る。源三の覚悟を無駄にしてはならない。
彼は胸が膨らむほどに息を吸い込み、叫んだ。
「今だあああああああああ! やれええええええええええ!」
タイミングを合わせたかのように対空砲は再び小型ドラゴンを狙い始め、落下する大型ドラゴンへと寄せ付けないようにする。そして対竜武装を装備した地上部隊が突撃を開始した。
ドラゴンは心臓かコアを破壊されない限り再生する生命体だが、生命体の重要機関を破壊されたら流石に動きを止めてしまう。特に知覚器官である頭部が消し飛ぶようなダメージを与えたならば、それは心臓やコアを破壊するチャンスとなり得る。
「雑魚共を近づかせるな! 大型を絶対仕留めろ!」
郷士を含め、旭所属の数少ないドラゴンスレイヤーは刀を掲げて切りかかる。一方でドラゴンスレイヤーでない者は銃型の対竜武装で突撃を敢行する。
「うおおおおお。撃てえええええ!」
銃声が鳴り響く。
無数の対竜弾が大型ドラゴンへと突き刺さった。しかしドラゴンは大型になるほど豊富なデミオンを操り、竜鱗を固くする。至近距離からの対竜弾ですら少し傷をつける程度であり、そのほとんどが弾かれてしまっていた。
(やはり効かんというのか!)
所詮は寄せ集めに銃を持たせただけ。急所を狙うという概念すらない。いや、それは教え込まれているのだが戦場という特殊な空間においてそんな基本は彼方に忘れ去られている。
数少ないドラゴンスレイヤーたちが頼りだ
(傷が、疼く)
ふと、郷士はそんなことを考えた。
彼の顔や体に刻まれた無数の傷は、かつての戦いで受けたものだ。使い捨てにする勢いでドラゴンスレイヤーが投入された戦場で生き残ってきた証だ。
ここで死ぬのも良し。
命を賭ける戦場はここだ。
自らの傷がそう叫ぶ。
全長五十メートルを超える大型ドラゴンからすれば、人間など羽虫のようなものだ。たとえ頭部が吹き飛んでいようとも、身動ぎするだけで圧し潰してしまうほどの差がある。
だが、それは身を引く理由にはならない。
寧ろ一歩でも先へ進むべきなのだ。
「あんたが命懸けで作ったチャンス。必ずものにしてみせる!」
思い浮かべるのは源三の雄姿。
イメージするのは勝利の一刺し。
体内デミオンを活性化させ、より強く踏み込む。
小型ドラゴンの一体が迫るも、余計なことはせず回避して突き進んだ。直後に背後から小型ドラゴンの絶叫が聞こえてくる。追随するドラゴンスレイヤーに斬られたか、対竜弾で蜂の巣にされたのだろう。
「お、おおおおおおお!」
再生中である大型ドラゴンの頭部は無視して、首に沿って突き進む。狙うは心臓かコアの二択。そのドラゴンの急所は決まって首の付け根の奥に埋まっているのだ。
ただ、そこを目指して走るだけでよい。
ここまで潜り込むと流石に対空砲の援護も難しく、小型ドラゴンが大量に襲ってくる。しかし郷士は活性化した肉体を限界まで酷使して突き進んだ。決して止まることはなく、振り返ることもなく、撤退のことなど考えずに走り続ける。
仮に大型ドラゴンの心臓を破壊したとしても、小型ドラゴンに囲まれて死ぬ。それが分かっていて、それでも彼は前へ進むことを選んだ。
ただ源三に恩を返すために。
「見えたぞ! そこか!」
小型ドラゴンの群れによって隠されている視界の向こう側が僅かに見えた。大型ドラゴンの急所が埋まっているだろう部分がようやく見えた。
距離にすれば頭部分から二十メートルもないはずだったが、それでもようやくという安堵が生まれる。
あと少しで殺せる。
そんな希望が彼に小さな油断をさせてしまった。
