1945年、3/11.
今日で『東京終末宣言』が発表されて、一か月が過ぎた。
二時間後、ここ東京に空爆が降ってくる。
俺は、外国の戦闘機が飛ぶ空をボーッと眺めていた。
最初に空爆が降ってくるなんて言い出したのは、いかにもうさんくさそうな顔の学者。
テレビにゲストとして出てきたと思ったらいきなり、「一か月後、彗星は東京にぶつかる!」なんて言い出し、放送事故となったあの回。
初めは誰も信じていなかった。けれど、今となっては空にいつでも爆弾を積んだ戦闘機がはっきり見える。次第に、他の学者も事実だと言い出していた。
つい数週間前までは、着物を着た女性が立ち話をしていたり、少年達が駄菓子屋で飴を買っていたりと、活気ある場所だった。
だが、空爆が落ちてくることが現実味をおびてきたとたん、東京の人影はなくなっていき、明るかった街並みの面影は消えていた。
「、、、」
俺は空にこうこうと明かりを付けながら徘徊する戦闘機たちを見上げた。
「ハハハ。最後も1人かなぁ、、、」
諦めの決心がつかず、キョロキョロとかすんだメガネ越しに辺りを見回すと、灯台の下のがれきの上に座る少し年下くらいの白髪萌え袖男がいた。
「あの、、、君は何してるの?」
俺は恐る恐る近づき、勇気を振り絞って話しかけた。すると、彼は軽快にクルっとこっちを振り向き、
「僕?僕はねぇ、ここに居たいから座ってるんよ!」
(、、、それあんま答えになってないじゃん。)
「てか、人の事言えないけど君は逃げないの?あと二時間後だよ、爆弾が落ちてくるの。早く東京から出ないと、親も心配するんじゃない?」
「うーん、、、僕の家はね、お兄ちゃんが居るんやけど、、、お兄ちゃんは何でも出来て可愛いがられとってさ。僕は空気みたいな扱いされて、、、wいっそ居なくなってやろうって思ったんよ。」
沈黙が走る。
「、、、なんか嫌なこと聞いてごめんね。」
「いやいや、気をつかってくれた言葉だけでも嬉しいからええんよ」
そう言って彼は不器用に微笑んだ。
「食い物も持たずに家を出てきたもんやからさwもーお腹ぺこぺこよ」
「よければ、、、」
「ん?」
「よければ、、、ハイこれ。キャラメル。」
俺がそう言って白髪萌え袖の男にキャラメルを一本渡すと、子供のようにはしゃいで、
「やっっったあああ!! ありがとう!!キャラメルめっちゃ好きなんよ〜!」
と キャラメルを大事そうにコロコロと口の中で踊らせていた。
「スウッ、、、♪————–」
廃墟と化した街に歌声が響く。
彼の透き通った声に、俺はただ圧倒された。
「ふへへ、キャラメル貰ったお礼。俺歌には自信あるんよねw」
「、、、君の歌、、、なんか感動?しちゃったかもしれないw」
「ええっ⁉︎泣かせるつもりはなかったんよぉ(汗) あとね、俺にはおらふくんって名前があるからさ、気軽に呼び捨てして!な?」
場を和ませてくれたおらふくんの優しさに、更に涙が止まらない。
「くん までが名前って変わってるねぇw」
俺が苦笑いしながらそう呟くと、自慢気に「カッコイイでしょ!」と言わんばかりの笑顔で返してくれた。
辛い事が沢山あったはずなのに。
「なぁなぁ、君の名前って何?」
「あぁ、ごめんごめん、俺はねぇ、おんりーって言うんだよ〜」
「へぇ〜スゲーカッコイイやん! オンリーワンの存在やなw」
あれからどれだけ時間がたったのか。
深夜の空には戦闘機と星が光っている。
「あの星、、、綺麗やねぇ〜」
純粋な彼の目にはキラキラと輝く星の光が映り込んでいた。
「そうだね〜。あと何分かな。」
「なぁおんりー。願い事しない?」
「願い事?」
「生まれ変わってもまたどこかで会えますように〜って。」
「そうだね。10回くらい祈っとく?」
「いやいや、100回は祈っとく〜w」
5分後、ここには空から光る物体が降って来た。
俺は、手に込めてくる汗と共に、ぎゅっとおらふくんの手を握っていた。
生まれ変わっても、離れないように。
コメント
14件
+続きありますか?
僕もお祈りしとこ あの二人が死んでしまっても またどこが出会えますように