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「ルカスさん!!」
ウルシュラが相当怒っている。
不機嫌のようなそうでないような、考えに沈んでいる感じだ。おそらく冴眼のことだろうな。
「ご、ごめ……」
「凄いじゃないですか!!」
「……?」
説教でもされるかと思っていたのに褒められた?
「帝国の宮廷魔術師はみんな同じ強さって聞いてました。でもルカスさんは別物じゃないですか! ねえ、ナビナもそう思うよね?」
「ルカス、最強」
ウルシュラも興奮しているが、ナビナも小さく腕を上げて喜んでいる。
宮廷魔術師の強さに個人差はあれど、賢者のような特別職を除けば強さに大差はない。比べるとすれば、せいぜい態度がいいか悪いかの違いくらいだ。
しかしさっきの力は魔術師としての力というより――。
「ウルシュラ、ナビナ。俺は宮廷から追放された宮廷魔術師なんだ」
「つ、追放ですか!?」
「……?」
「でも今はそうじゃなくて、男たちを消した強さはきっとこの目のおかげ――」
ウルシュラとナビナが俺の目を見つめてくる。
「宝石の瞳ですよね? 今は何ともなってないみたいですけど」
「さっき、輝いてた」
またか。力を使う時は光り輝いて、そうじゃない時は戻るなんて。
どういうことなんだろうか?
「俺が勝手に名付けたけど、この目……冴眼《ごがん》は呪いの宝石から生まれた力だと思う」
「冴眼ですか? よく分からないですけど感情の昂《たかぶ》りがそうさせるのかもですね!」
「感情……君らを助けたい一心だった。その力が働いたのかな」
力を込めたつもりもなく、単純に睨んだだけだったが。
「ルカス、さっきの人間……死んじゃった?」
「え? どうかな」
連中を消した時、魔法を使う時のように魔力を込めたわけでは無かった。
「そうですよね。気づいたら消えちゃってたので、そんな感じでは無さそうです」
「あいつらをどうにか追い払いたいって思っていただけだからね……」
「じゃあ無自覚の力ってことじゃないですか! でもその力をルカスさんご自身が自覚して使えるようになったら、きっと最強の冒険者ですね!」
「ルカス最強」
――などと二人は俺を全く怖がっていない。おそらく最初に癒しの力の効果を受けたおかげだろう。
帝都門を抜けた俺たちはゴブリンの縄張りを避けながらサゾン高地を抜ける。セルド村に到着した時はすっかり夜になっていた。
「ようやく着きましたね!」
「ナビナは寝ちゃったけどね。ウルシュラもお疲れ」
途中までは平地が多かったが、村に近付くにつれて高低差が激しくなった。そうなるとナビナには厳しすぎるということで、俺が途中でおんぶすることに。
「いえいえ。ナビナの面倒を見てくれてありがとうございます!」
セルド村に着いたものの、辺りはすっかり暗く通行する村人の姿も無い。
「暗くなったけど、どうしようか? 目の前にあるのは宿かな?」
村にも色々あるが、入口を塞ぐように家が建っているのは初めてだ。
ここは冒険者の先輩でもあるウルシュラに任せても良さそうだ。
「宿じゃないですけど、そこに行きましょう!」
「え? 宿じゃない?」
「実は目的地は目の前の建物だったんですよ~!」
信じていいのか?
不安を覚えながら、目の前の建物に入ることにした。
「いらっしゃい。そろそろ来ると思ってたところだったわ! あら?」
「こんばんは、アーテル! お世話になりに来ました」
「ウルシュラ、この人とエルフの子は?」
ウルシュラの古くから付き合いのある店といったところか。棚の上には所狭しと瓶詰の草木や液体、獣の皮といった物が並べられている。足元には見えたのは伐採向けの鎌、それから木の棒など。
作ることを得意としているウルシュラのことだ、この店はおそらく雑貨屋だろう。店主はウルシュラと同様に妙齢な女性だが、一人で切り盛りしてる感じか。
「この人はルカスさんです! 後ろの子はナビナ。私のえーと……冒険者仲間です!」
冒険を始めてないからまだ何とも言えないが、そう言っておくのが分かりやすい。
「初めまして。俺はルカスと言います」
俺の自己紹介に対し、女性は俺の瞳の奥を覗き込むように見つめてくる。
もしかして知らずに冴眼を光らせていたか?
「……あなたは普通の人間? 魔力を感じるということは魔術師だろうけど、それ以外にも強力なものが感じられるわね。それと、銀髪エルフの子ども……ふぅん?」
そう言いながら女性はナビナにも目を光らせている。
「アーテルさん、その辺にしてください~」
ナビナのことはあまり調べられたくないのか、ウルシュラが割って入ってきた。
「それもそうね。せっかくウルシュラが客を連れて来たし。久しぶりにベッドの部屋を開けるわ」
宿では無さそうだが、何でも屋といった感じだろうか。ナビナが後ろでぐっすり眠っているし、お言葉に甘えて俺も休ませてもらおう。