この話だけはノベルで描きたかったから読み切りです。
「茹だるような夏の思い出」
※ほぼ二人しか出てきません(💚❤️)
※死ネタを含みます
※とある曲のパロディです
上記のことが大丈夫でない方はお早めにお帰りください(?)
「」→💚
『』→❤️
() →💚の心情
【】→❤️の心情
これは、まだシクスフォニアという、“5人組”の歌い手グループが結成される5、6年前の話だ。
とある彼の、昔話だ_。
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この日記は蒸し暑い、とある昼下がりから始まった僕らの逃避行を綴ったものだ。
なんでこれを書こうと思ったのか、自分でもよくわからないけど、
一夏の思い出を、きみを、逃がさないようにしたかったからなのかもしれない。
早くも沖縄の方が梅雨明けをした。なんていうニュースが流れる昼下がり。
なにも予定はなく、なにをする気にもなれないような夏の暑さの中、
垂れ流したテレビの音をかき消すようにピーンポーンと軽快な音が鳴り響いた。
「はーい、今出ます」
玄関まで歩いて行く。冷房の届かない玄関は少し蒸し暑かった。
『…』
扉を開けて、そに先に見えた見慣れた顔。
「どしたのひまちゃん、今日なにもないよね?」
雨も降っていて、余程のことがない限り家を出よう、なんて考えに陥らないであろう夏だ。
傘もさしてなかったのだろうか、びしょ濡れで、微かに震えているようにも見えた。
『…なぁ、すち』
「ん?どした?……⁉︎」
顔を上げた彼は、今にも泣き出しそうだった。
そして、こう言った。
『俺…ひと、殺しちゃったみたい』
あまりにもきみがすんなりと言うから、どうしたらいいのかわからなかった。
「そっかぁ…んじゃ、どうする?」
彼が欲しいのは心配でも怒号でもないだろう。
『…すちは、なんも聞かないんだ』
「聞いてなんになるの、俺はひまちゃんの気持ちが知りたい」
少し低い彼の背丈に合わせるように屈み、前を見つめる。
『んー、そうだな、』
『もうここにはいられないと思うし、どっか、遠いところで…ッ』
『死んで…こようッ、かなぁ…』
「じゃあ、俺も連れてってよ」
ぽかん…と効果音がつきそうなほど間抜けな顔のきみが俺の目を見つめる。
『は?…わかってんの?だって、おれ…』
「俺は世間よりひまちゃんの方が大事だしね〜」
『そ、っか』
安堵なのか、不安からか溢れた彼のため息を掻き消すように俺は一言添えた。
「どうせただの家出だよ。帰宅予定も、行き先もない旅行。」
*
「ちょっと待ってて」と、用意をするために部屋に戻った。
流石に濡れたまま玄関に放置するのは良くないと、彼は今お風呂に入っている。
「なにがいるかなぁ…」
(財布はいるでしょ?暇つぶしにゲームでも持っていこうかな、電波は繋がらないだろうけど。
…あぁ、そうだ。これは旅行。俺らの逃走旅行。勿論、護身用に持ってった方がいいよね)
そう言って折り畳み式のナイフを取り出して、鞄に詰めていく。
なにかあったときに、と書き綴っていた今までの日記は捨ててしまおう。
写真は、…まぁ大丈夫だろうと棚の中にしまった。
宛先もなにもないけどこれでいい。
16の夏、俺らは大人からの逃走旅行を始めた。
*
逃走旅行、というのは割とハードなもので、2日とすればひまちゃんが殺したやつのニュースも流れるようになって。
資金がなくなったらお金を盗んだ。今更幾つ罪を重ねようが変わらない。
なんて謎理論を掲げて、ね。
街中には出れなくなったけどそれでよかった。
家族もいない、学校のクラスメイトだっていらない。何もかもいらない。
ただひまちゃんと、二人でいれるのなら。
もしその結末が、死だったとしてもそれでよかったのだ。
狭い、何かに縛られて生きる、こんなクソッタレな世界から逃げ続けた。
山に入って、廃線を見つけ、馬鹿みたいに歌いながら上を歩いて。
少し震えていた彼も、いまじゃ元気に笑っていて、
もうあそこに戻れないとしてもよかった。ってそう思えたのだ。
『はは、すち、メガネどっかに落としたんじゃね?』
「落としたかもなぁ…まぁなくてもなんとかなるし今更どうでもいいよ」
なんて、くだらない話で笑い合って。
それでも時々、不安になって、その度に言うんだ。
「人殺しなんてさ、そこら辺に湧いてんじゃん。大人も、子供も、女性も、男性も、警察官も、先生も、みんな人殺しだよ。そんな人殺しが蔓延る世界なんて俺はどうでもいいね。」
「ひまちゃんといれるなら、どこにだってついてくよ。」
『地獄かもしれないよ』
「それでもついていくよ、地獄だって二人ならへっちゃらでしょ?」
『ははは、そりゃそうかもな』
*
『俺さ、この世界の主人公になりたかったわけじゃないんだけどさ。』
逃走旅行を始めて8日目のことだった。
ぽつり、と独り言にように喋るきみに、そっと耳を傾けた。
『もし、この世界に主人公がいるなら、“こんな世界間違ってる”って、
俺らのこと救い出してくれるのかな、ちゃんと、見捨てずに救ってくれるかな』
『なんて夢ならもう捨てたけどさ、だって、いくら夢見たって現実は変わんないじゃん。
ならまだ現実を見る方がいい気がしてさw』
