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5 - 第四幕:もう星は見られない-#2

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2025年04月06日

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◯ATTENTION◯

・捏造妄想幻覚過多

・グロ表現あり

・Catjam氏がGoogleで公開している小説「Mistakes of the Woodsman」のネタバレあり、気になる方は氏のXの過去ツイートからGoogle driveのリンクがあるのでそこから参照、フォリー関連の内容なので読むのおすめです

・ガバ理解による妄想補完多め

・まだエロなし

前話からの続けなので前話読んでる事前提、大丈夫な方はどうぞ





カロライナは、いや、マッハは目を醒ます。真っ白な病室。外の景色には紅い夕暮れのような、或いは燃えているかのような空が見える。白いベッドの中、麻酔が切れたからか、マッハの身体に痛みがじわじわと襲ってくるがもう慣れた。術後直ぐだというのにぐりぐりと腕を回す。それが機械であると思えぬほど自然に、滑らかに、柔らかな人工皮膚に包まれた義腕は動いていた。「………目が醒めたか、カロライナ」

「……創設者…」

仮面を付けた、長身な自分よりも更に大きな背丈と体格をした、深緑色のシルクハットの男が病室へ入る。自分以外の家族を失い、マッハの血の流れる最後の者となったカロライナを雇用する組織の創設者なる男だ。

ドリーマーと別れてからの20年程度の間。マッハは全てを失い、孤独となり、そしてまた誰かに拾われ使われていた。己の人生全てを支配し、戦争に塗り潰し、いつの日かドリーマーにも褒められた、あの濁り無き青い瞳と鮮やかな絵を描いた腕すら無機質な機械の眼と腕に交換させ、大切だったローラとクレイトも無慈悲にも殺した皇帝なる曽祖父から背く者、背教者となったマッハを雇用したのが例の創設者であった。正確に言えば、何度目かの雇用者であった。

「…これで16回目だぞカロライナ……」

「…すまない、次からは1発で仕留める…」

「それもそうだが…君はもう少し、自分を大切にした方がいい。今日も…君の小さなお友達が心配で押し潰されそうになっていたぞ」

そう言いながら創設者はその手に持っていた林檎の籠を手渡した。並の人間よりも体格の大きい二人にとってはとても小さな果物籠の中の、艶々とした赤い林檎。天涯孤独となっていたマッハにとっては数少ない、親愛なる友のピルビーからの贈り物だ。マッハは受け取った途端、腕を捥ぎ取られボロボロの状態となっていた自分を、包帯を巻かれて浅く呼吸するばかりであった自分の傍で心配に心潰され泣いていたその小さな背を想像し、何とも言えぬ気持ちのままそっと林檎を一つ手に取り齧った。

林檎を齧りながら窓から紅い空を見つめるマッハは思い出す。紅といえば彼女にとっては悲哀の象徴となる色であった。ドリーマーから流れていた紅い血、フォリーの紅い眼、血に染まった二人の身体……マッハの中では悲しみというものはいつも紅く染められていた。

「……あの」

「そういえば…カロライナ、君に頼みたいことがある」

有無を言わせないまま、創設者は傍に挟んでいたファイルをマッハに手渡す。青いファイルの中に入っていたのはエレベーターに乗り込む者達のリスト…所在地やプロフィールなどが書かれていた。

「…何をすればいい?」

「簡単さ、目撃情報を聞きに行ってもらうだけだ」

「何の」

「………“ドリームパラサイト”…紅い目についてだ」

仮面越しで表情は汲み取れぬが、重苦しい雰囲気の中のその言葉に、マッハは表情は変えなかったものの、食べ終わった後の林檎の芯を落としかけ、爪を立てられたかのような微かな痛みを感じる。その言葉を聞いた瞬間に彼女は理解した。フォリーという名となったあの子が、また自分の前に現れるかもしれないであろうことを。

「……いつから、彼女はどこに現れたのですか」

「マカブルシティの刑務所に居る…いや、かつては居た昆虫化した囚人に対する鑑定結果や面談記録を貰ったが、そこに紅い目を持った誰かに夢の中で会っただとか、彼女が友達であるとか言っていたらしくてね…それに、君が眠っている間、あの芋虫君も紅い目が沢山出てくる怖い夢を見たと証言していた」

「……それで、他にも同じような目撃者がいないのか、聞きに行けと」

「そうだ、勿論例の囚人の居場所も突き止めた…修復早々悪いが、頼む」

「…了解した」

マッハはそれだけ言うと直ぐにベッドから出て、いつものあの紫のスーツへと着替えた。綺麗にクリーニングされた衣を見に纏い、ファイルに加えてシルクハットとハンマーを手に取った後、己の私情も、感情も、記憶も全て封じ込め、早速調査に向かった。





「……えっと、詳しく話したらいいの?マッハ」

「ああ、思い出すのも嫌かもしれないが、頼む、聞かせてくれ」

マッハが一番最初に聞き込みに行ったのはやはりピルビーだった。負傷し修復されてから早速仕事に繰り出されたマッハにピルビーは心配をしながらも、小声で話す。

「……そのね、寝てたら、お部屋の壁が影で真っ暗になっちゃって、そこから紅い目がいっぱい出てきて…それで…うぅ…ボクに…ひ、酷いこと言ってきたんだ…ママには2度と会えないって……」

