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流来(るうら)が希誦(きしょう)にアドバイス?をしてから2週間ほどが経った。
「しょうちゃん、今日も来ないのかなぁ〜」
汝実(なみ)がスマホを持った手を伸ばしたまま、講義室のテーブルにべたぁ〜っと突っ伏す。
「もう2週間近く大学に顔出してないよね」
杏時(あんじ)が言う。
「そぉ〜。ま、心配はしてないけどね?ちゃんとLIME返ってくるし、こないだも電話で話したし」
「私もちょくちょくLIMEはするけど、電話はしてない。
だからしょうちゃんの声聞いたのは、前大学で汝実がお昼にかけたときが最後かな」
「私も」
と杏時と芽流(める)が話しているのを聞いていると、汝実のスマホの画面が光る。
汝実はテーブルに突っ伏したまま腕を曲げ、スマホの画面を確認する。
すると希誦からLIMEの返信が来ていた。
希誦「今日は午後から行く」
とのメッセージだった。
「おぉっ」
という汝実の声に、汝実を見る杏時と芽流。
「今日午後から来るって」
と杏時と芽流にスマホの画面を見せるが、スマホの画面は真っ暗。
「しょうちゃんが、ってことでいいの?」
と杏時が言うとスマホの画面を自分に向ける汝実。
「おぉ」
そうか。通知欄で確認したから
と思い
「そうそう。しょうちゃん。午後から来るって」
と言う。
「そっか。でもどうする?」
「どうするってなにが?」
「いや、しょうちゃんが休んでた理由」
「ん?」という顔をする汝実。
「触れるか触れないかってこと?」
芽流が言う。
「そう」
「あぁ〜。なるほど?」
「杏時は聞いた?」
「ん?休んでた理由?」
芽流が頷く。
「ううん。え。芽流知ってるの?」
「あ、ごめん。そーゆーことじゃなくて、単純に聞いたのかなって」
「あぁ、そーゆーことね?聞いたけど教えてくれなかった」
「あ、やっぱり?」
「あ、芽流も?」
頷く芽流。
「私もー」
と相変わらずテーブルに突っ伏したまま言う汝実。
「教えてくれないってことはやっぱり触れないほうがいいのかな」
「うん〜」
「ま、そこは流れにまかせましょーや」
と言う汝実。午前の講義を終え、杏時、芽流、汝実はお昼ご飯を食べに学食へ行った。
「しょうちゃん、午後に来るって言ってたけど、お昼は食べてくんのかな」
「どうだろうね」
「食べてくるんじゃない?」
「ま、私なら食べてから行くな」
という予想通り、希誦はお昼ご飯時には来なかった。早めに講義室へ移動して、後ろのほうの席を確保し
「このまま今日も来ないなんてことないよね?」
と話す3人。
「あぁ〜」
「1回サボるとその楽さ加減を覚えちゃうってお兄ちゃん言ってたし」
「お兄さんってたしかバンドマンの」
「そうそう。世界一のお兄ちゃん。あ、今話題のカフェでバイトしてんだけどさ?今度みんなで行く?」
「話題のカフェ?」
「どこ?」
どことなく食いついている様子の芽流。
「moody cat home cafe」
「知ってる!行きたいと思ってたんだけど、あそこ運なんだよね。
すごく居心地の良いカフェで、そもそもお客さんに居心地の良さを提供してるカフェだから
滞在時間に関しては開店から閉店まで居てもいいっていう。
その代わり、1時間に1回は注文をしてほしいです。っていう。
強制じゃなくて、あくまで「してほしいです」っていう感じなんだけど
お客さんも皆さん良い人ばっかりだし、お店を続けて欲しいって思いが強いから
長期滞在する人はみんな極力注文をしてゆっくりしているっていう
お店自体もお客さんも雰囲気が良くて、過ごしやすいカフェなんだよね?」
目を輝かせて言う芽流。
「おぉ。まあ、そんな感じ?なのかな?私も行ったことないからわからんのよ。いっつも満席で」
「だよね。私もないんだよね」
「よく考えたらそんな気楽に「行ってみる?」で行けるとこじゃなかったわ。
外からお兄ちゃんだけ見ることは可」
なんてバカなことを話している間に、とある人物が大学前に到着し大学の前で止まる。
踏み出し、大学構内へ。杏時、芽流、汝実が話す中、その人物は階段を上り
廊下を歩き、そしてついに杏時、芽流、汝実のいる講義室の前に。そして講義室へ1歩足を踏み入れる。
