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意識は朦朧とし、
自分が起きてるのか寝ているのか、
生きているのか死んでいるのかもわからなくなっていった。
眼を瞑るとひたすら、あの夢を見た。
工場ーーーー。
滴る水と油の匂い。
ポニーテールの少女。
俺はあの子を知っている。
泣き顔だけじゃなくて、
陽だまりのような笑顔も知っている。
少し掠れた声も、
男勝りの口調も、
照れたように出す舌も。
煙草を辞められないことも、
負けん気の強いところも、
実は涙もろいところも、
唇の熱さも、
潤んだ瞳も、
快感に耐え兼ねてしがみ付く指の強さも、
全部、全部知っている。
俺は暗闇で目を開けた。
どうして忘れていたのだろう。
どうして忘れることなどできたのだろう。
彼女は俺の――――恋人だった。
◆◆◆
◆◆
『……リス』
『パリス……?』
この声は、誰だろうか。
彼女か―――?
名前も思い出せない、俺の愛する恋人……。
ーーー違う。
彼女は俺をそんな呼び名で呼んだりしない。
ヘラ?
やっと、俺を殺しに来たのか?
アテナ?
良かった、生きていたんだな。
ヴィーナス……。
もしかして、君なのか?
俺はもしかしたら、人を殺したのかもしれない。
そしてそれは、君の父親だったのかもしれない。
でも―――
それでも―――
俺を、迎えに来てくれたのか……?
目を開けた。
光だ。
眩しくて、前が見えない。
『――かわいそうなパリス』
声が響く。
強すぎる逆光で、顔は見えない。
顔の横で何かが光った。
あれは―――
注射器?
『――今、楽にしてあげるからね』
眩しかった視界は、一気に暗黒に引きずり込まれた。