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まったく足の裏を怪我するなんてものじゃない
本当に爪先立ちで歩くだけでもズキズキする
あたしは一日の大半をベッドの上で過ごした
「メシ! 」
そう言うジョージが手に持っている
折り畳みテーブルには
スクランブル・エッグと
トーストしたイングリッシュマフィンが三っつ
紅茶のポットの横にはカップ
切り分けたオレンジは
木製の小さなサラダボールに入っている
「いったい・・・
なんの騒ぎ?
これみんなジョージが作ったの?」
あたしが聞く
ジョージはあたしの背中に枕を二つも当てて
寄りかからせ笑いながら言った
「俺じゃなくて誰が作るんだ?」
「でも・・・・ホストの時は
料理なんてしなかったのに 」
「・・・あの時は
まったく人間らしい生活をしていなかった
ヤケになってたんだ 」
彼はテーブルをあたしの足元に降ろすと
ポットに紅茶を入れた
「まずはおしゃべりなしで
これを食べるんだ!
残すなよ 」
わざと顏を厳しめにする
楊貴館からここへきてあたしは体力も無く
寝てはしばらく起きてまた寝るといった
生活をすごした
昼間はジョージがあたしをリビングの
大きなソファまで運び
テレビのリモコンをあたしの横においた
まだ急に体を動かすと
高い所から投げ出されたような
めまいが襲うが
頭ははっきりしていた
日中はテレビを見たり
リビングの窓からまるで大陸のような
自然に日が落ちるのをぼんやり見ていた
肩にはジョージの緑色のフリースの
パーカーがかけられている
以外にも自然食派のジョージには
本当に驚かされた
彼の作る
アプリコットジュース
グレープフルーツのジュース
ラム酒をそれぞれ三分の一ずつ
混ぜたものを飲んだ
どれもとてもおいしく
手作りジュースなんか飲んだことはなかった
7歳の時水疱瘡にかかってからこの方
あたしはこんなふうに誰かに面倒を
見てもらったことはなかった
食事はジョージが3食ベッドまで
運んでくる
トイレやお風呂は
ジョージがあたしを抱えて連れて行った
「ジョージ!!
そんなこと一人で出来るわ!
恥かしいっっ 」
「何をいまさら
いいから 黙って世話されてろ!」
彼はあたしを養った
朝わたしの服を着せ
夜は脱がし着がえをさせた
あたしの洗濯物と自分のものを一緒に
洗い、干し、畳んで保管した
最初はかいがいしく身の回りの世話をしてくれる
ジョージに反抗していたけれど
強情な性格に押され
あたしは自然にジョージの優しさを
受け入れていった
夕暮れの空をぼんやり見ていると
ガス湯沸かし器の
お風呂が沸ける匂いを運んでくる
このロベルトの家は
なにもかも温かな作りで出来ていた
彼があたしのためにバスにお湯をはり
テキパキとあたしの服を
脱がせていく
バスタオルで体をおおうと
最後に足の裏のガーゼを外す
足の裏の傷を見て
ジョージが顔をしかめる
毎日執り行われている儀式だ
バスルームは小さいが
良い匂いのする温かいお湯にやさしく浸される
「今日は森林浴の香りのバスソルトだ」
「昨日の桃の香りの方がよかった
あれ 朝目が覚めても良い香りがしたの 」
「じゃぁそれを一ダース
ネットで注文しよう」
あたし達は女子高生のような
バスソルトを集めると言う趣味に没頭した
バスルームには11本ものさまざな香りの
バスソルトが所せましと並んでる
体を洗い十分温まるとあたしは
ジョージを呼ぶ
ジョージが体を拭いてくれて
服を着せてくれ
新しいガーゼを傷口に貼る
そしてあたしの髪をドライヤーで乾かした
不器用だったのは最初の二回だけで
毎晩ブラシであたしの髪を
ブラッシングしてくれた
生まれてこの方
あれ以前も
あれほど徹底的に
あんなに長い時間かけて
あんなにも愛おしげに
ブラシをかけてもらったことはなかった
