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玄関の閉まる音が聞こえて、目が覚めた。
浅い眠りの中で温かい布団に包まれ、微睡んでいると朝倉先生が近づいて来る気配を感じる。
おでこに手を当てられ、やがて首筋にその手が移動し、熱があるのを確認しているようだった。
そして、一瞬、唇に何か温かく柔らかい物が触れる感じがして、ガサガサという音の後に、おでこに冷たいシートが張られて、朝倉先生の気配が遠ざかる。
私は、寝返りをうつフリをして、横向きで掛布団の中に潜り込んだ。
えっ?
私に何が起きた??
朝倉先生にキスをされた?
願望が見せた妄想? 夢?
ああ、そうか、熱に浮かされて妄想が夢になって出てきたんだ。
妄想激し過ぎ、暴走しちゃっている。
私、ヤバイなぁ。
少しして、ベビーベッドの上の美優が目を覚ましたようで、フニャフニャ言い始め、さすがにいつまでも寝たふりを続けてはいられないと意を決して布団から出る事にした。
私がグズグズしている間に朝倉先生は、美優を抱き上げヨシヨシとあやしてくれる。
「朝倉先生、ありがとうございました。おかげでだいぶ具合が良くなりました。冷却シートまで貼って頂いて、すみません」
と、声を掛け美優を受け取とろうと朝倉先生の前に立った。
朝倉先生と視線が合うと、ふぃっと、ソッポを向かれてしまう。
視線を逸らされたことがショックで、自分が何かやらかしてしまったのではないかと不安になってしまう。
「朝倉先生?」
「あの……」と、朝倉先生は言い淀む。
朝倉先生から美優を受け取りながら次の言葉を待ち、背の高い朝倉先生を見上げていた。
今度は、ふっと包み込むような優しい瞳を向けられる。
「谷野さんの大分調子も良くなった様だし、今日は、お暇するよ」
寂しさを覚えながらも、さんざんお世話になって、これ以上引き止める事も出来ない。
玄関で見送って、お礼を言う。
「今日は、たくさん助けて頂いてありがとうございました」
すると、朝倉先生は私の首に手をあて、体温を気遣う。
「まだ少し熱がある、また、明日も来るよ」
朝倉先生の手が離れて行く。
朝倉先生の手の温かさの記憶と香水のラストノートが鼻腔をくすぐる。
違う熱が上がりそうだ。