講義室にいた人たちがその人物に視線を向ける。その人物が杏時、芽流、汝実を見つけて
「いた」
と呟き、3人に向かって講義室内を歩いていく。
「マジで1回行ってみたいんだよねぇ〜。お兄ちゃんどうこうではなく純粋に」
「私も行ってみたい。リラックスできるように紅茶に拘ってるらしいんだけど
デザートというかスイーツにも拘ってるらしくて、紅茶に拘ってる分、スイーツがメインにならないように
でも、かといって印象の薄いスイーツじゃせっかくお金を払ってくれたお客さんに悪いってことで
紅茶を引き立てるように、でも決して脇役じゃない、ちゃんと美味しくて
「mch cafe」でしか食べられないスイーツを作ってて、スイーツも人気らしいんだよね。
ぜひ食べさせていただきたい」
「芽流、「moody cat home cafe」のときだけ、やたら饒舌になるよね」
「そっ、そう、かな?」
「そうでしょ」
と話していると
「おはよー」
と声が聞こえた。
「おぉ〜。その声はしょうちゃんだな?「おはよー」じゃなくて「おそよー」でしょっ!」
と声のほうを向いた汝実。
「てかひ…さ…し、ぶり…。ん?…どちら様?」
そこにいたのは綺麗な水色に毛先のほうだけ青のグラデーションになっている髪に耳たぶと軟骨にピアス
キラキラ光る太めのデニム、Tシャツをインして、丈が短いデニムシャツを着た人物だった。
「よ。ひさしぶり。Brand new(ブランニュー)白風出(しらかで)希誦。よろしく」
「しょうちゃん?マジで?」
と驚く汝実。同じく驚いている杏時に芽流。その3人の様子を見て
おぉ〜っと?失敗か?私は大学唯一の友達3人を失うのか?
と思っていたら
「超カッコいいじゃん!」
と目を輝かせて言う汝実。
「え」
「ねえ?杏時、芽流」
「うん。すごいカッコいい」
「うん。カッコいい」
「どしたん?Brand new(ブランニュー)しょうちゃん超いいじゃん。二次元のキャラっぽい。どしたん?」
となんの嘘偽りもなさそうな汝実に、家を出るときから心にあった不安が
パアァ〜と晴れたように、心がスッっと軽くなったような気がした希誦。
それと同時になぜか泣きそうになった希誦。
「とりま座っていい?」
と言った後、あくびをするように口を開けて手で口を隠す希誦。
「ねっむ」
と言いながら後ろを空けてくれた杏時、芽流、汝実の後ろを横歩きで進み、席に座る希誦。
「眠いってもう昼だよぁ〜」
と言いながら
5時ってもう夜だよぉ〜
というセリフを思い出す汝実。
「まあね」
と言いながら人差し指の第二関節部分で目頭の涙を拭う希誦。
「でもどうしたん?Brand new しょうちゃん。どーゆー心境の変化?」
「心境の変化、っていうか、ずっとしたかったんだよね」
「え。あ、そうなんだ?念願叶ったって感じだ?」
「そうね?」
「で?2週間なにしてなん?」
と聞く汝実に
ストレートに聞いた。触れないほうがいいかもって話してたのに
と思う杏時と芽流。
「あ、いや、これやってた」
と自分の髪や耳を指指す希誦。
〜
それは希誦が流来からアドバイス?を受けた後のこと。大学を出た後、一直線に行きつけの美容院へ向かった。
「榊田さん!」
「おぉ。白風出さん。どうしたの?」
「髪、染めたいんですけど、どれくらい時間とお金かかりますか」
「んん〜。どんな色にしたいかによるけどぉ〜」
「めっちゃ綺麗な水色にして、毛先を青にしたいんですけど」
「おぉ〜。ずいぶん派手な髪色にする予定なのね。
綺麗な水色にするなら限界までブリーチしないといけないからなかなかのお金と時間かかっちゃうけど」
「どのくらいですか」
と聞いて、かかる時間とだいたいの値段を聞いた。
「なるほど」
「だいたいだけどね?幸い常連さんにも髪水色にした人いるからカラー剤はある。
その人に聞いて使っていいか確認取ってみるね?」
「ありがとうございます」
「ま、あとは青だね。どんな感じの色にしたいとかある?」
と聞かれたが、自分の中であまりまとまっていなかったので、その場で検索エンジン「Hoogle(ホーグル)」で
Hoogle「青髪」
と検索する。そしていい感じの色の画像を見つけて
「こんな感じの色です」
と見せる。
「あぁ〜。だいぶビビット系の色だね」
「そうですね」
「んん〜。なっるっほっど?1日待ってもらっていい?
