テラーノベル
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注意
日本語❌❌
矛盾が恐らくあります。
実在の団体を基にしています。
歴史に疎いので現実の歴史と比べて違和感がある可能性が大です!
シリアスのつもりです。
以上が大丈夫な方はどうぞ!
~ 1936/4/03 ~
埃が舞い、熟した木の独特な匂いが漂う、己の為だけの図書館。決して広くは無いそこで、俺は年に数回行う、溜まりに溜まった本の整理、兼、掃除をしていた。
「うおっ、これは中々に…….」
いつもなら2ヶ月に一度ほどは掃除をするのだが、…..最近は大小問わずに諍いが多かったからな。半年ぶり、もしくは一年もここへ来ることができなかったせいであろう。本一つを取る度に、床に薄灰色が積もる。
「掃除はサボるもんじゃねぇな………」
「そうだな、これでは本が痛んでしまうぞ」
「あぁ、それはまずい…..__ッは??」
背後から、声?何故、どうして、ここは俺しか知らない場所のはずだ。共に働くアイツらにだって、存在すら伝えていない。
なら、どうして。
「____どうしてお前がここに居る。ナチ」
振り返りざま。冷静さを保ち、そう告げると、扉の前でニヤリと口角を上げるその男は、カラカラと笑いを溢した。
「なぁに、そんなに警戒しないでおくれよ。獲って食ったりなんかしないさ」
人の不快感を煽るこの巫山戯た口ぶりが耳を掠め、不快感に顔が歪むのをすぐにでも自覚する。それは此奴の、値踏みするような湿気を含む声音のせいか。それとも、何を思い何を考えているのかさっぱりわからない張り付いたポーカーフェイスのせいか。事実だけを述べるのならば、出来うる事なら関わりたくもない。
そんな奴に何故会ってしまったのか、関わってしまったのか。
あれは、そう、いつだったか。それはほんの数週間前。
産まれて間もない此奴が何をしでかすかと、遠巻きに、演説に明け暮れ忙しそうな様を眺めていた時だった。
___正直、己でも今更ながらに反省するほどその時の俺は驕っていたのだ。
互いの視線が重なり合う。
…..最初は偶然だと思っていた。なんせ、此奴を観ていたと言っても、住宅街の中の、誰も住んでいない空き家を一室を借りて、その部屋の窓から覗く程度。声が聞き取りづらいのに苛立ちを覚えるぐらいの距離でな。しかし、其奴はこちらを確かに見たのだ。見て、笑って、手まで振って…..。正直、恐ろしかったさ。だってそうだろう。俺たちに面識は無いのだから。
それから俺は、慌てて家を出た。目立つと不味いからと、護衛は置いてきてしまった事を悔やみながら。其奴が演説を放ってまで俺を追いかけて来ないはずだと踏んで、懸命に走った。
「はぁーッ、はぁーッ、…ッは、ぁ、…..はぁ、…ふぅーーっ、…..」
ここまで来たら、追いつかれないだろう。なんて、束の間の安堵は、ドイツ特有の突風に吹かれて行ってしまった。
「お疲れですか?ソビエト」
#旧国
みたらし団子
287
#かんとりーひゅーまんず
あおば
20
鋭い一言が、呼吸を止めさせる。言い逃れなど、出来ようもない。他所の国がこんな所に、入国手続きも無しにいるのだ。良くて、拘束。最悪の場合、俺を人質に戦争を始める可能性だってある。
嗚呼、もっと慎重に動くべきだった。たかだか産まれたばかりの赤子と言えど、我々国の知能は成人男性の平均以上。それに、此奴は良く頭のキレる奴と有名だ。
交錯する互いの瞳は、視線が形を持って鎖となり、繋がり合ってしまったかのように、逸らされることは無い。静寂の中、聞こえるのは速まる己の呼吸だけだった。
「そんなに辛そうに……、走るのは少々苦手なようですね。ほら、私に合わせて。息を吸って、吐いて…..、__ふふ、上手ですよ、ではそのまま、…もう一度繰り返して」
再度上げられた唇の亀裂から漏れるのは、がなりの効いた怒声や、超大国ともあろう者が、新参者に見つかり、無様にも走り疲れた所を捕まえられた事への呆れと落胆の籠った声でも無く。優しく、労うような柔らかな声であった。そう、不気味なまでに。
