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コメント
14件
凄い…!!! とりあえず凄い!!(語彙力マイゴー) めっっっちゃ感動しました! 即フォローします!!神!!
私は天才じゃなくても、推し続けるし価値なんていっぱいあるでしょ? うちも価値がないって思う時がある。でも楽しかったらいいでしょ? 壊れないでよ。゚(゚´ω`゚)゚。
コメント失礼します🙇 こむさんの作品素晴らしすぎて...控えめに言って最高です👍️ ふぉろーさせていただいてもよいでしょうか...?
おんりー主人公です
キャラ崩壊あり
パクリダメ
キャラの性格は結構違うかも
勝手な設定追加
セミフィクション
悲痛な表現が使われています。苦手な方は読むのをお控えください。
ドズル社のおんりーってどんな人?
そう問われれば『天才』と答える人が大体だ。
無口だけど、冷静で、結果を出しても飄々としている。
そんな『すごい』人だ。
ドズル社は有名なマイクラ実況者グループだ。
顔出しなしだが、3Dを使った企画を行ったりもする。
メンバーはドズル、ぼんじゅうる、おんりー、おらふくん、おおはらMENの五人。
三人称視点
あるコラボ前日の深夜。
必死に活動している人がいた。
その人の前には、たくさんのメモ、ペン、PC。
PCには、数えきれない程の練習ログやデータ、履歴、タイムスタンプ。
その人は「0.8のズレ。クリックの反射を高めて。感覚じゃない。目を頼りに。」
そつぶつぶつと呟きながら、試してはやめ、メモに書き、一つ一つをもう一度確認し、呟きながら試す。それを繰り返していた。
次のコラボでは、PvP中心になることを知らされていたから。
何十回も通してコラボ相手の過去プレイを研究し、構成と動きと弱点をシミュレーション。ルートを最適化し、成功率を上げていたのだ。
配信の裏では、手元の資料を何十回も見直し、立ち回りをコンマ単位で計算し、チーム構成も戦術も、誰よりも早く、誰よりも深く考えていた。
誰にも見せない。誰にも気づかせないように。
──「すごいね、おんりー。やっぱ天才だ」
その言葉が、自分の居場所を作ってくれていると思っていたから。
2日間で2時間も寝ていない。
今まで同じことをして倒れかけたこともたくさんある。けど、自分について来てもらうためにはこの人は努力を惜しまない。
——————————————————
その行動を扉の隙間から静かに見ているスタッフがいた。スタッフは目を見開き、息も忘れたかのように驚いていた。
スタッフは、その人が努力していることを知らなかった。その人が必死になっているのを見たことがなかった。
その人は額に汗を滲ませながら、前のめりになって、自身が納得するまで磨いていた。そんなの、本当に見たことがなかったのだから。
コラボ当日。
わっと歓声が上がった。
その中心にいたのは、おんりーだ。
「ええ?!今の動き何?!凄すぎでしょ…!」
そう、驚くメンバーやコラボ相手に囲まれても、涼しげな顔で
「まぁね」
コラボ相手は目をキラキラさせながら
「さすがっす!!ドズル社の天才って本当だったんですね!」
おんりーは少しほっとしながらありがとうございます、と返事をしていた。
コメント:天才すぎじゃん!
コメント:おんりーちゃんがかっこよすぎて尊い
コメント:なんでそんなに天才なの?
コメント:ドズル社の化け物枠…天才…!