あたしの髪は毎日艶々に輝いた
髪の手入れの後は肌の手入れもされた
ジョージは寝る前必ずあたしを
ベットに腰かけ顏を上に向けて
目を閉じさせると
化粧水を浸したコットンを
これ以上ないくらい優しく
顏に押し付けて撫でる
額から頬・・・・
それから眉にそって・・・・
その感覚は
たとえ百歳まで生きたとしても
あたしは
決して忘れないだろう・・・
あたし達はほとんど人と会うことは
なかったしまったく外出もしなかった
この小さな島の隔離されたロベルトの家で
おだやかに暮らした
昼間はジョージは広大なロベルトの庭や
畑を手入れしたり
パソコンを使って
色々仕事をしていた
夜はロベルトの書斎から
持ち出してジョージが
あたしに本を読んでくれたり
二人が別々に本を読んだりした
二人でテレビを見ることもあったし
なによりも喋り合うことが一番多くて
文字どおり何時間も話をした
あたしはこんなに長時間
人と話をしたことがなかった
特にあたしが大好きなのは
彼がここでロベルトと一緒に
過ごした幼い日々だった
あたしはロベルトに詳しくなり
大好きになった
ジョージのたった一人の身内・・・
目を閉じると彼がそこのソファに
腰かけてこちらを見て笑っているのが
想像できるし
毎日皿洗いを強要した時の
幼いジョージがその時どんな気分かまで
分かった
逆にジョージのお気に入りは
あたしが孤児院でかわした
学園長のお説教だった
このまま彼にこうして守られ
養われ・・・
家族のように一緒にいられれば・・・・
あたしは一生歩けなくても良いと思うほどだった
そう ただ一つの事だけを除いては・・・・
あたしも彼も楊貴館の事だけは
一切触れなかった
夜はあたしはベッドで
ジョージはリビングのソファで別々に眠った
とても温かなあたし達の
間にはやはりピリッとした空気が流れていた
そう・・・・・
ジョージは・・・・
あたしを抱かない・・・・
温かい眠りから
誰かがおしゃべりをしている声でさえぎられた
ベッドルームの大きな木のドアが開き
ジョージが入ってきた
「起きろ!ユカ!
じいさまがお前を看てくれるぞ 」
誰だって?
ぱちくりと目を開けるとジョージの
後ろから長身で猫背の老人が見えた
「ふぉっ!ふぉっ!
ずいぶん顔色が良くなったの!」
白髪を揺らし
おじいさんはもじゃもじゃの眉の下から
あたしを見た
初めて見る老人に
あたしが警戒していると
床をきしませながら
おじいさんが近寄ってきた
「気を失っているお前の
足の裏を縫ってくれたのは
このじいさまだよ!
島で唯一の医者だ 」
「何でも屋とも言われとるがな 」
爺さんは愉快そうに
あたしを見て言った
「ロベルトも俺も病気になったら
いつも爺さまに世話になったものだよ 」
とジョージ
「ロベルトのことは残念だったの
さぁ お嬢ちゃん足を診せてごらん
今日は抜糸に来たんじゃ 」
そう言うとあたしの前の椅子に腰かけ
眉の奥から輝く目を煌めかせた
お爺さんは小さな痩せこけた手で
あたしの足首をぎゅっと握り
ハサミを器用に使って
縫った糸を切っていった
あたしは怖くて患部は見れなかったが
少しチクチクしただけで痛くなかったので
ホッと緊張していた体を緩めた
屈みこんでいたので
彼の老人臭が鼻についた
抜糸が終わった後
おじいさんの顔の深い皺がほぐれて
平和な表情であたしに頬笑んだ
「ふむ
あんたは可愛らしいお譲さんだな
小さな頃から島中の女を泣かせてきた
ジョージがのぼせるのも無理もなかろう
気を失っているお前さんを
担ぎ込んできた夜は本当に驚いたぞ
おかげでワシは上等のコーヒーの
出来立てを味わいそこなったんだ 」
老人のぶしつけな言葉で気恥ずかしさから
どういうわけか笑いが出た
「よけいなこと言うなよ爺さま」
ジョージが気まずそうに
老人の後ろでモジモジした
「さて!