ピルビーは話すだけでも顔色を悪くし、四本の腕を体に巻き付け、涙ぐんでいた。その姿にまたマッハは同情していた。まだまだ幼く心の弱いこの子が、自分もかつて見たあの悍ましく、巨大で、そして、冷たいあの紅い目に耐えられるわけがないと。彼女はそっと、ピルビーの小さな身体を抱き寄せると、優しく頭を撫でた。

「……辛かっただろうが、話してくれてありがとう…大丈夫だ、私が守ってやろう」

「う、うぅ…ありがとう、マッハ……」

母親に縋り付くように胸元に抱き寄せられ涙で濡らすピルビーに、マッハは微かな不安もあったが、見せなかった。この小さな命は、自分でなければ守れぬと、そう強く思った。



次にマッハが向かったのは一軒のアパートの一室であった。インターフォンを押すと、直ぐに一人の少女が出てきたが、マッハを見た途端驚いたような顔をした。地球の者が2mを超える身長に奇怪な高すぎるシルクハットを被り鋭い眼光を放つ瞳の大女に怯えないわけがなかった。

「え、えっと……」

「…あぁ、申し訳ない、お嬢さん…君のお父様とは電話でやり取りしたが…調査員となったマッハだ。君のお父様から話が聞きたくて来たのだが…お父様は何処に?」

「あぁ、貴方がマッハさん…父は、いざその日になると本当に話せないって言ってしまって…だから、私が」

「…そうか…」

「は、入ってください…立ち話もなんでしょう、お茶も出しますね」

そう催促されてマッハは家に入る。部屋の中はよく言えばすっきりとしていて、悪く言えば無機質であった。僅かな家具はどれも金属製やプラスチック製で、出された紅茶の入っているマグカップも無地の陶器であった。また、目をやると小さな引き出しの上に、少し汚れた家族写真と結婚指輪が置かれていた。

「……えっと」

「アリス、だったかな?」

「え、あ、はい…」

「すまない、君のことも調査していたんだ…貴方のお父様が十年前ほどに見た紅い目の怪物について…どうか教えてほしい。勿論、覚えている限りでも良い」

「……は、はい…確か、そう、10年前…私がまだ小さかった頃…私は父と正確には、二人の父と暮らしていました。森の中のキャビンで、3人暮らしで、アスペンの木でいっぱいの森で駆け回ったり、父が切り倒した木から木彫りを幾つも作っていたことも覚えてます」

「……アスペンの木…」

メモを取りながら、マッハはその単語に反応する。

「えぇ、本当に沢山ありました。季節によっては、木の表面がいっぱいの目で覆われてるみたいな時もあって……でも、そこまで怖くなかったんです。あの日までは…」

突然声のトーンを下げ、俯くアリスに、マッハは既に察していた。その後に起きることを。

「…ショックで殆ど覚えていないんですが…確かに、見たんです。白い服を着ていて、お腹に血のついた、大きな女が…片方の父のお腹を引き裂き、胃を千切り取って、そして…目玉もくり抜くと…指輪を、その目の所に、入れたんです…」

ガタガタと震えるアリス、その目線の先の、棚に置かれた指輪に、マッハはメモを取る手を止めそうになった。全てが繋がるように、マッハの頭の中で、あくまでもイメージながらもその凄惨な状況が即座に想起された。

「…それから、今生きている父は…その怪物に復讐すると、躍起になっていたんですが…その、ここは父から聞いた話ですが、私は怪物に眠らされて、殺されそうになって、それで、父は私を助ける為に…怪物と、交渉したのです」

「どんな交渉を」

「……怪物は、自分は森の守護者で、父がアスペンの木を切り倒していたことに怒っていたらしいのです。そこで父は交渉で、復讐を諦めて、今まで作った木彫り全て燃やしてなんとか許してもらって、私も目醒めることができた、らしいのです」

「……そうか」

「…それからは父は木こりをやめて、私と一緒に森のキャビンから出て行って、このアパートに住んでます。父は今はただのサラリーマンで…あの件がトラウマみたいで、木でできたものを置かなくなって、特に、アスペンの木を見る度に震えを起こすようになってました…」

「…話してくれて有難う。非常に…興味深い話だ」

メモを取り終えファイルに戻した後、マッハはすっかり冷めてしまった紅茶を飲み干した。夢の守護者であった彼女のその凶行を、マッハは僅かに信じたくない気持ちがあった。幼き日、優しく抱きしめ受け止めてくれた、あの小さくふっくらとした身体を、クリームパンみたいに可愛らしかった手を、あの仮面越しでもわかる優しい微笑みが、少女を絶望と恐怖へと追いやった怪物の物に変わったなどと信じたくなかった。だが、腹の傷と紅い眼、この二つがマッハにどうしようもなく血濡れた現実を叩き込み、かつての思い出を想起させることすら許さなかった。

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