「元貴、今日のステージ……ヤバかったな」「んー、そんなに?」
「……めっちゃ綺麗だったよ。だから、ムカついた」
楽屋の奥。
機材の片付けが終わった頃、若井は無言で大森を壁際に追い込んだ。
汗がまだ引かない。
なのに、距離はどんどん縮まっていく。
「……ちょ、滉斗?」
「他のやつらがさ、お前の声聴いて、“やばい”“好きかも”とか言ってんの。聞こえてたんだよ」
「えっ、それって……」
「冗談でもムカつく。俺以外の奴に、元貴の声、聴かせたくない」
真っ直ぐな眼差し。
けれどその奥には、嫉妬と執着が隠しきれずに滲んでいた。
「……滉斗、怒ってるの?」
「うん。だから証明して」
大森の手首を掴み、壁に固定する。
そのまま、唇が重なった。
最初は甘く、けれどすぐに深く激しく。
唇を噛むように、奪うように。
それはキスというより、支配に近かった。
「ん……っ、や、ちょっと……っ」
「ダメ。声、漏らして」
「……こんなとこ、誰か……」
「聴かせたいやつには聴かせる。けど、この顔は、俺しか見られたくない」
震える身体を、強く抱きしめる。
「ステージでどんなに綺麗でも、どんなに遠くにいっても、元貴は俺のものだから」
「……独占欲、強すぎ」
「自覚してる。でも、止まんないんだよ。お前が魅せるたびに、俺の心がぐちゃぐちゃになる」
耳元で囁かれる声に、ゾクリとした。
首筋に熱いキスが落とされ、服の襟が引き下ろされる。
音楽とは違う、別の熱が身体を支配していく。
「滉斗、ほんとに……」
「黙って、俺だけ見てて」
「……うん、俺……滉斗にしか、こうならないから」
その言葉を聞いた瞬間、若井は一度深く息をついた。
そして、優しさを取り戻したように、唇をそっと重ねた。
「なら……全部俺に見せて。声も、表情も、全部」
部屋の奥、スタッフも戻らない深夜の楽屋で、
二人は誰にも邪魔されない世界に溺れていった。
それはもう、愛とか恋を超えて——
執着と欲望でしかないほどに、強く、甘く、重いものだった。