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次の日は、昼食をポエールさんとアドルフさんと一緒にとった。
職人組合の話をするため、いわゆるランチミーティングというやつをしてみたのだ。
ポエールさんは私たちが行くと優先的に時間を割いてくれるのだが、そもそも睡眠時間が随分と不足しているらしい。
食事はいつも仕事をしながらとっているそうだから、私たちとのやり取りを食事に重ねた分、少しでも睡眠に時間を充てて欲しいものだ。
食事を終えたあとは、引き続きポエールさんとアドルフさんで話を進めるということになったので、私は一人でテントに戻ることにした。
時間があればまた職人さんのお手伝いに行きたいところだけど、今日は他に用事は無かったかな――
「……あれ? 二人して、どうしたんですか?」
テントに戻ると、その前でルークとエミリアさんが特に何を話すでもなく立っていた。
「アイナさん、お帰りなさい!
そろそろ戻ってくるかなーって思って、待っていたんですよ!」
「ありがとうございます? 何かあったんですか?」
「昨日、猪を駆除したって話をしたじゃないですか。
今日もまた現れたそうなので、これから行こうと思っているんです!」
「大変ですねぇ。またですか……」
「それで、アイナ様も一緒にどうかと思いまして」
「おー。そうだね、たまにはそういうのも良いかも!
私のやることは無いかもしれないけど、たまには二人の勇姿を眺めてみようかな」
「ふふふ♪ アイナさんが来るなら、きっと何かが起こりそうですよね♪」
「ちょっとエミリアさん……。人をそんな、疫病神みたいに言わないでくださいよ」
……だって、出るのは普通の猪なんでしょ?
昨日は二人だけで対応できたらしいし、さすがに昨日の今日で何かが起こるだなんて――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――……そんなふうに思っていた時代も、私にはありました。
「ちょちょちょ、何ですか、あれ!」
「分かりませーんっ」
「おかしいですね……。あんなにも統率が取れているだなんて……」
小さな漁村を訪れてみると、村から離れた場所に猪を確認することができた。
一見すると普通の猪に見えるのだが、異常なのは30匹ほどの猪が隊列を組んで並んでいるところだ。
私たちが村長さんに話を聞きながら様子を窺っていると、突然猪がこちらに走り始めてきた。
「これぞ『猪突猛進』……ッ!!」
「アイナさん、こんなときに何を言ってるんですか!」
「す、すいませんっ」
……叱られてしまった。素直に反省。
「昨日は1匹でしたが、今日は多いですね。
アイナ様、私が斬り込みますので、エミリアさんと一緒に村を護ってください」
「了解っ!」
「それでは支援魔法を掛けますね!
オラクル・アシストっ!!」
エミリアさんが耳慣れない魔法を唱えると、私たちの身体のまわりにふわっとした何かが纏まりついた。
纏わりついたとは言っても嫌な感じはせず、むしろ何か気持ちの良い感じだ。絹が肌に触れる、みたいな。
「おぉー、新しい魔法ですか!」
「ふふふ、日頃の勉強の成果です!
……あ、でも猪を素手で止めるような力はありませんからね!」
「そ、そこまでは期待していませんよ……」
さすがにそこまでの魔法であれば、戦況を大きく左右してしまうレベルだ。
世界のどこかにはそんな魔法もあるかもしれないが、一介の聖職者が使うような魔法ではないだろう。
……そう考えると、誰でもバニッシュ・フェイトが使えるようになるブレスレットっていうのは、やっぱりずるいかもしれないなぁ……。
いや、どう考えてもずるいか。
「――では、参りますッ!!」
支援魔法の効果を確認したあと、ルークが猪たちの群れに突っ込んでいった。
昔よりも私のことを心配してくれないのは、エミリアさんの魔法への信頼だろうか、私の戦場での信頼だろうか。
……まぁ、どちらにしても信頼なのかな。
ルークは神剣アゼルラディアを振るいながら、猪に攻撃を仕掛けていった。
一撃で屠ることもあるが、さすがに相手はたくさんいる。
それに加えて猪たちはルークを目指しているわけではなく、村を――こちらを目指しているのだ。
従って取りこぼしも多く、ルークの剣から逃れた猪たちは、そのままこちらに猛スピードで向かってきた。
「……さて、どうしましょうか」
「私はいつも通り魔法で迎え撃ちます。
アイナさんは、違うんですか?」
「そうですね、それでも良いんですけど……。
うーん……。いろいろと試してみたいことはあるんですが、やっぱり錬金術の射程が短いからなぁ……」
私の最大の武器は錬金術だ。
しかし魔法よりも圧倒的に射程が短いから、あんなに猛スピードで来られると基本的には何もできない。
……やっぱりいつも通りにしようかな。
「そろそろ攻撃をしないと――
シルバー・ブレッドっ!!」
エミリアさんが魔法を唱えると、聖なる力の塊が猪を直撃した。
猪の向かってくるスピードと相まって、その光景は凄いことになっている。
「うへぇ……。これなら氷の弾の方がまだ良いかも……。
アイス・ブラストっ!!」
私も同様に魔法を唱えると、氷の塊が猪を直撃した。
これはこれで、見栄えがマシ……ということも無いか。
「半分くらいはルークさんが倒してくださっていますから、残りの半分を頑張りましょう!
