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#一次創作
何処かの人
70
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男の声は今にも泣きそうだった。今の俺は喋れない。男が安心できるように俺は男の背中に腕を回して抱きしめてやった。男は俺の腕の中で暫く眠った。俺も男の体温で少しうとうとし始め、一緒に眠った。
暫くして再び目を覚ますと俺はベッドに寝かされていた。辺りを見渡しても男の姿は何処にも無い。その時、頭に激しい痛みが走った。俺は顔を顰めて頭を押さえる。昔の記憶か、誰かの記憶か…見えたのは男の子の無邪気な笑顔だった。
『ッ……』
なんだ…今の……考え込んでいると上から足音がする。身体を起こして大人しくしていると上から男が下りてきた。
「…りっくん…起きたんだね、スープ飲む?身体が温まるよ」
俺はこくりと頷いて男を見詰めた。男は俺の反応を見ると柔らかく笑ってキッチンに行き、スープを器に入れる。俺は男が笑った顔を思い出しながら俯いていた。どこかで見た気がした。あの笑った顔…考え込んでいると、ふと何かに気が付く。忘れていた何かを思い出したような、何処か懐かしい気持ちになって微かに目に涙が浮かんだ。
「お待たせ、熱いから気を付けて…ね…って、りっくん?どうしたの?傷が痛む?包帯替え持って来るね」
彼奴は俺とずっと前に会っていたんだ。でも名前を全く思い出せない…彼奴の名前は…
「りっくん、顔上げて」
男は俺の口に巻かれている包帯を外し、綺麗に布で拭き、消毒液で傷口を殺菌した。
「スープ飲もう、口開けれる?あ、無理はしないでね」
俺は男に言われた通り口を開けた。すると男はスープをスプーンで掬い、俺の口に運んだ。スープは少しずつ口の中に溜まり、俺は喉仏を上下に動かして飲み込んだ。
「美味しい?」
男が俺にそう問いかけると俺は小さく頷いた。男はまた嬉しそうに笑い、俺の頭を撫でた。
「…そろそろ寝る?もう目がとろんてしてるよ」
『…ん……』
俺がコクリと頷くと、男は軟膏を俺の口に塗り、新しい包帯を巻いた。ふと俺は、“ありがとう”と言いたくなった。自分でも何故そう思ったのか分からない。
「おやすみ、りっくん」
俺はすぐ眠りに落ちた。
『…ここは…あれ、喋れる…なんで…』
俺は夢を見ている。足もちゃんとある。口の傷も消えている。真っ白な空間の中、辺りを見渡すと、遠くで独りの少年が座り込んで目の前に手を伸ばしている。少年の声は弱々しく、今にも消えそうだ。
「…りっくん…置いて行かないでよ」
『りっくんって…』
その名はあの男が俺に向かって呼んでいた名前だ。
「ぅ…うぅ……」
少年は俯いて静かに泣いていた。まるでそのまま消えてしまうように…
『待て!!お前は…誰……』
少年の姿は少しずつ薄くなっていき、本当に消えてしまった。手を伸ばしても間に合わなかった。途端に空間には灰色の霧が漂い始める。
「良いんだ…」
「りっくんが僕を忘れてしまっても…」
「僕は覚えているんだから…」
『…なんで…次は何処に居る…なんで声だけが響く…誰なんだよ…』
また男の声が聞こえる。しかし姿は何処にもない。どこを歩いても、どこを見渡しても、壁の無い空間だけが続いている。
『…嫌だ…なんで…俺独りだけ……頼むから、独りにするなよ…あまの…』
俺は座り込み、孤独という恐怖で涙を流してしまう。
『……あれ…俺…今なんて言ったっけ…』
そこで夢は途切れ、俺は目を覚ました。
「りっくん、大丈夫?魘されてたけど…」
男に抱き起されると俺は目から涙を一粒零した。男の体温が一番落ち着く…温かい腕の中で優しく包み込んでくれるような…そういえば、俺は夢でなんて言ったっけ…
