テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
309
hr
22
#リオ
もんすたー
2,650
#bl
もんすたー
3,451
最初は、気のせいだと思っていた。
夜道で、
同じ足音が、少し後ろから聞こえること。
信号で立ち止まると、
少し遅れて、誰かが止まること。
振り返れば、
そこには、知らない人の顔がある。
——それだけ。
偶然だ。
都会だし、
帰宅時間が被ることなんて珍しくない。
そう思おうとすれば、できた。
でも。
三回目くらいから、
胸の奥に、冷たいものが溜まり始めた。
その人は、
近づきすぎない。
話しかけてもこない。
ただ、
「そこにいる」。
それが、一番怖かった。
視線を感じるわけじゃない。
でも、
見られていない、という確信もない。
曖昧で、
輪郭のない不安。
——考えすぎだよ。
自分に言い聞かせる。
俺は、昔から心配性だ。
ちょっとしたことで、
悪い想像をしてしまう。
だから、
これも、その一つ。
そう、思いたかった。
スマホを確認する。
例の人からのメッセージ。
「最近、連絡がなくて少し心配になりました」
その文面を読むたびに、
なぜか、息が浅くなる。
心配、という言葉。
優しいはずなのに。
なのに、
胸がざわつく。
どうして?
俺は、この人に、
そこまで心配される立場だったっけ。
知り合ったのは、たまたま。
カフェで、隣の席で。
親切な年上。
感じのいい人。
それだけ、のはずだった。
返信しないのは、
忙しかったから、もある。
でも、
正直に言えば——
怖かった。
理由を説明できない怖さ。
連絡を返したら、
何かが一段、近づいてしまう気がした。
それが、
取り返しのつかない一歩みたいで。
ある夜。
いつもの帰り道で、
俺は、ふいに立ち止まった。
信号でもない。
コンビニでもない。
ただ、
急に、足が動かなくなった。
——後ろ。
振り返る。
少し離れた場所に、
あの人が立っていた。
目が合う。
一瞬。
本当に、一瞬。
でも、その一瞬で、
全部が変わった。
その人は、
慌ててもいなかった。
驚いた顔も、
焦った素振りもない。
ただ、
穏やかに、そこにいた。
まるで、
最初から、
俺が振り返ることを知っていたみたいに。
「こんばんは」
声をかけられて、
背中が、ぞわっとした。
知ってる声。
でも、
この場所で聞くには、
おかしい声。
「……こんばんは」
反射的に、答えてしまう。
逃げた方がいい。
分かっているのに。
「偶然ですね」
その言葉で、
はっきり分かった。
偶然じゃない。
偶然を、
何度も重ねてきた人の言い方だ。
胸が、きゅっと縮む。
「帰り道、同じなんです」
そう言われて、
俺は、初めて思った。
——いつから?
いつから、この人は、
俺の帰り道を知ってる?
背中に、冷たい汗が滲む。
「あ、そうなんですね」
笑おうとして、
うまくいかなかった。
その人は、
俺の表情を見ていた。
見て、
何かを測るみたいに。
それが、
たまらなく嫌だった。
その夜、
家に帰ってから、
カーテンを閉めた。
いつもより、
早く。
玄関の鍵を、
二度、確認した。
心臓が、
なかなか落ち着かなかった。
スマホが震える。
通知。
——あの人から。
「さっきはびっくりしました。
変な意味じゃないです。
誤解しないでほしくて」
画面を見つめたまま、
指が動かない。
誤解?
じゃあ、
これは何?
説明されるほど、
怖くなる。
俺は、初めて、
はっきりと思った。
この人は、俺の知らないところで、
俺のことを考えすぎている。
それは、
好意とは違う。
優しさとも違う。
名前のつかない、
重たい何か。
息が、詰まりそうになる。
俺は、スマホを伏せた。
返信は、しない。
怖いからじゃない。
——これ以上、
近づけたくないから。
その選択が、
正しいのかどうかは、分からない。
ただ、
胸の奥で、
警報みたいな音が鳴っている。
それだけは、
無視しちゃいけない気がした。
コメント
1件
うわっ、このエピソード怖すぎて鳥肌立ったよ…!🆘💦 「偶然じゃない」って確信した瞬間の描写、ゾッとするほどリアルで読みながら息止めてた。年上の優しい人だと思ってたのに、じわじわと距離詰めてくるところがもう…。 主人公が「これ以上近づきたくない」って選ぶ最終判断、すごく共感した。警報みたいな直感、大事だよね😭👍✨