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いつもクソみたいな日常。

そんな中で一生生きていくんだと思ってた俺を、なんてこともないように救ってしまったイザナは、俺にとってもうヒーローであった。



「おい!いるのは分かってんだよ!!さっさとこのドア開けろや!!」

この三日間だけで数え切れないくらい聞いた、多分借金の取り立て屋であろう若い男の声。かつて父だった男の唯一の置き土産だ。

このゴミと借金で溢れかえっている家にいるのは今すぐにでも死にそうな五歳のガキ、つまり俺だけだ。

母親は一週間以上帰って来ないので、もう別の男でもひっかけているんだと思う。

八月の蝉が鳴きわめいてうるさいこの時期に、子供を水道の通っていない家に放置していくのはおかしいと思う。いや、まず子供を置いていくのがおかしい。

そんな思考に耽っているうちに、木製の安っぽいドアがいとも簡単に壊れた音がした。おい、それ五年間俺の家の防犯面的な安全を守ってくれてたんだぞ。まぁ、もう意味がないけどな。


「おい!あの男は何処だ!早く吐けよ!クソッ、なんで俺が今日に限って…!」

先ほどまでの威勢はどこやら、最早悲鳴に近い声でけたましく俺の胸ぐらを掴んで父の所在を聞いてくる男。知らなねぇよ、むしろ俺が知りたいんだよ。と言い返す気力もなく、そろそろ本気で意識が飛びそうになってきた。こんなとこで死んだらヤベェ、そんなこと分かっているのに身体が言うことを聞かない。

「こンのガキ、いい加減ーーー」

男が俺がしらを切って黙り込んでいると勘違いしたのであろう、本気で吐かせようとして拳を振り上げた時「死ぬってこんな感じなのか」とスローモーションになった世界にまるで他人事のように扱う俺の脳裏に浮かんできたのは、俺が引っ越す前に仲良くなったタケミチという男の名前だった。

あぁ、死ぬ前にもう一回、あいつに会いたかったなと思い、目をぎゅっと瞑った。しかし、何も起きなかったのを不審に思い、俺は恐る恐る目を開けた。


すると、男はいかにも「アッ終わった」といった風に顔がわかりやすく青ざめていて、むしろもう悟りの境地に入ったと言った感じだった。

俺は何が起こったのか分からず、ただ呆然としていたら後ろから静かに、そして低い声が響いてきた。


「遅い。」

そのとき俺が見たのは、無駄に顔がキレイで、無駄にまつ毛が長いヤクザ(多分)だった。



「すみません、黒川さん!

このガキが中々吐かなかって…」

男がわかりやすく腰が低くなった。

ちょっと笑える。


「ハ?この家にはもうこのガキ以外いねぇならもう用はないだろ。このガキがあの親父の場所知ってると思ってんのか?逆にお前が父親ならご丁寧に捨ててくガキに自分の居場所教えんのか?」


新しく出てきた偉そうなヤクザは喋り方まで偉そうで理不尽だった。


「オレ、これは17時までに終わらせてこいって言ったよな?オマエ、お使いも出来ねぇのかよ?」

偉そうなヤクザはこれまでの取り立て屋とは異質であると俺は直感した。

まず普通に雰囲気が怖い。人殺すのが日常ですみたいな顔してるし。あと歩き方がやばい。静かすぎる。ゾルディック家かよ。


俺がそうボーッとしてる間にも、若い男と偉そうなヤクザの会話は進んでいて、「じゃ、オマエクビな。もう顔見たくねーから失せろ。」と部下であったのだろう男にそんな言い方…と思ったのか若い男は生きて逃げられて幸せ!といった感じに腰抜状態のまま死にかけの蝉のように足をバタつかせて出て行った。なんでお前ヤクザの下っ端なんてやってんだよ…


「さて。」

偉そうなヤクザがくるっとこっちを向いた。

そして、どうすっかな、わざわざオレが出向く案件でもなかっただろコレとかブツブツ呟きながらこっちに向かってきた。


「…なぁ」

ビビっていたようで思ったように声が出ず、ヒュ、と喉が鳴る音だけがした。それが返事だと思ったらしく、「一応聞いとくけど、オマエのとーちゃん、どこ?」

「あ、あとついでにかーちゃんも」


俺は、悩んだ。

あいつらはもう家族でもなく、居場所も知らなかったから、俺は「家族なんて、いない」と言った。


ヤクザは目を見開き、黙っていたので

「殺すなら、殺せ。でもあの男のせいでお前に殺されるのも嫌だ」と言ってやった。これはずっと思ってたことだ。あんな男のせいでなんで死ななくちゃいけないんだよ。

このことを言ったら、緊張と一人の寂しさからか、涙が出てきた。こういう人間って殺す前のヤツが泣いたりしたら興奮すんだっけ…と半ば殺される前提で考えていたら、予想外のことを言われた。


「ふーん…ならオレんとこ来る?」

涙もどっかに行き、素っ頓狂な「は?」という声を出してしまった。

このとき、断っておけば良かったのかもしれないが、また俺は1人になりたくなかったから、夏の熱に冒されたように頷いてしまった。



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