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猫がネズミをいたぶって殺す所を

小さい頃一度見たことがある





ネズミが自分の右に逃げようとすると

猫は左にネズミを叩いた



そしてまたネズミが左に逃げようとすると

猫はまたネズミを右に叩いた




ネズミからはここから逃れようと

必死の形相が見て取れる





だが猫はのんびりとしっぽを

左右に揺らしている

どう頑張っても猫からは

逃げられないのだ



とどめを刺すのはまだ早い

猫の目は楽しんでいた




今はその猫の目とそっくりな

眼差しで全身真っ黒の

ラバースーツの女が麻美を見つめている




麻美は悟った

何の因果かあたしはこの女の獲物なのだ





内心では麻美は狂ったように

怒り、むかつき 屈辱を感じ

不愉快だった


だが不思議とその怒りの目つきが

この女を性的にどうやら

興奮させるらしいと

気付いた頃にはもう遅かった





ラバースーツの女が微笑んだ

状況が違えばこの女を魅力的だと

思ったかもしれない







けれど今は・・・・

断じて無理!









「さぁ・・・・

もう一杯いかが? 」








セリナが麻美の口に無理やり

シャンパンを注いだ


さっきからもう何杯も喉に注がれている

手は天井から吊るされた鎖で縛られている







「だからもう何回も言ってるでしょ!

あたしはユカちゃんの友達なの

ユカちゃんに会わせて! 」



何も聞こえなかったかのように

女はけだるく毛先の枝毛を裂いてる





・・・・無視かよ




この女は自分をいらだたせるのに

ことさら間合いを取っているのだろうか

だとしたら大成功だ






「ユカって?誰のことかしら? 」





セリナがゆっくり品定めするように

麻美の周りを回った

ヒールの音が石畳みに響く






絶対知っているに違いない

しらばっくれてるんだ





麻美はズボンを脱がされ下半身は

ピンクのパンティだけだった




上のシャツはボタンを引きちぎられ

前が全開にはだけている

ブラジャーは言うにあらず

引きちぎられ無残にも麻美の

左右の脇にぶら下がって

乳房はむき出しだ



何と言う屈辱な格好



「残念だわ あたし達気が合わないようね」




「そのほうが嬉しいわ」







おもったよりつっけんどんな言い方になった

でもこの女はそれを面白がった








「鞭を打たれた経験は? 」



「あるわけないでしょ 」







麻美は冷ややかに言ったつもりだったが

その顔は青ざめていた

まさか自分に鞭打つつもりなのだろうか?





遠くで同じように縛られて

天井から吊るされている

男達があたし達のやりとりを

期待の目で見ている





さらにセリナはもったいぶって

麻美の耳元で言った



「知ってる?

人々の上に立つには

何をするより先に敬意を勝ち得よという

言葉があるの


さもなければ恐怖心をってね 」






セリナは麻美の周りをゆっくり歩き

ひどい言葉を浴びせた





「鞭打ちは決して綺麗な作業でなないの


でもさらにひどくする方法があるのよ

たとえば深く食い込むように横ざまに打つとか

合間にクリトリスを揉むとか 」







セリナは麻美のパンティの中に手を入れてきた

ビクンッと麻美の体が跳ね上がる






麻美の陰毛を慣れた手つきで掻き分け

人差し指で螺旋をかくように皮を押し上げ

むき出しのクリトリスを撫でられる






「縛られてるんだから感じちゃダメよ 」







麻美の耳を舐めながら

セリナが言う






同じように天井から吊るされている男達が

一斉にうねりながら二人を見つめている

彼らにとってはちょっとしたショーなんだ



熱が波のように麻美の顔に

立ちのぼった





セリナの舌は執拗に麻美の耳の穴や

首筋を舐め上げる

やがて麻美は小さく荒い息をしだした



麻美は手かせを強く握りしめ

全身で抵抗した




さらにセリナは長い指を中に入れた

そこはあろうことか溢れるほど濡れていた

恥かしさと屈辱で

恐らく顔は真っ赤だ







「フム・・・・

しなやかで よく締まっているわ

もっと締め上げてみて 」






セリナはいかにも楽しそうだった




二本の指を入れ奥の方で軽く折り曲げて

麻美の小さな性感帯を刺激し押し開く





ひどい事をされているのに・・・・

どうして・・・・


足先から力が抜けていく








「んッ・・・・・・ 」






親指で熱い芯を揉まれ

中をこねくり回される度

背中に電流が走る

この女の技はねちこく執拗に責めてくる









「感じちゃダメって言ったでしょ!」







するりと手を離し

パシンッと乳首の先端を

鞭で打たれた



痛みはすさまじかった

今にも気が遠くなりそうだ





乳首自身がまるで心臓になったかのように

ズキン ズキンと痛む

全身冷や汗と悪寒が走る






イく寸前のドクドクと

脈打つ股間の疼きと


乳首の激痛で頭がおかしくなる


いっそこのまま暗闇の

世界に落ちてしまいたかった




よくコンビニの雑誌コーナーで目にする

男性用のHな雑誌などにSMものがあるが





鞭で打たれたって痛いだけ

ちっともよくない





こんな事を好んでする人間の気がしれない





目の前の麻美と同じように

縛られている男が目を爛々と輝かせ

こちらを見ている





SMなんてくそくらえ!

この女もくそくらえ!





麻美は滲む涙を必死で抑えながら

先ほど感じた快感もひっこんで今や

怒りを全身にほとばしらせた




セリナはうっとりとため息をつき

一心不乱に麻美を見つめていた





麻美はそれをまるで惚れた男を見つめる

少女のような目線だと思った






両腕を縛られ

股間を濡らし

涙をため

両乳首にはくっきりと鞭の痕を

刻み込んでいるこんな自分を

この女は魅力的だと感じているのだ


この先自分はいったいどうなって

しまうのだろう






猛もジョージも自分がここに

いる事は知らない


トランシーバーはくそ女ユウコに

取り上げられてしまった





ううん

ジョージなんかそもそも

あたしに何があっても無関心だろう






おぞましさに全身鳥肌が立った



もう誰も助けにこないのでは?




麻美はむかつき

屈辱を感じ

不愉快だったけど

どこか頭の隅では冷静だった





レイプされるのだろうか?

