【お願い】
こちらはirxsのnmmn作品(青桃)となります
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ご本人様方とは一切関係ありません
5周年おめでとうございます!
ワパレでリクエストいただいた、「桃さんか青さんが弱みを見せるような話」を5周年記念に合わせて書いてみました。
疲れたときとか心が折れかけたとき、泣いたり分かりやすく慰めたりするような関係よりもこういうのが青桃さんっぽいよねって思ってます。
「逃がさない 強い力 どうしたの」
昔から、「聞き上手」と評されることが多かった。
小中高校生くらいの頃は、同級生の友人から。
周りより少し大人びたところがあったせいか、愚痴や悩みを聞く側に回ることが多かった。
大学生・社会人になると年齢は関係なくなった。
年上でも仲良くなった先輩ならこちらを頼ってくれることが増えていった。
人の話を聞くのは苦ではないし、自分が返した言葉で相手の気分が晴れるならこんなに嬉しいことはない。
元々「甘え」キャラに見られがちではあるけれど、本質では人に甘えることは不得手だ。
だから甘えてもらう立場でいる方が楽だったし、自分はそちら側の人間だと信じて疑わなかった。
グループ結成当初から、子供組(特にほとけ)が何らかの壁に直面した時にはこちらから声をかけることが多かった。
それが自分の役割のようなものだとも思っていた。
今となっては、あにきですら何かがあったときは「俺にだけ」と胸の内を明かしてくれることもある。
それが素直に嬉しいと思う反面、少し寂しい気持ちに駆られることがあるなんて言ったら贅沢だろうか。
こうして周りに頼られることが増えた自分だけど、「本当に頼ってほしい」人は頼ってくれない。
…いや、頼ってくれないと言ったら少し違うか。
業務的には右腕を名乗れるほど傍にいるし、きちんと支えることができていると自負する面もある。
だけどあいつは…ないこは、自他共に認めるメンタル強者だ。
「まろ、これ手伝ってくれる?」「ここどうしたらいいと思う?」そんな風に意見を求めて頼ってくれることはあっても、それは他の皆のような「弱さ」を見せて頼ってくれるのとは違う。
「まろにはずっと支えてもらってる」「まろと2人だから乗り越えられたこともある」周年や誕生日なんかの記念日にはそう言ってくれることがあるくせに、その実、辛い時に弱音を吐いて全身で寄りかかってくれるようなことはまずない。
それが少し寂しいなんて思うのは、自分のわがままなのかもしれない。
「ねぇー、聞いてる!?」
考えごとをしていた俺の耳に刺すような声が降り注ぎ、ハッと我に返って顔を上げた。
目の前の相手は不満そうに唇を歪めている。
「…あ、ごめん。なんやっけ」
苦笑い気味に言うと、相手は「もー」なんて言いながらもさっきと同じ話を繰り返した。
大学時代の先輩で、今でも仲良くしている人だ。
たまに会ってはこうして旦那の愚痴を聞かされることもある。
俺の隣では俺と同い年の男友達も、相槌を打ちながら居酒屋のつまみを箸で突いている。
「それでさぁその時にさぁ」
続く話に耳を傾けていると、手元のスマホが通知で光ったことに気づいた。
「ごめん、仕事の連絡」と謝って席を立ったけれど、2人は気にする様子もなく会話を続けている。
本当は電話でもないので席を外すまで必要はなかった。
だけど何となく店の隅へ移動して、アプリを開き今届いたばかりのメッセージを確認する。
「仕事」と言ったのもあながち嘘ではない。相手はないこだ。
こんな時間の急な連絡は、もう付き合って大分経つ恋人同士のものというよりも、業務的なものの方が多い。
そう思ったけれど、開いたアプリに届いていたメッセージを見て俺は目を瞠った。
『まろ、今何してる?』
この時間なら自宅でキーボードを高速で鳴らしているだろうないこからのそんなメッセージ。