もうこれで歩いても大丈夫じゃ!
若いからの
すぐ元気に走り回れるようになるじゃろう」
「ありがとうございます・・・・
えっと・・・・ 」
「前田のじいさんだよ
この島じゃ知らない人はいないぐらい有名だ」
「お前ほどじゃないよジョージ
帰ってきてくれて嬉しいよ 」
老人が愉快そうに言い返した
ジョージは前田のお爺さんに
瓶ビールを一本差出し
お爺さんはおいしそうにそれを飲みほした
そしてしばらく
ロベルトが残した
広大な庭の手入れ法や畑の作物から
ここ一週間のお天気の話まで
ジョージと長い事会話に花を咲かせていた
「・・・・俺たちを訪ねてくる者が
いたら・・・
知らせてくれ・・・ 」
最後に爺さんを見送った時ジョージが言った
「・・・わかっとるよ・・・ 」
そう言うとお爺さんは
あたしにウィンクしてかわいい緑色の
レトロな軽トラックに乗って去って行った
ジョージはそのまま
あたしの顔を見ず裏の畑の野菜を
収穫してくると言って
そのまま畑に行った
一人家に残されたあたしは
爺さんの言う通り
ベットから降りて歩いてみた
一歩、一歩
恐る恐る歩いてみる・・・・
痛くない
とても嬉しくて何週間ぶりに
ジョージが用意してくれていた
スニーカーを履いて外に出た
暖かい風が頬を突き抜ける
戸外はすべてが平和で優しく見えた
コンクリートではなく
柔らかな腐葉土が足に優しかった
初めて外からロベルトの丸太小屋を
見渡してみると本当に美しかった
均整のとれた同じ長さの杉の木が
一文の隙間もなく交互に組み立てられている
横にはいかにも植物学者が作った
広大な庭に色とりどりの花が咲き乱れていた
年期の入った蔦が絡まった
バラのアーチの奥には
豊かな菜園が広がっていた
まるでアルプスの少女ハイジの気分
今はその一番奥のまだ手入れされていない
畑にジョージが鍬を突き立てていた
一心不乱に土を掘り起こしている
金髪はボサボサでそれを
本人は少しも気にしていない
ジョージの顔には苦痛の色が
ハッキリ浮かんでいる
あたしは畑の淵の柵によりかかり
一心不乱に畑仕事をするジョージを見ていた
何を話しかけて言いかわからない
そうしているうちにジョージが
話し出した
「ミス、ヨーコと慎二が捕まった 」
その言葉にあたしはビクッと飛び上がった
慎二が生きていたの?
ジョージが今朝見た
ネットニュースを見つけたそうだ
もっともニュースでは
小さな東北の風俗店の火事騒ぎと
書かれていたらしいけど
あの東北の果ての地の・・・・
宮殿のような館で
毎晩繰り広げられる欲望の夜・・・
そこで人身売買がされていたこと・・・
中にはあたしみたいな未成年もいた
そこが爆破され
ユウコ他死人が出て
オーナーのミス、ヨーコと慎二はもちろんの事
アランやセリナさん従業員のほとんどが
重要参考人として逮捕された
あたしだけがそれを免れて
ここにいる・・・・
ジョージのおかげで
当然警察があたしを追っていると思う
そしてジョージはそれを恐れている・・・
今やジョージは荒々しくシャベルで畑を
掘って土を横にほおった
というよりまき散らした
「俺はアホだ!」
ジョージがうなるように言った
「賢くはないでしょうね」
そう言ったら
ジョージにギロリと睨まれた
「あたし達二人という意味よ」
あわてて
肩をすくませて柵にもたれかかった
次にシャベルの先端で土を激しく叩きながら
土を均し高さを均等にした
彼の額に玉の汗が光った
大きく息を吸って覚悟を決めた
ここに来てから
三週間お互い避けていた
いよいよこの話題をを持ち出す時が来た
ジョージは慎重に息を吐きだし
迫りくる喪失の痛みに備えて
全身の力を込めてシャベルを畑に突き刺した
美しい外見に似合わず色々考えすぎる
彼が愛おしくてたまらない
「俺はいつもしくじる!