女から目をそらした時

窓辺にちらりと動くものが見えた








「その女を離せ」







冷たい

穏やかな声が言った



麻美の乳首をつまんで

もて遊んでいたセリナが

ゆっくりと振り向いた




猛が壁に縛られている男の首に

ナイフを突きつけ

こっちを睨んでいた




天井から手錠で吊るされている

男は無防備そのものだった

目は恐怖に見開いている






食い込んだナイフから血が一筋垂れた




男は口に何やら咥えさせられているので

くぐもった声で必死に首を降り叫んでいた









「・・・・客に手を出すとペナルティーよ」









セリナが疑わしげに片眉を上げて言った






麻美はセリナの肩越しに猛を見た

ぜいぜい喘ぎながら

精一杯の声で叫んだ







「気を付けて!猛!この女ヤバいからっっ」










にやりと笑いセリナが言った









「褒め言葉ね」





「なんや?ここは?

SMといいなんでもありやな

完全にとち狂ってる! 」







猛が怒りに目をぎらつかせ目の前で麻美を

いたぶっているラバースーツの女を睨んだ


猛のナイフはまだ男の喉に向けられている







「そいつは俺の連れや!


お前のおもちゃは他にもおるやろ!

そいつを離したら

ここの客には危害を加えない 」








「あら つまらないわ

もっとこの子で遊びたかったのに」








セリナが鞭の柄で麻美の乳首をぐりぐりやった

麻美が痛みに悲鳴をあげる






くるりと猛を睨んでセリナが言った





「それじゃ

あなたが遊んでくれるのかしら?」



セリナが目にも止まらぬ速さで

猛の目の前に踊りでた


猛は間一髪の所でセリナからの首への

チョップをかわし

相手の首に腕を回し

肩越しにセリナを放り投げた





しかしセリナは空中で一回転し

ゴムボールのように跳ね起きた




猛のみぞおちを狙って激しい突きで

突進してくるセリナをこれまた

激しい打ち手で防御する








「空手か?」





一瞬の間を縫って猛が聞いた






「カンフーよ」









セリナがにやっと笑った






猛は驚きながらも身をひるがえし

セリナから股間への容赦ない蹴りを

からくも逃れた





なんだ?

この得体のしれない女は恐ろしく強い






したたる汗が目にしみる

無償に自分に腹が立った

今まで喧嘩では負け知らずな猛が

なんと女相手に苦戦している








「なかなか やるわね!」






セリナは心なしかこの状況を

楽しんでいるようだ




猛は少し混乱した

女相手にとも言ってられない

少しでも手加減したら

こっちがやられる勢いだ





目にも止まらぬスピードで繰り出される

セリナの強烈なパンチをブロックしながら

考えていた





セリナを攻撃するべきだろうか?





すばやい蹴りを数回かわすと

すぐまた突きが飛んできた







くそっ

すばしっこい女め


奥歯をきつく噛んだ







猛が生死をかけて戦うのは

ずいぶん久しぶりだった






そこに一瞬のすきが見えた




セリナが喉を狙ってきた

猛がその動きを封じて

床に付き飛ばし

背後から腕をあり得ない方向に曲げ

肩甲骨の関節を外した






「ああっ!」







とセリナが悲鳴を上げうなだれ

動かなくなった







勝負はついた







動かないセリナをよそに

猛はテーブルの鍵をひったくり

麻美の鎖を解いた





拘束を解かれた麻美は素早く

しびれた腕を動かした






猛が助けに来てくれた




助かった

信じられない


怖かった





一気にいろんな感情が麻美を襲った

悲劇の主人公を気取って

泣いて猛にすがりつきたかった


でも今はこれで十分

麻美は泣き笑いながら

咎めるように猛に言った






「遅かったじゃない!」







高飛車に思えるほど毅然とした態度だった




毅はにやりと笑い

両肩をすくめて言った






「渋滞や」








二人手を取り合って

拷問部屋から飛び出した

残された男達とセリナを残して




セリナが倒れたまま

うっとりと呟いた











「あん ステキ・・・・」



「ほら!これを着ろ!」





猛が大きなクローゼットから

いくぶん地味なGパンとTシャツを差し出した






しばらく廊下を走った後

麻美がガクガク震え出したので

これ以上走るのは無理だと猛は判断し

近くにあった適当な空部屋に二人は非難した






猛はベッドに座っている

麻美に背を向けたまま

クローゼットの服を探すフリをして

麻美のすすり泣きを聞くまいとした









「泣くな!」




「すぐ泣き止むから

黙ってなさいよ! 」





言い返された事でホッとした

メソメソ女の涙は苦手だ




それにしても麻美の

負けん気の強さには

惹きつけられるものがある







「どうしてあんなことに

なっていたのか説明してくれ 」









猛はドアの隙間から

誰かがこないか覗きながら

麻美に聞いた







麻美はすでに立ち直っていた

Tシャツが鞭打たれた

乳首にすれてズキズキする


その痛みを思い出すたび

怒りが沸きあがった








「ユウコよ!

あいつがこの館にいるなんて!! 」








「ユウコ?

ユカも言ってたぞ

ジョージがその女と抱き合っていたって 」





「だとしたらジョージが危ないわ


ユカちゃんと会ったの?


じゃぁ

なんでユカちゃんは一緒にいないの?」








猛は自分の顔が麻美から

見えないように窓の外を

確認するフリをしながら言った








「ユカはジョージを連れに行った・・・・」






※ ※ ※




「お願い!猛っ! あたしを行かせて!」






ユカに腕を掴まれた所から

電流が走り

全身の神経を逆なでする






こらえろっ

猛は自分を叱りつけた

今は股間のものを硬くしている場合ではない





距離を置け


三歩さがれ!






これじゃ

ここに通っている男どもと同じじゃないか




ひさしぶりに見たユカの顔立ちは

完璧ながらも独自の面影は残していた




骨格の線は細く

少しの動作も非の打ちどころがなかった




唇はみずみずしくふっくらとして

心細さを表している大きな瞳は潤んで

こちらを見ている



きめ細かくシミひとつない肌は

ノーメイクなのが驚いた


たしかに化粧の必要はなかった


これが俺の知っているあのユカか?