今回はアイナさんがいてくれて、本当に助かりました!」
「……私がいたからこうなった……では無いですよね?」
私は村に来る前、エミリアさんに言われた言葉がどうにも気になっていた。
――アイナさんが来るなら、きっと何かが起こりそうですよね♪
……いやいや? これは偶然、何かが起こったときに私がいただけだからね!?
漫画でありがちなフラグ建築士とかでは、決してないんだからね!?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
しばらくすると、たくさんの猪たちは問題なく倒された。
私たちのまわりに転がる猪を数えてみると、その数は17匹。
倒され方を見る限り、私が7匹、エミリアさんが10匹を倒したようだった。
「負けました」
「わーい、勝ちました♪
……って、別に勝負していませんでしたよ!?」
「実はこっそりと張り合っていたんですが。
でもさすがエミリアさん、戦い慣れていますよね!」
「戦い慣れている司祭もどうかと思うんですけど……」
私の言葉に、エミリアさんは少し渋い顔をしてしまった。
司祭はそもそもそういう職業ではないのだから、その表情は当然かもしれない。
……しかしエミリアさんはルーンセラフィス教と決別したわけだから、今後は司祭のイメージには囚われず、逞しく育っていってもらいたいものだ。
「ルークの方も終わったみたいですね。
最後に何か手間取っていたようですけど、何かあったのかな?」
「そうですね、ルークさんにしては珍しいというか……。
わたし、回復魔法を掛けに行ってきます!」
「私は一応、猪が生きていないかを確認してから行きますね」
「はい、お願いします!」
エミリアさんがルークの方に走っていったあとで、私は猪たちに鑑定を掛けていった。
結果、問題なく全部が息絶えているようだった。
その様子を村の人たちが遠巻きでずっと見ていたので、ひとまず声を掛けてあげることにする。
「ここに転がっているのは全部倒し終わっていますので、安心してください!」
「おお……! ありがとうございます……!」
村長さんは少しびくびくとしながら、村の大男に付き添われてゆっくりとこちらに向かってきた。
「お嬢ちゃん、向こうも終わったのかい?
いや、小さいのに凄いものだなぁ。こんなにも大量の猪をあっさり……」
「こ、こら! こちらの方は神器の魔女様だぞっ! 言葉を控えんかっ!!」
「え!? あ、あの悪名高い!?」
「こらっ!?」
村長さんの言葉を受けて、大男は大いに慌ててしまった。
「いえいえ、大丈夫ですよ。実際に悪名高いですから。
でもこの近くに居を構えることになりますので、怖がらないで仲良くしてくださいね」
「はい、是非ともっ!!
魔女様のところでは、うちの村の者も屋台を出しております! 今後とも引き続き、よろしくお願いいたします……!」
「あ、そうなんですか。どの屋台かは分からないですけど、どこも美味しいですからね!
きっとその方の屋台も美味しいんでしょうね」
「もし良ければ、今度ご案内させて頂きますので!
ところで魔女様、此度の報酬はどうしたら良いでしょうか……」
……報酬?
確かに冒険者ギルドとかに依頼をすれば、それなりの金額を取られてしまうものだけど――
……っていうか、こういう問題が何回も起こるのであれば、私の街にも早々に冒険者ギルドが欲しいかもしれない。
いや、冒険者ギルドまでいかなくても、依頼を受発注するところがあれば良いのかな?
「うーん、報酬は特に不要です。
その代わり、私たちのお手伝いを好意的にして頂けませんか?
屋台をもっと出すとか、そういった類のもので構いませんので」
「え……?
屋台は私共も稼がせて頂いておりますし……そんなことで良いのですか?」
「今の私には、あの場所が賑やかになることが一番大切なんです。
でも、私たちのことを好ましく思っていない人もいるかと思うんですよ。
ですので、そういう方がいらっしゃったら少しでも歩み寄って頂けると嬉しいんです」
「なるほど……」
「確かに俺の息子も、いろいろと思うところはあるようだからな。
静かな環境を求めるヤツには、あそこの開発は好ましくないわけだし」
「こらっ!」
大男の言葉に、再び村長さんが注意を促した。
「あはは。大丈夫ですよ、それくらい。
でも私はみんなと上手くやっていきたいので、そこはご理解ください。
――……っと、向こうで仲間が呼んでいるようなので、少し行ってきますね」
見れば遠くの方で、エミリアさんがこちらを見ながら両手を大きく振っている。
……何かあったのかな?
「ところでお嬢ちゃん、この猪はどうする?
食えそうなやつは解体しちまっても良いかな?」
「ええ、構いませんよ。
今日は猪パーティでもしてください」
「おお、ありがとうな!
それじゃ村長、男衆で手分けしてやっちまうか!」
「うむ! 久々に宴でも開くとしよう!」
大男の言葉に、村長さんは元気に頷いた。
イベントのあとに宴を開くだなんて、ゲームではよく見る光景だ。
……そんなことを考えると、何だかふと可笑しくなってしまった。
――さて、それじゃエミリアさんのところに行ってみようかな。
元気良く手を振っているから、悪い知らせではないんだろうけど――