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※彰司/彰モブ(♀)/彰人屑
愛というのは、形が多すぎてバカなオレには覚えきれず、その区別がつけられなかった。
友愛と親愛は、似たようで異なり、その中でも愛が大きいとされる恋愛は、特別違うものだと、少女漫画が好きでよくそんな恋に夢見ていた絵名が、理想郷の夢を語っていた。だが、オレには一切それが理解出来なかった。
「別れよう」
オレは何故かモテた。理由は多分顔だけだろう。オレらのライブを見に来て、オレに一目惚れをしたと言い、縋りよってきた女に告白され、オレはその告白を承諾し、何度か身体を重ねたりした。
別に好きでもない相手から告白された所で何とも思わないし、顔も認知してない相手だから「誰だこいつ」と思いつつ、オレは告白を拒否しなかった。
知れると思ったんだ。絵名の言う『恋愛感情』とやらと、友愛等の区別を。その付け方を。
でも結局はダメだ。何度見知らぬ女と付き合い、身体を重ねても、恋愛的な愛情が芽生える前に振られてしまう。熱しやすい癖に冷めやすい女は、やはり面倒臭い。こんな生き物に恋愛感情を抱くのは無理だと思った。
「彰人、こんな所で立ち尽くしてどうしたんた?」
「どわっ!司センパイ…!?」
今一番会いたくない奴と出会ってしまった。別に振られて落ち込んでいる訳でもないが、今の空気感に一番と言っていいほど合っていないであろう司センパイに声を掛けられるとは思ってもなかったのだ。
「なんでここにいるんすか?」
「冬弥の勇姿を見にこの会場に来たのだが、その冬弥がお前を探しててな。隅から隅まで探してたらお前と会った訳だ!」
あぁ。やっぱこの人が何か考えてここに来たわけでもないのか。なんとも司センパイらしい理由に苦笑する。
運命の人だとか、愛情だとか、結婚だとか。オレにはよく分からない。何が愛で何が友か。その愛にはどんな差があるのか。オレには到底理解出来ない。根っからそういったことに、縁がないだけなのかもしれない。
でも、都合がいいと思った。一番会いたくなかった相手。だからこそ、司センパイは使えると思った。
一番オレが苦手なタイプの人間。けれど、司センパイは扱いやすい。何度同じ手でからかっても引っかかるし、単純というかバカというか。そんないい性格(嫌味)をしているから、手のひらでくるくると踊ってくれる。
特に思い入れもないセンパイだからこそ、オレの好きなようにできる。所詮、司センパイは台本無しでは動けない“人形”だ。それを逆手に取れば、台本さえ用意すればその通りに演じてくれる。動いてくれる。
「…なぁ、司センパイ」
ずっと、頭のどこかで思い、直ぐゴミ箱に捨てていたプロローグがあった。
オレは女は面倒くさくて扱いづらくて嫌いだ。なんてったって、女は繊細だと言われる生き物だ。手荒に扱えば爪を立て、抵抗してくる。単純じゃない所がいい。というクラスメイトもいるが、何がいいのかが分からないし、オレの理想通りに動いてくれないのなら、これ以上飼う理由もない。
けれど、それに比べ男は最も単純な生き物だ。時々女々しくて繊細なやつもいるが、今目の前に用意されている相手は違う。バカみたいに単純でお人好しなセンパイ。これ以上、扱いやすい人形なんてそうそういない。
「む、どうした?彰__」
つまりだ。
女が駄目なら男ならいいんじゃないか。という、単純な台本。
「好きです」
嘘と御託ばかりの、薄っぺらいラブストーリー。でも、複雑で難しい役や作品をやり遂げた自称スターを名乗る司センパイなら、このくらい演じきってくれるはずだ。
「オレと付き合ってくれませんか?」
そのくらい、容易いことだろ。アンタにとってはさ?
「彰人」
「好きだ」
「まだ、お前の手で操られていたいんだ…っ」
バカみたいに単純な男と付き合ってみて、分かったことがある。
女みたいに面倒くさくなくて、だいぶ扱いやすいから、女よりはラクに付き合えるな。ということがまずメリット。
「ありがとうございました。オレの思い通りに動いてくれて」
だが、男を恋愛対象として見ることは難しかった。その理由は明白で、セックスするときに、女は胸やまんこがついていて、それで毎度興奮していたのだが、相手は男なので、乳首はあれど胸に脂肪がないし、脱いだ時にブツが目に入るから正直萎える。単刀直入に言えば、興奮するような魅力が男には何もなかった。ということ。
「でも」
それに加え、もう一つデメリットがある。
それは、単純で扱いやすいからこそのデメリット。
「台本通りじゃつまらねぇんだよ」
奇想天外な出来事が、何も起こらなかったということだ。
ーBAD END.
【プロローグは始まらない】