たくさんの称賛するコメントの中の一つが目についた。
コメント:努力なんかしてなさそう、天才だし
おんりーは、ひゅっと息を呑んだ。
それを隠すため深呼吸をしていつもの表情に戻す。
けれども胸の中には黒いモヤが渦巻いていた。
嫌な予感がした。
すぐにその予感は当たった。
いつもミュートにしているバグ修正用のスタッフ達のミュートが外れて、話している内容が配信に乗ってしまったのだ。
どんな不運だと。自分のことを責めたくなった。
内容は、自分が一番嫌だと思うことだった。
「おんりーさん。あんなに努力してるなんて自分知りませんでした。コラボのためにあんなに頑張ってたんですね。」
場の空気が凍った。
みんなの目線がおんりーへ向く。
肩が震えていた。
目が揺れていた。
視線をどこにも向けられていない。
「、え?」
おらふくんのその一言に他のメンバーもコラボ相手も話し出す。
「努力してたの?」
とコラボ相手。
「ぁ…だめ!配信止めて!早く!!!」
そうドズルが切羽詰まった声で叫ぶ。
スタッフがミュートを忘れていたと気づいたその瞬間。
おんりーが口を開いた。
マイク越しの声は、かすれていた。
「なんで……言ったの」
笑っているような顔。けど、笑ってなんかいない。
「ふざけんなよ……!」
急な叫び声が、マイクを割るほど響いた。
その声はいつもの落ち着いたものではなかった。感情が剥き出しだった。
唇は噛みしめられ、目には怒りと、恐怖と、悲しみが混ざっていた。
「なんで……言うんだよ!!言うなって……!言うなよ、そんなの……!」
声がかれていく。
けど止まらない。
「俺が……どれだけ……!」
「どれだけ寝ないで……!どれだけ倒れそうになっても、それでも見せたくなくて……!」
「見せたくなくて、見せたくなくて……!必死で隠してたのに……!」
拳が机を叩く音が、重く生々しいほど響く。
シンと場が静かになる。
メンバー達が何かを思い出したかのように、怯えている。
おんりーは構わずに口を動かす。
配信は続いているのに、怒りと混乱が抑えきれず、声が裏返る。
スタッフに詰め寄る。
「どうして…?隠してたのにさぁ?!なんでバラすわけ?!」
いつも冷静なおんりーが荒ぶる。
「努力をしているなんてバレたらさ、ついて来てくれないに決まってるじゃん!」
「俺について来てくれてるのは、天才だからなんだよ?!ねぇ!!それをさぁ!?台無しにしないでよ!!」
髪をくしゃくしゃにしながらおんりーは激昂する。
同じ部屋にいるメンバー達はそんなおんりーの姿を泣きそうな目で見ている。
コメント:おんりーがそんなに怒るの初めてみた
コメント:え…?結構ガチなやつ?
コメント:嫌いにならないけど?
コメント:人間だし、そりゃ努力してるよね
そんなコメントを見ておんりーは
「はっ。嫌いにならない?けどね?!そんなの建前なんだよ?!心の中では失望してるんだよ!天才じゃないならって!天才じゃないと、天才…だから…!!」
そう言っておんりーは床に座り込む。髪はくしゃくしゃ、汗も垂れている、そしてハイライトが入っていない絶望した目。
「みんな、みんな天才じゃないと信じてくれない。天才は何を言ってもいいんだ。だか、ら…」
おんりーは涙を堪えきれず、画面の前でぽろぽろと零し始める。
目は真っ赤に充血して、けど涙を拭こうともしない。
「小さい頃、から俺は、親に褒めてもらうって言う経験がなかった。周りは頭を撫でてもらった、褒めてくれた、抱きしめてくれた、そんな幸せを親から貰ってた。俺の親は、俺が天才じゃないから褒めてくれなかったんだ。」
「天才じゃないと見てもらえないんだ、!」
「努力なんか、見せたくなかったんだよ……俺は……ずっと、隠してたのに……!」
メンバーがそっと声をかけようと近づくが、おんりーはそれを拒絶するように振り払う。
「なんでこんなとこで、バラすんだよ……なんで今なんだよ……!」
