🔺BL 短編集

「……、」

披露、ひろう、疲労。

つまらない言葉遊びを重ねては、自分を憐れんで、そしてまた疲労に戻る。

ここ数日でまぁよくこんなに働いたものだ。それももう服を着替える気力もないくらい。明らかな睡眠不足。

いつもなら礼服を汚さまいとすぐに着替えるのに、そんな僕はどこに行ったのだろう。

それでも働かないといけないのは僕が皆より劣っているからなのだけど。

「…はぁ、」

会いたい。

なんて、

そんなわがままを言っても受け入れてくれるんだろうな。ダメダメ、もっと自立しないと。

そもそもこんなに疲れてしまったのは僕の体力がないからなのと、披露の内容を覚えるのを怠ってしまったから。

…正式に言うと怠ってはいない、けど。僕が他の人より覚えるのが遅かったから。だから、倍以上に練習をしないといけなかった。それこそ、睡眠時間を削ってでも。

「もっと、頑張らないとな、」

頑張らないと。

僕はただでさえ人より努力をしていないのだから、人より努力をしないと。

自分のSOSを押し殺して、なんとか立ち上がる。…あれ、誰か来てない？

「…じゃましま〜す！！！」

「えっ、え、ちょえ？」

まって、今マトモに片付けしてないから散らかってるし人を家にあげれる状態では、

「よっ、藤士郎」

「ぁ、はい、どうも…？」

「なんで敬語なん…？」

「えっ、いやちょ、びっくりして…ノリで？」

「ノリ？」

互いに疑問をぶつけ合って、その間に長尾は無遠慮に僕の家に上がり込んでくる。禍祓からの同期だからなのかなんなのか、この男は本当に僕に対して遠慮をしないし、気を使わない。…まぁそれは僕に対しても言えることなんだけど。全力ブーメランじゃん

「あれ、とうじろー片付けでもしてた？」

「ぁ、うん、そ。ちょっと探してる書類あって…、」

「ふ〜〜ん…」

本当は、ただ片付けられてないだけだったのだけど。僕にもプライドはあるのでね

「ふ〜〜〜〜ん………」

……なんだよ、

じっと見つめられてドキっとする、目合わせられないのは僕が長尾に本当に事を言っていないから？

「こっちおいで」

「えっちょ、！」

おいでって、ここ、僕の家なんだけど。

家主の手を引いて家をズカズカ進むなよ、バカ。

「バカ、」

「……へ」

「なんでこんなになるまで仕事してんのバカ」

びっ

くりした、思考読まれたかと思った。

バカ、って。

こんなになるまでやらなきゃできないの、近くに居たお前が一番知ってるでしょ。僕は人より秀でている部分がないんだから。

「……」

「ちょォッと弦チャンだんまり〜〜？！オナガ怒るよ〜〜！！」

「…だって…」

「子供みてぇだなお前は」

半笑いでそう言われ、いつの間にこんなとこまで来ていたのか、ベッドに抱きしめられながら二人一緒に飛び込む。

「な、ちょ、まだ仕事が…ー」

「お前は」

「お前はよく、頑張ってるよ。」

「…ぇ、けいく、」

「人の上に立つ事が多い立場だし、責任もプレッシャーも多い仕事をお前は嫌な顔何一つせずこなしてる。」

あぁ、こんな

「お前は、頑張ってる。

誰よりも優しくて、繊細で、不器用。だけど、人一倍努力を重ねてる。ずっと近くに居た俺が言うんだから間違いないだろ？なぁ」

そんな、

「泣くなよ〜〜、人を慰めるのとか得意じゃないんだよ〜」

優しく包まれて、そんな言葉を掛けられてしまったらもう、もう。

一度溢れ出てしまったらもう止まらない、人間の涙はダムのようなものだ。そう簡単に止めることはできない。

どうして、どうしてこの男はいつも僕が心の何処かで望んでいた言葉を掛ける事ができるのだろうか。どうして今一番してほしいことをしてくれるのだろう。この男の前で僕が仮病や嘘をつけたことは一度もない。それだけ僕をみてきてくれたことが嬉しい反面、こういうときは恥ずかしくて恥ずかしくて堪らない。でも彼はそれを理解しているから、ぜんぶ解っているから、優しく抱きしめてくれる。顔を誰にも見せないように、震える体を包み込むように。

「世界の全てがお前の努めを否定するなら俺は世界を捨てる。…ま、そんなことないだろうけどな？

でももし、そうなったとしても。俺はお前の頑張りを知っているから。だから、」

ゆっくりおやすみ。

⟡.·