幼い頃から孤児院でユカを見てきた

ユカはたしかに幼い頃から可愛いかったが



あの孤児院のおさがりの伸びた

トレーナーを着て



自分の後をチョコチョコついてきていた

ユカの面影は形もなく消えていた





今目の前にいる女は

まぎれもない美しく成長した

大人な女性だった






「毅・・・・ 」






その声は濃厚な音色に甘くかすれた

響きが重なって

格別に女らしく聞こえる




その声で愛撫されたかのように

猛の股間はガチガチに硬くなった




くそっ! しっかりしろ!





猛は言葉を失った

ユカの美しさに胸を締め付けられていた

まるで男の理想の夢から抜け出てきたようだ




「ダメだ!危険だ!

俺も一緒に行く! 」







やっとの思いで理性を総動員した

猛はしがみつくユカの腕を振りおろし

靴の紐を結びなおすフリをした




ほんのわずかにせよ

ユカに背を向けて気を落ち着ける時間が

できたのはありがたかった





「今の話が本当なら

ジョージはあたしを探しに来て

ユウコに捕まったのよ!


たしかにユウコに抱き着かれていたけど

ジョージは何も言ってなかったの 」








ユカは必至で猛に訴えた









「あたしがいけないのっ!

勝手にその場を走り去ってしまったから


ああっ!!


でも 本当に?


本当にジョージはあたしを

助けに来てくれたの? 」







俺もな・・・・・






猛はそう心の中でつぶやいた

でも今のユカはジョージが自分を助けに来たと

知って喜びではちきれんばかりだった




心臓をわしづかみにされたように

こわばった




ユカの目にはジョージに

対する愛で溢れている

そしてジョージも同じ目をしてた







ああ・・・・

この二人は愛し合っている






言葉にするのは難しい・・・





「ああ・・・・

ジョージと麻美を連れて

さっさとこのヘンな

館を出よう 」







ユカが途端に厳しい顔つきをした

何やら決意をしているようだ





「この館のことなら十分理解しているわ

そしてユウコの性根も・・・

ユウコは恐ろしい女よ

ジョージに何をするかわからないわっ!


それより猛は麻美ちゃんを探して! 」







「・・・ほんとうに・・・・

それでいいのか? 」







猛はむっつりと答えたが

その理由は説明できなかった






ユカは猛の初めての女だった・・・・

しかしユカは初めてではなかった




猛にとってそれは重要なことだった

自分で思っていたよりも複雑な思いを

ユカに持っていた





それはユカを見るたび重くのしかかっていた

ユカを自分の女とは思えなかった



それでもずっと守ってやりたいと

思っていた女だった



俺はただ単に初体験の女だったから

執着していただけなのかもしれない・・・




今美しいユカを見ながらそう思った






ああ・・・本当にユカは美しすぎる





それよりも気になっているのは

麻美の事だった


くそっ!いったいどうして

しまったんだ俺は?



今目の前にいるユカよりも

ずっと連絡のない麻美が気になっている

もう一度麻美のトランシーバーに応答を求めた




電源を切っている



微動だにしないトランシーバーを

握りしめて見つめた





嫌な予感がする




そうだいつも麻美はうるさいぐらい自分の

周りを騒がしくうろつきまわっているのに






「それじゃ

二手に分かれよう

俺は麻美を探すお前にはジョージを任す


見つけたら上手く抜け出して

下の駐車場の茂みに

止めてある車で落ち合おう

ジョージが詳しく知っている 」





そう言って猛は身をよじって

きびすを返し駆けだそうとした





「毅っ!」





振り向いた途端

胸の中にユカが飛び込んできた

力いっぱいユカに抱きつかれた

ユカの香りが鼻腔に広がる




「助けに来てくれて・・・・

ありがとう 」




温かなユカの体を抱きとめた

猛の体は危ういほど揺らいだ

否応なしに胸がわななく









「早く行け・・・・」





普通の声を出そうとしたが


しゃがれ


震えて

ほとんど自分の声だとは思えなかった


ユカの足音が小さくなって聞こえる


この時

猛の心に穴が開いた

穴の奥は真っ暗な奈落の底だった






猛は初恋に終止符を打った

猛は泣きだしたくなった




いや



本当に泣いていたのかもしれない

誰にそれを見られてもかまわなかった









※ ※ ※




「・・・しっ

たけしっ! 」







麻美の呼び声に

どこかへ飛んで行っていた意識は

引きずり戻された


目の前に心配そうに覗き込んでいる

丸い顏がある






麻美はどこもかしこも丸い

目はまだ脅えているように潤んでいるが

心配そうな茶色い丸い目がこちらを

覗き込んでいる



かわいらしい子犬のようだ

鼻の頭にソバカスが広がっている







「大丈夫?猛? 」









張り詰めかすれた声だった

麻美が猛の体を障る





「ああっ!もしかしたら

あの女にどこか怪我をさせられたのかも?

脳しんとうって時間がたってから

症状が出ると言うわっ!


意識は?呼吸は? 」







騒がしく自分を心配する

麻美の手を掴んだ








「黙れ 」







猛はどこか遠くを見るような

目線で静かに言った

麻美はムッとして言った





「ちょっと!黙れって何よ

あたしは猛を心配っ・・・・

キャッ!! 」






猛が麻美を抱え上げ

膝に乗せた






「いいから 黙って

俺の膝の上にいろ

そして抱きしめさせろ 」





途端に麻美は大人しくなった

くったりと猛の肩に頭をもたらせ

小さくくすんと泣く音がした



猛は安堵のため息をついた





「ああ・・・・

無事でよかった・・・・ 」







猛が優しく麻美の背中を撫でていた

麻美は猛の腕の中にしっくりなじんだ


かんしゃくを起こしたい気持ちは

スルスル煙のように消えていき

借りてきた猫のように大人しくなった






彼の胸に顔をうずめる

両腕にしっかりと抱きしめられてる

猛の胸は硬く熱かった

猛が麻美の首筋にキスをした







わおっ!


信じられない

奇跡的








あの猛が自分の

無事を安堵してくれている

さらに信じられない事に

二人の間に今は甘い空気が流れている





麻美はこれからの二人に

微かな希望を持って

このままずっと猛の胸に

抱かれていたいと思った







・・・・・・・・・






何もできない自分がもどかしかった

ジョージを信じなかった自分がもどかしかった




あたしは全速力で

館の端から端まで走っていた



ああ!