その目は、信じられないものを見てしまった子どものように、怯えていた。
そしてその怯えは、怒りに混ざって、爆発的な悲痛に変わる。
コラボ相手も、視聴者も、画面越しに呆然とその姿を見ていた。
コメント欄は、まるで現実を飲み込めないかのように、止まっていた。
努力しているという、血のにじむような事実をバラされたことが本当に嫌だった。
あんなに、あんなにも隠してきたのに。
涙が頬を伝うのに、手でぬぐおうともしない。
逆に、髪をぐしゃぐしゃにかきむしって、吐き捨てるように言葉を紡いでいた。
それでも、コラボ相手が呼びかける。
「おんりーさん……話そう、まずは落ち着いて……」
「落ち着けるかよッ!!」
振り返ったおんりーが、スタッフの方へ歩み寄り、怒鳴りつける。
「なんで言った!? なんで勝手に、勝手にバラした!? 俺がどれだけ……どれだけ隠してきたかも知らないで!!」
スタッフはただ、うつむいていた。怯えたように、小さく何度も「ごめんなさい」と呟く。でも、おんりーの目には映っていなかった。
「努力してるって知られたら、全部壊れるんだよ……俺は、“天才”だから、ついてきてもらえてたんだ。そう思ってたから、だから必死に隠して……徹夜して……寝ないで……!」
声がかすれる。
「努力してるってバレたら、俺は、俺は!ただの“凡人”だ。そんなのに誰もついてこない……!」
叫びの中に、幼い悲鳴のような震えが混じる。
「昔、努力してたら……“見せつけんな”って言われた……“どうせ自慢だろ”“当てつけだろ”って言われて、みんなにいじめられたんだ……!提出ノートの隅にまで書き込んでたら、“嫌味か”って、筆箱捨てられて、ランドセル隠されて……。中学のときも、“どうせおんりーは天才なんでしょ”って、何か間違えたら笑われて、模試で99点だったら、“天才でもミスするんだ?”って、教師にまで笑われた。悔しかった。悔しくて寝ないで、食べずに勉強して、でも……でもそれも全部……!」
コラボ相手も、視聴者も、誰もが言葉を失っていた。
「頑張って、頑張って……それでも100点とれなかったとき、親に殴られた。“天才ならとれてた”“やっぱりお前は普通だったんだな”って……」
握りしめた拳が震えていた。こめかみに張りついた髪が、涙と汗でぐしゃぐしゃに乱れている。その顔は、普段の凛とした面影をまったく残していなかった。
「天才って言われるヤツが全部を支配してた。そいつが“おんりーってウザくね?”って言った瞬間、いじめは止まらなくなった。俺は、黙って耐えて……」
喉が詰まる。
「努力してます、なんて言えない。“天才だから”って言われる方がまだマシだった。だって……そうしないと、誰も……誰も俺を……認めてくれなかったんだよ……っ!」
過呼吸のように息を吸い、肩が上下する。
スタッフは何も言えず、メンバーたちも声を失っていた。
「だから、俺は、“天才”って言われるようになったんだ。努力してる姿なんて、誰にも見せずに。黙って全部できるようになって、誰よりも速く、誰よりも上手く見せて……! それが俺の、唯一の、居場所だったんだ……!」
「“なんだ、努力してるだけか”って思われるのが、怖かった……。“そんなの普通じゃん”って……みんな俺を離れていくのが……。だから、絶対に、絶対に知られたくなかったのに……!」
唇がわななき、堪えきれず涙がこぼれる。
「それを、壊さないでくれ……! お願いだから……」
それはもう泣き声だった。
机を叩いた手は真っ赤になっていた。その傷すらも、おんりーは気づいていない。ただ、涙だけが止まらなかった。
部屋の中に、重すぎる空気が流れる。
メンバーも、コラボ相手も、何も言えずにそこに立ち尽くしていた。
コラボ相手視点
画面の中で、冷静だったはずの青年――おんりーが、まるで崩れ落ちるように声を絞り出していた。
最初は、ただ怒っていただけだと思った。
