テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ブラネロ
⚠️
ネロに少し強引です。泣いてます
ボスの独占欲が爆発してます。
あらすじ
夜の魔法舎。
人静かに過ごそうとするネロの前に、ブラッドリー現れる。
強引に距離を詰め、逃げようとするネロを追い詰めるブラッド。
「嫌だ」と叫んでも、涙を流しても、ブラッドの腕は決して離れない。
拒絶も恐怖も、彼にとっては甘い挑発にすぎない。
逃げ場のない夜、ネロは抗うことを諦め、ブラッドの腕の中で揺れる心を押し隠す――。
これは、一方的な執着と抗えない恋が交錯する、二人だけの物語。
夜更けの魔法舎。
人の気配が薄れ、酒の匂いだけが濃く残っていた。
ネロはカウンターの隅に腰を下ろし、氷の溶ける音に耳を澄ませていた。
――これ以上、近づけさせたくない。
そう思っているのに、どうしてか、気配が近づいてくると分かってしまう。
「……見つけた」
低く笑う声。
振り返る前に、背後から影が伸びて、逃げ道を塞いでいた。
「……ブラッド」
「やっと呼んでくれたな」
いつもの軽い調子。だが耳に触れるだけで心臓が跳ねる。
ネロは咄嗟に顔を背け、グラスを持つ指先に力を込めた。
「……またかよ。俺は話すことなんかない」
「へぇ。だったら、俺の話を聞くだけでいい」
距離を詰める気配。
息を飲む。心臓が早鐘を打つ。落ち着け、と自分に言い聞かせても、鼓動は裏切るばかりだ。
「やめろ。俺は、そういう相手にはならない」
「そういう相手って、なんだよ」
「……誰とも、そういうのは――」
言い切る前に、顎を掴まれる。視線を逸らすことさえ奪われた。
「誰とも? ……でもお前、俺のことは呼んだろ。“ブラッド”って」
心臓を突き刺すような一言。
ただの愛称なのに、口にした瞬間から胸が苦しい。
避けたいのに、遠ざけたいのに、どうしてか名前だけは唇から零れてしまう。
「……それとこれとは違う」
「違わねぇよ。俺にとっちゃ、お前の声ひとつで十分だ」
瞳を覗き込まれる。
熱に溶けそうで、苦しくて、視線を外したい。
でも、外せない。外させてもらえない。
――逃げろ。ここで立ち止まったら、呑み込まれる。
心の奥で必死に警鐘が鳴っているのに、身体は凍りついたままだ。
「……ブラッド、しつこい」
「おう。俺はお前が逃げる限り、何度でも追う」
吐息が触れた瞬間、全身に電流が走った。
嫌悪じゃない。恐怖でもない。
けれど、認めてしまえば戻れなくなる。
だからネロは唇を強く噛みしめ、ただ震える指先を隠すように拳を握り締めた。
「……もういいだろ、ブラッド」
ネロはかすれた声でそう言った。喉の奥に力を込めて、揺れる心臓を押し殺す。
「俺はお前に応える気なんてない。しつこくしても、意味ないんだよ」
精一杯の拒絶。
けれどブラッドリーは眉一つ動かさず、むしろ楽しげに目を細める。
「意味ない? それはお前が勝手に決めただけだろ」
「俺は……誰とも深い関係になんて、ならない」
「“ならない”じゃなくて、“なれない”んだろ?」
図星を突かれたように、心臓が跳ねた。
ネロは反射的に視線を逸らし、壁を押して身体を引き離そうとした。だがブラッドがすかさず腕を掴む。
「放せ……っ!」
「嫌だね。逃げ口上はもう聞き飽きた」
ぐっと引き寄せられ、胸と胸が触れ合う距離まで迫られる。
温度が伝わってくる。逃げたいのに、身体が言うことをきかない。
「……俺は本気じゃない」
「なら、なんでそんな必死に拒むんだよ」
「……!」
息が詰まる。
否定の言葉が喉まで出かかるのに、吐き出す前に唇を塞がれそうな気配があって、声が凍りつく。
――追い詰められた。
どれだけ拒絶を並べても、ブラッドは怯まない。むしろ楽しげにネロの反応を観察している。
「突き放したいなら、もっと本気で俺を殴ってみろよ」
「そんなこと、できるわけないだろ」
「だろ? だから無駄なんだよ」
笑みとともに耳元へ囁きが落ちる。
その声音は甘くも鋭く、ネロの理性を容赦なく抉っていった。
「俺からは、逃げられねぇ」
心臓が軋むように痛い。
それでも――もう突き放す言葉は見つからなかった。
「……もうやめろ、ブラッド」