ここはなんで無駄に広いの




ユウコとジョージが抱き合っていた

厨房は人っ子一人いなかった



そして今はユウコの部屋へ

向かっていたが


そもそもユウコの部屋に行っても

あの二人がどこにいるのか見当もつかない




ユウコは危険な女だ

ドラッグやその他ニコニコ笑って

ポケットから手榴弾を取り出しても

それがユウコなら納得する




でもユウコはジョージを好きなはず

すぐに記憶が脳裏を横切った



ジョージに抱き着いて泣いている

ユウコ






ああ・・・・

もしジョージがユウコの誘惑に屈したら・・・








あたしは無理に首を激しく振って

今の考えを吹き飛ばした



だって猛が言ったんだから

ジョージはあたしを助けに来たって・・・



そうよ

麻美ちゃんと・・・・



麻美ちゃんと言えば

あたしは気づいていた

今まで何人の男と寝てきた結果





男性の色恋にかけての

微妙な空気


欲望と感情はとても違うものだと






そう・・・・

猛は麻美ちゃんに恋している

それは間違いない


ようやく館の端にたどり着いた頃には

すっかり寒さに凍えていた




このスリップみたいな服は

客を取る時に着る以外に

防寒にはとてもじゃないが向いていない





あたしは唇をキゅっと結んだ

もう誰の為にも肌を見せることはしない




すると前方の庭から

ミス・ヨーコがバラの花束を抱えて

廊下に入ってきた


途端に廊下中に切りたての

バラの匂いが充満した

ミス・ヨーコはあたしの姿を見つけると

驚いたように目を見開いた






「あら?ユカじゃない!

こんな所で何をしているの?

あなたは今大島様と一緒に

いるんじゃなかったの? 」







彼女は咎めるようにあたしを睨んだ




「あの・・・・

ええっと・・・


ちょっと散歩したくて

ええ・・そうですね

部屋にもどります 」




何としてもジョージがここに来ているのを

彼女に知られるわけにはいかない





ああ・・・

ジョージも麻美ちゃんも猛も

無事でありますように


あたしは踵を返し戻るフリをした







「待ちなさい!ユカ 」






呼び止められるなんて信じられない!

あたしは無表情を必死で取り繕って

彼女を見た



「最近のあなたの態度はまったく

感心しないわユカ!

ぼんやりしたり食事を抜いたり

そんなんじゃお客様に良い

サービスを出来ないわよ!」





こんなところでお説教を

くらってる場合なんかじゃない!

あたしの頭は湯気が出そうだった

彼女の唇がいとわしく引きつる






「あなたが仕事に気を抜けば抜くほど

あなたのいい人の立場が危なくなるのよ

勤務態度には気を付けてもらわないと 」




「何がいいたいんです? 」




「分からないフリをしなくてもいいわ 」







ミスヨーコは花束の中から

バラを一輪くるくると回しながら言った





「私は損をするのが嫌いなの

よい買い物をしたと今までは思っていたけど 」





バラを投げ捨てた

彼女の睨む瞳が怪しく輝く




「どうやら 間違っていたようね 」







ドンっ



背後に人の気配がしたと思ったら

背中に硬いものが当たった

全身に氷のような冷たいものが走った






「よう・・・久しぶりだな 」







日に焼けた顔に

細く空いた穴のような目がぎらついている









慎二









世界がとまる

途端に犯された時の事が

走馬灯のようによぎる





どうしてここに?

あたしの体は震えだしていた

ミスヨーコが厳しくたしなめた





「手をだしたら

タダじゃすまないわよ

この子にどれだけ投資したと思っているの? 」






「離してっっ! 」







逃げようとしたら

咄嗟に両腕を後ろでつかまれた

わざとあたしの腕を捻りあげ

胸が突き出るような姿勢になった

すごい力で振りほどけない








「ずいぶん 化けたな

なんと これほどとは・・・・ 」





慎二はあたしをまざまざと

見つめバラの一輪を

ミス・ヨーコからひったくり

あたしの胸元に円をかくようにたどった




慎二の目が残酷でいやらしい光をたたえた






あたしは恐ろしさで

艶めかしく見つめられているのも

かまわなかった





あとずさり

よろめき

倒れかけた





慎二は余裕の態度であったが目はうつろだった

その眼差しには魂が無い冷たい空虚があるだけ





どうしよう・・・・

彼がここに来ているなんて・・・



ああ ジョージ・・・・






その時ミスヨーコが言った





「遊んでいる場合じゃないわ

もうすぐオークションが始まるわよ

行きましょう! 」





「ひっ! 」





慎二があたしの首筋を舐めた

あたしは途端に悲鳴を上げた





「こいつはどうするんだ?

連れてってもいいか? 」






彼女は男ってこれだからとでも

言いたそうに

あきれて慎二を睨みつけた






「仕方がないわね

時間がないから連れて行きましょう 」






慎二が言った






「あとで遊んでやるよ

こねこちゃん 」







失神するほど強く

髪を後ろにひっぱられた









※ ※ ※ ※ ※





体が重い

いっそこのまま失神して

ずっと気を失ったままでいたい








「この色男はまだ起きてるぞ 」







何者かが言った


誰かの頑丈なブーツのつま先が

ジョージの足を蹴りつける





ジョージは空気をもとめて喘いだ

熱く塩辛い血の味がする

舌を噛んでいたのだ





「いいじゃねぇか 」








べつの男が嬉しそうに言う








「ちっとは楽しませてくれよ 」



ジョージの背中を踏み潰していた

巨体の男が身じろぎして

ジョージの両腕を後ろにねじった





ガムテープで両腕をぐるぐる巻きに

括られさらに両足も一つに縛られた

まるで丸焼きにされる豚だ





なすすべもない

足であおむけにされ

ここでようやく目を開けた






男が二人






一人はおそらくユウコの男で俺を殴って

ここに連れてきた男だ





そしてもう一人は・・・・








ああ・・今は見たくもない






慎二だ





そうか

俺を追ってここにきたのか

二人ともナイフを持っている



ジョージの目はまだ焦点が合わず

どんなナイフかまではわからなかった




慎二は猛にボコられた後の

顔が青く痣になっている



ざぁまみろ




「お楽しみといこうぜ 」






慎二が言った







「コイツには借りがある

俺の商売を邪魔された 」





「ミス・ヨーコは傷つけるなと言っただろ」






神谷が言った







「はん!

気取りやがって!