でも、違った。
「……努力してるってバレたら、終わりなんだよ。俺は……天才じゃなきゃいけなかった」
言葉の節々に滲むのは、ただの怒りじゃない。
それは、恐れと、絶望と――過去に何度も、何度も砕かれた者だけが持つ声だった。
「努力してたの、バレたら……バレたら、みんな、俺から離れてくんだろ……?」
画面越しでもはっきり分かるほど、彼の目は真っ赤だった。
涙が止まらず、髪は乱れ、喉はかすれ、呼吸さえままならない。
俺は――コラボで呼ばれた実況者。
おんりーさんのストイックさ、センス、そして結果だけを見て、すごい人だと思っていた。
いや、今でも思ってる。だからこそ、今見ているその姿が、心臓を直接握られるように痛かった。
「……昔、努力したんだよ。毎日毎日、100点取らなきゃって思って。でも……1問ミスっただけで親に殴られて、天才じゃないって言われて、なのに、努力してる姿見せたら、“努力してるやつは、できない証拠”だって、笑われて、“できる人間は努力なんかしない”って、言われて――……」
ぽつり、ぽつりと落ちてくるその言葉に、息が詰まった。こんな言葉を、今まで胸の中にずっと隠してきたなんて――想像すらできなかった。
周囲にいたドズル社のメンバーも声を失っていた。ドズルさんは悔しそうに下を向いて、ぼんじゅうるさんは歯を食いしばり、おらふくんは目にうっすら涙を溜め、MENは帽子を目深にかぶって拳を握っている。
「“あいつは努力してるフリして、できないやつに当てつけしてる”って、“天才ぶってる”って、“消えろ”って、“死ね”って――言われて。だから……もう、誰にも見せたくないんだよ、そんなの……俺の、努力なんか」
おんりーさんは俺らのことを見た。
その目は、涙と怒りと哀しみでぐちゃぐちゃになっていた。
俺の手が、震えていた。
モニター越しのおんりーさんは、いつだって完璧だった。
なのに――今、目の前で泣きじゃくっているのは、努力し続けて、それでも孤独の中にいた少年だった。
こんな姿を、知らなかった。
いや、知らなかったからこそ、軽々しく「すごい」とか「センスある」とか、言っていたのかもしれない。
そして、そんな自分に、心底腹が立った。
(どうして……こんな人が、一人で全部背負ってたんだよ……)
三人称視点
沈黙が流れる中、一番最初に動いたのはドズルだった。おんりーの腕を強く、けれど優しく掴むと、まっすぐにその顔を見据える。
「お前が天才でも、そうじゃなくても、僕たちは――仲間だよ。……おんりー、君が倒れそうになるほどの努力をしてたのに、僕たちは、それに……何も言うことができなかった」
声が震えていた。おらふくんは涙を浮かべながら言葉を探す。
「おんりーが、頑張っているの、ずっと知ってた。なりふり構わず練習してるの、すごいって、尊敬してるんだって、そんな簡単な言葉が出てこなかった…。おんりーがあの時みたいなことに、なってほしくないって、思っていたのに…」
コラボ相手は震える手でおんりーの背中に触れようとして、止まった。その目には、完全に折れかけた一人の少年をどう支えていいかわからず、ただ苦悩が滲んでいた。
コメント欄は嵐のようだった。
コメント:……うそ、こんなことが……
コメント:おんりーがそんな風に思ってたなんて……
コメント:努力を見せなかったの、そういう理由が……?
コメント:スタッフ許せん
コメント:泣いてる……ほんとに泣いてる……
コメント:誰だよ、努力見せつけるなって過去に言ったやつ……おんりーが壊れてるじゃん……
バラした張本人のスタッフは、涙を浮かべながら震えていた。悪意ではなかった。ただ、心配して――。
スタッフは崩れるように頭を下げる。
「……ごめん……でも、おんりーさんが壊れそうで、……!」
視聴者の間でも意見は割れた。
コメント:スタッフが悪い
コメント:でも、黙ってて本当に良かったのか……?
