黒い雷雲が空を覆い、世界は沈黙していた。
大地には焦げた瓦礫が転がり、風が虚しく吹き抜ける。
かつて愛と勇気の象徴だったアンパンマンは、今や完全なる闇 「ダークアンパンマン」 となり、すべてを破壊し尽くしていた。
仲間たちは次々と倒れ、町も焼け落ちた。もう、誰も彼を止められない――そう思われていた。
だが、最後に立ちはだかったのは、あの男だった。
「……てめぇだけは、許さねぇぞ……アンパンマン!!!」
黒煙の向こうから、ぼろぼろになりながらも立ち上がる影。
ばいきんまんだった。
「……まだ立てるのか、ばいきんまん」
ダークアンパンマンは冷たく呟く。
ばいきんまんの体はボロボロだった。
左腕は折れ、体中が傷だらけ。
だが、その瞳には、まだ 光 が宿っていた。
「なぁ……アンパンマン……」
ばいきんまんは血を吐きながら、低く笑う。
「俺さ……ずっと、おまえを倒したかったんだぜ……」
ダークアンパンマンは無言で見つめる。
「でもな……こんな結末は、望んじゃいなかった……!」
ばいきんまんの拳が震える。
「おまえは……俺の……永遠のライバルだったんだよ……!!」
ゴォッ!!
ばいきんまんの体が、紫色の雷に包まれる。
「……そうか」
ダークアンパンマンは静かに拳を握る。
「だったら……おまえもここで終わらせてやる」
二人の間に、激しい雷が走る。
「行くぞ、アンパンマン!!!」
「来い、ばいきんまん!!!」
二つの拳が激突した。
空が裂け、大地が崩れ落ちるほどの衝撃が走る。
互いの拳が交わる瞬間、ばいきんまんは叫んだ。
「おまえが……どんなに変わっちまっても……!!!」
「俺の宿敵は……アンパンマンだけなんだよォォォォ!!!!」
その言葉が響いた瞬間――
ダークアンパンマンの拳が止まった。
「…………!」
脳裏に、一瞬の記憶がよぎる。
ジャムおじさんの笑顔。
バタコさんの優しい声。
カレーパンマンやしょくぱんまんと笑い合った日々。
――そして、ばいきんまんと戦い続けた、あの時間。
「俺とおまえは、ずっと戦ってきたんだろ……」
「だから……おまえが“闇”に堕ちたら……俺がぶっ飛ばしてやる!!」
ばいきんまんの拳が、ダークアンパンマンの顔に炸裂した。
衝撃とともに、ダークアンパンマンの体が弾け飛ぶ。
黒いオーラが砕け、空へと消えていく。
その場に倒れ込んだのは――かつての アンパンマン だった。
「…………ばいきんまん」
アンパンマンは、震える声で呟いた。
「……僕は……何を……」
気がつくと、涙が流れていた。
「……アンパンマン」
ばいきんまんは、ゆっくりと膝をついた。
「……戻ってきたのかよ……遅ぇんだよ、バカヤロウ……」
力尽きるように、その場に崩れ落ちた。
空に、朝日が昇る。
闇に染まった世界に、光が差し込む。
戦いは、終わった。
アンパンマンは、焼け落ちたパン工場の前に立っていた。
何もかもが壊れた。
仲間はもう戻らない。
でも――
「おまえが“正義”を忘れそうになったら、俺がぶっ飛ばしてやるからな」
かつてのばいきんまんの言葉を思い出し、アンパンマンは小さく微笑んだ。
「ありがとう、ばいきんまん……」
アンパンマンは、朝日に向かって歩き出した。
「……僕は、また “ヒーロー” になれるかな?」
彼の問いに、誰も答える者はいなかった。
だが、吹き抜ける風が、少しだけ暖かかった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!