目を見開き、声を漏らす。
「なぁっ!?」
一瞬で目の前へ迫る巨大な爪の一撃。
それは大型ドラゴンの前足によるものだった。しかも視界を塞ぐように群れていた小型ドラゴンすら巻き込むことを厭わない。
いや寧ろ郷士を殺すために小型ドラゴンを目隠しに利用していたのだ。
(弾く……無理だ。回避……間に合わんッ)
弾くにしても、避けるにしても、気付くのが遅すぎた。郷士は無念の死を予感する。
しかしそこに助けが現れた。一瞬で前へと躍り出たかと思えば、大型ドラゴンの爪攻撃を弾き返したのだ。
「行け!」
キサラギのランク六ドラゴンスレイヤー、如月蒼真。千葉夏凛を守っているはずの彼が、どういうわけか駆けつけてくれた。更にはどこからともなく飛来した対竜弾が、急降下で迫る小型ドラゴンの心臓を吹き飛ばした。六道諸刃の狙撃に間違いない。
これによって道が完全に開ける。
「感謝する。キサラギの戦士よ」
郷士はただそう告げて飛び出した。
残る僅かな距離を一跳びで詰め切り、デミオンを流して活性化させた刃を突き立てる。
(浅い)
彼は手応えから、刀が心臓に届いていないことを理解していた。そもそも根元まで刺さっておらず、これ以上進む気配もない。
ドラゴンの急所は心臓かコア。
だが大型ドラゴンほどにもなると竜鱗から心臓まで、刀一本では届かなくなる。当たり前だ。体格の大きさに合わせて肉の厚さも増していくのだから。更に恐ろしいことにドラゴンは巨大であるほどその肉体もデミオンで強化され、硬くなる。刃は増々通らない。
「馬鹿野郎! ボケっとすんな!」
「っ!」
再び迫る大型ドラゴンの前足。
それを蒼真が弾き、また守った。
慌てて刀を抜き、今度は肉を削ぎ落そうとする。だが今度は赤い竜鱗が刃を弾く。先の一撃は突きという接触面積の小さな攻撃だったことで刃も通ったが、斬撃はそうもいかない。
「大型にそんな攻撃が効くか! 代われ!」
慌てた郷士は一歩下がり、そこへ滑り込むように蒼真が切り込む。充分にデミオンを活性化させた刀で斬撃を放った。
流石にランク六というドラゴンスレイヤー適性を有するだけあって、大型ドラゴンにダメージを与えうるだけの威力はあった。真っ赤な首の根本に、小さな傷がつく。蒼真もこれには舌打ちした。
「ちっ!」
「ここまで攻撃が通らないとは……おのれ……」
「もうすぐ傷も再生する。さっさと引け!」
「しかし」
「見て分かれ! もう首もほぼ再生している」
郷士はハッとさせられ、ようやく振り返った。そこにはほぼ外殻の戻ったドラゴンの首があった。そして首をもたげてこちら側を見ている。
そして次の瞬間、大きく翼を広げた。
「くっ! 飛び立つつもりか! この……」
「待て」
「止めるな。あの人の犠牲を……」
「黙って一旦下がれ」
無理にでも特攻しようとする郷士を蒼真が止めた。
ここは何としてでも大型ドラゴンを落としたままにしておくところであり、郷士の判断も間違ってはいない。これほどのドラゴンを相手に犠牲者なしで勝利するという方が烏滸がましいのだから。
だが蒼真は知っていたのだ。
援護射撃が来るタイミングを。
どこからともなく飛来した弾丸が、大型ドラゴンの片翼を奪う。ドラゴンの翼は頑丈な骨格によって繋がっており、簡単に断ち切ることはできない。しかし弾丸は骨格部を破壊することはなくとも、損傷させることに成功する。
(流石だ諸刃)
狙撃弾は一撃必殺に重きを置いた弾丸であり、製作コストが高い代わりに大型ドラゴンにも効果を及ぼす。
