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「あっつ!」
「……っ珠羽くん⁉」
まだ熱いフライパンを触ってしまい、軽くやけどをしてしまったところで斗希くんが飛んできた。
僕はこっそり朝ご飯を用意するつもりだったのにいつの間に起きたのだろうか。
「早く冷やさないと!」
彼は僕の腕をつかんで蛇口をひねる。そして思いっきり僕の手を冷やし始めた。
数分後、僕の手は包帯でぐるぐる巻きになり、保冷剤が巻き付けられていた。さすがに過保護すぎやしないだろうか。
「大丈夫だよ、斗希くん」
「ほんと?痛いよね、ごめん」
自分でやったことなのになぜか謝られてしまった。でも作りたかったのだから仕方がない。
今日僕が作ったのは目玉焼きとチーズ、ハム、レタス、トマトのホットサンドに焼きベーコンとサラダだ。
フライパンを洗おうとしたらまだ熱くなってしまってやけどをしてしまった。
「とりあえず、フライパン洗うね」
「そんな手でできないでしょ?俺やるよ」
優しく言ってくれるが申し訳ない。彼の負担を減らそうと頑張ったのが裏目に出てしまったようだ。
おとなしくダイニングテーブルへ食べ物を運んで待っていると、すぐに彼は戻ってきた。
「珠羽くん、朝ご飯作ったんだ。俺も今から作ろ」
そういってキッチンへ戻ろうとした彼の服の袖を素早く引く。
このままでは僕の努力も水の泡だ。
「えっと、あの……斗希、くんの、えっと……」
「俺の、どうしたの?」
笑いながら穏やかに聞いてくる。『いつも通り』の安心する笑顔だ。
「斗希くん、のために、作りましたっ」
ここへ来てから何度目か分からない恥ずかしさをお覚えながらしどろもどろになりながらも伝える。
「えっ、俺、の?あ、ありがとう」
そういうと驚いたようにこちらへ返事をした。しかしなぜだか少し顔が暗い。
「ごめん、迷惑だったよね」
「いや、前っ前そんなことない。嬉しいけど俺のためにやけどしたかと思うと、何かやだなって」
そんなに気にしていたのか、そんなに大したことでもないがこれだけ悔やむなんて思っていなかった。
「た、たべてくれると、嬉しいな……」
「うん、食べる」
彼はいただきます、と言ってホットサンドにかぶりついたかと思うと急に噛みしめるように味わう。
「おいしい、世界一。めちゃくちゃおいしい」
そんなに褒められると少し照れる。でも、斗希くんに美味しいと言ってもらえてよかった。
僕は失敗したやつでも食べることにしようとキッチンからスクランブルエッグと化した目玉焼きホットサンドを食べる。
こちらは味は悪くはないが少し苦いし、形も悪い。するとそれに気が付いた斗希くんが僕のほうを見て言った。
「そっちもおいしそうだね、食べたいなあ」
気を使ってくれているのだろうか、明らかに焦げているのに欲しがっている。
「でもこっちは失敗作で……」
「そんなの関係ないよ!俺にとって珠羽くんが作ったって事実が最高級の付加価値だし。本当、独り占めしたいくらい」
付加価値、学校とかでしか聞いたことない言葉が出てきて驚く。
つまり僕の作ったホットサンドは彼にとって利益のあるものということなのだろうか。
「ん、おいしい。全然失敗じゃないよ」
気が付いたら僕の手の中のホットサンドは彼の口の中に入っていた。代わりに僕は彼が食べていたいわば『成功作』のホットサンドを食べさせられる。
「おいしい、愛情をこめて作ってくれたんだね」
ああ、彼のこういうところだ。こういうところにどうしようもなく惹かれてしまって、僕は彼の居場所が安心するのだ。
「今度は一緒に作ろうね」
彼とそう約束をして抱きしめられた。『誓いのキス』ならず『誓いのハグ』か。なんだかかわいい。
そう思っていると彼は静かに僕の小指を握った。
空は青く澄んでいた。
その日のお昼時、僕は一日ぶりに外へ出た。
今日は天気で心地よく、お散歩日和だ。
瑛太に改めて話そうと思い、駅前で待ち合わせをする。
「おーい、珠羽。ごめん、待たせた」
高校時代と変わらず、からっとした笑顔で僕の幼馴染は登場した。
昔から運動神経が良くて顔も綺麗な彼はみんなからの人気者で何かと僕にもかまってくれていた。
「ううん。ぜんぜん、僕も今来たところ」
そういうとなぜか瑛太が顔を赤らめる。真っ赤、というほどでもないがどうしたのだろうか。
「お前なぁ……」
「???」
僕が、どうしたのだろうか。まさか知らぬうちに爆弾発言を?
「いや何でもない。じゃあ行くか!」
そう元気に言うと彼は僕の手を取り歩き始めた。
行き先は近くのカフェ、そこでちょっと遅めのお昼ご飯を食べることになっている。
斗希くんはというと今日は大学の講義があるようで朝ご飯を食べたら足早に出て行ってしまった。
「珠羽どうした?顔赤いぞ?」
「な、何でもないっ」
斗希くんが家を出る前の出来事を想像し、思わず顔が熱を持つ。
顔中にキスをされて名残惜しそうに行ってきますといわれ、なぜか嬉しかったけれどとても恥ずかしかった。
ほくろは前世でキスをされた場所、というがそれが本当なら来世の僕の顔はほくろだらけになってしまいそうだ。
「いらっしゃいませ」
ウエイトレスさんの声が店内に響く。おしゃれな店内に僕の心は明るくなった。
「珠羽、なにたのむ?」
「えっ?ぼくは~ベリーパンケーキ!あと、サンドイッチ食べようかな」
やっぱり珠羽は甘いものが好きだなぁ、とあきれながらも嬉しそうに瑛太がいう。
でもしょうがないと思う。甘いものがあったら食べたいと思うのが僕の……いや人間の性なのではないだろうか。
「瑛太は何にするの?」
「俺はラザニア。珠羽はいいの?」
「うんっ」
少し弾んだ声で瑛太に話しかけているのが自分でもわかった。早くパンケーキが食べたい。
そう主ながら待っていると瑛太が話を切り出してきた。
「そういえばさ、朝倉はどう?」
「?……!あ、斗希くん?あ、えっと……」
どこを話せばいいのだろう。キスとかハグとかばかりであまりしゃべるようなことはない。
あるにはあるが瑛太には知られずに僕だけが知っていたいという欲が唐突にせりあがってくる。
「料理がおいしいよ。斗希くん、かっこいいし」
そういうと瑛太はどこか遠くを見るような目を僕に向けていた。
「え、瑛太?」
そういう瑛太は少し哀愁のようなものを滲ませながらも僕に笑いかける。
「そっか、朝倉も教えてくれればいいのに。お前が楽しいなら、良かった」
そういって僕の頭をポンポンと撫でる。瑛太は僕の頭が好きなのだろうか。ことあるごとに撫でられている気がする。
「お待たせしました、サンドイッチとラザニアでございます」
タイムリーなタイミングで店員さんが料理を運んでくる。
おいしそうな匂いが僕の鼻をくすぐった。
「おいしそーっ。いただきます」
「そうだな」
一口かじるとすっかり目の前に瑛太がいることを忘れてしまった。
僕は食べ物に夢中になり、瑛太の違和感に気が付くことはできなかった。