本当なら1分1秒も惜しいくらいだろうから、これは仕事で何かあったんだろうか。
「今大学時代の友達と先輩と酒飲んどる。言わんかったっけ」
友人と言えどないこの知らない関係の人たちに会うから、事前にその情報は入れておいたはず。
そう返した俺の手元に、少しの間の後またメッセージが届いた。
『うわ、そうじゃん。ごめん邪魔した』
「別に大丈夫やけど、なんかあった?仕事でトラブルとか…」
『いや、ちょっと聞きたいことあっただけで急ぎじゃないから明日でいいや。ごめん』
飲み会楽しんで、なんて言葉で締めくくられ、それきりスマホは静かになった。
「…ないこ…?」
なんだろう、何もおかしいところなんてないのに少しだけ覚えた違和感。
それに首を捻りながら、ぽつりと呟きが漏れた。
それぞれが終電を逃さないよう、日付が変わる少し前に解散することになった。
先輩に至ってはまだ愚痴り足りなかったのか、「あんた途中でちょっと上の空だったから今度また近いうちに呼び出すからね」なんて指さして息巻いてきた。
「はいはい」とこれまた苦笑い気味に応じて、2人と別れる。
そのまま自宅の方へと向かう電車に乗り込んだけれど、その目的の一駅手前で降りた。
迷うことなく歩き慣れた道を進む。
程なくして目の前に現れたマンションのエントランスで、自分の家ではないのに持っている鍵で解錠した。
重厚なガラスのドアがウィンと音を立てて開く。
エレベーターで目的の階へ赴き、一番奥の部屋へと進む。
さっき使ったばかりの鍵で今度は玄関の扉を開いた。
隙間からは足元を照らすように室内の照明が漏れこぼれてくる。
家主はまだ起きているらしい。
「あれ、まろじゃん」
作業部屋ではなくリビングのテーブルで仕事をしていたらしいないこは、急に姿を見せた俺に少しだけ目を丸くした。
それでもきっと、俺なら来ると思う気持ちもあったのかもしれない。
少しだけ申し訳なさそうに眉を下げて苦笑する。
「ごめんごめん、完全に飲み会ってこと忘れてメッセージ送っちゃって」
「いやそれは別にいいんやけど…聞きたいことってなに? なんか取引先とトラブルでもあった?」
持っていた鞄をその辺りへ放り投げ、着ていたスーツの上は脱いで手近の椅子にかける。
その俺の一連の動作を眺めていたないこは、返事をせず一瞬だけ口を噤んだ。
「……ないこ?」
「ないよ、なんも。聞きたいことあるっていうのも、嘘だから」
そのほんの少しの間と、その言葉で「…あぁ」と思い当たった。
これはきっと、「何か」はあったに違いない。
だけど俺にそれを話すつもりはないんだろう。
普通の人間なら心が折れかけて病みそうになっている状況なのかもしれない。
それでもメンタル強者のないこは、その状況下でも弱音を吐くことはない。俺に対しても。
もっと胸の内を全部曝け出し、寄り掛かって頼ってくれていいのに。
そう思う心があるのも本当だ。
だけど事情を話すつもりもないないこが俺を呼び出そうとした、その事実だけで胸がいっぱいになっている自分にも気がついてしまった。
寄りかかるつもりも助けを求めるつもりもなくても、それでも俺に傍にいてほしいとないこ自身が願った結果だと想像できたからだ。
そこでタイミングよく、ないこがセットしていただろう風呂が沸いたことを知らせる機械音声が室内に響く。
「ないこ、風呂行こ。髪洗ったる」
ネクタイを片手で緩めながら言うと、ないこは「えーえっちじゃん。髪だけで済む?」と揶揄するように言った。
だけどその笑顔も、いつもよりどことなく憂いを秘めている気がした。
強い力でピンク色の頭をがしがしと洗うと、「いたいいたい」とげらげら笑いながらないこが抗議してきた。
上からシャワーで泡を洗い流すときには、ないこの抱えている重苦しい気持ちが一緒に消え去ってしまえるならどれだけいいかなんて思ってしまう。
湯船に浸かると、後ろ側になった俺にないこはもたれかかるようにして全身を預けてきた。
