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桜空

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ぬぬ
868
m k .
10
恋は無駄ばかり。いや、恋愛そのものが無駄ばかりだ。
たとえば片想いの場合、好きになった相手のことを想い、なにも手につかなくなる時間がある。
男性の場合、相手の男関係、元カレのことなどを考え、嫉妬する。
女性の場合でも同じ。相手の女性関係、元カノのことなどを考え、嫉妬する。
自分が自分でなくなるような感覚がし、いっそのこと消えてしまえば楽なのに。などと思うこともあるだろう。
タイムパフォーマンス、時間効率が落ちるどころではない。一種の病である。
さらに好きになった相手に振り向いてもらおうと
オシャレに思われるようにオシャレな服を買い、女性ならメイク道具を買いメイクも変える。
コストパフォーマンス、金銭的効率が非常に悪い。
誕生日なんかもそうである。好きな相手の誕生日なんかには誕生日プレゼントを贈る。
好きな相手がなにを好きなのかを考え、友達に聞き
自分の金銭状況から考えられる中で、できるだけ高価で相手が喜ぶものを買う。
タイムパフォーマンス、タイパだけでなく、コストパフォーマンス、コスパも悪い。
さらに両想いになったとしても、一緒にいられない時間
今相手はなにしてるかな。とかを考え、結局電話してくだらないことを話して時間を溶かし
時には喧嘩し、相手のことを想いたいけど想いたくないみたいな意味不明な感情が渦巻いて時間を溶かす。
先程は片想いの場合の誕生日について話したが、彼氏、彼女の誕生日も同じ。
友達とは一線を画したいがために少し高いものをあげたり
そもそも誕生日をサプライズにしたいからといって友達に根回ししたりと時間、お金をかける。
付き合っていた場合、誕生日以外に記念日というものが出てくる。
記念日を忘れたら怒る人もいるので、それが原因で喧嘩が起きたりもする。
さらに記念日もサプライズしようと、少しお高いレストランを予約したり
プレゼントも用意したりと、付き合ってもなおタイパ、コスパが悪い。
よって恋愛は無駄ばかり。
「よってa=4となる。わかった?」
と中学2年生の弟の数学に問題を教える寸田(すだ)七善(ななよし)。
「なるほどね。ありがとうお兄ちゃん」
「ん」
七善は大学2年生。現在の七善は、恋愛を「無駄ばかりのもの」と考えている。
現在、点で恋愛をする気がない七善にも恋愛をしている時期はあった。それは遠い昔の話。
…とは言っても「むかぁ〜しむかし」なんてほどじゃない。それは七善が小学生の頃に遡る。
小学生でも修学旅行や運動会など、イベント毎などで一定の盛り上がりがあった後
恋愛的傾向になったりする。七善の小学校でもそうだった。七善の友達も告白されたり告白したり。
フったフラれたなどの話はあまり聞かず、告白成功したらしいよ。の話しか聞かなかった。
ま、七善が男子だから、フラれたというセンシティブな話は回ってこなかっただけかもしれないが。
小学生の頃の七善は人の恋愛を応援することも、喜ぶこともしていた。
恋愛について「無駄ばかり」なんて思ったこともなかった。
ま、まだ小学生だったからというのもあるだろうが。
七善も仲が良い女の子の友達がいた。その子が朝同明(あさひ)鳴美(なるみ)。
よく笑う子で、笑顔が素敵な子だった。元気が良く、目立つグループの子ではなくて
どちらかといえば大人しめのグループにいる子だった。
七善はどちらかというと元気な、目立つグループの男友達と仲が良かった。
そうなると交わることのなさそうな2人だったが、七善と鳴美は仲良し。
なぜかというと小学校1年生から6年生までずっと同じクラスだったから。
七善の小学校では2年に1回クラス替えが行われる。
なので3回のクラス替えで、3回とも奇跡的に同じクラスとなった。
七善は鳴美のことを、よく笑う気が合う女の子と思っており