「怖い夢見たんだね、大丈夫、僕は此処に居るよ」
男は俺の頭を優しく撫でながら落ち着かせようとしてくれる。
『ッ……ぅ…ッ…』
俺は男の胸に顔を埋めながら声を押し殺すように泣いた。
「…りっくん、僕の顔見て」
男がそう言うと、俺はゆっくりと男の顔を見上げた。
すると男は俺の目をジッと見詰め、包帯越しに唇に柔らかくキスをしてきた。…でも、それは心地良いと思った。男は暫くして俺の口から離れ、柔らかく微笑む。俺は今どんな顔をしているんだろう…
「落ち着いた?」
男が問いかけると俺は頷く。男は俺の頭を優しく撫でてた。
「…りっくん、一人で寝るの怖い?一緒に寝ようか?」
そうか、男の隣で寝ていると変な夢を見なかった。今回は俺一人だけで寝てたから、あんな夢を見たんだ。男の体温は落ち着く。俺は寂しかったのか…?そう考えていると俺は男の服を離さないようにギュッと掴んでいた。
「まだ夜だけど、もう一回寝る?それとも眠くなるまで少し話そうか、…りっくんが辛くなかったら、僕とりっくんが友達だった頃の話していい?」
丁度良かった。まだ聞きたいことが沢山ある。ぼんやりとだが、夢で見た景色は覚えている。あの子供は誰だったのか、男が知っている気がする。
「僕とりっくんが初めて会ったのはね、小学二年生の頃だよ、僕は転校生で、クラスに馴染めなくて…一人で学校の中庭に咲いてる小さくて可愛い花を眺めていたんだ、そんな時にね、二年生の間で人気者の男の子が声をかけてくれたんだ。それがりっくんだよ。こんな所で何してるの?みんなと遊ばないの?って、次の日も、また次の日も。りっくんは話しかけてくれた。初めての友達だったんだよ、僕はいつの間にかりっくんのことが好きになってた。勿論、恋愛感情で。でもね、りっくん、五年生に上がった頃君は…僕だけが見えなくなったみたいに話しかけても、見てくれもしなかった。」
俺は思い始めた。あの子供は、この男だったんじゃないか、と。
「…ちょっと暗くなっちゃったね、この話はやめよう。りっくん、おやすみ」
男は俺の頭をそっと撫で、包み込むように抱きしめながら眠った。俺は男の顔を見上げ、この男がこうなったのは俺の所為なのか…?子供の頃の記憶なんて殆ど思い出せない。でも、本当にこの男が俺と同じ学校に通って、俺が男を空気のように無視していたなら…復讐されるのは、自業自得なのか…そう思いながら俺は男の胸に顔を埋め、眠りに落ちた。
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大遅刻申し訳ありません!保存、投稿が出来ない不具合が発生していました!
皆さん!今回も【誘拐犯からは逃げられない】を読んでくださり、ありがとうございました!!
『俺』が夢の中で言っていた“あまの”とは誰なのでしょう…次回が楽しみですね~!
それでは皆さん!これからも@泥酔の作品をよろしくお願いします!!
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コメント
3件
みぅです🤍🥀 第5話、じんわりと切なくて苦しくなるお話でしたね…。 「りっくん」と呼ばれる主人公が夢の中で見た少年の姿、消えちゃいそうなほど儚くて「置いて行かないで」って言葉が胸に刺さりました。男の人が「僕は覚えているんだから」って言うところ、すごく切なかった…ずっと一方的に想い続けてる感じがひしひしと伝わってきて。 途中のキスシーンも、嫌悪感じゃなくて「心地良い」って主人公が思うのが、もう依存というか、絆のようなものを感じられて、なんか複雑な気持ちになりました。そして最後の「自業自得なのか」って考えが痛すぎる…。 「あまの」って誰なんでしょう。次回も気になります!😢