第5話 本当の事
楽がスケッチブックを取り出して絵を描き初めて、どのくらい時間が過ぎたのだろう。
先ほどまで、青空だった空が茜色になりつつある。
ミノル「楽、そろそろ、下校時間過ぎちゃうから、一緒に帰えらないか?」
ミノルが楽に声をかける。
楽「もう?」
楽が不思議そうに言う。
ミノル「そうだよ」
ミノルが楽に優しく言う。
楽「じゃあ、みっちー、時間かかりそうだから、先に帰ってて」
どうやら、楽がまだ帰るつもりがないらしい。
すると、ミノルが、
ミノル「やだよ。俺、楽と一緒に帰りたいもん。」
楽「えぇ〜?(笑)」
楽が笑いながら
楽「仕方ない( ˇωˇ )一緒に着いて行ってあげよう」
スケッチブックをしまった。
ミノル「じゃあ行こう」
ミノルが屋上の階段を下りる。
ミノル「それで、なんの絵を描いてるんだ?」
静かな教室を通り過ぎていく。
ミノルがスケッチブックに目を移す。
楽「えぇ、それは、内緒かなぁ」
ミノルは頭にはてなマークが浮かぶ
ミノル「なんでだよ(笑)」
楽「まぁ俺にとって、大切なものかな」
楽が指を唇にたてる。
ミノル「それじゃあさ、完成したらみせてくれよ?」
楽「完成したらね」
そんな事を話しているうちに、学校の校門に着いた。
ミノル「じゃあとりあえず、今日は公園でもよってく?」
ミノルが、校門を出た。
すると、急に、楽の足が止まった。
ミノル「どうしたんだよ?楽?」
ミノルが楽を呼ぶ。
楽「ごめん、みっちー、俺、そっちには行けない」
楽が一歩下がる。
ミノル「ハァ?楽何言ってるんだよ?早くこっち来い」
ミノルが楽の腕を引っ張った。
楽「……ごめん」
楽がミノルの腕を振りほどいた。
ミノル「……楽?」
ミノルが楽を見る。
楽「…みっちー…行けないんだよ、俺、……」
ミノルが今まで見たことないような、悲しい顔を楽はした。
楽「俺はそっちには行けない」
ミノル「なんでだよ?なんで行けないんだ?」
ミノルが困惑しながら楽に聞く。
楽「俺、学校の外には行けないんだよ」
ミノル「は?」
楽が言っている事がミノルには分からなかった。
楽「俺は幽霊だからね、なんとなく感覚で分かっちゃたんだ」
門を見た時、俺は分かった。
門を俺はこえられない。
こえては行けない。
ミノル「楽それって、」
ミノルがなにかを言おうとする。
楽がミノルがなにか言う前に先に喋る。
聞いたら、ダメな気がした。
「みっちー、あんまり、俺に優しくしちゃダメだよ?」
ミノルと居ると思い出してしまう。
もう叶わなくなった願いを
心の奥にしまった願いを
もう、とっくに、諦めてしまった願いを
「だって、俺には、もう、」
何度願っただろうか
何度夢見ただろうか
叶うはずの無い願いを
本当はずっと、ずっと分かっていた。
俺の未練はなんなのか
「未来なんて、無いんだから」
そう未来なんて無い
もう未来などないのに、
何故だろう、心の奥で、諦め無い自分がいる。
俺の未練は、
楽「少し、話し過ぎたね、忘れて。
みっちー、ごめんね」
楽が悲しそうに謝った。
こんな楽を、楽の弱い所を、俺は見たことがなかった。
だから、
ミノル「なぁ楽、」
なにかを言わなくては、と思った。
けど、
楽「じゃあ、みっちー、バイバイ~(*‘▽’*)またねー明日ちゃんと学校きてよ?」
楽が笑う。
楽「じゃあ見送るね」
いつもの笑顔。
ミノル「見送るって?」
楽「背中見えなくなるまで、ここで手を振ってる」
今まで、
なんどもなんどもなんども見てきた笑顔。
ミノル「なんだよそれ、」
楽「なんとなく元気出るでしょ」
前に居た楽は、
今喋っている楽は、
それはいつもの適当な楽だった。
ミノル「…楽」
ミノルが小さい子に言うみたいに、楽を呼ぶ。
ほんの一瞬、楽が今まで、完璧に被り続けてきた仮面が、はがれ落ちた。
泣いている男の子がそこに居る気がした。
でもすぐいつもの楽に戻って、
楽「なぁに?」
優しい声が響いた
ミノル「楽。俺、俺さ、…」
言葉が詰まる。
なんとなく今、この言葉を言ってはいけない気がした。
ミノル「やっぱ、なんでもない」
ミノルが言う。
楽「今日変だねみっちー」
楽が困ったように笑う
ミノル「……」
ミノルは帰りながら、複雑な気持ちになった。
楽がゆるゆる両手でてを振っている。
1回だけ、手を振り返してあとは振り返らない。
そうしないと泣いてしまいそうだから
楽はミノルの後ろ姿を見ながら、手をゆるゆるふる。
ずっとずっとずっと
どこかでわかっていたはずなのに
俺の未練は、絵じゃない
ミノルの隣じゃなくていい、
隣じゃなくていいから、
近くでいいから、ミノルと一緒に歩きたかった。
コメント
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今回は長めなので、楽の挿し絵が1枚入っています