特に恋愛感情なんて持っていなかった。のだろう。小学生のときは。たぶん。
小学校を卒業し、中学生になった。七善も鳴美も特に受験などせず、地元の中学に進学した。
地元の中学といっても複数あったが
七善と鳴美は、話し合ってもいないのに同じ中学でまた顔を合わせることになった。
「中学まで同じクラスかよ」
と嫌々そうな感じで言う七善。
「たしかに」
と笑う鳴美。
「よろしくね」
と言う鳴美に、なにか心のなにかが動いたような気がした七善。
「お、おぉ」
しかし、自分では気がついてはいなかった。
時が経ち、仲の良いグループがある程度固定され、体育祭の時期になった。
体育祭本番、鳴美は怪我で席で自分たちのクラスの自分の席で応援しているだけだった。
徒競走。七善はスタート位置に立つ。スタートラインがちょうど七善のクラスの位置で
鳴美が少しつまらなそうな顔をしていたのに気づいた七善。なので七善は
「朝同明」
と声をかけた。鳴美は視線を七善に向ける。
「朝同明のために1位獲ったる」
とおちゃらけ気味にカッコつけて言った。すると鳴美はクスッっと笑って
「うん」
と言った。七善は小学校で元気なグループと仲が良く
休み時間、鬼ごっこやサッカーなどをよくやっていたお陰で普通よりは足が速かった。
さらにライバルを見ると、あからさまに運動が得意ではありません。的なメンバーだったので
余裕だと思った。案の定七善がぶっちぎりでゴールし、宣言通り1位を獲った。鳴美のほうを見ると
「やったね!さすが!」
と笑顔で口パクで言っていた。七善も「ドヤァ〜」と溢れ出るドヤ顔をして、鳴美もそれを見て笑っていた。
体育祭が終わり、打ち上げに。
クラスのメンバーほとんどがファミレスに集まって、わいわいいろいろ話していた。
ファミレスを出て公園に向かった。もちろんファミレスで「時間だから帰るね」と帰った子もいた。
鳴美も帰ったうちの1人だった。公園では「今度遊びに行こう」という話になっていた。
そして後日遊びに行ったその日の夜に鳴美からLIMEでメッセージが来た。
と言っても、七善と鳴美は毎日何気ないメッセージのやり取りをしている。
なのでメッセージが来ること自体は特別なことではないのだが
鳴美「ちょっと聞きたいことあるんだけど、会って話せる?」
内容がいつもとは違うものだった。公園に行くとベンチに鳴美が座っており
「おぉ。どした?」
と聞きながら座ると、鳴美は話しづらそうにしてから、口を開いた。その内容は
「告白された…」
というものだった。しかもその相手が七善と仲の良い子で
その子についてあまり知らないからどういう人なのかを教えてもらいたい。という内容だった。
そのとき七善の心の中が明確に動いた。キュッっと苦しくなった。
深呼吸しないと息がしづらくなって、気づいたら
「やめとけよ」
なんて言葉が出ていた。その男友達は悪いやつじゃないし、むしろ良いやつだった。
「なんで?」
と鳴美に聞かれたが、特に否定する要素がなかったので
「朝同明には合わないと思う」
と漠然とした回答になった。
「…そっか。ありがと。考えてみる」
鳴美は納得したようにそう言った後
「さすがは我が親友」
とクシャっと笑った。そんなこんなでその日は解散となった。
家に戻って寝るとき、天井を見ているとなぜか鳴美の顔が浮かんだ。
小学生からの鳴美との思い出が上映されているようだった。
ずっと朝同明と一緒にいたのはオレで、朝同明の一番近くにいたのもオレ。
中学の中では、確実に朝同明のことを一番知っている。
なんて無意識に思っていた。そんな鳴美が誰かと付き合って
自分の知らない一面を見せるのが嫌だと無意識下に思い始めていた。
その日以降も鳴美に告白した男友達のことを邪険にしたり、態度を変えたりすることはなかった。
しかし鳴美を見る目は変わった。その男友達をどう考えるのか、告白に対して前向きなのか。
もちろんLIMEで聞けば一発なのだが、なぜか聞けなかった。
返答が怖かったし、なにより「なんでそんなこと聞くの?」と聞かれて
