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常盤ダンジョン第7層。
入口の時点でクララが何かに気付いた。
「みんな待ってー。むむー。これはねー、トラップがあるぞなー。きっとあれだにゃー。運営さんが仕掛けたヤツですなー」
「さすがクララ先輩! もう気付いたんですかぁ!?」
「ぬっふっふー。あたし、対抗戦に備えてミンスティラリアの魔王軍の訓練に加えてもらってたからねー! 逆神流のトレーニングができない代わりに、魔王軍仕込みの索敵能力を手に入れたのだよー!!」
どうしてそのシーンが全てカットされているのかは誰にも分からない。
何はともあれ、元から経験値と順応性が高かったクララが、スキルではなく肌で感じる類の力を付けていた。
これは非常に心強い。
ダンジョンにある通常の天然トラップならば、イドクロアの関係で微量の煌気が出ている事が多く、六駆もすぐに看破できる。
が、今回の対抗戦は人の手によって仕掛けられた罠が対象になり、そうなると途端に六駆の察知能力が低下して、先陣を切る人間がいなくなる。
そこで出番がやって来る椎名クララ。
「それじゃあ急ぎましょう! ファイトマネーが待っていますよ!!」
「あー! 六駆くん、その植物踏んだらダメだにゃー!!」
「それってどれですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!」
六駆がトランポリンのような花を踏んで、ダンジョンの天井に突き刺さった。
「これはねー、バネラフレシアって言う本物のダンジョンにも自生してるヤツなんだにゃー。普通は六駆くんみたいな惨状にならないんだけど、この花は触れた人の煌気を吸い出して反発力に変えるんだよねー」
つまり、通常であれば少しばかり吹き飛ばされる程度のトラップ。
ただ、六駆の煌気は並の人間の何倍もの量を常時垂れ流しているので、バネラフレシアとの相性が非常に悪い。ある意味では良いとも言えるかもしれないが。
「椎名さん! 怪鳥がこちらに気付きましたわよ! わたくしがお相手しますわ!!」
「あー! ダメですにゃ、小鳩さん! 怪鳥とあたしたちの間に煌気無効化のガスが出てますぞな! 近距離で戦う小鳩さんと芽衣ちゃんはストップですにゃー!!」
お忘れの方もいるかもしれないので、言っておこう。
椎名クララはぼっち……ソロ探索員でCランクまで上り詰めた乙女。
塚地小鳩も似たような境遇でAランクではないかと思われるかもしれないが、彼女は久坂監察官の弟子である。
いわば、英才教育を受けて来たぼっち。
対して、クララはガチぼっち。
頼れるのは自分だけな環境を3年も生き抜いて来た経験は伊達じゃない。
その感性を対抗戦に合わせて異世界でさらに高めて来たのだ。
「莉子ちゃん、あの怪鳥モンスターの情報分かるー?」
「はい! ジュリギラスと言うモンスターで、中距離の攻撃が得意です! 音波で空気を振動させるんです。岩とか砕いちゃうくらいの攻撃力があります!!」
「にゃるほどー。ならば! その音波攻撃が煌気無効化ガスで相殺されている今が好機! 銀弓ディアーナ!! からのー! 『四方・低空飛行の燕』!!」
クララの放った矢は4本すべてが上下左右に分かれて飛んでいく。
ジュリギラスが音波攻撃で煌気無効化ガスとやり合っている場所を綺麗に回避するカーブを描き、四方から襲い掛かる具現化された燕の一撃。
「キュララララッ」
「にゃっふっふー!! どうだー! これがクララパイセンの実力だぞなー!!」
見事な手際でトラップとモンスターを撃破。
やはり、クララはダンジョンでこそ輝く。
◆◇◆◇◆◇◆◇
『これは見事な対処を見せました! ……ええと』
『椎名クララくんです。うちのBランク探索員の』
『失礼しました! 椎名Bランク探索員!! たった1人で難局を乗り越えるー!! これまではまったく目立った活躍がありませんでしたが、能ある鷹は爪を隠すのか!!』
『椎名くんは実に優秀な探索員ですよ。攻防のバランスにも秀でていますし、属性スキルも一通り使えて遠距離攻撃に長けているので支援も可能。目立ちませんが』
