幼児化
ある朝、さとみがリビングに入ると、そこには信じられない光景が広がっていた。
「……お、おま……誰?」
ピンク色の髪をくしゃくしゃにして、部屋の真ん中でぺたんと座り込んでいたのは、まさかのジェル……だった。いや、ジェルではあるけれど、どう見ても年齢が大幅に下がっている。
「さとちゃ、!」
「うわ、しゃべった!?」
声も幼く、高め。顔も丸くてほっぺがぷにぷにしてる。だけど、ちゃんとジェルの面影がある。
「おなか、すいた……」
「うそ……何が起こったんこれ……」
キッチンでトーストを焼きながら、さとみは困り果てていた。突然幼児化したジェルに、どう接すればいいか分からない。でも、本人はまったく気にしていない様子で、トーストの匂いにくんくんしながら椅子にちょこんと座っている。
「こぼすなよ?」
「こぼさないもん!」
そう言った5秒後に、ジャムがテーブルにべったり。
「お前なぁ……」
「うえぇぇん……」
「泣くな! 泣いたら余計ややこしい!」
昼には一緒にお昼寝をし、午後はお絵かきをした。さとみの顔を描いたらしく、「さとみ、かっこいい〜」と満面の笑みで渡してきた。
夜
ちいさなジェルは、ふかふかのおふとんの中で、さとみの腕にすっぽりおさまっていた。
「さとみ〜……あったかい……」
「おまえもな。湯たんぽより効くわ」
「んふ……いっしょが、いちばんすき……」
「はいはい、甘えんぼさん、♡」
さとみは、ちいさなジェルの髪をやさしくなでながら、とんとん……と心地よいリズムで背中を撫でてやる。
ジェルの目がだんだん細くなって、まぶたがとろ〜んとしてきて
「……すぅ……ぅ……」
(あ、寝たな)
そう思った瞬間――
「……さと、ちゃ……」
「ん?」
「ちゅ……して……」
さとみの腕の中で、ちびジェルがむにゃむにゃと寝ぼけた声で言った。
「え……今なんて?」
「ちゅー……してぇ……さ、ちゃの、ちゅ……ねむれるの……」
「おまえ……」
寝ぼけながら、ふにゃっと顔を持ち上げて、唇をそっと寄せてくる。
(く、くそ……かわいすぎこれ……)
「……しょうがないなぁ、寝ぼけジェルには逆らえんわ……」
そっとくちづけを落とすと、ジェルはうっとりと満足そうに息を吐いた。
「ん〜……さとちゃ、だいすき……」
そして、そのままコテンと腕の中で再び眠りに落ちていく。
「……反則すぎ……こんなん、一生守る、」
さとみは小さな体をぎゅっと抱きしめて、今度は頬にもう一度、やさしくちゅ。
「おやすみ。世界一甘えんぼな、ジェルくん」
翌朝
「……おはよ」
「ん〜……さとちゃん……」
「もう朝やで。そろそろ起きよ?」
「……ねえ、昨日の夜……おれ、なんか言ってた?」
「んー?『ちゅーして〜』って寝ぼけながらおねだりしてた」
「っっっ!!??? や、やめろって!!//」
「可愛かったで。そのあとも、ちゅーでねむれるとか言ってた♡」
「うぅ〜〜〜〜……もう一生起きたくない……!」
「よしよし♡ 起きれんなら、今日も添い寝しよ♡」