バランスを崩した大型ドラゴンは身を捩った。もしもあのまま攻撃を続けていれば、郷士は押し潰されていただろう。蒼真はこれを見越したからこそ彼を引き戻したのだ。
続けて二発目がもう片方の翼、三発目が復活した頭部の左目を撃ち抜く。
「戦いはここからだ。まだ捨て身になるなよ」
「……いいだろう。キサラギの戦士」
空を小型ドラゴンが覆い、対空砲が雨の如く地上から天へと降る。
地に落とされた大型ドラゴンも、その巨体を持ち上げ、咆哮した。狙撃弾の向きから自らを傷つけた人間がいるであろう位置を睨みつける。
「さっきのデミオンブレス暴発でかなりデミオンを失っているはずだ。それでも逃げる素振りなしか」
「奴が引かないなら、倒すまで!」
「ちっ……足を引っ張るなよ。傷のおっさん」
「三田郷士だ。そっちは?」
「蒼真だ」
互いに今更な自己紹介を済ませ、同時に斬りかかる。
デミオンブレスはドラゴンにとっても一発限りの切り札のようなものだ。大型ドラゴンでさえ大きな消耗を強いられる。だから弱っているはずだ。
しかし安心できるわけではない。
(デミオン計の警告音が止まらねぇ)
蒼真は心の内で何度も舌打ちする。
そうでもしなければこの苛立ちは収まらない。
暴発したとはいえ、旭という組織を一撃で壊滅させるだけのデミオンが一気に散布されたに等しいのだ。蒼真の所持する携帯デミオン計は、ここが危険域だと知らせ続けていた。
(濃度レベル三か四あたり。俺やこのおっさんも長くは戦えねぇ)
狙撃弾が大型ドラゴンの翼や目に直撃し、何度も怯ませる。
蒼真と郷士は押し潰されないよう気を付けながら死角に潜り込み、何とか心臓を狙おうとしていた。またこうしている間に他の旭のドラゴンスレイヤーも追いつき、大型ドラゴンを囲む。
だがドラゴンとてただでやられる的ではない。
煩い羽虫が一匹程度なら軽く手で払う程度だけかもしれないが、集まれば身を捩って振り払う。翼を広げて暴風を巻き起こし、尾を鞭のように振り回し、逃げ遅れた者を前足で叩き潰す。そして目に付く人間を喰らうのだ。
本気で暴れ始めた大型ドラゴンは一瞬にして二人を殺し、一人を喰らい、十人以上を負傷させた。
「雑魚は近づくんじゃねぇ! 食われたら奴を回復させるだけだ!」
顰蹙を買いそうな発言だが、蒼真はあえて厳しく叫んだ。
事実、大型ドラゴンは一人捕食したことで少しだけ動きが良くなる。蒼真は苛立ちを表情を浮かべながら身を捻りつつ跳び、右の翼へと刀を振り下ろす。あまりに硬さに眉を顰めるも、デミオン活性で強引に断ち切った。
だが流石に無茶だったらしく、ちらりと確認すると刃毀れしていた。
「グオオオオオオオオオオオオ!」
そんな咆哮が空気を震わせる。
この巨大な生命体はただ叫ぶだけで人間の三半規管を狂わせるほどの空気振動を生み出すのだ。まだ空中にいて踏ん張り切れなかった蒼真はバランスを崩し、落下する。そこは丁度、前足部分の近くだった。
「く、そ」
咄嗟に転がって回避するも、軽く振るわれた前足が掠る。それでも質量差から蒼真は吹き飛ばされ、瓦礫にぶつかった。何とかそこでは受け身を取ったが、そこに小型ドラゴンが襲撃を仕かける。
自身に重なるようにして落ちた影からそれを察し、蒼真はカウンターを決めた。
急降下してきた小型ドラゴンは心臓を一突きにされ、死ぬ。だがその際に少し暴れまわり、蒼真の刀が折れてしまった。
(仕方ねぇか)
折れてしまった刀は投げ捨て、大型ドラゴンに注意しつつ周囲をさっと見渡す。そして旭のドラゴンスレイヤーの死体を見つけた。その手には抜身の刀を握っており、まだ使えそうだと遠目に判断する。