そんなもんに耳を貸すことはねぇ

いますぐコイツをボコボコにしねぇと

気がすまねぇ! 」







慎二が歯をむき出しにして言った

神谷が肩をすくめた





「ミス・ヨーコには

仕方がなかったって言やいいか

コイツは痛めつけないと

大人しくならなかったとか」







ジョージが元上司を見つめた






「・・・・お前もこの

オークションとやらに絡んでいるのか? 」






年老いた元ホストが小さく

笑った







「大当たり!

さっきの俺らのやり取りを

お前気を失ったフリをして

こっそり聞いていたな

相変わらずコソコソいやらしい男だな! 」








「ホストをやりながら

アンタはユカみたいな少女を誘拐して

外国に売り飛ばしていたんだな!

あのミス・ヨーコと企んで! 」




慎二は小さく首を振った





「ちがう!ちがう!

俺は人助けをしてやっていたんだよ

家出した彼女達は決まって「帰りたくない」と

言うんだろ,家に帰りたくないという者を

食わせてやって仕事を与えてやってるだけだ!

現にお前もあの家出娘を

自分の家に囲っていただろう? 」







「彼女達は未成年だ!」





ジョージは言葉を荒げた





「お前が囲っていた女もだろう」





慎二が睨んだ ちがうっ!!ユカは・・・・

そう言いかけて辞めた


今コイツに自分がどんなにユカを

大切に思っているか悟られてはいけない






ジョージは思いっきり鼻水を吸い込み

一気に慎二の顔目掛けて唾を吐いた







「お前は人間のクズだ!」





神谷が後ろで大喜びで膝を叩いて笑っている

慎二はポケットからハンカチを

取り出して顏を拭いた


真っ赤な顔をして体は小刻みに

怒りで震えている


彼は言った








「かまわないから

コイツをぶちのめせ 」










※ ※ ※ ※






慎二と神谷が血だらけで意識の無い

ジョージを引きずってきた

あたしは悲鳴をあげた




目の前に狩ってきた獲物のように

ジョージを床に投げ出した




ジョージに駆け寄りたかったが

あたしも部屋のベットに手首を

プラスチックの縄でくくられていて

身動きがとれなかった





慎二は

手足を一つに縛られているジョージを

怒りのままに蹴り始めた





背中

股間






ぐったりとしたジョージの体に

ドスッと足がぶつかる度に





あたしは自分の肌に打撃を受けているような気がした





ふたたび慎二がジョージの脇に

荒々しく蹴りを入れた時

あたしは体をびくっとさせた





それが慎二の注意をひいてしまった




くるりと振り向き息を切らして

あたしを覆うように立つ






「何百万だぞ! 」





赤く怒りに燃えた慎二の目があたしを睨む

口から吐き出された唾が顏に当たり

あたしはまた体をひきつらせた







「おまえとこの血まみれのクズがどれほど

の金を俺に損をさせたのかわかるか?

このクソガキはコカインの密輸を

警察に垂れこみやがった! 」







「ジョージは正しいわ!」








つい自分の正直さが勝って

口走ってしまった





思いきり慎二はあたしの頬を

平手打ちうした






「思い上がったメス豚め!

少しばかり見てくれが良くなったからと

いってお前は所詮売女なんだよ! 」







何度も顏を打ち付けられ

口を開く勇気はなくなっていた

痛みで目に涙がにじむ








「や・・・め・・ろ・・ 」







ジョージが身をよじってこちらを

向いている






ああ!

ジョージ!!




ジョージ!






一瞬だが二人は見つめ合った











ジョージは殴られた頬が痛むので

目をうっすらとしか開けられなかったが





すると慎二が尻のポケットから

拳銃を取りだしジョージに銃口を向けた






「・・・一瞬でも動いたら撃つぞ!」








慎二のクズがユカの手首を縛っている

縄を引っ張ってユカを引き寄せ

ユカのワンピースの胸元を

銃口でひっぱっている



あの悪党は舌なめずりをして

くっくっと笑っている







「神谷!そこのゲスを起こせ!」







慎二が命じた





「見物させたい

我々がこの女を犯っている所を!

最後の一瞬まで 」






「いい加減にしなさい!慎二 」







広い寒々とした

大理石の部屋に女の声が響いた

ミス・ヨーコとユウコが部屋に入ってきた





「まったく・・・・・

少しは下半身で物を考えるのを

控えたらどうなの?慎二 」







慎二がギリリと歯を食いしばった



「こいつらには俺の人生を

台無しにされたんだ!

おかげで俺は次の船でフィリピンに

逃げなければならない!


暫くは日本にかえれないからな!」




ミス・ヨーコはツカツカと

あたしの前にやってきて

パァンと右頬に平手打ちを食らわせた




今や頬の痛みは全身に回っていた

あたしは涙とうめき声を止められなかった







「まったく・・・・

飼い犬に手を噛まれるとはこのことね・・・


ジョージや他にいったい何人アンタの

仲間はいるの? 」







あたしはハッとした

もしかして猛や麻美ちゃんの事を言ってるの?







「答えなさいっっ!!この屋敷に

仲間を入れたのはアンタでしょう?」









バシンッ



頭が吹っ飛んだと思った

キーンと耳鳴りがしている




ミス・ヨーコの後ろから薄ら笑いを

浮かべているユウコが見えた


あたしが痛めつけられているのを

見て楽しそうだ




ユウコが言った





「反抗的な態度は好きよ

最後にへつらい、泣きつくさまが

より楽しくなるからね


セリナが重体で発見されたわ

肩甲骨の関節が外れたそうよ 」





ユウコの手には

ガスバーナーが握られていた

彼女のクスクス笑いがイラつく




「いいでしょ?ヨーコさん

ちょっとばかりこらしめてやりたいの


だってユカはこれからフィリピンの貨物船に

乗せられるのだもん 」







「貨物船?」









あたしは叫んだ!