水色のカラー剤はあるけど、青系がないから買い行くから」
「あ、はい。じゃ、明後日予約してもいいですか?」
「うん、いいよ」
ということで美容院の予約をした。
そして家に帰る前にホン・キオーテに寄って耳たぶ用のピアッサーを購入した。
そして家に帰って家族と夜ご飯を食べ、お風呂に入った後、自分の部屋で小さな鏡と睨めっこする。
「お姉ちゃん」
とノックもなしに希誦の妹、美翔(みしょう)がドアを開けた。ビクッっとなる希誦。
「あっ。ごめん。お取り込み中だった感じ?」
「…なんもないけど。なに?」
「今度友達と遊び行くことになったんだけどさ」
「高校でできた友達?」
「そうそう。でさ?服選んでほしくて」
「別に自分の着たい服着りゃいいじゃん」
「いや、もちろん着たい服だよ。その中でお姉ちゃんに選んでコーディネートしてもらいたくて」
「んん〜…。よしっ。いいでしょう」
「やたー」
ということで美翔のコーディネートをした希誦。
「さすがお姉ちゃん。センス抜群」
「褒めてもなんも出んぞぉ〜」
「いや期待してないし、むしろご褒美として
Bäagen-Dash(バーゲンダッシュ)の新しい味のやつ買ったから半分あげるよ」
「マジ?ってか姉に向かってご褒美ってなぁ…」
「てかさ。お姉ちゃんセンスいいんだから、自分の服とかももっと拘ればいいのに。
お姉ちゃんっていっつも地味だよね」
「周囲から浮かない服装って言ってくんない?」
「イコール地味じゃん?」
「うるさいわ。美翔が高1にしては派手すぎるだけだよ」
「そお?そーでもなくない?」
と美翔は綺麗な黒髪を左肩の前に持ってきて見る。するとチラリと青が垣間見える。
美翔は黒髪に、インナーカラーとして青をいれているのだ。
「高1でインナーカラー青って、なかなかいないよ?」
「いや、うち(烏森高校)にはもっとヤバい子いるから」
「烏森((うしん)烏森高校の略称)がおかしいだけだって」
「いや、達磨(達磨ノ目高校の略称)とかのほうがヤバいっぽいよ。
それに私の中学の同級生の子なんて今髪三色だから」
「なにそれ。ヤバ」
なんてなんでもない話を美翔としてから部屋に戻る。
「ふぅ〜…」
あらためて鏡を見る。そしてスマホで検索していたピアスの開け方を読みながら進めていく。
まずはウエットティッシュでピアスを開ける位置を綺麗にする。
そして付属の青いペンでピアスを開ける想定の位置に印をつける。
「…ここ?んん〜…」
失敗したときは付属のシートで消す。そのシートは水気があるので、耳に残った水気をティッシュで拭く。
そしてまた青いペンで位置を決める。遠めで見たり、近くで見たり。
「…うん。ここら辺でいいかな」
次はピアッサーのセッティングを行う。
まずは銃のような引き金がついたプラスチックの白い機械の上部の引っ張れる部分を引っ張り
カチャンとセッティングされる音がするまで引っ張る。
パッケージングされたピアスが2つついた透明なプラスチックの
ニードル(針(ピアスのシャフト部分))がある方の部品を、引っ張ったほうにセットする。
そして反対側にはキャッチと呼ばれるピアスのパーツがついた透明なプラスチックを
セットする。そしてニードルの先端を、ピアスを開けたい位置、青いペンでつけた印の位置にあてる。
そして引き金を引けば、バネの勢いでニードルが押し出され耳にニードルが貫通する。
そして耳の裏側では、貫通したニードルがキャッチに入り、ピアスが完成する。
文で説明したらなんてことはない。しかし実際にニードルを印の位置にあて、引き金を引こうとすると
「…ふぅ〜…」
本物の銃を撃つんじゃないかってくらい緊張する。
「ふぅ〜…」
緊張で位置がズレる。一度耳から外し、深呼吸などをして気持ちを落ち着かせ、もう一度セッティングし直す。
