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第二話《サ・ヨ・ナ・ラ日常♡》
裕也は出勤していると… 不思議な物を見つけた。
「あら…何かしら?」
それは球体で どこか高そな血のように紅い《宝石》だった。
装飾などなく、 ただただ宝石だけが裸で置かれている。しかし何故か… 素人でも宝石だと思えるほどの《オーラ》と言うべきような物がソレには纏わりついていた。
そして…彼はジロジロとソレを…眺め初めた。
そして彼も自身の外見のせいで周りに見られた。
人目が募る中…彼は慣れているので気にせずその宝石を眺める。…大きさは…手の平サイズだろうか?
「あら…高そうね〜♡」
彼は貧乏だ。
それなのに…彼はわざわざ化粧品等で金がかさむ廃れたオネエバーで働いている。
何故かは彼しか知らない…
金が無いならもっと良い仕事を見つければ就けるくらいの能力は彼に備わってはいる。
けど…何故か辞めないのだ。
だからこそ彼は涎を垂らした。
「この宝石を質屋に売れば…高く売れるわ!」
彼もこんな外見だが…勿論…人だ。
当然… 欲もある。… だから彼はコレを質屋に売った時の想像をした。
普段買えない…化粧品…食べ物…ドレスが買える。
一目でそうわかるほど…思ってしまうほど…ソレには引き込まれる《 何か》があった。
「あら!いけない!駄目よ!アタシ! 」
しかし…彼は人目がある事を思い出し… それと共に良心も戻ってきた。
こんな高そうな物だ…
きっと大切なものだろう…持ち主が探している。
幸い彼も《大切》な物を失う痛みはよく知っていた。
だから…彼は交番に行くことに決意した。
そして…彼は一瞬でも欲を出した自分を激しくビンタする。
「アタシは悪い子!?アタシは悪い子♡」
通行人たちは突然の奇声に驚き全員が彼を注目し…彼をヤバイ奴だと理解し逃げるように散った。
「ああっ〜♡気持ちいい♡」
彼は…狂っているのだ。
彼は自分を殴り興奮していた。程よい痛みは彼にとって…《好きな物》だったのだ。
「ふうっ…ふうっ…」
彼は荒い呼吸を繰り返す。
「なな姉…あれな…」小さい少女が彼を指差した。
すぐに姉らしき人物が走りよってくる。
「結月!駄目!見ちゃ駄目!…」 そう言って姉らしい人物は少女の手を引いて走り出した。
彼はハッとした。
「あら♡イケナイ♡人前でやっちゃったわ♡
彼はそう言って舌を出し頭をコツンと叩いた。
また《発症》してしまった…彼は少し暗い顔をする。
やがて荒い息を整えてペコリと周りにお辞儀をして足早にその場を去り物陰に向かった。
彼は再びゆっくりゆっくりと息を吸う。
まだ少し興奮は胸の中で渦巻くが…少し落着いてきた。
彼はため息をつき交番に向かった。
「おまわりさん♡落とし物♡ひろーってあげま…」
彼は気を取り直す為に歌を歌いながら歩く。
その不気味な化粧…ガタイのいい体に張り付く…深紅の煌びやかなドレス… そして同じく紅いハイヒールを履きながら歩く姿はまさしく《異質》だった。
ふと…彼はまたハッとした。
「やべええ!?遅刻よ♡遅刻〜♡」
彼は慌ててスマホを取り出しバーに連絡をしようとした。
しかし…背後から突然… グサッと何かに刺された。
生暖かい血が噴き出し…ドレスをより暗く深く紅く染め上げる。
「ッカハ…な…に…」
彼は痛みに倒れ込み、転がる様に振り返ると痩せ細った知らない男がいた。
「幸せそうにしやがって!クソ!クソ!」
突然ナイフで刺されたのだ。