しかし、今の俺はその好意に甘える他がない。どうせ最後ぐらい、何も考えずに目の前の楽を享受した方がいいだろう。
そうこうして、どうでも良い考えで脳を殺し、耽っていると、漸く酸素を全身で感じられるようになる。乾燥にやられた喉も、まあ良い感じだ。咳は出つつも、呼吸は落ち着きを取り戻したようだった。
「お水も飲んで下さい。まだ喉が痛むでしょう?」
「ああ、………悪い、助かった」
「いえいえ、…世の中、助け合いですから」
胡散臭い詐欺師等の常套手段の薄ら笑い。到底、自らの言葉を心の底から信じているとは言えないだろう。はは……こんなのに捕まるとは、いったい何をされてしまうか。
……まだ、諦めてはいけない。分かっている。現状への判断に、俺の意思は無視されなければならないのだ。
俺は生かされているだけだから。
「俺は、何をすれば良い?」
「はて?何のことでしょうか」
すっとぼけた其奴は、未だ不気味な笑みを崩してはいない。….分かって言っているのだ。気持ち悪い。
「……..今回、俺がここにいた事について黙認してはくれないだろうか。….勿論、それ相応の対価も払うつもりだ。財でも、作物でも。契約でも__だから、今日ばかりは見逃してくれ」
精一杯の頼み。これを突っぱねられでもしたら、俺も、祖国も、終わりだ。
どうなるか、後は運だ…….。
「良いでしょう、分かりました。それでは、…3つほど要求があります。これを全て聞き入れてくださるのであれば__えぇ、貴方を見逃しましょうか」
「3つ……..」
「なぁに、簡単な事ですよ……。第一に___」
ゴクリ……
「貴方は私と友人になる事」
「…….は?」
「それに伴い、貴方への言葉遣いも改めさせていただきます。___何かご不満は?」
たった、そんな事を?……いや、まだだ。後二つ、こいつの望みを聞かなければならない。せめて、俺の矜持を踏み潰す程度のものであって欲しいがな。それが最も、被害が少ない。
「いや、……ない」
「そうか、ではソビエトと呼ばせて貰うぞ。私のことはナチスで構わない」
「…………ナチス、か…愛称呼びは嫌いか?」
「いや、構わない。私たちはもう友人なのだからな」
此奴には友達が居ないのか。随分と強引に友人にされたが……俺を選ぶ辺り、案外可哀想な奴なのかもな。
そんなこと、とてもじゃないが己以上の立場にいる奴に対しての考えではない。しょうもない同情心は一度置いておこう。
今は残りの要求がどれほどのものか、しっかりと聞いて……せめて祖国への被害を抑えられるように交渉しなければならないのだから。
「それでは第二の要求だ______私が君たちの国に入国する事を認めてもらう。少し、散歩の距離を伸ばしたくてね」
「そ、ッ…れは……!」
「なに、分かっているさ。これでは君たちにとって、大きな不安を与える。__それを緩和する為の第三の要求、…….私と、条約を結んでもらおうか」
「……一度、内容を聞かせてくれないか」
「そうだなぁ、ここでは西の奴等に聞かれる可能性もある。____今度、そう遠くはない日に、君の家へ上がらせていただこう。その時に一部始終を伝えようではないか!」
そう言われた後。今後の予定も碌に決めぬまま、俺は祖国へと還された…..。
いつ来るか分からない、狂った赤を待つ日々。いつまで経っても来ない其奴に、契りは作る前から消し去ったのかと思っていた頃から数日。
それが、今日だ。
気づけば異質な赤色は、まるでそこに存在していることが当たり前であると言わんばかりに、佇んでいた。
「….条約の件か」
「嗚呼、それについて伝えに来た」
「書類は?」
「どうせこんな所で書類の記載など出来まいし、面倒臭いだろう、今は持っていない。なので、代わりに口頭で伝える」
それぐらい、丁寧に行なって欲しいものだ。
…..一体この世の何処にいるのか、口頭で条約を伝えるあほんだらは。最悪である。お陰で内容の確認を2度行う必要があるではないか。
そんな風に心の中で悪態を吐きながらも、直に伝えられる、文字無き条文に耳を傾け、必死に脳を回す。