ピアスを開ける上で重要なのが、ニードルの入射角だ。入射角とか聞くと、皆様数学とか物理っぽくて
めんどくさい話が始まると思うかもしれないのでめちゃくちゃ簡単に説明すると
ニードルを耳に対して直角で刺さないと斜めに刺さってしまうので角度が重要となる。
希誦は改めて自分でつけた印の位置にピアッサーにつけたニードルの先端をあてる。
「ふぅ〜…」
ちなみに、最初はめちゃくちゃ緊張する。
世間的には耳たぶへのピアッシング(ピアスを開けること)は痛くないと言われているが
それは軟骨などいろんなところにピアスを開けている人の話。いわばタトゥーがゴリゴリに入っている人が
「前腕の内側とかは全然痛くない」
と言っているようなものだ。タトゥー入っていない側からしたら
そもそも肌に針を刺してインクを入れた経験がないので
さほど痛くないと言われても、どれほどの痛みなのかよくわからない。
ピアスも同じ。しかもピアスの場合、耳たぶと軟骨、鼻やへそ、口や舌など部位によって痛みは違う。
同じ耳でも耳たぶはズキャンズキャンした痛み、軟骨なズキンズキンした痛み
鼻の鼻柱(びちゅう)と呼ばれる、2つの鼻の穴を仕切る壁部分に開けるピアスは
開けると、痛みというよりも、わさびを多く食べたときの鼻のツーンとした感じが続く感覚に襲われる。
舌は案外痛くはないのだが、腫れて3、4日くらい喋れなくなる。
そんな説明をしているうちに意を決めて引き金を引いた希誦。
バチンッ!とガチャンッ!という大きな音がする。
「…うるさっ…」
ピアッサーを取ろうとするが
「…あれ?取れない」
これもあるあるの1つ。ピアッシングしてからピアッサーが外れなくなるときがある。
「ヤバっ。ど、どうすれば…」
最初はパニックになりかけるが、落ち着いてほしい。
白いピアッサーにセッティングしたピアスが付いている透明のプラスチックの部品は簡単に外れるはずなので
まずはピアッサーからそのピアスが付いた透明のプラスチックの部品を外し
その透明なプラスチックの部品からピアスを外せば完成だ。しかし無理に引っ張ると危険なので
少し引っ張っても取れそうにない場合は鏡を見ながら慎重に外す、もしくは第三者に手伝ってもらいましょう。
「あ、そうだ」
希誦はネットに書かれていたワンポイントアドバイスを忘れずに行った。
それはピアスのキャッチと呼ばれる、耳の裏側のピアスが落ちないようにするための
ニードルの先を固定する部品を緩める作業。
当たり前だが、ピアスホール(ピアス穴)を開けるということは傷をつけるということだ。
体的には傷ができたら、その傷から入ってくる菌と戦うためにその部分が腫れる。
ピアッサーでピアスホールを開ける場合、バネの勢いで開けているため、耳を圧迫するようにキャッチがつく。
なので腫れるとめっちゃ痛くなる。
キャッチ緩めることで痛みが少しは軽減されるので、開けた後すぐにキャッチを緩めることを推奨している。
同じ要領で反対側の耳にもピアスを開けた。
…軟骨は痛いのか…
と思うものの軟骨にも開けたかった希誦は、とりあえず1日空けてみることにした。
次の日、耳たぶが腫れているのがわかった。
「ズキズキする…」
大学行くフリをしてアパレルショップを巡った。ハイブランドでも
なんでこれがこんな高いの
って思う服もあるのだが、攻めている服なんかは
欲しい
希誦からしたらそう思ってしまう服もある。なのでコーディネートを考える。
高い服を1着買うと、バイトもしていない希誦にとっては終わる。
なのでハイブランドの服を買うにしても、本当に惚れたもの+着回しコーデができるものを慎重に選ぶ。
そして帰り道。またホン・キオーテに寄る。そして軟骨用のピアッサーを1つ買ってみた。
お風呂では耳たぶのピアスホールをちゃんと洗う。