どう答えていいかわからなかったから。
結局その七善と仲が良い男友達からの告白は断ったらしく、七善は他の男友達とみんなで慰め会をした。
それで七善の不安が消えるかと思いきや、不安が消えることはなかった。
小学生の頃、鳴美が誰かに告白されたとか聞いたことがなかったが
今回初めてそんな話を聞いて、鳴美は女性的に魅力的なんだと気づき
他にも鳴美に好意を抱く人が出てくるんじゃないか。それが不安だった。
そんな不安を抱えたまま夏休みに突入し
夏休み、鳴美と鳴美の友達と七善と七善の友達、4人でお祭りに行くことになった。
それは鳴美の友達と七善の友達をくっつけるためのもので
その2人を2人だけにしようとすると、自ずと七善は鳴美と2人きりになる。
小学生の頃もお祭りで鳴美と会ったことはあった。
しかし遊ぶグループが違い、偶然会って「おぉ」と挨拶しすれ違う程度だった。
小学校を卒業してたった1年。むしろ半年だけなはずなのに、大人っぽく見え、女性として魅力的に見えた。
いつも通り話しているはずなのに、心臓がドキドキして、七善側はいつも通りではなかった。
お祭りから家に帰ってベッドに寝転がり、天井を見た。胸に手をあてる。
鼓動は収まってはいたが、お祭りのときの鼓動を思い出した。そしてそこで初めて気がついた。
…。あぁ、オレ、朝同明のこと好きなのかもしれない…
と。気持ちに気づいたら、確信に変わるのは早かった。学校でも遠目で鳴美を見て、気持ちがヤキモキしたり
鳴美とのメッセージのやり取りも、いつも通りなはずなのに楽しみに変わって
鳴美からの返信が待ち遠しくなって、鳴美から返信が来ない時間にいろいろ考えるようになってしまった。
返信が来ない時間、もしかしたら鳴美には好きな人がいて
その好きな人とのLIMEを優先しているのかな?とか
今送ったメッセージキモかったかな?とか、いろいろ思って苦しくなったりした。
すぐに告白してもよかったのだが、小学校6年間、そして中学1年間、この鳴美との7年が
告白をしたら一瞬で崩れ去りそうで
鳴美が自分の元から離れていってしまいそうで、怖くて告白できなかった。
しかし中学2年に上がる、春休み、七善は鳴美にLIMEを送った。1年生の体育祭の後
告白されて相手のことを教えてほしいと鳴美に呼び出された公園に来てほしいというメッセージ。
鳴美を待つ七善。
「あ、お待たせー」
と鳴美がいつもの笑顔で歩いてくる。
「おぉ」
と立ち上がる七善。そして
「どうしたの?」
と言いながら座る鳴美に
「…いや…」
いきなりは切り出せない七善。「ん?」という顔をする鳴美に
「…。あっ。ちょっと待ってて」
と言ってコンビニに行って飲み物を2本買って鳴美の元に戻り
「どっちがい?」
と2本差し出す。
「いいの?」
「どっち」
「じゃあミルクティー」
とミルクティーに手を伸ばす鳴美。
「ありがとう」
「ん」
と言いながら座る七善。
「昔からミルクティー好きだよな」
「そお?そんな寸田の前でミルクティー飲む機会なんてあったっけ?」
「いや、まあ。あの小学校の、なんかあったじゃん?見学行くみたいなやつ」
「あぁ。うん、あったね」
「あんときミルクティーだったろ」
「え?…」
斜め上を見て思い出す鳴美。
「…あ。そうだね。でもあのとき水筒だったのに、よくわかったね」
「いや、なんか聞こえた。「ミルクティーちょうだい」みたいなの」
「ちょっとぉ〜。盗み聞きですかぁ〜?」
とジト目で七善を見る鳴美。
「バカか」
と七善が言うとクシャッっと崩れたように笑う鳴美。
そんないつも通りやり取りといつも通りの鳴美を見て決意がぐらつく。
このままいれば、鳴美の一番近くにいられる。
鳴美の自然体の笑顔を見続けられる。このままでいいのかもしれない。
鳴美を好きになってしまった気持ちを伝えずにいれば、擬似彼氏のような状態でいられる。
でももし鳴美に好きな人ができたら?そして好きな人に告白して、それが成功したら?
もし鳴美を好きになった人が現れたら?鳴美に告白して、その告白が成功したら?