内容は、簡単に言えば『相互の不可侵を誓い、中立である事』だ。勿論他にも色々とあるが…
…….悪くは無いな。ここ最近。 此奴がこの国に自由に出入りできるお陰で、様々な公的機関の情報が漏れ出て弱点を掴まれ、我が国不利な状況で戦争が始まる恐れがいつまでも付き纏っていた。議会も数段と騒がしくなり、どうしようもない地獄の中で、最大に恐るべき存在をある程度は放置してもまだ大丈夫だということになる。
これならば、政府の奴等の不安も払拭できよう。
「……分かった、議会に話をしておく。おそらく約束できるがな__ただし、まだ決定ではなく”約束”だ。確定させるのは、書類に記載された内容を再度読んで、口伝との差異が無いかを確認してからだ」
「ふむ、…良いだろう。明日にでも紙を持ってくるさ。勿論、西の奴らには内密に」
己も西であろうに、なんて、くだらないガキみたいな揚げ足取りはよそう。そんなことより、俺はただ切に、委員会での罵声が酷でないことを祈るほうが大事であった。
「それで、…あー、そうか……、紙はあるよな? 」
「あゝ、それなら先ほど、君のところの委員会へ持って行ったよ。あらかじめ話を通してくれていたからね、すんなり結ぶ事ができた。助かるよ、時間のかけ過ぎは西の疑心を深めるばかりだからね 」
「…….そうかよ」
こちらとしては、酷く罵られた記憶しかない。まあそれもそうだろうがな。後世、一生の笑い物となるような失態を犯したのだから。
「って、…..何勝手に人の本棚漁ってんだ、条約も結べた、俺の弱みも握って、..充分だろ?早く帰れ」
「……」
ことり、と音をたてながら、ナチは平然と本を本棚から抜き取る。俺は咄嗟に大きな声が出てしまった。
「__ッおい!」
「著者名不明の話題作。有名とは行かずとも、層によっては殆どがその存在を知っている謎の作家。___この本も含めて、君だろう?作者は」
「……….は」
差し出された本の角が俺の胸を指す。
なんで…..
「なんで分かったか?簡単さ。我が国の諜報員はすぐに情報をくれるんだ。お気に入りの作家の名前くらい、ね」
「そうかよ、……だが、それを知った所で殆ど無意味だ。なんせ、もう書く事はないからな」
「もう書かないのか?何故?勿体無い…..。ここまで良質な作品は、この世にそう多くないと言うのに…..」
「…..っはは、お前には分からないだろうな、俺の気持ちが」
「嗚呼、分からないとも。…..どうしてだ、どうして、書くのをやめた?」
そう問われて、誰かにぶち撒けたかった己の醜悪の塊が、雁字搦めになった鎖まみれの箱をこじ開けて、姿を現す。
___今にも開きそうな口を、俺は止めることが出来なかった。
理由は、そう。初めて書いた著書が人に読まれたと言う知らせに、感じたことのない喜びを知覚してしまった頃からだった。
俺は、俺だけにしか創れない作品を作ろうと、躍起になった。己の醜い思想を主軸に、作品に肉付けを行い、それを覆い隠すように綺麗な言葉で内容を着飾って、世に出した。また売れた。たったの数十冊。それでも嬉しかった、他者からの好意が。
そこから、どうしたらより売れるだろうと考えて、物の解像度を上げる事にした。___それが間違いだったとも知らずにな。
…..創作物の解像度を上げようと、自らに対する解像度を上げる。それが最も人間と言うものを理解しやすいから。やがて自分への解像度が上がると、作品のへ解像度も上がる。__そして他者の作品との解像度に差が生まれ、自らの作品の方がより良いものだと錯覚してしまうんだ。
ずっとずっと尊敬していた人への解像度も、次第に己の作品への解像度より下になれば、上から目線で物を見始めるようになる。
粗が目立つだとか、この言葉の方が良いだとか。子音を一つ発すれば、いつでもゴミになれる言葉が浮かぶ。それが一時だけ、己の『成長』であると錯覚し、奢ってしまう。
そんな自分の感情を細かく知ってしまって、嫌悪感で吐いた。
その人の作品がきっかけで始まった創作活動。その人の作品は特別だったのに、…..!!
