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気だるげに前をゆく 大きな背中
を 少し小走り気味に追いかける
それがわたしの日常になっていた
長鉈の男は今日も目的地を決めず
ただ歩き回っている
敵意を向けてくる怪異がいれば
嬉々として叩き潰す
それが 彼 の日常
『なぜ?』と 聞いてみても
『なぜ? ではない 理解』
と 返ってくるだけなので
最近は 彼にその手の質問はしない
ようになった
意味なんて考えるほうがおかしいの
かもしれないな ココでは…
例えば コイツ が わたし を
置いて行かない理由とか………
最近全然 這いばいさんや銀髪さん
達に会えていない
エレベーターも見かけない
前にいた場所とは少し時空が
ズレたの かもしれない
と なると わたしとしてはコイツ
でもとりあえず一緒にいたほうが
安全だ
なんだかんだ 危ないときは
何故だか わたしを守るような動きを
するコイツをわたしは不思議に
思って いた
大きな顔にからまれたとき
コイツは真っ先に逃げた
わたしは逃げ遅れた
何しろ大きな顔はわたしを狙って
いるのだから 長鉈が逃げても
気にも とめない
わたしは 必死に抵抗した
大きい顔は わたしを連れ去りたい
のだ お人形のように
ドールハウスで飼いたいらしい
以前連れてかれたときも
コイツはドアぶっ壊して助けて
くれた………んだと思う
偶然ですけど? いたの?
みたいな顔されたが…
今回は抵抗してるうちに
大きい顔を怒らせてしまったようで
大きい顔は 明らかにわたしを
潰そうとしてきた
怪異の手で抵抗しているが 力の差は
歴然 まともに組み合ったりしたら
一瞬で潰されるな…
わたしは大きな手を叩きおとす
ようにして軌道を変えながら
逃げつつ この場から離脱
しなければいけない
正直厳しい! 運悪くここは 広い
ドアまで 距離がある上にドアを
開けるという時間も稼がなくては
いけない
更に床には瓦礫が散乱していて
足場が悪い 案の定わたしは
瓦礫に足を取られて態勢を崩して
しまった
そこに大きな手が振り下ろされる
詰んだ と思った そのとき
目の前に長鉈がきらめいた
地面に刃先を斜めに突き刺し
柄の部分を コイツが全力で
抑えていた
大きな手がぶつかる衝撃で
長鉈の先は派手に地面にめり込んだ
それでも長鉈と斜めにぶつかった
ことで手の軌道も逸れて
わたしの 横に落ちた
ついでに刃の上を滑ったことで
手はザックリと切れたようだ
悲鳴を上げる大きな顔
悲鳴のなかで 確かに
『にげろ』
という コイツの声を 聞いた
わたしはドアに走り込んだ
そしてなんとか難を逃れてここにいる
『あなた 助ける なぜ? わたし』
返ってくる答えなどわかっている
のに聞きたくなった
『なぜ? ではない 理解』
ほらね 予想通り
表情ひとつ 変えやしない
『あっ そ』
わたしはため息をついた
『 知りたい なぜ?』
珍しくコイツが質問を返してきた
『………ではない 理解』
思わずいつも聞いてるセリフが
出てしまって 自分で 吹き出した
アハハ 『感染っちゃったじゃん』
長鉈さんはわたしのようすを怪訝な
顔して見ていた
なんとなく理解した
長鉈さんは あれだ! 雨の日に
子猫拾っちゃう系の不良だ
そんでわたしは 可愛い子猫だ!
うん そうだ わたしは可愛いから
ほうっておけないよねー
ま 最初のころはめちゃくちゃ
バトルしてたけど…子猫だって
いきなり掴まれれば噛みつく
最近もたまにバトるけども
そういう立ち位置! よし!理解!
ならば もっとわがままに
振る舞ってもイイだろう
子猫拾っちゃう人 は
こんな場所で捨てたりはしない!
疲れたと訴えると長鉈さんは適当な
部屋の隅にもたれて座る
ベッドがある部屋なら わたしは
ベッドで休む ベッドが見つからない
ときは 長鉈さんにもたれて休んだ
長鉈さんに女性として扱われたことは
ない そういう欲もなさそうなので
くっついて寝たほうが安心だった
目が覚めると わたしは長鉈さん
の 足の間にいて分厚い胸板を枕に
していたり 足を枕にして寝て いる
こともあったが 別に 嫌がってる
様子もない
わたしが起きるのを待っててくれる
膝の上の子猫だと思われてるなら
納得だ 何したって可愛いよね
可愛いは正義だ
今日もベッドが見つからないので
野宿スタイルで休む
いつものように壁にもたれた
長鉈さんに横になるよう頼んでみる
野宿スタイルは首やらお尻やらが
痛くなって実はぐっすり眠れて
いなかったんだ と伝えると
長鉈さんは素直に寝転がった
腕枕してみる………ダメだ 筋肉が
分厚すぎて寝違えるな これじゃ
腕の先の方に移動してみる
うーん しっくりこない
手のひらに頭をのせてみる
あ イイかんじ?
長鉈さんにも聞いてみる
『ここ 寝る いい?』
『ではない 問題』
長鉈さんに背を向ける形で
イイかんじに収まった
上から太い腕が被さってきて
グッと近くに身体を引き寄せられた
一瞬 ドキッとしたが
抱き枕をイイ位置に調整した
程度のことだったらしい
腕が作る隙間にすっぽり収まって
重くもないし 少し暖かい
イイかんじの眠気がきて目を閉じた
長鉈の男も心地よい眠気に微睡んで
いた
この柔らかい白いヤツに触れて
寝息を 聞いていると 眠くなる
別に睡眠をとらなくても良い身体
だか 最近はコイツのペースに
合わせて規則的に眠っている
なんだか身体の調子も良いので
習慣になっていた
今日は珍しい要求をされた
別に嫌ではないからイイが
何かあったときにすぐに対応できる
か?という不安は少しあった
指先に ふに と頬がふれた
柔らかい … 面白い感触を確かめる
ように ふにふに と触っていた
『う、』くすぐったいのか
白いの がモゾモゾ と動いた
薬指に頬とは違う湿った感触が
当たった ふにふにしているのは
同じだが 熱いと感じる吐息が
指先にかかった
ザワリ 背筋に不快な感覚が走る
?! なんだ?
確かめるためにまた薬指で唇に
触れる 今度は唇の間に押しこん
でみた カリと爪が 歯に当たる
ふ とまた吐息がかかる
ドっ ドっ ドっ 心拍数が跳ね
上がったのがわかる
まるで強者と対峙したときのような
緊張感 呼吸も乱れる
なんだこれは?!
どうしてそうしたのか自分でも
分からないが
グイと歯列を割って更に奥へ
薬指と中指をつっこんだ
『んっう!』
ヌルっ
突然の異物に驚いて 舌が押し出す
ように指に触れる
口を閉じたのでガリっと歯が当たり
ちゅぷっ 音をたてて 指が抜けた
ゾクゾクぞくっ!!!
先程より何倍も強い感覚が背を
走り抜ける
はぁ はぁ、は………
慌てて呼吸を整える
今度は 不快とは感じなかった
あはは
『寝ぼけてかじっちゃった』
『食べる 間違い』
『ごめんなさい………』
口もとを拭って 白いのは
また すぐに寝息をたて始めた
なんだ?今のは?!!
呆然とする長鉈男はつぶやいた
『ではない 理解』