鳴美の一番近くにいるのはその彼氏ということになる。
七善が知らない鳴美の一面をその彼氏が知ることになる。それが嫌だった。
自分の知らない誰かと自分の知らないところで笑う鳴美。それが嫌だった。
「あのさ」
七善は切り出した。
「うん?」
いつもの顔で聞く鳴美。七善の心臓これ以上ないほどに高鳴り
緊張で胸辺りがひんやり感じられるほどだった。
「…」
次の言葉が出ない。言葉が詰まる。たった一言ですべてが変わる。
成功したらさほど変わらないだろう。今まで通り親友の延長線上での恋人関係になり
親友じゃなく、恋人にだけ許されたことができるくらい。
しかしもし失敗したら?生活が一変する。鳴美と毎日していたLIMEもなくなる。
今までの関係に戻ることなんてできないだろう。
「オレさ?」
しかし口は覚悟を決めたようで、言葉を発していた。
「朝同明のこと好き、だわ」
口が勝手に発した言葉に、後悔した。もう取り消せない。鳴美は驚いたように
「え?」
と笑い混じりに言う。ほんの少しの間、2人を静けさが包む。ほんの数十秒。
しかし七善は体感、数十分にも感じた。
「えぇ〜…っと」
口を開いたのは鳴美だった。
「それは、どういう意味の?」
鳴美もおそらく気づいていた。わざわざ呼び出しておいて、溜めに溜めて発した言葉だ。
その「好き」がどういう意味かなんてわかっているはずだった。
「…その…。なんてーの?…恋愛、的な、意味で…」
歯切れが悪い言葉を発すると、再び2人を静けさが包んだ。なんとなくわかっていた。
鳴美が「どういう意味の?」という問いや、その問いに答えた後の沈黙。それが答えだった。
しかし中学1年生、2年生の七善も、もしかしたら気づいていたかもしれないが
そんな考えもなく「もしかしたら」に期待し、祈っていた。
「…ありがとう」
鳴美のその言葉に期待した。しかしその「ありがとう」は喜ぶべき「ありがとう」ではなかった。
「寸田の気持ちは嬉しい。…でも私、寸田のこと親友だと思ってて。
男の子でこんなに気が合うの寸田だけだし、…だからごめん。これからも親友同士でいたいかな」
フラれた。鳴美の優しさが逆に辛かった。鳴美は「親友でいたい」と言ってくれた。
鳴美は「一緒にいる」という道を残してくれた。七善はその道にすがった。
しかしその後も鳴美への気持ちは消えることなく、鳴美と男子が楽しそうに話しているのを目撃したら嫉妬し
LIMEで何気なく探りを入れたり、胸は苦しく、収まることはなかった。
中学2年生の夏休み。七善は地元のお祭りに鳴美を誘い、帰りにあの公園に寄って
「あのさ…。オレやっぱり朝同明のこと好きなんだよね。諦められてない…。ごめん」
と告白をした。「やっぱり」みたいな顔で少し俯く鳴美に七善は言葉を続ける。
「前も告白したじゃん?で、朝同明優しいから親友でいる選択肢をくれたじゃん?」
鳴美は顔を上げて七善を見ながら「うんうん」と聞き続ける。
「で、その後も変わらず接してくれたじゃん?だからオレも親友として接しようとしたのね?
鳴美のことを親友として見ようとした。そうすれば朝同明がどっか行っちゃうことなんてないと思ったから。
本音を言うとさ?告白して朝同明と付き合えたとしても、もし、もしね?別れるってことになったとき
朝同明との幸せだった日々がなくなっちゃうのが嫌なのね?
親友でいれば、たとえケンカしたって仲直りすればまたいつも通りに戻れる。
朝同明の笑顔が離れることはない。朝同明との幸せな日々はなくなることはない。
でもね?オレの知らない朝同明がいるってのが嫌なんだ。
誰かと付き合って、オレには知りようもない笑顔の朝同明とか、オレには知りようもない会話とか。
キモい話になるけど、抱きしめた後の朝同明の顔とか。
朝同明は物じゃないってわかってるけど、誰かに取られたくないって思っちゃったんだよね。
ごめんね。だからやっぱり朝同明のこと好きなんだ」
すると鳴美は
「謝んなくていいよ」
と言った後、軽く鼻から息を吐きながら自分の足元に視線を落とした。
湿気が強く、昼間よりは涼しいが、蒸し暑い夏の夜の空気が2人を包む。
「…うん」
鳴美のたった二文字。それがすごく重く感じた。
「ありがとう」
七善はそこですでに察していた。前告白したときも「ありがとう」と言われたが
その後にフラれたのだから、今回もそうなのだろうと。しかしまだその言葉は聞いていない。
なので今回も、もしかしたらあるかもしれないほんの少しの「もしかしたら」に期待した。
「でもごめん」
しかしその言葉が聞こえ、淡い期待は淡いまま、空気にその色を溶かし、消えていった。