ネロの声は震えていた。必死に拒絶の言葉を吐き出すのに、掠れて弱々しい。
「やめろ? お前、さっきからそれしか言ってねぇな」
ブラッドの笑いは低く、熱を帯びていた。
「本当に嫌なら、もっと力を込めろ。殴れ。叫べ。俺を突き飛ばせ。それをしねぇのは――」
掴まれた手首に力がこもり、逃げ場を奪う。
「――俺を拒みきれねぇからだろ」
「違う……! 俺は――」
反論は最後まで言えなかった。
次の瞬間、肩を押さえつけられ、冷たい壁に背を叩きつけられていたからだ。
痛みよりも、近すぎる熱に呼吸が奪われる。
「っ……ブラッド!」
「逃げんじゃねぇ」
片手で両腕を頭上に押さえ込まれる。
まるで獲物を捕らえた獣のように、ブラッドの視線が真っ直ぐに貫いてくる。
ネロは唇を噛みしめた。
身体が震えるのは恐怖なのか、それとも別の感情なのか。
分からない。ただ、彼の吐息が触れるたび、理性が薄れていく。
「……やめろって、言ってるのに」
「やめる気なんか、最初からねぇ」
囁きと同時に、頬に指先が這う。
強引に顎を持ち上げられ、逃げ場のない角度に固定される。
「俺は欲しいもんは奪う。……お前も、その一つだ」
熱を帯びた声が耳朶を灼き、次の瞬間、唇が強引に塞がれた。
――あぁ、もう突き放せない
ネロの頭の奥で、必死の抵抗と、どうしようもない感情がぶつかり合い、音を立てて崩れていった。
壁際で唇を奪われた瞬間、ネロは反射的に身をよじった。
だが押さえつけられた両腕はびくともしない。
抵抗すればするほど、ブラッドの掌は強く食い込み、逃げ場を塞いでいく。
「ん……っ、やめ……っ」
声にならない拒絶。
それすらも飲み込むように、唇はさらに深く重ねられた。
熱と息遣いが混ざり、理性の輪郭が溶けていく。
ようやく解放された時、ネロの胸は乱暴に上下していた。
「……はぁ、は……ブラッド、やめろって……」
かすれた声で懇願するのに、ブラッドは笑う。
「やめるわけねぇだろ。こんなに震えてんのに」
彼の腕がするりと動き、頭上から解放されたと思った瞬間、今度は腰を強く抱き寄せられる。
背中を引き寄せられ、胸板に押し潰されるように閉じ込められる。
「っ……!」
「逃げらんねぇように、もっと近くに閉じ込めてやる」
耳元に低い声が落ちる。
抱き寄せる力は容赦なく、ネロの身体から抵抗の余地を奪い去っていく。
「……苦しい」
「そうか? 俺は心地いいけどな」
首筋に熱い吐息が触れ、背筋がびくりと跳ねる。
押し殺したはずの感情が、じわりと胸の奥を侵食していく。
――突き放したいのに。
――抗いたいのに。
それでも、腕の中に絡め取られる感覚から抜け出せなかった。
「ブラッド……」
名前を呼ぶ声は、拒絶ではなく震えに濡れていた。
ブラッドは満足げに口元を吊り上げ、さらに腕を強く回した。
「もう観念しろよ。お前はもう、俺から離れられねぇ」
ネロの胸の奥で、最後の抵抗が静かに崩れ落ちていった。
抱きすくめられたまま、ネロは必死に息を整えようとした。
心臓は痛いほどに跳ね、喉の奥が焼けるように熱い。
「……っ、ブラッド……もう、本当に……嫌だ……」
震える声とともに、瞳から涙が零れる。
それは抵抗の最後の証のように、頬を濡らして落ちていった。
ブラッドの腕の中で必死に首を振るネロを見て、彼は一瞬だけ黙り込む。
だがその沈黙は憐れみではなく、むしろ愉悦を孕んでいた。
「……泣き顔まで、俺に見せてくれるのかよ」
指先が頬をなぞり、涙の筋を辿る。
ネロは肩を強張らせて顔を背けるが、顎を掴まれて再び正面へと向けさせられる。
「“嫌だ”って言葉も、泣き声も……俺には甘い音にしか聞こえねぇ」
「ちが……っ、俺は本気で……」
「分かってるよ。本気で拒んでんだろ? でもな――」
ブラッドは低く笑い、額をネロの額に押し当てた。
吐息が触れ合い、互いの鼓動が交じり合う距離。
「その本気の拒絶すら、俺には心地いい。
お前が俺を突き放そうとするたび、ますます手放せなくなる」
ネロの胸が大きく震える。
必死に振りほどこうとするが、強い腕に絡め取られて逃げられない。
涙は止まらず、頬を伝ってブラッドの指に落ちていく。
「……やめろ……俺は……壊れる……」
「壊してやるよ。俺のためにな」
その言葉と同時に、ブラッドは再びネロの唇を奪った。
