テラーノベル
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「九条!!」
シュトルムクラータへ帰ると、俺を出迎えてくれたのはニールセン公。
あれだけの事があったにもかかわらずニールセン公以外顔を出さないのは、しっかりと外出制限を掛けている為だろう。
「あー……。すいません。ちょっとした手違いで砦が消し飛んでしまいました……」
正直自分でもとんでもないことを口走っているなと思う。どんな手違いだよと……。
「何を言う。砦なぞ後から再建すればよい。それよりも僅か数人で数千の軍を撃退したのだ。これは快挙な事だぞ!? ノルディックでさえこのような芸当、出来はすまい」
「はぁ……」
ニールセン公は素直に喜んでくれているようだが、俺の心はそう穏やかではなかった。
「ネストさんとレナは?」
「大丈夫。砦の事はアンカース卿から聞いた。レナも誰にも見つからない場所で保護している。後はヴィルヘルムの奴を吊るし上げるだけだ。何時にする? こちらは何時でも大丈夫だぞ!?」
鼻息も荒く得意気な表情を浮かべるニールセン公。息子の晴れ舞台を汚した罪を償わせてやると息巻くその姿は、俺には早くしてくれと急かしているようにも見えた。
「では、確認したいこともありますので後日……」
ここまで来れば後は消化試合。予定通りレナを暗殺した刺客をよみがえらせ、事の真相を喋らせるだけ。
ニールセン公の逸る気持ちもわかるのだが、ひとまず休憩がしたかった。
久しぶりの全力ダッシュはこの世界に来た直後。ウルフに追われた時以来だろうか……。
2日後にくる筋肉痛はミアに癒してもらうとしても、寄る年波には勝てないのである。
「おかえりなさい。おにーちゃん!」
自分に宛がわれていた部屋に戻ると、元気よく出迎えてくれたのはミアとカガリ。
「ただいま……」
こちらも笑顔を返したかったのだが、そんな気力も湧かないほどに疲れていた。肉体的にも、精神的にもである。
「大丈夫?」
「ああ。全力疾走したからちょっと疲れてるだけだ。それよりもミアは大丈夫だったか? 第2王女に何かされたりしてないか?」
「大丈夫。みんなちゃんと外出制限守ってたから特に変わったこともなかったよ」
「そうか」
ミアの頭を撫でながらも部屋の窓から見えているのは、巨大なクレーター。出来れば夢であって欲しかったが、現実はそう甘くない。
この部屋からも見えるということは、俺とバルザックの一部始終を見ている者がいたかもしれない。あの衝撃波の中、窓際に立ち尽くしていた者がいるとは思えないが、可能性はゼロではないのだ。
俺はそんな不安に駆られながらも、ベッドにゴロリと寝転び仰向けになる。
「バレた時の言い訳も考えておかないとなぁ……」
「死霊術の話? だったら大丈夫だよ。おにーちゃんはそんな悪い使い方はしないもん」
ベッドによじ登ったミアは俺の隣に寝そべると、屈託のない笑顔を浮かべた。それはまるで喉を鳴らす猫のように愛らしい。
それだけ俺の事を信じてくれているのだろうと思うと、ミアには頭が上がらない。
「ああ。もちろんそうなんだが……」
一応の相槌は打ったものの、そう簡単な話ではないだろう。
禁呪とされている魔法がどれだけあるのかは定かではないが、教会からのお触れであるということは、それは宗教上の戒律なのだ。
使い方の問題ではない。良い行いであれば許されるなどという生易しいものではなく、遵守すべき規則。
宗教内だけの話であれば問題はないが、信者以外にも強要してくるから|性質《たち》が悪い。
いわゆる魔女狩りである。疑わしきは罰せよ。それが正義の行いであると信じて疑わないが故に、聞く耳を持たない。
今風に言うなら、デジタル署名を理解しようとせず紙媒体に印鑑を押すよう強要してくる老害上司――といったところか。
とは言え、暗い顔をしていてはミアに無用な心配を掛けてしまいかねないと、すぐに話題を逸らした。
「そういえば、ザラから預かった物は?」
「あっ! そうだった。ちょっと待ってて」
サッと起き上がったミアがベッドから降りるとすぐにその下へと潜り込み、お尻を出してゴソゴソと何かを漁り始めた。
「カガリ!」
暫くするとミアがカガリを呼び、それに応えるかのようにカガリがミアの足首を咥え、ずるずるとミアを引き摺り出す。
「はい、コレ」
少々埃っぽくなったミアから手渡されたのは、何者かの頭蓋骨。
親族や知人の物ならまだしも、普通の子供なら触る事すら躊躇し見るのも嫌だと怖がりそうなものだが、ミアにはそんな様子も見られない。今更ながらに慣れとは恐ろしいものである。