コメント:けど今のタイミングじゃなきゃ、もっと壊れてたんじゃ……?
おんりーがまた話し出す。
「『見せる努力』は自己顕示だって……言われた。殴られて、笑われて、全部……」
何も見ていないような目。
ぽたぽたと静かに垂れる涙は止まらず、顔は青白く、目のハイライトは完全に失われていた。
まるで――壊れた人形。
おんりーの視線は宙を彷徨いながら、誰にも向いていない。濁って、深く、どこにも届かない絶望の底に落ちた目。
言葉は出ていても、それはもう一人の少年の心が、壊れて空っぽになったものだった。
「……天才でいなきゃ、誰も……誰も残らないって……っ」
その声も、もう芯のあるものではなかった。
ただ、自分を支えるものを失った、ひとりの少年の悲痛な想いだった。
コメント欄は荒れに荒れていた。
応援、驚愕、非難、懺悔、そして――恐怖。
“完璧な天才”として尊敬していた存在が、今にも壊れてしまいそうな硝子のような表情をしている。
その差に、言いようのない胸のざわめきと、恐怖と、悔しさが混じっていた。
おんりーの目には、光がなかった。
感情も熱も、残っているのは「怒り」と「悲しみ」の名残だけ。
その姿に、メンバーもコラボ相手も――**本能的な「恐怖」**を感じていた。
こぼれていく――壊れかけた記憶の残骸のように。
誰もスタッフを責めるどころじゃなかった。
ここで、やっと思い出したかのようにに、ようやくドズルが小さく声を出す。
「……みんな。いったん、配信、切ろう」
その一言にスタッフが動き出す。
でも視聴者の誰もが、そしてスタッフ達も、ただ一つ――“間違えてはいけないラインを、超えてしまった”という事実を、恐怖と共に感じていた。
コラボ相手は目の前の現実を信じられなかった。
明らかに精神の限界を越えている。
目の奥が、何かを訴えることすら忘れたような――それでも、声だけは出ていた。
「……努力して、倒れても……歯を食いしばって、朝が来るまでやったんだよ……」
背中が丸まり、声は震え、呼吸は浅く速い。
「でもそれを見せたら、みんな……みんな離れてった……」
コラボ相手は配信越しに見てきたおんりーを、勝手に「自分よりずっと上の人」だと思っていた。
その「神」のような存在が、今こうして、目の前で壊れていく。
「見せる努力なんかいらないって……俺、ずっと、そうやってきたのに……」
その言葉に、ドズルが顔を伏せた。
「おんりーが努力してないわけない」
心の底から、ずっと思っていた。けど、触れたら壊れる気がして、誰も言わなかった。
体は細かく震えていて、肩は落ち、膝の力も抜けていた。髪は乱れ、唇は噛みしめすぎて血の味が混じっていた。服の端をぎゅっと握りしめながら、それでも、言葉は止まらない。
コメントにあった「泣かないで」なんて、そんな安っぽい慰めが届く場所には、もう彼はいなかった。
コラボ相手の実況者は、手を震わせながら、おんりーの顔を見つめていた。
あれが、いつも「冷静で余裕ある」って笑っていたおんりーだとは、とても思えなかった。
おんりーの目は、まるで感情が死んでいるようで、それでも深い場所に、押し殺した“泣き叫び”が沈んでいた。
コラボ相手は光のない、そんな声が、自分の中に響いた瞬間、背筋がぞわりと震えた。
そのとき、おんりーのその姿を見ても自分と同じような恐怖を抱かないメンバー達に疑問を抱いた。
おんりーは、まるで「生きていない」ように見えた。
呼吸はある。言葉も出る。ただ、その瞳の奥に「命の熱」が感じられなかった。
彼の声は機械的に震え、唇は乾き、泣いた後の目元は赤く腫れていて、髪は乱れたまま、顔を伏せても涙は頬を伝い続ける。
「……お前らさ。俺が何もしてない“天才”だったら、それで満足だったんだろ……」