「残念だけど・・・・

裏切りはゆるされないの


今夜やってくるフィリンピンマフィアが

あんたを買ってくれたから

おとなしく付いていくのよ


せめて命だけは助けてあげる

感謝しなさいよ 」








ミスヨーコはため息をついて

言った




「それじゃ

こいつは俺に殺させてくれ 」





カチッ

銃の弾が装填された音だった

あたしとジョージは体をひきつらせた


慎二が銃口をジョージのこめかみに

突きつける




ジョージの目には怒りの炎が燃えている

再びあたしはジョージをまっすぐ見つめた

彼もあたしから目を離さなかった







「その前に少しお化粧してあげる 」







ユウコがバーナーを取り上げ

何度かスイッチを入れ

カチカチと鳴らす

途端に先端から火が噴いた





一瞬でジョージと慎二が

バーナーの炎の蜃気楼で揺れた









「やめて・・・ 」





あたしの声はかすれていた






「お願い・・やめて・・・」




あたしは悲鳴をあげたかったけど

一度上げ始めたら

止まらなくなりそうだった





「傷はダメよ 」




ミスヨーコがけだるそうにクリーム色の

豊かな髪を片手で掻き揚げ言った






「見えないところにするわ 」






今やユウコの目は爛々と輝き

鼻腔は興奮で膨らんでいる





「初めてゼビアスで会った時から

気に食わなかったのよ 」






彼女があたしにむかって歯をむき出した






「初めて気が合ったわね!

あたしもよ!! 」








そう言ってやると恐怖に全身が震えたけど

怒りの方が勝った








ユウコが先端が赤く燃えるバーナーを

顏に近づけてくる

顏にバーナーの熱を感じる











あたしはギュッと目を閉じた





その時


「ウォンッ」と


外で唸るような音がした





部屋中に聞こえる大きな

バイクの排気音が鳴り響く



と同時に目の前の天井まである窓ガラスが

粉々に砕け散った




大きな黒い騎馬が暴れ回っているように

一瞬見えたがそれは幻で


真っ黒なバイクが排気音を上げて

部屋に飛び込んできた




砕けたガラスの破片が飛んできたて

あたしとユウコに降り注いだ







その直後当たりは壮絶となった







猛と麻美を乗せた黒のCBRが轟音を上げて

部屋の中に躍り出た

激しいアイドリングを響かせながら

バイクはくるくる回転し

その場にいる人間を硬直させた




一番早く動いたのは慎二だった






バンッ 銃声が響く






猛のバイク目がけて慎二の銃が火を噴いた

銃はバイクのガソリンタンクに穴を開けた







「くそっ!くそっ! 」






バンッ バンッ バンッ








猛がやみくもに引き金を引いている

慎二に飛びかかり

二人の取っ組み合いが始まった


激しくエンジン音をふかしている

バイクが横倒しに暴れている



麻美がひらりとバイクから飛び降り

素早くジョージの縄をナイフで解いた






ジョージがすっくと立ち上がり

手首をさすり血行を元にもどして

勢いよく神谷に襲いかかった







激しい死闘を繰り返す中

麻美とユウコが向き合った








「近づくとユカの顔を焼くわよ!!」






ユウコはあたしの髪を引きちぎれるほど

強く掴みバーナーをあたしの顔に近づけた









「ユウコ・・・よくもっ!」







麻美はギリリっと

歯ぎしりをした





あたしは初めてゼビアスでユウコと

出会った時を思い出していた


二人でジョージを挟んでにらみ合った時

はじめてここの楊貴館で出会った時



階段の踊り場ですれ違った時



大広間で客と戯れていても

いつもこの緊張は二人の間にあった







いづれはこうなる予感はしていた





喉に競りあがる声を聞くというより感じた

自分で何を言ったのかわからなかったが

ユウコがぎょっとしてあたしを見た





あたしは腕がちぎれんばかりに伸ばし

力の限り体を揺らしてユウコの足を引っかけた



二人同時に回転して転んだ

床に激しく頭を打ち付けた



手首から血が噴き出したと同時に

プラスチックの紐が千切れた








すかさずあたしはユウコに

馬乗りに襲いかかった





小さい時クラスの男子に

親無しとからかわれて

その男の子が許せなくて殴り倒した事があった





許せなくて

許せなくて




死んでしまうまで

殴らないと気が済なかった

怒りで視界は真っ赤だった



椅子を持ち上げて

その子めがけて振り落とそうとした所で

担任に取り押さえられた





その先のことは考えてなかったし

考える必要もなかった



先生に抑えられてあたしは

普通の精神状態にもどりそれから震えだした


でもその男子学生の顔に浮かんだ表情は

今も忘れられない







学園長はその事を聞いてとても

悲しんだけど罪悪感はなかった







あたしはやらなければいけなかった

怒りのあの赤いものに包まれた時

何も感じなくなった




今あの感覚を全身全霊で

感じている





単純にわかっていた






微塵の疑いも持たなかった








ユウコからガスバーナーをもぎ取り

ユウコの右頬に力いっぱい押し付けた










ーやってやるー










目の前で肉の焦げる匂いと

激しい悲鳴が鳴り響いた





背中をユウコの脚で激しく

蹴られているけど絶対離すもんか



「ユカちゃんっ!!」









麻美の声にハッとなり衝撃が腕に伝わり

手を離した



指が麻痺していた



麻美に抱えられてその場から

部屋の隅に引きずっていかれた






ユウコが雄叫びをあげながら

床を転げまわっている

顏を手で押さえている




麻美が激しく何かをしゃべっているが

言葉は意味をなさなかった





手首から血がしたたり落ちている

千切れたプラスチックの紐は

真っ赤になってまだ手首にぶら下がっていた









火をついたままのバーナーが

うねりを上げて転がっている

タンクに穴が開いたバイクは

空ふかしをしたまま横たわり


中身がトプトプとこぼれ

タイルの床にガソリンの水たまりが広がった




そこから触手みたいに

細い流れが何本も伸びて

床で火を噴くバーナーのほうに這って行く







透明の液体は青い炎の舌に近づいていた









「大丈夫か!!」




振り向くとジョージがいた

部屋の隅で殴られて気絶している神谷が見えた

ぐったりと横たわって身動きしない


ジョージが神谷から奪ったナイフで

血まみれの手の拘束の破片を解いた

途端に血流が一気に手首に流れる







猛も麻美に駆け寄った

振り向くと慎二と神谷が伸びている

ミス・ヨーコの姿はもうどこにも

見当たらなかった










その時




ボンッと空気をつんざく音と共に

あたし達はすさまじい熱風に吹き飛ばされた










バーナーの炎が発火性の

ガソリンを捕えた








次に目を開けた時は

部屋中炎の海だった



熱が咆哮をあげる

熱風で息も出来ない




ユウコが悲鳴を上げた








「ここから出るんだ!!

早くっ!! 」




猛が叫んだ






「熱を吸うなっ!

喉が焼けるぞ!!


窓まで這っていけ!!

