第六話 描きたかったモノ
1人屋上での夜の星空は悲しいほどに輝いていた。
そんな中、楽はスケッチブックに筆を走らせていた
楽(朝まで時間があるし、俺が見てる空でも描くか)
空に泳ぐ魚がさっきまでのモノと種類が違う。
その中でも、クジラがやはり目立つ
楽「君が俺の絵の主人公かな?」
楽がクジラの下書きをはじめる。
クジラが俺に笑いかけた気がした。
ふと、筆を止めた。
楽「俺、どうしたらいいのかな」
言葉が、分かるはずないのに、クジラに聞く。
俺は、クジラでもいいから、誰かに聞きいて欲しかった。
楽「俺の夢、もう叶わないのに、」
あのまま、ミノルと門を出ていたら、俺は、
跡形もなく、消えていた
楽「ずっとずっとずっと分かっていたはずなのに。」
叶うはずないと、
心の奥にしまった願いを、思い出してしまった。
楽「あ〜あ、あのまま忘れてればよかったのに」
楽は苦しそうに笑った。
すると、クジラが、なにかを察したように、
クジラ「でも、君にとって、それをは、その願いは、忘れてはいけないとても大切な事だろう?」
穏やかな声で、クジラが喋った。
楽「え?喋っ?!」
楽はわけが分からなかった。
クジラが喋った。
クジラ「ああしゃべれるよ、私はごく普通に」
クジラは当たり前だと、言わんばかりに言った。
楽「えっと、」
楽は、聞きたいことがいっぱいあった。
クジラ「そんな事より、今、誰かに聞いて欲しい事があるんだろう?私で良ければ聞く。そのために私はいるのだから」
クジラが泳いで、こちらに来た。
クジラはまるで、俺の心を読むみたいに。
何かが、壊れる音がした。
そうだ俺は誰かに聞いて欲しい。
でも、ミノルには、言えない事。
けど、今くらい
“楽,, を演じなくてもいいんじゃないか。
楽はもう、仮面を被るのをやめた。
楽「………」
言葉が出てこない。
でも、
いつからだろう、溜まっていたものが溢れ出した。
楽「ずっと、俺、分かってた、俺の未練は、もう、叶う事はなくなったって、でも、やっぱり、」
頭で理解しても、心が追いつかない。
楽「……諦めてくれないんだよ」
髪をぐしゃぐしゃにする。
楽「俺にとって、幸せだの、嬉しいだの、」
楽「そんな感情は、」
楽「そんな気持ちは、」
楽「俺は、耐えられないんだ、辛すぎるんだよ」
楽しいと感じるたびに、
幸せだと感じるたびに、
ミノルに本音を言えない自分が嫌だった。
楽「きっと、俺は、自分を一番信じてない」
静かな沈黙が流れる
クジラ「……私にとって、楽は、想像豊かで、めんどくさがり屋だったりする」
クジラの穏やかな声が響く。
クジラ「でも、友達思いで、紙飛行機が好きで、」
クジラ「本当は、誰よりも、優しいのだから」
クジラが楽を自分の背中に乗せた。
クジラ「誰にだって、出来ない事はある」
クジラ「無理しなくてもいい、少しずつでいい、だから、まずは自分を、信じてもいいじゃないか?」
美しい星空が、屋上よりも、近い星空は、いっそうに、輝いていた。
楽「っ、!……」
気づいたら、泣いていた。
クジラ「諦めたくないんだろう、諦めなくてもいいじゃないか。願いを諦める事は今じゃなくても、遅くはないだろう?」
楽「……!」
誰かに一番言って欲しかった言葉。
クジラ「私にも、大切な事があるように、君にとっても大切な諦めたくない事があるだろう」
楽「そうだね」
楽はいつのまにか、屋上に戻っていた。
楽「ありがとう。クジラさん」
楽は気持ちが落ち着いていた。
クジラ「礼には及ばないさ」
クジラは自分の役目は終わったかのように、白い光になって消えた。
夜空が暖かい光に包まれる。
その時、楽は
自分が何を描きたかったのか、わかった気がした。
楽「あぁ、そうか俺が描きたかったのは、」
楽はもう、泣いていなかった。
クジラの空の絵の近くに、あるものを書き足した。
楽「俺にとって、ーーーーーーー」
1人の夜空は暖かく、俺を見守ってくれている気がした。
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次は楽が、幽霊になる前の話です