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黒崎玲司の言葉が頭の中で何度もこだまする。
全てを失う——それがどういう意味なのか、私にはまだ分からない。
でも、このまま何も知らずに「偽物」として生き続けるなんて、絶対に嫌だ。
それがどんなに恐ろしくても、どんなに苦しくても、私は本当の自分を知りたい。
私はゆっくりと立ち上がる。膝が少し震えているけれど、それを見せたくなくて、拳をぎゅっと握った。
「……私は行く。」
玲司は冷ややかに私を見下ろしていた。まるで、次の言葉を待っているかのように。
「私は、本当のことを知りたい。」
「そうか。」
玲司は短く答えると、ゆっくりと歩み寄ってきた。背筋が凍るような感覚に襲われる。
「では、君が“本物”にたどり着けるかどうか……見届けさせてもらおう。」
その言葉の意味を理解する間もなく、玲司はポケットから何かを取り出した。
それは小さな黒いカードだった。
「これは?」
私が恐る恐る受け取ると、玲司は淡々と説明する。
「政府の監視システムから逃れるための偽造IDだ。使えば、しばらくは自由に動ける。」
「……どうして、こんなものを?」
玲司がこんなふうに助けるようなことをするなんて、意外だった。彼は冷酷で合理的なはずなのに。
「君の行動が、実験データとして貴重だからだよ。」
——やっぱり。
私は一瞬、唇を噛んだ。結局、玲司にとって私は「観察対象」に過ぎないんだ。
それでも、今はこれを利用するしかない。
「……ありがとう。」
私はカードを握りしめた。
玲司の思惑が何であれ、今の私には関係ない。
「行くあてはあるのか?」
玲司の問いに、私は息を呑んだ。
行くあて……?そんなもの、あるはずがない。
家に帰る?
——ダメだ。あそこにいる「家族」が本当に家族なのか、今は分からない。
学校へ?
——それもダメ。直哉だって「偽物」かもしれないんだから。
「……まだ分からない。でも、私は行く。」
玲司は軽く肩をすくめる。
「そうか。では、せいぜい頑張ることだな。」
玲司はそれ以上何も言わず、私に背を向けた。
「次に会う時、お前がどうなっているか楽しみだよ、霧島透花。」
彼の冷たい声が、私の耳に焼き付いた。
私は小さく息を吸い込む。
この瞬間から、私は一人になる。
でも、それでいい。
私は私の「本当」を探す。
そう決めたんだから——。
**(3話へ続く)