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1話
「ねぇ、」
「ねぇってば」
聞き慣れた高くもなく低くもない、心地よい声
この声は針坂 恵の声。
この声がウザったらしくて、それでも好きだった。
もう恵は居ない。
可哀想に。あんなに好きだった人にあんな殺され方をした。
猫は死ぬ時期になると飼い主から離れるという。
なんて切なく悲しいんだろう。
大好きな猫が死ぬ時にそばにいれないなんて。
猫なんて顔はみんな一緒で性格や色なんかが違うだけ。
本気で探したって見つかるわけない。
見つかったらもうきっと死んでいる。
そんな切ない猫の死に方が嫌いで、儚くて、なんだか好きだった。
ー4年前ー
僕は恵の事が好きだったんだ。
可愛らしくて元気で、優しくて。
親に嫌いになれって言われたって無茶だった。
「離れないなら殺してやる」
そう母に言われた時は冷や汗が出た。
どうしてそこまで恵を嫌うのだろう。僕から遠ざけようとするのだろうか。
僕は深く考えずに「無理だ。殺してみろよ」
そんな生意気な事を母に言い捨てて家を出ることが日常茶飯事だった。
こんな家に居たいなんて少しも思わなかった。
しかもそれはほぼ毎日のようにある。
なんだか家を出るのがスッキリするのか大好きだった。
だから自ら母のいるリビングに行って、恵に電話をしていた。
母も少しの常識はあるらしく、電話中「やめろ」と言うことは1回も無かった。
「ねぇ、いつ会える?」なんて親にやめろと言われるようなことばっかり話す。
親にカマをかける為にかけた電話
なんだか申し訳ないけどしょうがない
「いつでもいいよー?学校でも会えるでしょ?」
毎晩電話をかけるのに優しく返答してくれる。
面倒くさくなって「そうだねw」って言って電話を切った。
少し強引すぎたかな
電話を切って少ししたら案の定母が注意をしてきた。
「懲りないね。そいつと…針坂 恵と関わるな」
「なんでだよ」キレたような調子で言い返した
「あんたの為に言ってるんだ。そいつを好きになるのは辞めなさい」
「お前に関係ねぇよ」
「離れようとしないならお前を殺してやる」
また言ってきたよ。
「離れない。殺せるなら殺してみろよ」
出来るだけ冷静に。
1回だけ母と僕が叫んでこの会話をした時、近所の人が警察に連絡してしまい、警察がインターホンを押して来たことがある。
それは面倒臭いので避けたい。
「本当に殺していいのかい?お前を殺さなくたって恵って女を殺してしまってもいい」
「最低だ。犯罪者」
そう言って僕は家を飛び出した
雨の少し降った真夜中。
しばらく歩いてふと思ったことがある。
初めて母に「恵を殺したっていい」なんて言われたんだ
信じてはいなかったけど、信じてないわけじゃない。
最近母の精神はおかしくなってる気がする。
僕が部屋にいる時、コップの割れる音がしてリビングに慌てていくと母がコップを掴んで手を振りかざしてコップを割っていた。
「母さんっ。何してるんだっ」
僕は慌てて母の元に駆け寄った。
「六花?六花なのかい?」
母は弱々しくなってまるで別人のような姿で言った。
「そうだよ。六花だよ。母さんの息子」
そう言うと母は落ち着いたのかゆっくりフラフラと歩いて寝室へ向かった。
僕は母の割ったコップの破片を集めて捨てた。
大して痛くはなかったが指に軽い切り傷が出来た
そんなことが増えてきていた。
今の母なら僕や恵を殺すことだって出来るかもしれない。
最悪なことを想像してしまい。冷や汗が止まらなくなった。
今日は帰って荷物を整理しよう。
明日は家を静かに出よう。
そう決意した僕は恵に電話をかけた
「どうしたの?六花からなんて珍しい」
いつもと変わらない明るい声色
すごく安心できる
「実は、家出をしようと思ってて」
「えっ」驚いているようだった
「それでさ、家出してから恵の家で生活させてくれない?」
答えは想像が出来た。きっと答えはNOだろう
そう思っていたから意外な返答が帰ってきた
「いいよ」
「え、いいの?」
「うん。別に」
「だっていつも家に遊びに行きたいって言っても行かせてくれなかったし」
「それは部屋が汚かっただけ。」
「大丈夫だから、安心しておいで」
「う、ん…」
僕は安堵して涙を流した
なんなら今すぐ行きたいくらいだ
そう思ったら
「なんなら今から来る?」
「うん」少し驚きながら答えた
「下着はないけど、大きめの服はあるし」
僕は嬉しくて電話を切らずに恵の元へ向かった
恵の家に着いた
毎回不思議なことがあって、恵の家は毎回真っ黒なカーテンが閉まっている
そんなに家を見せたくないのだろうか
そんなことを考えながらインターホンを鳴らす
「はーい」
「六花です」
「六花ー!待ってたよ」
少しして扉が開いた
なんだか家の中も薄暗い
「入って」
手招きをして家の中に恵は入っていった
僕も「お邪魔します」と言って家の中に入った
「うっ」
家には一瞬間に嫌な匂いがした
血生臭い、ツーンとしたような匂い
「あー、やっぱ分かっちゃう?」
「私の鼻慣れちゃったかもー」
少し笑いながら恵はそう言った
僕は猫…? 【完】