その後の鳴美の言葉なんて耳に入らなかった。
1回目の告白の後は、鳴美が元の関係でいるという選択肢をくれたお陰でギリギリ親友という関係に戻れた。
しかし2回目はきっともう元の関係には戻れない。しかしどこかでまだ親友でいて
また好きになって告白して、っていうのを繰り返せるんじゃないか。と思っていた。
そしていずれ告白は成功して。なんて思っていたが、案の定2人は親友関係に戻ることはなかった。
LIME上のメッセージのやり取りも、鳴美はいつも通りの感じにしてくれようとしていた。
七善も、もしかしたら3回目は成功するかもしれない。と思いながら鳴美にいつも通りに返信していた。
しかし鳴美の返信がものすごく遅く感じ、返信が待ち遠しくて待ち遠しくて
何回もスマホの画面をつけては、鳴美からの通知がないかを確認していた。
でもいざ帰ってきたメッセージはどこか素っ気なく感じて
即レス、即返信するのはあまり良くないのはわかってはいたが
すぐに鳴美からの返信がほしくなってすぐ既読をつけて返信をした。
でもやっぱりすぐ返信は来ることはなく、鳴美からの返信が待ち遠しくて
何回もスマホの画面をつけては通知がないかと確認するのが嫌になって、鳴美からの通知をオフにした。
そうすれば返信が来ていたとしても通知にはお知らせが来ないため大丈夫だと思った。
でも男友達とLIMEをするとき、嫌でも鳴美からの通知がないのに気づいてしまう。
そして鳴美から返信が来る待ち時間が徐々に期間が伸びていって、最終的に未読のまま、返信は来なくなった。
中学3年生。修学旅行も過ぎ、受験ムードとなった。七善は鳴美を忘れるために勉強に打ち込んだ。
そもそも元気でワイワイ系の男友達と仲が良かった七善。
なので勉強をあまりしてこなかったし、好きじゃなかったが
好きじゃない、楽しくないものをして、苦しむことで、少しでも鳴美との楽しかった記憶を消そうとした。
学力は上がっていったが、勉強に打ち込むのが遅かったため
頭が良いで有名な、偏差値の高い高校には入れなかった。
高校に入った七善は3年間、勉強と部活に打ち込んだ。
小さい頃から勉強をしていた子には勝てないので、勉強だけに打ち込む選択はせず
体を動かすことが好きだった七善はバドミントン部に所属した。
あまり好きではない勉強のストレスをバドで発散した。
勉強にも部活にも打ち込んで、鳴美のと違う高校へ進み、鳴美のことなんて忘れていた。
そのはずだった。だが、ある日眠りについたら夢に鳴美が出てきた。
夢の中の鳴美はいつものように笑っていた。すぐ側に、手を伸ばせば触れられる距離にいた。
夢の内容はなんてことないものだった。告白が成功したとか、手を繋ぐとかキスをするとかそんなんではない。
ただただ笑顔で話しているだけ。
それでも七善の心臓は高鳴っていて、起きたときにも心臓は高鳴ったままで、苦しくて
でもどこか嬉しくて、でも夢にまで見る自分が嫌で、どこか悲しくなって。
夢はその後も何回か見た。しかしその度、忘れようと勉強と部活に打ち込んだ。
そんな中、七善に想いを寄せる子が出てきた。真面目な子で、鳴美よりも静かだが、鳴美に似た雰囲気だった。
七善とは仲が良いほうで、頭が良い面と部活に熱心に打ち込む姿に好きになったらしい。
その友達が七善の友達に七善に探りを入れてほしいと言われて
放課後、ファストフード店で七善の男友達が七善に探りを入れてきた。
「七善さー。今好きな人とかいるー?」
ポテトを食べながら聞いてくる友達に
「いや?」
と素っ気なく答える七善。
「へえぇ〜。そうなんか。じゃあタイプは?芸能人で言うと誰?」
「ない」
「ない?」
「タイプとか考えるのも無駄だなって」
「は?じゃあ恋するときどーすんだよ。芸能人見てて可愛いなとかは思うだろ?さすがに」
「ま、可愛いとかは思うけど、そもそもオレ恋愛とかするだけ無駄だなって思ってるから」
「は?」
「タイパもコスパも悪い。なんの意味があんの?なんにも自分のためにならないじゃん。
わざわざ自分の金を他人に使ってさ?付き合えるかもわかんないのに。
特に今、学生のオレたちは使えるお金は限られてるのに、それを他人に使うって。
見返りがあるわけでも、投資と違って増えて返ってくるわけでもないのに。
付き合えたとしても付き合えなかったとしてもコストの無駄。
で相手に振り回されて、貴重な限られた時間を削る。
人生100年としても1日24時間、1年だと…8,760時間。つまり人生はたったの876,000時間しかないんだよ?
