テラーノベル
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楽屋の長椅子に深々と腰掛け、スマートフォンを眺めていたナオヤの視界が、急に真っ暗になった。
「うわっ、なになに!?」
「はい、だーれだ」
背後から覆いかぶさるようにして目隠しをしてきたのは、わざとらしいほど低い声を出しているカイリュウだった。ナオヤが呆れたように「カイリュウでしょ、声でかいねん」と手を払いのけると、カイリュウは悪びれる様子もなく「正解〜」と隣にドカッと座り込んできた。
ここ最近のカイリュウの態度は、どう考えてもおかしい。
ナオヤが髪セットを終えた途端に「今日の髪型、なんか寝癖残ってない?」といじってきたり、お気に入りのドリンクを飲んでいれば「一口頂戴」と言って半分以上飲んでしまったり。挙句の果てには、ナオヤが他のメンバーと楽しそうに話していると、わざと間割り込んできてくだらないイタズラを仕掛けてくる。
まるで、好きな子にわざと意地悪をして気を引こうとする小学生そのものだった。
「なあカイリュウ、さっきナオが取っといたアイス、勝手に食べたやろ」
「え?知ら〜ん。名前書いてなかったし」
「絶対分かってて食べたやん!楽しみにしとったのに!」
ぷりぷりと怒るナオヤを見て、カイリュウは満足そうに口元を緩めている。その嬉しそうな表情を見た瞬間、直哉の頭の中でいくつもの点が線で繋がった。
(……あ、これってもしかして)
ナオヤはふっと力を抜き、ソファの背もたれに体を預けた。そして、少し身を乗り出してカイリュウの顔をじっと覗き込む。突然至近距離で見つめられたカイリュウは、「な、なに……?」と露骨に動揺し始めた。
ナオヤはニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべ、少し低めの声で囁いた。
「なあカイリュウ……もしかしてカイリュウって、ナオのこと好きなん?笑」
「――はぁっ!?」
裏返った声が楽屋中に響き渡った。カイリュウの顔は一瞬で耳まで真っ赤になり、勢いよく立ち上がろうとしてテーブルに膝を激しくぶつけた。
「いっ……!な、ななな何言ってんの!?意味分からんし!自意識過剰ちゃう!?」
「顔真っ赤やで。動揺しすぎ」
「これは!部屋の空調が暑いだけ!!」
必死に手を振って否定しようとするものの、目が泳ぎまくり、言葉も噛み噛みだ。普段のトークのキレは見る影もない。ナオヤはそんなカイリュウの反応を面白がりながらも、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じていた。実は、一方的に意地悪されていたわけではない。ナオヤの方も、カイリュウが自分に向ける特別な視線に、ずっと前から気づいていたのだ。
焦りまくって楽屋から逃げ出そうとするカイリュウの腕を、ナオヤはキュッと掴んだ。
「逃げんでいいやん。……冗談で言ったつもりやってんけど、ほんまやったん?」
ナオヤのまっすぐな瞳に見つめられ、カイリュウはついに観念したように肩を落とした。首筋まで赤くしたまま、小さな声でつぶやく。
「……だって、ナオヤが他の奴とばっか楽しそうにしてるから」
「え?」
「かまってほしかったんや悪かったな!ほんまに好きやから、どう接してええか分からんくなってただけや!」
開き直ったように叫んだカイリュウは、恥ずかしさのあまり両手で顔を覆ってしまった。普段は頼れるお兄ちゃん的存在のカイリュウが、自分の前でだけ見せる無防備な姿。ナオヤの心臓が、ドクンと大きく跳ねた。
ナオヤは掴んでいた腕を引っ張り、俯くカイリュウの顔を覗き込んだ。
「……ほんま、子供やな」
「うるさい、笑うなや……」
「笑ってへんよ。……俺も、カイリュウのそういう素直じゃないとこ、嫌いじゃないし」
カイリュウが驚いて顔を上げた。ナオヤは少し照れくさそうに目を逸らしながら、耳元で小さく囁いた。
「これからは意地悪じゃなくて、ちゃんと『好き』って言ってや。そしたら、ちゃんと付き合ってあげるから」
一瞬フリーズしたカイリュウの顔が、ぱっと明るくなる。
「ほんまに!?……じゃあ今言う!ナオヤ、めっちゃ好き!!」
「声でかいって!楽屋に響くやろ!」
焦るナオヤを置き去りにして、カイリュウは心の底から嬉しそうにナオヤをぎゅっと抱きしめた。今まで意地悪ばかりだった反動のようにストレートな愛情表現に、今度はナオヤの方が顔を赤く染める番だった。
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