ぽつりと、呟く。それに返す声はなかった。誰も、何も言えなかった。
ドズルが何か言おうとして一歩踏み出しかけたが、その瞬間、おんりーは低く、呪うように言った。
「来るな。……誰も、来るな……俺に近づくな……」
小さく首を振って、引きつったように笑った。
「こんな俺……努力してバレて、それで泣いて、壊れて……かっこ悪いって……今頃、アンチも“見たか”って笑ってる……」
「……こんなに、頑張ったのにな……」
それは、誰に向けたわけでもない、ただの独り言だった。まるで、誰にも届かないことを最初から知ってるように。
「編集も、勉強も、練習も……配信のタイミングも、ミスしたら何言われるかって……怖くて、眠れない日もあったのに」
笑った。歪んだ笑いだった。
「俺、どこで間違えたんだろ。『天才』って言われて……ああ、安心したよ。でも、そうじゃないってわかってて。ずっと、それに応えるために、やって……」
沈黙が、画面を覆う。
彼の部屋の空気まで、画面越しに伝わるようだった。
重く、ひどく、冷たかった。
「『おんりーは天才』『おんりーは完璧』『おんりーは感情を出さない』……お前らが望んでたのは、それだけだったんだな……」
言葉に、棘も皮肉もなかった。ただ、諦めだけがあった。
失望じゃない。もう何も期待していない人間の、乾いた声音だった。
いつも光っていた知性も、芯の強さも、優しさも──何も、残っていなかった。
「……期待なんか、しなきゃよかった」
低く、かすれた声。
「誰かが見てるって信じて……毎日、動画作って……コメントも見て、少しでも笑ってもらえたらって、そう思って……」
唇が震える。
けれど泣かない。涙すら枯れているようだった。
「全部……意味なかったな……」
その瞬間、スタジオの空気が軋んだ。
マイクが、誰かの喉を鳴らす音を拾った。
けれど、誰も何も言えなかった。
近くにいたスタッフ──普段なら冗談混じりに空気を変えるようなタイプの人間も、硬直していた。
明るさでは通じないことが、わかっていた。
今ここにあるのは、“人が壊れた音”だったから。
おんりーは立ち上がった。
ゆらりと。
その動作すら、不安定だった。
彼は机の上に置かれた、長年使っていたマウスに目を落とした。
無数のクリックで削れたサイド。
一つひとつの戦いの跡が残る、その道具。
けれど、今の彼にはただの「無機物」にしか見えなかった。
勝ち取った軌跡も、築いた歴史も、彼の心にはもう何も響かない。
「全部、無駄だったんだな……」
その言葉に、再びざわめきが広がる。
でもそれは、止めようとする気配じゃない。
ただ──痛みを共有する震えだった。
おんりーは、配信機材の電源に手を伸ばした。
今すぐにでも、全てを切り捨てるように。
おんりーが足を引きずるようにして、スタジオを出て行く。
足音すらも、重かった。
閉まるドアの音だけが、無情に響いた。
──世界は、しばらく、静かだった。
残されたのはメンバーとコラボ相手。
ドズルはコラボ相手に、
「本日は、誠に申し訳ございませんでした。ここで、解散とさせてください」
その言葉に、コラボ相手は
「は…い。あり、がとうござい、ました。」
そう、呆然としたような声で退出した。
メンバー達は、目を合わせて泣いた。
また同じこと、いや、もっと悲痛な状況を生み出してしまったと。
とても前、ドズル社を結成して一年たったあたりのことだった。
会社の収録スタジオで五人で話していた。
すると思い出したのか、ドズルが一言。
「おんりー、頑張りすぎたらダメだよ?努力しすぎたら体壊すから」
そんな心配するような一言でおんりーは取り乱した。
真っ青になって震えて、固まった。
「いやだ…!いやだ、気づかないで、努力、なんか!努力はいらないんです、自分は、天才だから!天才でいな、いと…」