急げっ! 急ぐんだっ!! 」








窓まで延々と距離があるように思えた






やっとのことでたどり着き

あたし達は割れたガラスから

外に飛び出した





割れたガラスの破片を踏んで

足の裏が切れた

でも構っていられない



ジョージがあたしの手をひっぱる







「建物から離れろっ!! 」






ユウコはずっと叫び続けていた

彼女は真っ赤な火の海の中で

女王のように両手をあげて

高笑いをしていた




それがユウコを見た最後だった







あたし達は部屋から脱出した


目の前に麻美と猛が必死で

走る姿が見える



真っ暗な草原の庭を駆け抜ける



シャクナゲの茂みなど

お構いなしに蹴散らしながら走る



灰色の空と石灰岩の崖が一直線に

線を引いているのが見えた

崖から下は真っ黒な海だ








「走れッ!走れっ! 」






「すぐ爆発するぞ!! 」






「お願い!神様!

お願い!神様!」








麻美が叫ぶ





耳で鳴り響いているのは

自分の喘ぎ声だった

真っ暗闇の中

前の人の踵を踏んづけ

つまづきながらも走った



何も見えなかった







その時

熱風に背中を押された




ズドーンッ!!



爆音と共に屋敷が一斉に燃え上がった

あちこちで爆発音がした



館の外に設置してる巨大な

プロパン式のガス装置に引火したのがわかった





あたし達は崖の端っこまで来ていた

炎がどんどん追いかけてくる








「跳びこめっ!! 」





先に猛が真っ暗な空に向かって

飛んだように見えた

でもすぐに消えていなくなった



続いて麻美が飛んだ


まるで鳥のように舞い上がったと思ったら

すぐに消えて悲鳴と共に真っ逆さまに

落ちて行った










ジョージがあたしに手を差し出した









「さぁ・・・ 」









二人は見つめ合った


暗褐色の空の中ジョージの金髪だけが

今や青白く強風になびいている






ジョージはすっと伸ばした背筋を

わずかに緊張させていた

息を荒くしながら油断なく目を光らせている







次の瞬間背後の爆発に照らされて

ジョージの顔がハッキリ見えた





彼の目に一瞬よぎった光は

怒りではなく希望だった










彼が叫んだ








「必ず助ける!

俺を信じろっっ! 」











ここまであたしを迎えに来てくれた

なんて人








ジョージ・・・・

あなたとなら地の果てまで・・

.。*゚+.*.。+..。*゚+.。*゚+.*.。+..。*゚+












死んでも離さないとばかりに

がっしり彼の手をつかみ






あたし達は

崖を思いっきり蹴り

頭から真っ逆さまに海に飛び込んだ!




真っ暗だ





あるのは感覚だけ

それにすさまじい冷たさ

服が波にもっていかれる




息ができずもがきながら

真っ暗闇の水の世界で

やみくもに手足をバタつかせ

窒息しかけたとき




いきなりウエストを抱え

ぐいっとひっぱられた




何かがガツンと頭にぶつかり

あたしは真っ暗闇の世界から

空気と凍えるような混沌の

真っ只中に引き上げられた



背中の服を何かがすごい力で掴んでいる




目も見えず

息もできない






あたしは海に浮かんでいる流木に

腹ばいで打ちあげられた




激しく咳き込んで喘ぎながら息をした



あざらしのような黒い影が

水中をすべるようにやってきて

30センチ前に金髪の頭が

ポコンと浮かび上がった





ジョージが喘いでいる






「大丈夫か!!」






彼が叫ぶ

風の咆哮に声が掻き消されそうだ






「そんなわけないっ!」






叫び返そうとしたが

出てきたのはゼイゼイという音だけだった



「つかまっていろ!!」




波に揉まれびしょ濡れになった

ワンピースがとても重く感じた

今すぐ脱ぎ捨てたい



彼があたしの手首を手探りして

がっちり握りしめ大きく息をした









脇腹にも

足にもあちこち刺すような痛みがあった





「俺がひっぱるから

力いっぱい水を蹴れっ! 」





ジョージが流木を持って泳ぎ始めた

沈んでは浮かぶ彼の頭は波しぶきで濡れて

銀髪に見えた





空は見たこともない不気味な紫緑色だ




麻美ちゃんは?

沈んだの?




頭上で波が砕け

ジョージが一瞬見えなくなった


頭を振り

目をしばたくとそこに彼がいた


彼がほほえみかける

無理して笑っているようにみえる


あたしを握る手に力がこもる






「しっかりつかまっていろ!!」






彼がまた言う



あたしは流木にしがみついた

手の下の木はギザギザだったが

必死でしがみついた





どっちの方向に進んでいるのか

まるで見当がつかない




でもジョージは分かっているようだった




水しぶきで視界は遮られ

うねる波に二人の体が激しく上下する






浮かび上がる度に近くの崖が見えたかと思うと

つぎは大海原しか見えなくなる






何回目かに浮かび上がった時に

崖の上にメラメラと燃え上がる

楊貴館が見えた





真っ暗闇にまるでそこだけが

居場所を主張するように

真っ赤に光っていた



しばらくプカプカ浮かびながら

あのゾッとするような出来事を

思いめぐらせながら



いつまでも燃える炎を見つめていた




ミス、ヨーコはいったい

どこに逃げたんだろう・・・・



ユウコは・・・・



そして楊貴館のみんなは・・・





自分でも信じられない

あそこから逃げ出せたなんて





しかも

ジョージと二人で・・・・






その瞬間

あたしは意識を失いはじめた




視界が濃い闇から灰色になり

ジョージの顔がかすんでいった






恐ろしく寒い

でも死ぬのに寒さなんて感じることがある?





