テラーノベル
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8/|/aB(旧アイビー)
7,015
ムー
30
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午後二十三時の天井は、やけに白くて冷たかった。
枕元に放り出されたスマホの画面が、通知の光で明滅する。暗闇の中で浮かび上がるのは、誰かの何気ない称賛か、あるいは見覚えのない悪意か。どちらでもよかった。その光が網膜に焼き付くたび、自分の輪郭が少しずつ削ぎ落とされていくような気がした。
配信の時間が近づく。準備をしなければならない。笑い声を響かせ、理不尽なマロを華麗にさばき、いつもの調子で毒を吐く。それが求められている「剣持刀也」だ。鏡の前に立てば、制服の着こなしも、整えられた髪も、完璧に虚構の「僕」を作り上げている。誰もが羨むような、輝かしい十六歳のバーチャル高校生。
けれど、衣装をまとったその人形のなかには、空っぽの虚無しか詰まっていなかった。
「……何やってるんだろ」
呟いた声は、部屋の静寂に吸い込まれて消えた。
誰かに必要とされるために、愛されるために、言葉を紡ぎ続ける。画面の向こうのリスナーが「元気をもらった」と言ってくれるたび、本当の自分と、作り上げられた偶像の乖離が広がっていく。本当の自分なんて、最初からどこにもいないのかもしれない。すべてはただの消費財で、いつか飽きられ、忘れ去られるための道化芝居だ。
胸の奥が鉛のように重く沈み、息を吸うのも億劫になる。それでも、喉のつかえを無理やり飲み込み、配信卓の電源を入れた。
「は~い、ということで、お待たせ致しました。〜……」
作り笑いを乗せた声が、マイクを通じて部屋に響く。モニターの向こうには、待っていましたと言わばかりに流れるコメントの嵐。その熱狂のなかに身を投じれば、しばらくの間だけは、自分が生きているような錯覚に浸ることができる。
痛みを抱えたまま、彼は今日も笑顔で、誰かのための夜を彩っていく。終わりなき舞台の幕が、再び重たく上がった。
コメント
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うわ……めちゃくちゃ刺さる話でした。バーチャル高校生として完璧な笑顔を演じる裏で、“本当の自分なんて最初からどこにもいない”って感覚、読んでて胸がぎゅっとなりました。鏡の前に立つたび虚構が完成していく描写、そして配信開始の「作り笑いを乗せた声」——そのギャップの描き方が巧みで。ただのアイドル賛美じゃなく、消費される痛みをちゃんと書いてあるのが好きです。続き、どう転ぶんだろう。