テラーノベル
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風が、嫌に冷たかった。
近くの森…だろうか。
人の気配はないのに、空気だけが張りつめている。
律「……なんで、こんな所に……」
自分の声が、やけに遠く聞こえた。
ベリアン「主様。ここから先は、危険です」
律「……さっきから思ってたんだけどさ」
歩きながら、ふと口をつく。
律「俺、状況説明されてないよね?」
一瞬、ベリアンの足が止まった。
けれど、何も言わない。
代わりに――
ムー「えーっとですね!
今はですね! 深く考えなていいんです!」
律「余計わからんわ」
ムーはいつも通りだ。
それが逆に、胸に引っかかる。
――そのとき。
「……来ます」
低い声。
金髪に、紫と黒が混ざった男――ロノが、前に出た。
ロノ「……天使です。主様」
律「……え?」
森の奥。
“それ”は、静かに立っていた。
人の形をしているのに、どこか歪だ。
白い光をまとい、顔は感情のない仮面みたいだった。
天使「――死になさい。命の為に」
同じ言葉しか、発しない。
律「……!?なんだありゃ…。」
足が、勝手に前に出そうになる。
ロノ「主様、下がってください!」
その声は敬語なのに、少しだけ切羽詰まっていた。
けれど――
律「……あれ?」
不思議と、怖くなかった。
手が、自然に“それ”を探している。
――ああ。
この感覚。
考える前に、身体が答えを知っている。
律「……」
武器を握った瞬間、空気が変わった。
視界が、少しだけ暗くなる。
胸の奥が――冷えていく。
ベリアン「……っ」
ロノ「……まさか……」
自分では、わからない。
ただ、頭が妙に冴えていた。
天使が、こちらへ踏み出す。
天使「死になさい。命の為に」
律「……うるさいなぁ…。」
次の瞬間。
――突き刺す。
白い光が霧みたいに散って、天使の輪郭が崩れていく。
律「……うわっ…。」
律「気持ちわり…」
声が、自分のものじゃないみたいだった。
動きに、無駄がない。
迷いも、躊躇も、ない。
“殺す”というより、
“処理する”感覚。
ロノは、息を呑んでいた。
(……重なって見える)
目の前の主様と、
かつて屋敷にいた――
“あの執事”。
感情を削ぎ落とした、完璧な戦い方。
ベリアンは、拳を強く握りしめていた。
(……やはり……)
天使は、完全に消えた。
静寂。
律「…………」
武器を手放した瞬間、
膝が、少し震えた。
律「は…?……なに、今の……」
胸の奥が、ざわつく。
――知ってる。
――覚えてないのに。
ムー「……主様」
ムーの声が聞こえる。
ムー「今は…思い出さなくていいんですよ!」
律「……それ、余計怖いんだけど」
ロノは、ゆっくり頭を下げた。
ロノ「さすがだなぁ!律! 」
ベリアン「ロノくん。」
ロノ「あっ…いえ。
……無事で、よかったです…主様。」
その言葉に、なぜか胸が痛んだ。
律「……俺、さ」
空を見上げる。
律「ここで、何してたんだろ」
答えは、返ってこない。
ただ、ほどけない違和感だけが、
確かにそこに残っていた。
ーー戻る場所をもう一度ーー
〜第4話 重なる影、ほどけない記憶〜
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