涙の味と震える吐息を、すべて甘さとして呑み込みながら――。
涙を啜りながら、ネロは震える声で抗おうとした。
「……もう、やめてくれ……ブラッド……」
か細いその声は、もはや怒りでも拒絶でもなかった。
ただ縋るような弱さだけが、ブラッドの胸の中で震えている。
「……ほんと、弱ぇな」
囁きは嘲りではなく、熱を帯びた甘さを含んでいた。
ブラッドは腕に力を込め、ネロをさらに抱き寄せる。
涙で濡れた頬をその胸に押しつけ、頭を撫でながら低く囁いた。
「泣くのも、震えるのも、全部俺だけに見せろ。他の誰にも渡すな」
「……俺は……そんなつもりじゃ……」
「つもりなんかどうでもいい。お前はもう俺の腕ん中にいる。逃げ場なんか、どこにもねぇ」
諦めさせるように、強く、優しく、矛盾した抱擁が重ねられる。
ネロは抵抗の言葉を探そうとしたが、胸の奥から湧き上がるのは疲労と虚しさだけだった。
――抗っても無駄だ。
――この腕からは逃げられない。
心の奥でそう悟った時、唇から零れたのは反論ではなく、小さな吐息だった。
「……ブラッド……」
名前を呼ぶ声は、拒絶の響きを失っていた。
ブラッドはその一言を満足げに受け止め、耳元に笑みを落とす。
「そうだ。それでいい。……諦めて、俺に抱かれてろ」
涙ごと抱きしめられながら、ネロの最後の抵抗は静かに溶けていった。
(ブラッド視点)
ネロの涙が俺の胸を濡らしていく。
力なく寄りかかってくる身体は、もうさっきまでの抵抗を失っていた。
――やっと、ここまで来たか。
追い詰めるのは簡単だった。だが本当に欲しかったのは、表面だけの拒絶じゃねぇ。
本気で抗って、本気で怯えて……それでも最終的に俺に抱きすくめられる、その瞬間だ。
「……いい子だな、ネロ」
囁きながら、涙を指で拭う。拒絶の言葉がもう出てこないことが分かると、胸の奥が焼けるように熱を帯びる。
こいつはいつだって距離を取ろうとする。俺を煙たがって、面倒くさそうに避けて、名前を呼ぶことすら渋る。
けどな……そのくせ、声が震えてるのを隠せねぇ。
怯えながらも俺のことを意識してんのが、全部伝わってくる。
だから逃がせねぇんだよ。
「泣き顔、綺麗だな……俺以外に見せんなよ」
頬に触れるたび、涙の熱が皮膚に移る。
この涙さえ俺だけのものにできると思うと、ぞくりと背筋が震えた。
欲しいもんは全部奪う。それが俺のやり方。
ネロがどれだけ拒んでも、泣きながら嫌だと叫んでも、――その声ごと抱きしめてやる。
「なぁ、ネロ。お前はもう俺のもんだ」
腕の中で小さく震えるその身体をさらに強く抱きしめる。
反発する余地なんて、最初から与える気はない。
こいつは俺に捕まって、壊されて、俺なしじゃ生きられなくなる。
それでいい。
それがいい。
俺の笑みが、闇の中に深く沈んでいった。
ネロの肩はまだ小さく震えていた。
けど、もう俺の腕の中から逃げ出そうとしない。
抵抗が消えちまえば、こっちのもんだ。
――あとはどうやって完全に縛るか、だな。
ただ抱きすくめるだけじゃ足りねぇ。
一時的に観念しても、時間が経てばまた逃げようとするに決まってる。
そういう奴だ、ネロは。
なら、逃げ道を根こそぎ潰してやればいい。
「……ネロ」
名を呼ぶと、腕の中で小さく反応が返る。
涙に濡れた睫毛が揺れるのを見て、胸が熱くなる。
「お前は俺なしじゃいられなくなる。必ずだ」
どう縛るか――方法はいくらでもある。
この腕で離さねぇようにするのもいい。
他の奴に触れさせねぇように、徹底的に囲い込むのもいい。
けど一番確実なのは、心そのものを壊して、俺にしか縋れなくすること。
「……全部俺に預けろよ。泣くのも、笑うのも、苦しいのも……」
ネロの耳元に囁きながら、腕に力を込める。
ぎゅっと抱きしめるたびに、相手の抵抗が弱まっていくのが分かる。
そうだ、それでいい。
お前は俺の腕の中でしか安らげなくなる。
「どうせもう逃げられねぇんだ。だったら最初から、俺のもんになっちまえ」
夜の静けさの中で、俺は次に仕掛ける策を思い描いていた。
ネロの逃げ場を、一つ残らず消し去るために。
「 掌中の獲物 」
5,170字ほど
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!