「割と耳洗うの人生初かも」
言いながら耳たぶ、主にピアスホールを洗う。
ピアスホールを洗うのは、泡タイプのボディーソープをおすすめする。
泡タイプのボディーソープじゃなかったとしても、まずは泡立ててから
その泡をピアスのモチーフ、顔側のピアスの上部に乗せる。耳の裏側、キャッチのほうにも上部に泡を乗せる。
開けたばかり、そして開けてしばらくは痛みが強いと思われるため
泡を乗せて軽く回す、できれば、押し込んで引っ張って。ができたらいいのだが
そこは痛みの具合に合わせて無理をせずに洗ってほしい。お風呂から出た希誦。
お風呂上がりの飲み物を飲むついでに氷を2つ拝借し
自分の部屋に戻ってベッドに仰向けに寝て、耳たぶに氷を乗せた。
「耳あっつ…」
そう呟きながらも
耳たぶでこれか…。私は軟骨の痛みに耐えられるだろうか…
と思っていた。本当はその日に軟骨も開けるつもりだったが
耳たぶが熱すぎる+次の日に美容院の予約をしていたため
「うん。今日はやめよう。怖いからじゃない。決して」
やめておいた。そして次の日。予約時間に美容院へ行った。席に案内されてイスに座る。
「じゃ、最初はパッチテストもかねて、様子見ながら1回目やっていきますね」
と言われて
「はっ、はい」
謎に緊張する希誦。ブリーチ剤を塗り終わり、タイマーをかけ
担当の榊田さんがちょくちょく頭皮の様子、脱色具合を確認して、最初のブリーチが終わった。
「だいぶ抜けが良いから、案外少なくて済むかも。頭皮大丈夫ですか?痛くない?」
「あ、大丈夫です」
本当はちょっと痛かったが、それを言うと中止になるかも。と思ったので言わずにいた。
※ブリーチで頭皮が痛い場合はちゃんと言いましょう。
「じゃ、乾かして2回目してみようか」
「はい」
そんな感じで数回ブリーチを行った。鏡の中にはド金髪の自分がいて
おぉ〜…。私金髪になるとこんな感じか…
と思っていた。
「じゃ、カラーリングしていきます」
「はい。お願いします」
「まずは全体を水色にしてから毛先に青入れていきますね」
「はい」
完成まで鏡を見ないようにした。しばらく時間が過ぎ
「よしっ。こんな感じかな」
という榊田さんの言葉に顔を上げる希誦。
そこには綺麗な水色の髪に毛先が綺麗な青のめちゃくちゃ派手な人がいた。
「うっわ。派手」
「派手だねぇ〜。どうですか?こんな感じで」
と榊田さんが二つ折りの鏡を使って後頭部部分も見せてくれた。めちゃくちゃ嬉しかった。
新しい自分、いや、本当の自分に、なりたかった自分へ近づいた気がして。
「最高です」
値段がハイブランドの靴下くらいの値段がして、ちょっと苦笑いをしたがその出来に満足していた。
美容院を出たら世界が変わって、は見えなかった。が、世界が希誦を見る目は変わった。
今まで俗世から浮かないように、馴染むように。と徹してきた希誦。
なので世界の、周囲の人々の視線など1ミリも感じることはなかった。
しかし、今は浮世人。周囲の視線をとても感じる。
おぉ…。視線が刺さる…
とさすがに慣れていなく、少し恥ずかしかった。家に帰ると
「あんたなにその頭」
と母に半分呆れられながら驚かれた。
「おぉ〜。お姉ちゃんの本領発揮?」
妹の美翔はなぜかちょっと嬉しそうだった。お風呂は髪が濡れないように気をつけながら入った。
青系のカラーリングというのはすぐにその美しさを失う。
1回シャンプーをしただけで、水色はエメラルド系の緑色へ、青はくすむ。
それを知っていた希誦は髪が濡れないように気をつけながらピアスホールを洗う。
「…ふう…」
鏡の前で息を吐く希誦。耳たぶ用のピアッサーについていた青いペンで軟骨の開けたい位置に印をつけており
軟骨用のピアッサーのニードルをその印部分にあてていた希誦。
軟骨のほうが痛いんだよね?