いつからか、自分の作品の方が特別だと感じるようになっちまって…..!!!
そして、その度に、自分の無意識を意識してしまって…..
途轍も無い自己嫌悪が蛆のようにたかって、臓腑に入り込み、こびり付いて、染み付いて、離れなくなったんだ。
昼夜問わずに嫌悪感と、己への自尊心が募るんだ、…。増える承認欲求、だが、日に日に減る読者。
その結果を見るたびに、自分よりも多くの人々に愛される存在が憎くなって、そして自己嫌悪で死ぬ。
器ばかりデカくなって、ポッカリと空いた空白に承認欲求を満たしたくて。数週間に一度確認していた報告書を、隔週に、週に一度の確認を数日間に一度に、それも遂に1日に一度、今では数時間に一度確認するほどにまでなった。
お陰で電話のダイヤルは、ノールックが当たり前。楽な持ち方や、受話器との適切な距離感を覚えた。
___確認するたびに産まれる憎悪と嫉妬を抑える度に、承認欲求と言う形に変換して、空白を増やす。
次第に求める反応の大きさだけが質量を増して….。
誰かが己の作品を一つ手に取っただけで一喜一憂した日々が、1週間に100人が己の作品を選んでも、ただ自己嫌悪が喜びをカッ消すようになった。
もはや麻薬に依存するように、俺は皆に読んでもらえる本について考え、形にする日々。
考えて考えて考え考えて、書いて、吐いて、紙を破り、手でくしゃげ、ゴミ箱に放り捨て、インクの空き瓶を何個も増やした。
そうして出来た、一作……。
___これがまた、飛ぶように売れたのだ。
嬉しかった、一日に10人、多い日には100人が俺の本に金を出した。
満たされたんだ、承認欲求が。
そうして次に訪れるのは、現在己の持つ解像度と、作品を書いた時の己の解像度とのギャップ。
己の本を一つ買い、読む。
あまりの下手さに、吐いた。
こんな物を人に見せていたのかと。自己嫌悪が始まる。
だが、報告書に書かれる売れ行きは承認欲求を満たし続ける。俺はそれに酔って、浮かれて、より良い物を見せてやろうと、新しい物を書いて、出した。
______前回よりも、売り上げの伸び率が悪い。
読み返す。またギャップが来て、吐いて。支えてくれる支柱も、今回はボロボロ。己への解像度が一つ増え、己への愛憎が質量を増した。
やがて….気づいたんだ。俺にとっての創作は、薬物なのだと。
今の俺はあまりにも見ていられないと、まるでスラムで行き倒れる中毒者のようだと。他者にそう言われて、漸く、気が付けたんだ。
しかし、気が付けたはいいものの、薬物から脱する方法を、俺は知らなかった。だから、気が付かなかったフリをした。結局、その方が気持ちよかったのだから。
___ある日から、作品を応援する手紙が一度に沢山届いた。たった一枚の紙切れに、ほんの少し書かれた応援が、嬉しかった。最初は、かなりコアな人間が、ゴミ屑同然の俺の作品が好きだと手紙を出してくれていたんだ。たった1人、いつまでも、多様な言葉で。過去の著書を今更評価して。俺の書いた作品を称賛してくれた。今も続くその手紙は何よりも価値の高いものとなって、届く度に、それはそれは大切に保管していた。
他の手紙も、わざわざ俺のために書いて、封をして、ポストに入れる手間を掛けてくれたことへの感動で濡れていた…..。
それももう、自己嫌悪で埋めつくされる前の話か。
いつからだろうか、好意が途轍も無く恐ろしくなった。まるで呪い。己が勝手に恐れて創り上げた呪い。書かれてもいない期待を汲み取り、それに必死に応えようとした。