もちろんそれは自分にも言えることだ。その頭蓋骨がまだ新しいものであるとわかってしまっているのだから。
「ありがとう。ザラは他に何か言ってたか?」
「えっと、使った後は返してほしいんだって。コレクションにするからって……」
「えぇ……」
ドン引きだ。頭蓋骨の収集癖があるのだろうか? いや、自分が手に掛けた者達だけ……という可能性もある。
思い当たる節がないこともない。ゲオルグに抱えられながらも後生大事に持っていた生首……。あれもコレクションに加える為だとしたら……。
「正直言ってあまり良い趣味ではないな……」
「そうかな? おにーちゃんも骨集めてるよね?」
「ゔ……」
ミアの言葉にコクコクと頷くカガリ。
確かにそうなのだが、俺はコレクションの為に集めているわけじゃない。死霊術にとって骨は大事な触媒となる物。お金と一緒で、あって困る事はないのだ。
「趣味や道楽じゃないのは知ってるだろう?」
「えへへ……」
いたずらっぽく笑うミアに安堵の溜息をつく。そんなくだらない掛け合いが俺を癒し、いつもの日常へと引き戻してくれる。
内に溜めたわだかまりも、万年の悩みも、忘却の彼方へと吹き飛ばす。それは一服の清涼剤であり、俺の原動力でもあるのだ。
「後どれくらいで帰れるかな?」
「どうだろうな……。シルトフリューゲルの軍が早めに動いてくれたおかげで婚約公示期間が終わるより前にヴィルヘルムを捕らえることが出来るはず……。もちろん相手の軍の動きには今後も予断を許さないが、予定通り結婚式が終わると同時に帰路に就けるとは思うぞ?」
「そっか……」
途端に元気をなくすミア。それも当然だろう。俺といることによって色々と面倒なことに巻き込まれていれば、子供とは言え心労も溜まるというものだ。
「部屋にずっと閉じこもってるのも疲れるからな。帰りたいなら結婚式は欠席でも……」
「ううん。違うの。村が襲われてるかもしれないんでしょ? みんな大丈夫かなって……」
「ああ。そのことなら心配いらない。108番が現状を教えてくれたが、村の人達は全員ダンジョンへと避難できたみたいだ」
「ホント!?」
「ああ。それと大人しくしておけと言ったにも拘らず、フードルが迎え撃ちに出たとも聞いた。……俺にはそっちの方が心配だよ……」
フードルと村人達との邂逅は想定外だが、無用な衝突が起きることもなく打ち解けてくれたのなら不幸中の幸いだ。
「魔族のフードルさんが負けるとは思えないけど……」
「まぁ、そうなんだがな……」
村を守ろうとしてくれるフードルの気持ちは大変ありがたいのだが、村と魔族が癒着しているなどという噂が流れないよう上手く対処してくれることを期待するしかない。
108番の話によると、フードルはエーテルの余剰分が入った牛乳缶を持ち出したらしい。
それは御猪口1杯程度の量でも、瀕死の状態から動き回れるまでに回復するほどの効果がある代物だ。
魔力が全快でなくともプラチナプレートの|魔術師《ウィザード》相手に同等……。いや、それ以上にやり合える実力の持ち主が、魔力を無制限に補給出来るのだから、その結果は目に見えている。
好きなだけ飲んでいいと言った手前、今更口を出すのもおかしな話ではあるが、俺はコット村がフェルス砦のように跡形もなく吹き飛んでしまわないかを憂慮していたのである。
月城 蓮桜音
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花月夜れん
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こはる
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コメント
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しめさばさん、お疲れさまですー!第416話、読ませていただきました🥀 九条が無事に帰ってきて、ホッとしました……。ニールセン公が「砦なぞ後から再建すればよい」って笑い飛ばすの、かっこよすぎません?🙏 しかもミアとの掛け合いが、あの重たい展開の後の清涼剤になってて、胸がじんわり温かくなりました。頭蓋骨コレクションの話で「趣味や道楽じゃない」って言い返すところ、なんかもう九条らしくて好きです(笑) 日常が戻ってきている感じが、読んでいてすごく心地よかったです。次も楽しみにしてますね🌙