耳たぶがまだズキズキする中そう考える。
「ふぅ〜…」
頭の中で「3、2、1」ではなく
1、2、3
とカウント“アップ”していき「3」の後で引き金を引いた。またガッチャンとうるさい音が響いた。
「…うるさっ」
耳たぶと同じくうるさかったが
「…。さほど痛くはないぞ?」
思ったより痛くはなかった。
これなら左も開けられるし、右ももう1個くらい開けられるな
と思って寝た。朝起きたら
「…いっ…てぇ〜…」
軟骨がめちゃくちゃ痛かった。幸いキャッチを緩めていたため爆発的な痛みではなかった。
ここでキャッチを緩めていないと、腫れて圧迫されて
キャッチを緩めたいのに痛すぎて緩められないというジレンマに陥る。
軟骨の痛みは耳たぶの痛みを忘れるくらい痛かった。
さすがに昨日の今日で軟骨にもう1つ開ける気にはなれなかった。
それから数日、大学に行くフリをしてアパレルショップを巡り
耳の痛みが引くのを待ち、耳たぶにピアスを開けたり、軟骨にピアスを開けたりした。その間に
インダストリアルとかトラガスってどうやって開けるんだろう…
と思いながらスマホであれこれ検索し、結局
クリニックで開けてもらうか…。高いけど…
と自分では難しいところに関してはクリニックで開けてもらう決意を固めた。
希誦は勉強机の引出しの中の昔使っていたお財布の中を覗く。
「クリニックで開けてもらうので…うん。欲しいピアスをお母さんに買ってもらって
お母さんに支払うとして…はいはい。んで残りが…、まあ、大丈夫か」
と想定される支出を考える。
うん。中高と陸上部でよかった。ナイス部活
中学高校と陸上部だった希誦は、クラスメイトなどとあまり出掛けることはなかった。
そのため、母からお小遣いを貰ってもほとんど使うことなく貯めていた。
それに加えて、中学生からはお年玉の管理も自分たちだったのでそこそこ貯まっていた。
ということで、アパレルショップを巡ってきた中で
「これ」というものが売っているところへ向かった。場所は「2 fash1onable 」
The ハイブランドという雰囲気ではなく、カジュアルさがあるハイブランドである。
カジュアルさがあるとはいえ、ハイブランド。ただのプリントTシャツで数万円することもある。
その中で希誦が気に入ったものが、キラキラに輝いているワイドジーンズだった。
キラキラに輝いているというのは、魅力的すぎて輝いてみえるという表現ではなく
本当にちゃんとキラキラと輝いている。というのもそのワイドジーンズは
ラメが入った生地にラインストーンがついている。そのお値段なんと75,500円。
買う決心をして家を出て、お店に来たものの
いざ物目の前にして、目と鼻の先にレジがある状況で、値札を見ると
…もうちょう考えてからでもいいか?