今日ほどの絶望のしようではなかった。
けど、初めてそれを聞いた時は、間違えたのだと悟った。
メンバー達も、恐怖で震えるおんりーを見たのはそれが初めてで、その姿を見るのがとても悲しかった。
おんりーにその姿をもうさせないように、守るんだと、そうメンバー内で誓ったのだ
なのにおんりーが壊れてしまった、壊れることを阻止できなかったことに、メンバー達は悲しみで涙を止めることはできなかった。
──翌朝。
トレンド1位は「おんりーの仮面」。
他の実況者達も、まとめサイトも、コメ欄も、ほぼ全てがその名前で埋め尽くされた。
でも、そこに「励まし」も「擁護」も、ほとんどなかった。
人々はただ呆然としていた。どうすればいいのかわからなかった。
──あの、“完璧”だったおんりーが、仮面を剥がされたのだ。
彼は、ドズル社の事務所にも来なかった。
メッセージも既読がつかない。
GPSすら切られていた。
誰にも見つけられないように、完璧に姿を消した。
──「完璧な逃げ方」だった。
そして──数日後。
ある動画がアップロードされた。
タイトルは《記録:Q(非公式)》
投稿者名は「unknown」。
それは、配信が終わった直後の、彼の部屋を記録していた映像だった。
カメラは手ブレしながら、彼の机に向かっていた。
そして、机の下で膝を抱えてうずくまる、誰かの姿。
表情は、もう人間のものではなかった。
感情を失った獣。
あるいは、全ての希望を食われた廃人。
震える唇から漏れるのは、ただ同じ言葉の繰り返し。
「ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん──」
その言葉を、途切れることなく、延々と。
──13分間、ずっと。
顔はしっかり写っていない。ただ、蹲り小さくなりながら、震える誰かがいた。
何を謝っているのか、誰に向けてなのか、本人ももう分かっていない。
ただ、謝ることでしか自分を保てなかった。
──この映像を見て、これが誰かした視聴者もいた。
「努力がバレて泣いた」
「照れた」
そんな軽い言葉で片付けられる状態ではなかった。
あれは「崩壊」だった。
おんりーは、壊されたのではない。
──刻まれた過去のせいで崩れ落ちたのだ。
ドズルも、ぼんじゅうるも、MENも、おらふくんも、
この映像には一切コメントを出さなかった。
彼らにも、何が正解か分からなかった。
下手な言葉は、全部ナイフになる。
だから、彼らは沈黙を選んだ。
ただ、ある日──
おらふくんの配信で、ふと漏れた言葉だけが残った。
「……おんりーは、何も悪くないんだ。俺たちが、壊したんだよ……」
その言葉を深く受け止めた視聴者が大勢いた。
しかし、視聴者たちは最初、とても混乱した。
「引退するとは言ってなかった」
「ドズル社も何も言わないのはおかしい」
「これは事件だろ?」
でも、騒ぎは徐々に静まった。
──人間は、忘れる。
どれだけショックでも、日常に戻っていく。
残されたドズル社メンバーは、配信を再開した。
だが、その空気はあまりに違った。
楽しいはずのゲーム実況は、まるで弔いのようだった。
誰も「おんりー」の名前を口にしない。
だが、みんな「彼の存在の不在」に耐えながら続けていた。
──そして、季節が一つ巡ったころ。
ある日、ドズル社メンバーのグループに一つの音声ファイルが送られた。
「END.q9q」
再生すると、ノイズ交じりの小さな声。
「ごめんね。俺は、もう、た、─れ、なく…な、ちゃった…また、次のじ、ん─いは…普通、の…ひと、に…生まれて、みんなと、たのし、く──幸せに、暮らせますように」
以上で終わりです
よければ、コメント、ハートよければよろしくお願いします
では、また