倦怠感と安らぎがあたしを包んでいく

足も手も意識から切り離されていく





ジョージにきつく握られているせいで

手首だけは締め付けられる感覚があった






波が引いてわずかに浮かび上がり

沈むと鼻に水が入る

ツーンと痛むがかまっていられない







「つかまっていろ!!」







ジョージが吼える







「つかまっていろ!!頼むからっっ!」








あたしはやさしく微笑んだ





こんな時だけど


水も滴る良い男って

ジョージのことなんだとおかしくなった





びしょびしょでも

なんてハンサムなの







もう痛みもない

とても平和な気分があたしを包みこんだ








あたしを見る

ジョージの目に恐怖が浮かぶのが見えた

何か叫んでいるけど聞こえない





にっこり

ジョージに微笑んだ









あら あたしは大丈夫よ・・・・



会えてよかった・・・・



ジョージ・・・・









最後に会えて

本当によかった・・・・









もう何も気にならない

また波が襲い掛かってきて



あたしは息をするのをあきらめた


あたしは天国にいた



周囲のものがすべて真っ白で

小鳥のさえずりのような音が聞こえる







心はやすらかで

恐怖からも怒りからも解放され

幸福感に満たされていた



そして信じられない程

温かい





そうよ

あそこでは薄着でいないといけなかったから

いつも寒かったの



こんなに幸せなことはなかった

ここはフカフカで真っ白で

温かいもの


きっと天国よ









でも・・・ちょっと待って







足が痛い

肉体を失ったはずなのに

頭も痛い気がする



そう感じるとほっぺたや

足の裏、手首、胸、全身が痛い



渦巻く朦朧とした意識をハッキリ

する必要がある



痛い!痛い!何でこんなに痛いの?




特に足の裏が痛い・・・・・





いたーーーーーーいっっっ!!!






無理に目を開けたら

渦巻く白を明るい光が目を貫いた

まぶしくて目がズキズキする











「よかった!!目が覚めたか!!」





聞き覚えのある声に安心した






じっと見つめるジョージの

ぼやけた輪郭が見える



よく目を凝らしていると

自然に二つの顔が焦点をあわせた




その途端海水にやられた

喉がゴボゴボして激しく咳き込んだ




しばらく咳を繰り返していると

胃がせり上がり

中身のものをすべて吐いてしまった




すると大きな白いタオルに視界を遮断された





彼はあたしの口を拭き

大丈夫だと優しく背中を

さすり宥めた





「さぁ 鼻もかめ 」






言われた通りに思いっきり鼻をかんだ

鼻が通って頭がすっきりしだした




ジョージが微笑んでいる




くしゃくしゃの髪には

乾いた塩がへばりつき

手の甲はあちこちすりむけている




生きているということは

あちこちに痛みを感じ

少しイラついた





「気分はどうだ?」




「ひどいものね 」






ジョージが笑っている



あたしは目をぱちくりして起き上がり



やっと意識を持ち出した目で周りを見渡した

たしかに本物のベッドに横になっている




真っ白くて眩しかったのは

ベッドのシーツのせいだった



それに水漆喰の壁と天井

緑のカーテンだ



開いた窓から吹き込む風をはらみ

そよそよとはためいている






いまいましいワンピースは着ていなくて

真っ白のブカブカのTシャツに

木綿のピンクのパジャマのズボンを

履いていた


パンツは穿いていない






ちょっと動くだけて

足の裏に強烈な痛みが貫いた



思い出した

この痛みで目が覚めたんだった





「足の裏を縫ったんだ4針も 」






ジョージが言う







「しかも両方

動かさない方がいい 」



無理もない

ガソリンに火がついた時にガラスの上を

あたしは裸足で全力疾走をしたんだった




彼の言う通り

動かさないようにしていれば痛みは小さな

ズキズキと脈打っているだけで耐えられた




ジョージが手で顔をこすった

髪はボサボサだ

とても疲れているように見えた


彼も白いTシャツにジーパンで

あたしの目の前に座っている






「あたしどうなったの? 」





「お前が気を失って石のように

海に沈んでいったから

懸命にお前と流木にしがみついていたら

そのうち足が砂にあたったんだ 」







肩をすくめる

彼は水で口をすすぎ

窓からそれを吐いた







「まだ 歯の間に砂が挟まってる

耳の中にも鼻にもケツの穴にもだ

洗っても落ちねぇ 」






「館はどうなったの?

麻美ちゃんは?猛は? 」






「無事だったよ

アイツらは泳げたからな

まったく大したもんだよ

バイクでつっこんでくるなんてな

おかげで助かった 」







手を差し伸べて彼の手をにぎった




「ただ・・・・しばらくあいつらは

身を隠さなければいけなくなった 」





「ミス・ヨーコと慎二のせいね・・・ 」






彼の手が優しく握り返してきてくれた


あたしのせいで・・・

麻美ちゃんも猛もまだ危険なことは間違いない

誰一人死ななかったなんて信じられない








「大丈夫だよ!

バイクは弁償したし

アイツらは一緒にいるよ

そのうちひょっこり現れるさ 」







彼が微笑みあたしを安心させた

体中擦りむいた所が痛むし

足の裏は相変わらずズキズキするけど



あたたかな安らぎが全身に広がって

体の力が抜けていく

彼の頬に手を伸ばして優しくなでる





硬い骨


生気溢れる肌


触るとあたたかい

何よりも見ることの喜びを教えてくれる







生きている




生きて彼と一緒にいられるのだから

ほかのことはどうでもいい



息をしていられるだけで充分だった

ジョージの顔を見ていられるだけで充分だった





安らかな沈黙に浸り

陽ざしを浴びるカーテンや

広い空を二人で眺めていた







落ち着いてくると

周りを見渡せるようになってきた


ここは病院でもなく

楊貴館の一室でもない



ましてや

ジョージのマンションでもない


真っ白いシーツにインディアンキルトのカバー

作り付けらしい木のベット



床は温かなウッドデッキに

これまた大きなウッドクローゼット・・・・




車や都会の喧騒は聞こえなくて

ましてや楊貴館のように海の音も聞こえない・・・





それよりも

最初意識を取り戻した時に

天国と間違えたくらい

外には小鳥のさえずりの音・・・・






「ジョージ・・・ここはどこ? 」







あたしはあたりをもう一度見回し

彼に聞いた




ジョージは眉を吊り上げ

納得したように微笑んだ




「ああそうか

言った事なかったな

お前気を失っていたから

連れてくるの大変だったんだぞ 」







あたしが寝かされているであろう

ベッドルームのドアを彼は思いっきり開けた




するとおとぎ話に出てくるような

木で出来た可愛らしい

ダイニングキッチンの向こうに

開け放された大きなドアがあった




驚いた!



その向こうには一面大自然が

広がっていた






「ここはロベルトの家だよ

俺が育った所だ 」







そう言った彼の笑顔は背後のブルーの空と

同じに輝いていた





































































































ホストを愛した末路~ホストに貢ぐために毎晩違う男に抱かれる

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