『なにか、欠落があったんだと思う。足てないって自分で思うけど、なにが足りてないのかわかん ないしさ。シアワセだって、今だって何かわかんないけど。』
『少なくとも、すちと進んだこの1週間はすんごく、楽しかったなって』
山の谷間から見える朝日に、振り返る彼の姿がいつか、消えてしまいそうで。
「ならよかった」なんてイタイ台詞を吐いて、すっかり夏に染まった山の中を抜けていった、
携帯の電源は切って、迫り来る犬の鳴き声と、おとなたちの怒号から、
まるで俺らのようにあてもなく彷徨う蝉の群れと一緒に逃げ回った。
水なんてもうない、食料もない。
だからか、揺れ出す視界に。俺は大人たちに対抗すべく、カバンの奥の奥にしまっていたナイフを取り出して。
しれっと手に持ちながら、二人して限界なくせして馬鹿みたいにはしゃぎあって。
頂上まで来た時、ちょうど日は落ちかけていて、綺麗な花畑だった。
ひまちゃんは俺の手からナイフを奪い取って。
『あーあ、もう終わりかぁ…。』
「ひまちゃ、なにして…」
『いやぁ、ほんと助かったわ、すちがいたからおれ、ここまでこれたんだ。』
『いなかったらきっともっと早く死んでただろうなぁ…。ねぇすち、もういいんだ。』
(いやだ、いやだ)
嫌な予感がして、冷や汗か何かわからないものが額を伝う。
鬼たちの怒号も近づいてきている。
日の落ちかけて暗くなってきた今なら逃げ切れる、だから。
だから…ッ、
『死ぬのは、俺一人で十分なんだよ』
なんて、笑いながらきみは首を切った。
その動作が、周りの音が全て、まるでゆっくり動くように、
映画を切り取ったワンシーンのように。
これはきっと夢だって、白昼夢を、見ているんだって、
そんな気がしていた、なのに、体に力が入らなくて、目の前がぼやけて立ってられなくて、
座り込んだ俺の足元に、彼の鮮血が熱を伝えて。
俺はおにに捕まって、きみは逃げ切った、
ひまちゃんって、名前を呼びたかったけど、水を飲んだのは随分前で喉が枯れて声が出なくて。
そのまま、目を閉じてしまった。
*
次に目を覚ました時俺は病室にベッドの上にいた。
この白い世界が、まるで夢の中のようで。
実は今まで全て夢でした。なんてありっこない未来を願って。
それでも、いつまで経ってもきみは見つけられなくて、
退院した俺は、俺の部屋に戻ってきたけど、なにも変わらないこの部屋に、何かが足りなくて。
あぁ、そうだ、写真がない、きみとの写真が…。
ちがう、ちがう、君が、いないんだ…。
そうして時は過ぎて行った。
暑い、なんて思わず口に出してしまいそうな夏が過ぎて行った。
クラスメイトはいるのに、君がいなかった。
なんでかわからない、なんで君がいなくなるのか、わからなかったけど多分、
俺はいつまで経ってもあの夏の日を思い出すだろう。
俺は今でも歌っている。君が歌っていた歌を、
廃線の上で馬鹿みたいに歌いあった曲を。
この曲を歌えば君が見つかる気がして、どうしても君に伝えたいことがあって。
9月の終わりが近づいて、ばかみたいにくしゃみして、
そうしてまたあの日、きみがいた六月の匂いを繰り返す。
今でも頭に中にあるきみに笑顔は、きみの無邪気さは、
俺の頭の中を飽和していて。
今なら、きみに届く気がして。
「ひまちゃんはなにも悪くないよ。悪いとこなんてないから、」
「もういいんだ、投げ出しちゃおうよ。」
なんて、言って欲しかったんでしょ?ねぇ…。
そうして五年が経って夏、その日のことを思い出しながら俺はこの腐り切った世界で
シアワセを見つけた。
もし君がいたら、シアワセじゃなくて、コウフクだったのかもしれないけど、もう叶わないから。
もし次があったら、腐り切ってない、人殺しの蔓延らない世界がいいねなんて、思っていたかった。
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そうして俺はペンを置いて、戸棚の中を漁る。
古びて黄ばんだ薄いノートだ。
これは君の日記だった。
ことの顛末がわかって、警察は謝罪をしてくれたけど、それじゃ君は帰ってこなくて。
鬼さんが負けちゃったから、帰ってこれなくて。
でももし、もし同じような人がいても、君のお陰で救われるのかもしれないなって思ったら、
それ以上責める気にもなれなくて。
涙でぐしゃぐしゃになったノートに、滲んだ文字に。
未だにあの時の思いが詰まっていて。
もう2度と、この話は誰にもしないだろうけど。
もし俺がすんごく長生きをして、天国に行った時は、きみに
笑い話みたいに、負けちゃったねって笑いかけてもいいのかな。
長いようで短かった9日間の逃走旅行は案外すんなりと終わってしまったけど。
あの夏の日を2度と忘れないって、天に誓って。
{おーい!ご飯できたよ〜!}
もしなんてもう願わないから。
そっちで待ってて、俺を置いてった罰なんだから、その日が来るまで待っててよね。
今でも君との思い出は、俺のなつを飽和して。
「うん!いまいく〜!」
閉じた記憶に、綴られた思い出は今も消えないけど、隣に君がいるような気がして
今は左隣にいてもらおうかな、右隣は生憎、君がいない間に埋まっちゃってさ。
コメント
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すげ。
、、すっげ、、流石師匠ですわ、、