あまり気は進まないが、仕方ないと割り切って駆けだした。
蒼真は身を低くして走りつつ、流れるように死体の握る刀を手に取る。そしてさらに加速し、大型ドラゴンの左側に回り込もうとした。
一方の大型ドラゴンも蒼真は脅威であると認識しているらしく、他の羽虫は軽く尾で払ってただ一人の敵に集中する。
「これだから知能の高い大型は面倒だ。だが甘いぜ!」
再び飛来する狙撃弾が大型ドラゴンの目を破壊した。
激しく動き回るドラゴンの眼を的確に狙い撃つあたり、流石は諸刃であった。蒼真もこれを信頼して既に踏み込んでおり、首の下まで潜り込んでいた。そして活性化させた刃を素早く二度振るい、肉を削ぎ落す。
(やはり浅い)
しかし思ったより刃は通らない。
続くように郷士が部下らしきドラゴンスレイヤーを三名引き連れて追撃する。蒼真が付けた傷を更に抉るようにして一人一撃ずつの合計四連撃を見舞った。最も硬い竜鱗は蒼真が削いでいたので、その分だけ深く傷をつけることに成功する。
まだ心臓は見えないが、確実に近づいた。
しかし大型ドラゴンも馬鹿ではない。自らの体を激しく回転させ、しなる尾が全周囲を薙ぎ払う。全長五十メートルを超える巨体がその場で一回転するだけで、優位はリセットされた。
また脱落者が増える。
流石に読んでいた蒼真は下がっていたが、この惨状には眉を顰めた。そしてインカムを通して諸刃へと話しかける。
「こちら蒼真だ。きりがないぞ。狙撃で心臓を狙えないか?」
『悪いが射線が通っていない。低い位置から狙うには味方が邪魔で、高い位置から狙うには奴の頭部が邪魔になる。これなら空を飛んでいる奴の方が簡単だ』
「いくらお前の狙撃弾でも大型の竜鱗を貫いて心臓まで届かせるのは無理だろ。空に上がられたら竜鱗は削れないぞ。今付けた傷も半分ほど回復されているしな」
大型ドラゴンほどになれば保有するデミオンは膨大だ。消耗しているにしても、傷の再生は健在。やはり倒すのは難しい。
また蒼真には別の問題もあった。
「そろそろ体内デミオンが切れる。消耗が早い」
『アンプルは持っているのか?』
「こうなるとは思ってなかったからな。一本しかない」
『俺もだ。体内デミオンがギリギリしかない。アレを使おうにも今日は持っていない』
「諸刃の切り札は使えねぇか……一発ぐらい用意しておけよ」
『アレの製作コストは並じゃないからな。キサラギも簡単には作ってくれないし、持っていけるのは初めから大型竜以上を相手にすると分かっている時だけだ』
「ともかく、俺もそう長くは戦えないぞ」
蒼真はそう言いつつ、ポーチから赤い液体の入った注射器を取り出す。それを右腕に当てて底部のボタンを押すと、中の液体が投与された。
戦闘中に体内デミオンを補給するためのDアンプルである。ただし、これはシオンの持っているような高濃度のものではなく、調整された補給専用品である。己を強化するほどの性能はない。
「次で決めなければ負けだ」
『奇跡でも起きない限りな』
「俺は奇跡なんざ信じねぇ。ただ俺たちの力で切り開くだけだ」
蒼真はそう吐き捨て、体内デミオンを活性化させる。同時に刀にもデミオンを流した。
相手は存在そのものが災害の大型ドラゴン。
常に本気で活性化させていなければ、死ぬのは自分だ。
分の悪い戦いは始まったばかりである。
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