1日の睡眠時間を7時間と仮定すると、…17の、300…。17の60…、102…。
85…、5、0、2…6,205の100でしょ?…620,500時間。使える時間はたったこれだけ。
それなのにそんな貴重な時間を、他人のことを考えて、他人に振り回されて過ごすなんて余裕で時間の無駄」
「はあ。つか暗算はやっ。でも恋愛こそ青春の醍醐味じゃん?大人になってから振り返るのよ。
あぁ〜、あの子のこと好きな高校時代だったなぁ〜って」
「それがなんの意味があんの?この先の人生においてなんの糧になる?
その分、部活の道具に金使ったり、ゲーム買ったり
体動かしたり本読んだり勉強したほうが、余裕で将来のためになる。
恋愛なんていずれ無くなるもの。それなら無くなりづらい友情に金と時間使ったほうがいい」
「おいおい。最高か?」
というのを七善に想いを寄せる子の友達に伝えたところ
七善へ想いを寄せていた子は、告白することなく七善を諦め
七善は恋愛する気がないという話が女子の間を回りに回って、その後七善に想いを寄せる子はいなくなった。
勉強と部活に打ち込んでいたらいつの間にか受験シーズン。
普段から勉強をしていた七善だが、輪をかけて勉強した。
かと言って頭のいい大学に行くつもりはなかった。担任の先生にも
「寸田の成績ならここも狙えるぞ?」
などと言われたが、七善は普通クラスの大学での成績優秀者の特典、学費免除を狙っていた。
そして狙い通り、受かった大学の授業料の免除の対象となった。授業料免除の特典は初年度だけであり
一定の成績を維持し続けることで、2年3年4年と授業料が免除になる可能性がある。
小中と割と元気で目立つ男友達が多かった七善。大学でも普通に友達ができた。
大学の講義の取り方、シラバスをネットで見る方法などなど
いろいろな説明を大きなホールで聞いているとき、横にいた2人と仲良くなったのだ。
しかし頭のいい人ばかりが集まる大学とは違い、至って普通の大学なため
大学入ったら遊ぶぞー。という生徒が多く、その2人もそのタイプだった。
同じ選択科目の講義を取っても、最初のほうは来たけど、段々遅刻欠席が多くなり
せっかく成績において出席率を重視する講義だったのに、来なくなって落としたり。
そして特に大学生らしいことはせず、勉強とサークルでのバドミントンをしていたら大学2年生になった。
2年生は1年生よりも遊ぶ人が多いとされている。
「ヤバい。1年の必修ほぼ落とした」
と言う桃島野(とうの)瞬豹(チーター)。嘘みたいな名前だが本名である。
ミルクティー色の髪で涙ぼくろがある、少しセクシーな印象のチャラ男である。
「そりゃーチーターが講義来ないからだろ」
と言うのは白髪で、インナーカラーが黄色の是砂(これずな)愛音(あお)。
ピアスが多めで特徴的なファッションをしているファッションアイコンである。
そう、この七善とは相交えそうもない2人こそが、七善が大学で仲良くなった2人である。
「愛音は意外と来てるよね」
と言う七善。
「あぁ。オレ真面目やねん!」
と胸をポンッっと叩く愛音。
「どこがだよ」
とツッコむ瞬豹。
「チーターにはツッコまれたくないわぁ〜。七善からのツッコミを期待してたわぁ〜」
「逆になんで愛音はそんなちゃんと講義出てるわけ?そんなオレよりチャラい見た目で」
「え?だって出席するだけでテストの点もらえんだぞ?出ないほうがバカだろ」
と言う愛音に
「それはそう」
と言う七善。
「同意すんなー」
「七善、2年の講義でいい講義ない?出席率重視するタイプのやつ」
「あぁ〜…」
と話していると
「…あれ?寸田?」
と女性の声で呼ばれた。そちらに視線を向けると
「あ、やっぱそうだ。ひさしぶり」
清楚系の黒髪の女性がいた。
「…あ、…さひ?」
それは鳴美だった。
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おお、第1話おつかれさま! 恋愛を「無駄」と割り切った七善の過去が、中学生の頃の切ない片思いから来てるのがじっくり描かれてて、すごく引き込まれたわ。体育祭の「1位獲ったる」からのフラれ、2回目の告白の重さ、その後の距離感と忘れようともがく感じがリアルで胸がギュッとなった。大学で再会するところで終わったから、この先どうなるか気になって仕方ない! 続き楽しみにしてる🔥