俺のせいでいつも俺の大切なものが壊れる!」
ジョージはケンカ腰で言った
「慎二はお前が面接にこなかったと言った!
間抜けな事に俺はそれを信じたんだ
そして暫くして俺はお前が俺を嫌になって
俺を捨てたという結論にいたった
ロベルトの時だってそうだ!
もっと早く彼の病気に気づいていれば
彼を死なさずにすんだんだ! 」
ジョージはシャベルを畑に突き刺した
怒りを全身に漂わせている
「俺の間違いのせいでいつも人が死ぬ!」
ジョージの激しい口調におどろいた
「あたしも死ぬっていうの?」
言葉を選ぶように尋ねる
それはユウコの事も入っているんだろうか
二人の間に重い沈黙が広がった
雲はどんよりと灰色に広がっていた
もうすぐ雨が降りそうだ
数分後とうとう沈黙に耐えかねて
あたしは言った
「たしかにあなたは慎二に騙されて
あたしも捕まった!
でも あなたは助けに来てくれた 」
「偶然助けれただけだ!
でも お前もいづれ俺に失望する
女はみんなそうなんだ 」
ようやく
この話の意図が掴まれた
「あなたはあたしが
いつかあなたを捨てると思っているのね」
不意に彼の体が硬くビクついた
ユカから誤魔化しを
許さない口調で言われた
ジョージは何も答えられなかった
幼い頃
自分を捨てた母の後ろ姿が
脳裏を走った
あれほど自分に愛を語っていたのに
突然店に来なくなった客・・・・
苦い経験から
女には希望を持たない考え方を
学ばされただけだ
わずかにでもかかわりを持った女は一人残らず
最後にはジョージを期待はずれとみなした
わかっていたのに
ユカだけはどうしてか自分は執着していた
そして何も知らない未成年の彼女を
とんでもない事件に巻き込んでしまった
ユカの問いに対し慰めを
期待する負け犬のごとく
情けないマネはしたくなかった
ただただ 自分自身に腹が立った
突然ユカが吼えた
「あなたのおかげであたしは生きているのよ!
ジョージ! 」
「そもそもの原因を作ったのは俺だ!」
ジョージは吐き出すように言った
「それを言うならあたしもよ!
あそこから逃げ出そうと思えばやれたのよ!
でもそうしなかった!
あたしはあなたに捨てられたと思っていたの
でもあなたはあたしの命を救ってくれた
あの館でくすぶっているあたしを!
海に飛び込んで気を失った
あたしをここに連れてきてくれた 」
「それでも・・・・」
苛つきながらユカが遮った
「それでもじゃないっっ!
あそこにいて分かったの!
地獄のようなあの場所であたしは
考えることはあなたの事しかなかった
あなたがいなかったらあたしは
死んでいた!
あなたに助けてもらった命よ
絶対あたしはあなたから離れないから!
そうよ!何があっても絶対これからは
そばにいる!!
あなたが嫌がってもっっ!
覚悟することね!!
