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茶々丸の声が出なくなってすでに一週間が経過した。未だに声は出ないが茶々丸と兄は最初のときよりも意思の疎通ができるようになっていた。
「あぁ、茶々丸。かご背負ってるけど何処かに行くのか?」
茶々丸がかごを背負って外に出ると農作業をしている兄に呼び止められた。茶々丸は山の方を指さした。
「山に行くのか?」
茶々丸は頷いた。
「一人で大丈夫か?」
茶々丸は自分の胸を叩いた。
「ほんとかぁ?まあ、この前まで山に入ったら動物に襲われたり動物を捕らえるための罠に引っかかっていたりしてたのも昨日一緒に言ったときは大丈夫だったしな…」
兄はしばらく考えた後に口を開いた。
「まあ、行って来い。ただ、気を抜くなよ」
茶々丸は兄に礼をした後、山の中に入っていった。兄は、山に入っていく茶々丸の背を見えなくなるまで見ていた。本当に大丈夫なのだろうか。兄は少し不安だった。
茶々丸は今日、山の中で山菜を取りたかったのだ。茶々丸はどんどんと進んで行った。そして、森の中で山菜や食べても大丈夫なきのこなどを採り次々とかごの中に入れていった。
茶々丸が森の中に入って半刻(約一時間)が経った頃、空から水がぽつりぽつりと降ってきた。やがてその雨は、土砂降りの雨へと変わったいった。早く帰らなければ。そう思い茶々丸は歩いてきた道を通り戻っていった。段々と雨が強くなり、しばらく歩くと道がぬかるんでいるところが増えてきた。慎重に歩いたが途中で足をすべらせてしまった。茶々丸は斜面を一気に滑っていった。やがて、一本の木に当たりそれ以上滑ることはなかったが茶々丸の背中には激痛が走った。雨はやまず、むしろどんどん強くなる一方だった。
茶々丸は昔にした兄との会話を思い出した。
「お前って本当に運が良いよな」
「それ、さっき動物に追われて死にそうな思いをした人に言う言葉?嫌味にしか聞こえないんだけど」
茶々丸は頰を膨らませた。
「そういうわけじゃないよ。それだけ不運なことがほぼ毎日起こってるのに死なないなんてよっぽど幸運じゃないか。お前、いつ死んでもおかしくないぐらいだぞ。」
これが僕の運命か。誠は心の中でそう呟いた。今思えば今まで死ななかったのは確かに幸運だったな。茶々丸のまぶたは段々と重くなっていった。段々と目が開かなくなっていき、茶々丸は自分の死を覚悟した。しかし、人の声が聞こえた。
「茶々丸!?大丈夫か?茶々丸!」
その声は間違いなく兄のものだった。
「お…にい…ちゃん」
茶々丸は兄の声に答えるように声を出した。茶々丸はそこからは何があったのかよく覚えていないが兄が助けにきてくれて、その後、家まで運んでくれたことだけは覚えている。
目を覚ますと茶々丸は家に居た。
「茶々丸?大丈夫か?」
茶々丸が目を覚ましたことに気づいた兄は顔を覗き込ませた。
「大丈夫だよ」
「そうか。良かった。良かった…」
兄は安心のあまり泣き出してしまった。茶々丸はそんな兄を優しく抱きしめた。
後日、茶々丸は兄にあの竹の水筒の中に入っていた水のことと女性のことを正直に話した。
「そうか…悩みと引き換えに声を…」
兄は茶々丸の話を聞くとそう呟いた。
「ところでお前の悩みって何だったんだ?」
「それは…秘密!」
茶々丸の運は声と共に戻り、いつも通りの豊かな毎日が続くのでした。