毎日手紙を書いてくれて居た人からの言葉が途絶える度に、俺は己の実力不足を怨み。寝る間も削って資料を熟読した。
全ての言葉が同様に期待をしている気がした。今更考えれば分かる。己は期待される存在ですらない事を。
しかしその時ばかりは、浸りたかったんだ。期待されていると言う優越感に、溺れて居たかった。屍が朽ちるその時まで。
だが、期待と言うものは重い。なんとも重い。存在しない質量を、永遠と背負い、無から生み出し乗せれば人は潰れてしまうものだ。
……俺も潰れた。ペシャンコに。その瞬間から怖くなった、人からの好意が。
だから届く手紙は纏めて全て、鎖の中に仕舞い込んだ。全部呪いにしか見えないから。
大切な宝箱。その下に埋もれた特別は、やがて、自分の中の特別でなくなってしまった。
人の好意に籠る、存在しない想いに怯えながら日々を過ごした。
それでも承認欲求は積もり続ける。
次第に己の凡才が特別に見えてしまった。憧れは妬みに、充実は空虚に。望みは欲望に。
何にも相談できぬ苦しみに。変わってしまった己への危機感に。俺は泣いた、伝えた。声も発せぬ石ころ一つに。
枯れた木を己に見立てた。哀れに散らされた、精彩湛える緑に同情した。
似ても似つかぬ癖して偉そうに。
とにかく泣いて、嘆いて、咆哮して。数時間が経った頃。薬が切れて、理性が漸く姿を見せたその瞬間。
俺は書き途中の本や、参考資料、ジャラジャラ音を立てる宝箱を、この図書館に全部詰め込んだ。
__いつでも消して無くせるように、入口付近に灯油とライターを置いてな。
その日は、久しぶり心が澄み切っていた。
吸う空気はどれも新鮮で、色彩が鮮やかに映って、人からの好意をそのままの意味だけで捉えられるようになった。
その日は。その日からは、俺はよく居る、ただ気に入った作品を手に取り、読んで、何となく表面上に見える解釈だけで作品を知った気になって、作者への手紙一つだって書かない。普通の存在になった。
___幸せだけを抱えて。
「だから俺は、もう二度と本は書かない。絵も描かない。曲も作らない。何も作らない__少なくとも、自分の為には…..」
「ふぅむ……」
どこか呆れを含んだ、ナチスの冷たい声。まるで俺の知らない俺を見透かしたような声色に、全身が逆立つ。ざらざらとした鳥肌。それ以上ここに立って居た楽まずいと、脳が警笛を鳴らす。ジリッ、と後退って……。だが、もう遅い。開かれる其奴の薄い紅が、ナイフを象る言霊を生み出し。容赦なく俺の腹へと突き立てた。
「そうやって、また創作をする逃げ道を作っている辺り….。どうやら本当に、君にとっての創作は麻薬と大差無い__いや、それ以上のもののようだ。….それで、言い訳はそれだけかい?」
嗤ってなどいない。純粋な疑問と、分析の言葉。それが何とも大きな氷柱となって、俺の身体を貫くことか。
口から血が垂れる錯覚。真っ赤に染まる脳髄。消化されつつある咀嚼物共が、酸で食道を灼きながら、喉彦の辺りまで迫り上がって来やがった。『ギュルル….』と音が鳴る。閉じられた喉彦が不快感を助長させ、ツンと鼻腔に流れ込んだ酸っぱい嘔吐の臭いが、遂にダムを決壊させた。
「う゛ェ゛ッッ!!…..ッふ、ゲほ”ッ…..ぅ”….オ゛ェぇッ”!」
ビチャビチャと不快な音と臭いを撒き散らしながら、這い蹲る。…..何かを求めて、手を伸ばした。掴むのは空。ここには無い事を知っている。それでも探す。__せっかくの幸せを幸せと思えなくなったその時、俺はまた薬物に浸り込むだろうから。だから、探す。まだ俺は______
ちゅっ…..