わかった? 」
顏を真っ赤にして怒っているユカが
両腕を腰に置き肩で息をしている
そんなユカに驚き
同時に魅了された
ジョージはここ数日腐ったみかんのように
じゅくじゅくしていた心が
今のユカの逆ギレで
いくぶんマシになったような気がした
「うん・・・まぁ・・・
わかったよ・・・ 」
ジョージはつぶやいた
「わかったならよろしい」
ユカはこれで話がついたと
いわんばかりに咳払いした
まだ茫然と突っ立っている
ジョージの手からシャベルをつかみ
畑にほおった
雨がパラパラ二人の
頭や肩に降り注いだ
ユカがジョージの手を掴んで
そのまま引きずるように家に連れて帰った
ジョージは抵抗する気も失せ
磁石のように手を引かれるままに従った
おそらく問題は山積みだ
一時的なものだろうが
それでもユカの言葉に救われて
心が軽くなったのは確かだった
何気ない風を作ろうとするあまり
あたしの手は震えていた
ジョージの気持ちがこれほど不安定な
時に誘いをかけようだなんて
何に身を投じるつもりなのか
自分でもよくわからなかった
家に入るとお互い見つめ合った
当たり前のように二人同時に服を脱ぎ
考えていることは同じだと確信した
ロベルトの暖かなベッドで
抱き合い心の中にくすぶっていた
疑いはすべて晴れていた
満ちていく潮のようにお互いの体を触り
ここにいる事を確かめた
もう逃げも隠れもしないのだから
これからはもう
あたしは彼にキスをし
彼が入ってきやすように体を開いた
二人はきつく抱き合った
わずかに体を揺らすたび
吐息をつくたび
体の内側が麻痺するたび
官能の花が咲きほころぶ
鮮やかに咲いて二人を驚かせた
思いがけない喜びの波が次々に押し寄せる
今この世界の片隅に存在するのは
ふたりだけ
申し分のない幸福に包まれて
あたしは初めて女であることを神に感謝した
雨は深夜まで続いた
ロベルトの丸太小屋の屋根を雨の音が
リズミカルに流れていく
あたしはその音に耳を傾けながら
横に眠るジョージを見つめていた
すると彼がこちらに寝返りを打った
あたしはやみくもにそっと両手を伸ばし
彼の頭を胸に抱き寄せた
彼は腕をあたしの腰に回して
深いため息をついた
むきだしの胸にあたたかな
彼の息が伝わってくる
震える手で彼の髪をなでると
不意にコップから水が流れるように
彼の全身の緊張が解けていく・・・
その時妙な感覚を覚えた
彼が必死にしがみついていた
強さが抜け出していき・・・
あたしに流れ込んだ
自分の体を包んでいた倦怠感が
彼を抱きしめることで力強いものになり
心臓がふらつくのをやめて
いつもの力強く疲れを知らぬ
鼓動を打ち始めていた
涙が溢れてくる
ここの所畑仕事で日焼けしている
彼の赤い頬の部分を指でなどる
高い額
濃い眉毛
頬の広い平面
刃のように長くまっすぐな鼻
閉じた目の淵には
男のくせに長いまつげがひしめいている
十分目で楽しんだ後は
優しく小さくて形の綺麗な
耳の形を指でなどった
くすぐったそうに
彼が仰向けに寝返りを打った
片手を頭の後ろに入れ枕代わりにしている
目線がシナモン色のやわらかな
腋毛をとらえ
そこにも指を這わす
「ここと眉は茶色なのね・・・」
優しく腋毛を撫でた後
視線をもっと下まで伸ばす
肩は幅広く
腰は細い
長くて力強い胴は
筋肉がわずかにもりあがり
ゆったりと体の力を抜いていても
ぴんと張り詰めていた
「下の毛も調べたいならどうぞ」
そう言ってゆっくりと彼の目が開き
こちらに寝返りを打った
その時あたしを見つめた
その表情が不可解だったから
あたしはちょっと不安になった
「ぼんやりして何考えているの? 」
彼の頬をそっと撫でる
すると彼はその手をぎゅっと
握りしめて大きく息を吸った
「ああ・・・考えていたんだ 」
そこで下を向いてためらっていた
「何を考えていたの? 」
「どんなのだったのかなって・・・
楊貴館では・・・ 」
一瞬心臓が止まった
顏から血の毛が退いたのがわかった
あたしは警戒して言った
「何が・・・・言いたいの? 」
彼は真剣な顔をしていた
「いや・・・
責めているわけじゃないんだ
ただ・・・
その・・・
あそこには世界中の金持ちが
集まるわけだから・・・
特別なヤツもいたんじゃないのかなって 」
彼の顔はあたしに負けないくらい
白くなった
苦痛に苛まれるあたしの
視線を避け
またうつむいた
「・・・・あたしが大勢の男とやったことを・・・
あそこで何をさせられたかを・・・
あなたは聞きたいの?