刺してきた男は容赦なく倒れ込んだ彼の腹部に蹴りをいれてきた。
「いっ!…い…貴方…誰…」
彼と男に面識はなかった。それなのに彼は刺されたのだ。激しい痛みと混乱のせいで立ち上がれずにいると…男はピタッと動きを止めた。
「俺…俺は…誰でも…いいだろ!」
その言葉に彼はより戸惑った。
(もしかしたら…知らずの内に酷い…事をしたのかしら…それに…なんだか…悲しそうな顔…)
彼は狂っている。
こんな状況で痛みに驚きながらも…そっと立ち上がり…あろうことか男を心配し始めた。
「…誰かしら…忘れて…たらごめんね……謝るから…落ち着いて…」
彼が動くたびより血が溢れ出る。
「ヒ…化け物!死ね!死ね!」
男は立ち上がった彼に怯えナイフを一気に引き抜き何度も刺して抜いてを繰り返した。
「ッ…やめて…こんな痛み…《好き》じゃな…い…わ…」
…やがて…彼の背中の傷は横腹へと広がり…内臓が零れ出る。
「化け物!化け物!」
刺してきた男はそれしか言わない。
「あッら…酷い…紳士なら…レディーにそん…な…こ…と…言っちゃ駄目…」
彼はそう言い刺されながらも男を抱きしめた。
「ヒッ!…離れろ!離れろよ!」
男は激しくナイフを刺して引き抜き振り回した。それでも彼はそっと男の背中に手を回して離れない。
「…大丈…夫…こういう時は…ゆっくり息を吸うの…」
しかし男は聞かず暴れる。
「離れろ!離れろ!」
彼はそれでも男をなだめ続けたけた。まるで母の様に優しく優しく大きな胸で包み込み続けた。
やがて男は諦めたのか…抵抗をやめた。
「ほら…ゆっ…くり…」
男は言葉に従いゆっくりゆっくりと息を吸う。
「落ち…いた…で…しょ」
すると男は小刻みに震え始めた。
「なんで…こんな…」男の目には何故か涙が浮かび始めている。
「なん…でも…何…も…ないわ…ただ…貴方が…気になっただけ…」
男は震え続けついには泣き出した。「ッ…俺…俺…誰にも…見られてない気がして…」
「ふふ…それだけで…私を…刺したの…?」 彼は優しく優しく男の背中を、寝つけなかった子を母が寝かしつける様にさすり続けた。
男はコクンと頷いた。どうやら…本当に面識がないらしい。
「…悪い…子ね…」
しかし彼は愛おしむように優しく男の背中を撫で続ける。
「…許すわ…いい…のよ…」
男は驚いたように顔をあげた。「…えっ?…」
彼はほぼ…掠れ聞こえなくなってきた声を絞り出しす。
「…た…だ…もう…こういう事…しちゃ…駄目…わかった?」
刺した男は驚いたように目を丸くしている。そんな中で彼は限界が来た。崩れ落ちる様に男の背中を撫でる手が止まり…地面の紅い水溜りに倒れ込んだ。
「…あっ…あ…俺は…俺は…なんで…」
男は震えだし慌ててしゃがみ込み彼を抱き起こした。
既に彼の瞳孔は開ききっていた。
「なんで…やだ…一人はやだ…起きろ…起きて…」男は自分勝手に泣き始めスマホを取り出し救急車に連絡を入れ始めた。
そんな中でもどんどん彼は冷たくなり男から温もりが消えていった。
「やだ…ごめん…ごめんなさい……おいてかないで…」男は何故か後悔し必至に止血を始めた。
内臓を拾い集め無駄にも必至に彼の冷えきった体に詰める。
そして…男は落ちている内臓に張り付く紅い宝石に気づかずに…彼の体に押し込んだ。
押し込まれた紅い宝石が何故か不思議と輝いた。
しかし…それに気づける人は此処にいない。
享年36歳…
こうして呆気ない最期で…
鈴木裕也は死亡した。
それは彼の平凡と日常が終わる合図でもあった。