とやめそうになる。しかし
「これを、…ください」
とレジに物を持っていった。信じられないほどの、倒れそうなほどの額を払い、商品を受け取りお店を出た。
爽やかな陽の光に
買ってしまった
ヴァンパイアのように灰になりそうなほど、意識が薄くなっていた。
「ふぅ〜…」
と息を吐き
よしっ
と歩き出す。ついでなので他のアパレルショップにも行った。
買ったジーンズと合う服を、プチプライスのお店を回って、買えるものは買った。
髪色のため数日髪を洗っていなかった希誦だったが、さすがに気持ち悪くなってきたので頭を洗うことにした。
ま、1回くらいじゃあんま変わらんか
とたかを括ってシャンプーをした希誦だったが
「…」
鏡の中に写る自分を見て
「やっぱりダメなんだな…」
と呟いた。お風呂から上がった希誦を見て
「うわ。綺麗な髪色が」
と言う妹の美翔。
「1回くらいへーきかと思って」
「無理無理。私の青もよゆーでくすむもん」
「ですよね…。そーいえば美翔は美容院で染めてるの?」
「は?これを?」
とインナーカラーの青い髪を掴む美翔。
「なわけないじゃん。ここだけのために美容院でカラーって。毎月いくらかかると思ってんの?
無駄すぎる。ていうかそれいくらかかったの?」
「黙秘で」
「でしょ?ま、とりまこんくらいセルフカラーでできるから。
お姉ちゃんもセルフでやったら?」
「あんな綺麗な水色にできる?素人が」
「それは知らないけど。マジパニ(マジックパニック(カラー剤))買ってさ。
あ、青は私の使ってもいいし。半々ならお金浮くし」
「…。ま、考えてみる。てか美翔できないの?」
「ん?あぁ、私がお姉ちゃんをってこと?ま、やれないことはないんじゃない?知らんけど」
「…ん。ま、うん。考えてみる。美翔も考えといて」
「んー」
部屋に戻り、買ったジーンズを眺める。
「…んふ…」
思わず笑みが漏れる。
そしてひさしぶりに大学へ行こうと決めた前の日、美容院へ行ってカラーをしてもらった。
そのときなんのカラー剤のなんていう種類を使っているかを聞いた。
「美翔ー」
「なにー」
「美翔の青もマジパニなんだ、よね?」
「そだよー」
「どこで買った?」
「私はホンキ(ホン・キオーテの略称)。なんで?」
「いや、私のこの色もマジックパニックらしいんだよ」
「まあぁ〜そうだよね。原色系はマジパニに限るよ」
「そっか。ホンキね」
「うん。あ。でもあそこ(地元)のホンキのマジパニは品揃え悪いから
大吉祥寺とか甘谷とか真新宿のデカいとこ行ったほうがいいよ」
「ほお。ありがとうございます」
「どいたまぁ〜」
という妹に聞いてから部屋に戻った。
「明日のコーディネートは、これにこれを合わせて」
とひさしぶりの大学、そして新しい自分になってから初の大学。万全の体勢で行こうとあれこれ決めた。
コーディネートにメイク、カラコン、安定した耳たぶのピアスをどれに変えるか。
軟骨はいまだに安定しないため、変えることはできない。
香水にネックレス、指輪にブレスレット。あれこれ決めて
「よしっ」
部屋の電気を消し、ベッドに入ったが
「…」
眠れん
緊張でなかなか眠ることができなかった。
〜
「そんなこんなで休んでた」
と言う希誦。
「なんじゃそりゃ。そんな大変なの?」
と聞く汝実。
「まあぁ〜…。色落ちすぐするから、これがかかる」
と親指と人差し指で丸を作る希誦。
「マジか」
「だから妹にやってもらおうかな。と」
「なるほどね?」
「そそ」
「でも…」
汝実があらためて希誦を見る。
「似合ってるねぇ〜」
「おっ。そ、そお?」
内心嬉しくて嬉しくて堪らない希誦。しかし表情には出さない。
「うん」
と頷きながらも
ハリボテの私とは大違いだ…
と思う汝実。
「この後みんなでプリパニ(プリントカンパニーの略称)取り行こうよ」
「あ、ごめん。私この後病院?行くから」
「え!?大丈夫なの!?」
と焦る汝実。
「あぁ。ピアス開けに行くだけだから。ごめん、病院じゃなくてクリニックって言えばよかったね。ごめん」
「まだ開けるのかい?結構開いてない?」
「開けるよー。満足するまで」
ニヤッっとする希誦。
「じゃ、今度Brand newしょうちゃん記念でプリパニ撮り行こうね!」
「うん」
「うん」
「うん」
と新しい希誦の人生が幕を開けた。
29
のり
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