それはもう一度同じ
体験をしろという事よ
ジョージ! 」
「いやっ!そうじゃない!!」
言わなければよかったと彼が唇を噛む
でも もう遅すぎる
彼は口を固く閉じ暫く何も言わなかった
ようやく顏をこちらに向け
まっすぐにあたしを見た
視線をそらしたかったが出来なかった
「最初に一緒に住み始めた時・・・」
彼が静かに言った
「俺はお前ともやっていたが
外では他の客ともやったいた・・・
それは仕方がなくだ・・・
ああ・・・言い訳だなこりゃ 」
フッと彼は笑った
「どう思っていた? 」
あたしは唾を飲み込んだ
「それは・・・・
その・・・・
貴方はホストなんだし
そういうことは仕方がないと思っていた・・・
あたしの所に帰ってきてくれさえいれば・・・
でも・・・・ 」
それ以上話せない
でも彼は勘弁してくれないだろう
「嫉妬していたわ・・・・ 」
あたしはそっと言った
「あなたが他の女を触って・・・・
あたしより良いって思っていたらって
考えただけでも鳥肌が立ったわ
でも許してしまうの・・・
貴方には何も言えない・・・ 」
「俺も今同じ感情を抱いている
・・・・とてもこれは辛いな・・・ 」
小さなショックが走り抜けた
ジョージはあたしがあそこで
やってきたことを許してくれないのだろうか?
「俺が好き放題やってる時
お前はひたすら待ってくれた・・・
その事で俺はお前を責められない
コカインでボロボロになっている
俺をお前は慈しんでくれた
癒してくれた
俺を愛してくれた
だから・・・・・ 」
あたしは深く息を吸いこんだ
胸がくるしくチクチクした
「俺はたぶんお前がしてくれたことを
俺もしてやれるだろうと思った 」
二人のあいだの沈黙は
どんどん深くなっていった
ジョージは仰向けになったまま
まったく動かずまったくの無表情で
天井を見つめていた
無表情には耐えられない
あたしの心はからっぽになった
でもここで怯んではいけない
ここの架け橋を乗り越えなくては
あたしは彼に正直でいることを
心に誓った
「たしかに楊貴館では大勢の男を相手したわ・・・ 」
手を差し伸べて
彼の胸に置いた
触れると彼が体を硬くした
「そうすることでミス、ヨーコがあなたに
会わせてくれると約束したの・・・・
だから・・・・
あたし・・・
彼女に従った 」
「あの女・・・・・ 」
ジョージがギリリと歯をくいしばった
「でも彼らにとってあたしはお金で買える
都合の良い人形と同じなのよ
ああっ!もうバカバカしい!!
あれはただの行為よ! 」
「そうなのか? 」
彼が置きあがり
あたしに目を向けた
「そうよ!犬が繁殖期になると
誰かれ構わず雌犬を追いかけるでしょ!!
あれと同じよっっ 」
ポロポロ涙が溢れてきた
怒りが止まらない
あたしは力いっぱい彼を殴ってやりたかった
こんな事を話させる彼が憎らしくてたまらない
でも力が沸いてこなくただ彼の胸を
ポコポコ力なく叩くだけだった
「あなたに触られた時みたいに
体が熱くならない
血が湧き立たないっっ
あなたに入ってこられた時のように
心から愛しさなんて湧いてこない
そして終わった後は・・・・・・ 」
「もういいっ ユカっ
悪かった 」
ジョージがぎゅっと
抱きしめた
「ただ・・・ただ
あなたに恋焦がれる体を持て余すだけ・・・」
あたしは泣いた
ひたすら彼の腕の中で泣いた
彼がゆっくりと優しく髪をなでた
指を髪に絡ませながら
「・・・俺なら耐えられなかっただろうな・・・
偉かった・・・ 」
彼がささやいた
「偉くなんかないわ 」
あたしは言った
目を閉じたまま
力を抜き彼に抱きしめられたまま左右に
ゆっくり揺らされた
その心地良さにやがて涙も乾いた
そしてこの話の流れからとても心配していた
事を聞けるチャンスだと思った
「ねぇ・・さっきSEX して
あたし・・・変わった? 」
背中に手を回し彼の体を探索する
目で感覚でもう一度覚えなおす
「変わったかとは?