濡れてオールバックのように後ろに流した前髪。
全開になった額のせいか、斜め後ろからでもいつもより表情がわかりやすく感じる。
目を閉じ眉根を寄せて、時折思案にふけるように黙り込む。
その間俺は口を開くこともなく、入浴剤で白く濁った湯の中、ないこの腰を抱くようにして回した手に力をこめた。
「…楽しかった?飲み会」
やがて口を開いたないこは、やはり自分の心情を吐露しようとはしない。
ただの世間話でもするかのように、こちらに話の矛先を向けてくる。
「うん、結局ほとんどいつもの愚痴やったけど」
「先輩女だっけ?旦那さんの愚痴が多いっていう」
「そう。女の人って不思議よな。あんだけ愚痴っとっても、最終的にはいつの間にか惚気に変わんねん」
続けて言うと、ないこは「あはは」と声を上げて笑った。
「それはまろともう1人の友達の相槌がうまいんだろうね」
「まぁ、『聞き上手のまろ』って昔から言われてますからねぇ」
他愛ないこととは言えないこが笑ってくれたのが嬉しくて、更に軽くふざけて口にする。
だけど俺の意に反して、ないこはふっと笑みを消してしまった。
さっきまでの物思いに耽っているときのように苦い表情に戻る。
「『聞き上手』ねぇ…まろのこと『聞き上手』なんて思ったことないわ」
「…え?」
昔から、周りに言われ続けてきた言葉。
「聞き上手」「頼りになる」…自分のアイデンティティのようだと疑わなかった言葉だ。
「どっちかって言うと『待ち上手』とか『見守り上手』とかじゃない?」
ないこの腰に回していた俺の手の上に、あいつは自分のそれを重ねてきた。
「俺に何かあったなって時、まろは『どうしたの』なんて聞いてこないじゃん。黙って肩貸して、俺が話し出すかもっかい歩き出すまで待っててくれるじゃん」
今の自分の状況を口にしているんだろう。言って、ないこは俺の肩に後頭部を預けた。
「それがどれだけ救いになってるかなんて、お前は知らないんだろうけど」
…あぁ、それは知らなかったかもしれない。
他人に「話を聞いてくれてありがとう」「まろにアドバイスもらえて救われた」そう言ってもらえることは純粋に嬉しくて、自分の存在してもいい「証明」のようなものだと思っていたから。
いるだけで…傍にいて頭を預け合うだけでいい、なんて言ってもらったことはなかった。
それこそが自分の本当の存在意義だとでも言うように。……きっと、救われたのは俺の方だ。
「…ないこ」
呼びかけながら湯の中から出した手で、後ろからないこの肩を抱く。
今度は自分がないこの肩口に後ろから額を押し当てる形になった。
「ありがとう」
ぽつりと呟くと、ないこが「お前が言うの?俺じゃない?」なんて、今度は本当におかしそうに笑った。
心が折れそうな時、その事情を全てオープンにして一緒に乗り越えられたらそれは素晴らしいことなのかもしれない。
それでも、それでも俺なら…いや、「俺たち」なら、辛い気持ちを共有はしながらも隣にいるだけで一緒に戦っていける気がする。
そしてきっと、自分たちにはその方が似合っているんだろう。
そこに言葉なんてものがなくても。
きっとこの先、この5年間があっという間だったと思わされるくらいにはずっと長く一緒にいるはずだ。
この手を離すつもりもないし、もう一生逃がさない。
そう思って自分の胸への誓いのように、キスをしようと後ろからないこの顔を覗き込む。
だけど肩越しに振り返ったあいつの方が、奪うように自分の唇を俺のそれに強く強く押し当ててきた。
コメント
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5周年ほんとにめでたいですね! 弱音とか青さんに言ってください桃さん‥ 今回の話も心に残りまくる作品でした!青さんと桃さんだからこそ作り出せれる世界?雰囲気がとても読んでいて心に来ます! 今回もいいお話をありがとうございます!