「__は、”…え”………?」
「君に足りないものとは何か?やはり愛か?ならば、私の愛はどうやら君に正しく届かなかったらしい」
「な゛に”、を……い”っ”て、………」
「君が言っていた、たった1人、いつまでも君へのラブレターを書き続けていたのは私だ」
「は__…….? 」
掠れた声になった困惑は、無意識に吐き出されたものであるにも関わらず、俺にもはっきりと認識できた。
もう、…..意味が分からない。
「教育の一環として多くの書籍を読み漁っていた時だ。君の作品に出会った」
朱い男は、それはそれはもう、眼前の神に祈る信者のような、恍惚とした笑みを浮かべ、指同士を絡ませ、止まること無く語りだす。
「正に運命だった……!私は生まれて初めて、君に『恋』をしたんだ!!本の中で描かれる、神々しさすら感じる醜い人間の感情に。グロテスクを、まるで全て体験談のように語る書き方に!一冊読み終わる毎に、私は確かに1人殺していた。生温かい血の感触…__これは唯一無二であり、これからの私の人生であると!僅かな時間で誰よりも長く思考し、理解した」
「…」
「なぁ、ソビエト。私達は、それこそ運命と言うものだろう」
「それは、…つまり_____」
「お前は俺の『作品』に恋をしたってだけだろ」
「は、」
「__ナチ、お前が好きなのは俺ではなくて、あくまで俺の作品だ」
「何故?…私の言い方が悪かったか。__私が恋をしたのは、あの作品を書ける君の感性だ」
「どっちにしろ、それは『作家として』の俺であり、俺自身じゃない 」
「分からないな。作家としての君と、今、私が対面する君と、一体何が違うというのか」
「お前は理想でしか俺を見ていない。たかがあんな作り話を読んで、どうして俺を理解した気になれる?あの中に俺は居ない」
「本当にそうかい?私はそうは思わないけれどね」
「なんでだよ!?この前初めて顔を合わせたばかりじゃないか!!お前は俺よりも、俺の作品を見ていた期間の方が長いじゃないか!」
「…..人は知らないものを書けない。それは何に対しても例外無く、絶対的な理だ。君のように、そう、人の『人格』と言うものも、知らなければ、理解していなければ造れ無い。……例え、君があの作品を書く君と、そうで無い君とで人格を変えていたとしても。作家としてのあの人格を生み出すには、君自身が作家の自分の人格を深く理解していなければならない。__なぁ、ソビエト。私はずっと、君自身を愛しているよ」
「私の生が尽きるその時まで、私の愛を受け止めてはくれないか?」
甘っ怠い口説き文句と、伸びた手が。先まで何も感じなかった、己の唇を、擽ったく撫でる。
じりじりと灼かれるような。ひりひりと痺れるような。脳みそがバカになっちまうんじゃないかってくらい、欲しかったモノが、同じ紅の亀裂の奥の、気管の更に遠くから出されて…. 。呑まれてしまう。酒でも味わえない陶酔感の奥底に。煙草の煙より濃い苦味と咽せ感に。
「意味が分からない……」
「分からないなら、これから教えてあげよう」
再度交わされる接吻は、少し嫌悪感が薄らいでいた。
コメント
3件
ナチスさんに慰めてもらいたい、自分の苦しみを認めてもらいたいって気持ちが奥底にあって、若干話を盛ったり、敢えて壮大な言い回しで同情してもらいやすくしてそうなソビエトが可愛いなぁと思います♡(´ε` ) 徹底的に追い詰めたら責任転嫁してくれそう。

まぢで大好きですグハ 余裕そうなナチさんと余裕の無いそびさんが本当にへけで、、 あと小説を書き始めた頃の感情の表現が凄すぎます… 最高デスありがとうございます…