ああ??? 」
彼は小さく笑って
あたしの股間に手を伸ばし
キスと同時に指が二本入ってきた
「ここのことか?
もう一度確かめよう 」
彼は少しはにかんで仰向きになって
一定のリズムで自分のものを
動かして準備をした
とてつもなくそそり立っている
あたしは乱暴に彼にキスを返して
彼のものを深くくわえ込み
香と手触りとぬくもりと塩辛い味を楽しんだ
それから彼があたしをもっと近くへもっと
深くと誘った
あたしはやみくもに彼が欲しくなって
たまらなくなった
楊貴館では経験したことがない
枯渇感に鳥肌が立った
今すぐ彼とつながらないと死んでしまう
彼にまたがるとうまくおさまり
二人して深いため息をついた
「ああ・・・・
俺のものにぴったり収まっている
寸分の狂いもないよ・・・・ 」
彼が顏をしかめて
腰を押し上げてきた
ああ・・・
本当に・・・・
彼が刀ならあたしはそれを収める鞘だ
一つになって初めて一人前
あたしも呻いて天井を仰いだ
脚が彼のために開くのを感じた
あたしの体全身が有頂天で喜びに
全開するのを感じた
元はあたし達は一つじゃなかったの
ではないかと錯覚するぐらいの満足感
「他の女とはしない・・・ 」
下から突き上げ彼がささやいた
「お前以外の女とは!
お前も二度とするな! 」
息が上がりすぎて
声にならない
突き上げが激しくなる
あたしはうめき顔をそらした
「俺をみろ!
ユカ! 」
体制をすばやく変えられ彼がのしかかってきた
やさしい
でも執拗でリズミカルな動きが続いた
「お前は俺のものだ!
俺もお前のものだ! 」
「ええ!そうよ!ジョージっ」
激しく二人で腰を打ち付け合う
「俺以外の男とは二度とするなっ!」
「誓うわ!ジョージ 」
涙がとめどなく溢れてくる
彼が体重であたしを押さえつけてくる
肌がこすれ合うもっと欲しく
もっと激しく
あたしは腰を押し付ける
そしてあたしは見た
彼の中に閉じ込められているものを
彼の一番深い部分を
傷ついた魂をさらけ出すのをあたしは見守った
彼の茶色の瞳は涙で潤んでいた
二人で繋がりながら
泣きたかった
彼はあたしのもの
あたしは彼のもの
そしてあたしは彼の中へ旅立った
彼もあたしの中へ旅立った
あたしの肉体は激しく麻痺し
喜びが絶頂を迎えるべく
内側が麻痺しだした
「愛している」
荒い息をあたしの胸の上で整えながら
彼が言った
信じられない言葉に全身が震える
「あたしも愛している」
喘ぎながら囁き返した
「きて!さぁ!
ジョージ
一緒にいって!」
官能の花がほころび
鮮やかに咲いている
深く繋がっているから
彼のささやきが体に響く
「ずっとそばにいれくれ」
あたしは心をこめて言った
「いつまでも 」
彼の目にも涙が光っている
あたし達は見つめ合い
小さくキスをした
まだあたしが理解していないかというように
彼が一つ一つの突きに力を込めた
「結婚してくれ
永久の誓いだ
もうお前なしでは生きていけない」
あたしはこれ以上ない幸せの涙を流し
絶頂の締め付けで答えた
目の前で光が飛び散る
と同時に彼が叫び放ったものが
あまりにも熱く温かだったので
胸が締め付けられた
荒い息を調え
二人はひとつになって見つめ合った
ジョージの瞳にあたしがいた
あたしの瞳にも彼がいる
互いの目の中に自分を見いだした時
あたしはそっと囁いた
「もう死んでも離れないから・・・・」