『おっとぉ! 南雲監察官、べた褒めです!! これは椎名Bランク探索員に敬意を表し、何か二つ名を付けて差しあげましょう! 何が良いでしょうか! ここは敢えて、敵の下柳監察官!』
『確かに、彼女は優秀ですねぇ。うちに欲しいくらいだ。……ザ・器用貧乏とかどうですかねぇ?』
悪口にしか聞こえない。
『手元に資料が届きました! なんと椎名Bランク探索員! データにあるほとんど全ての評価がオールB!! これはまごう事なき器用貧乏!!』
『せめてバイプレーヤーとかにしてあげてもらえませんか』
ザ・器用貧乏。
またの名を椎名クララの活躍で、ここに来てチーム莉子が攻略速度も上回る。
天井に突き刺さった六駆を小鳩が回収して、勢いそのままに次の階層へ。
第8層でもモンスターとの交戦があったものの、煌気総量お化けの莉子が『太刀風』と『豪熱風』の組み合わせで難なく倒して見せる。
莉子は聡明な乙女である。
「これくらいのスキルなら大丈夫だよね!」と事前に計算してから攻撃をしており、実際に彼女の代名詞でもある『苺光閃』は使おうともしない。
硬い敵が現れれば、『太刀風』を『連弾太刀風』に切り替えて戦う。
『苺光閃』を一発放てばそれで済むのに、何と言う気配りだろうか。
南雲はそんな莉子を眺めながら「将来は良いお嫁さんになれるぞ!」とエールを送った。
莉子の強みはどのタイプのアタッカーとも組める汎用性の高さ。
クララと組めば前衛を務め、小鳩と組むときは中距離から援護する。
六駆が妙な罠に引っ掛かる度に相棒としての責務を果たし、芽衣が疲れていないかどうかを逐次確認しながら進む。
まさにリーダーとしての資質を全て備えていた。
チーム莉子は六駆以外の活躍で、1回戦を有利に進めている。
だが、そろそろ何かしたくてウズウズし始めるのがダメなおっさんの習性。
「自分より若い子が張り切っていると、なんだか自分のテンションも上がって来る」とは、おっさんが108持つ必殺技の1つである。
南雲のコーヒーブレイク終了のお知らせが近づいていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
常盤ダンジョン第9層。
ここは防御力に特化したモンスターの巣窟となっていた。
ヤツらは貴重なイドクロアを持つが、その分倒すのにも労力と時間を必要とされる。
攻略速度を取るか、イドクロアと討伐報酬を取るか。
判断するのが難しい局面である。
「どうしよー。ダイヤモンドトプスとかクリスタルタートルとか、すっごく高価なイドクロア持ちのモンスターがいっぱいいるよぉ! でもでも、全部倒してたら追いつかれちゃうよね?」
「山根さんー。今ってどんな感じですかにゃー?」
『はいはい。梅林軍団もぼちぼち第9層に差し掛かるってとこっすね。1匹2匹くらいなら倒しても問題ないんじゃないっすか?』
山根の発案はバランス的に考えても正しい。
だが、そこに待ったをかけるおっさんが1人。
「せっかくこんなにいるんだから、全部倒していきましょう! 勝利条件をここいらで確実なものにしておきたいですからね!!」
「でもでも、六駆くんが戦えないし、わたしも『苺光閃』撃てないし!」
「莉子? バレなきゃ良いんだよ。大丈夫。僕なら上手くやるさ!」
「そっかぁ! さすが六駆くんだよぉ!!」
深刻な六駆おじさんに対する抑止力不足。
彼は殿を務めていた乙女の肩をポンと叩いた。
「さあ、小鳩さん! 僕たちの出番ですよ!」
「えっ、えっ!? わたくし、何させられるんですの!? ……みなさま、どうして黙るんですの!?」
おっさん暗躍のお時間がやって来た。
コメント
1件
217話お疲れ様です〜!クララ先輩がガチぼっち時代の経験値で大活躍しててめっちゃ熱かったです🔥「ザ・器用貧乏」って実況に思わず笑っちゃいましたが、実際はめちゃくちゃ有能じゃないですか!笑 最後の六駆さんの「バレなきゃ良いんだよ」は絶対やらかすフラグですよね…次回どうなるか気になりすぎます!📖✨