雪は積もらないものの寒さだけはずっと残っていた。部屋にある小さなストーブの前でスマホをいじる。冷たかった足先はじんわりと温まってきて次第に熱っぽくなってしまう。熱いと感じて慌てて足をストーブから遠ざける。
「藍良さん、そんなにストーブの近くにいると火傷してしまいますよ。」
後ろの方から声がしたので振り向く。
「うん、気をつけるねェ…。タッツン先輩は明日もお仕事?」
巽は手に持っていたブランケットをかけてくれた。「はい、明日は雑誌のインタビューのお仕事があります。」
この前、茶葉を頂いたと言いながらアッサムティーを淹れてくれた。部屋中に甘い匂いが広がっていく。「寝る前にアッサムティーなんてラブ〜い!タッツン先輩ってほんとにセンスいいよねェ…。」
寝る前に机を挟んで向かい合って紅茶を二人で飲むこの時間が大好きだ。
「センスがいいのかは分かりませんが、藍良さんが喜んでくれて良かったです。」
時計を見ると十二時を過ぎている。
「タッツン先輩は超人気アイドルだし、忙しいのは分かるけど俺、ちょっと寂しいよォ…。」
いけないと分かっていても弱音が出てしまう。同じユニットとして応援したり、サポートするのが正解かもしれない。そう思ってはいながらも寂しいという気持ちは拭いきれなかった。巽は困ったような顔をしながらも落ち着いた声で
「お仕事がたくさんあるのは俺が求められている証拠です。そういうことにはちゃんと感謝しましょう。それに明日は藍良さんもお仕事でしょう。今回は早めに寝ましょう。」
そう言うと巽は立ち上がり使ったカップを片付け始めた。急いで自分も立ち上がって片付けを手伝う。
「タッツン先輩、今日も一緒に寝てもいい…?」
「もちろんです。最近冷えてきているのでくっついて眠りましょう。」
最近は確かに寒い。でもいずれ夏が来て寒くなくなっても一緒に寝てくれるのだろうか。そんなことを考えながらベッドに入った。
「藍良さん、これからも一緒に寝てくださいますかな?」
暗くて顔はよく見えない。巽のことだから顔色ひとつ変えずに淡々と言っているのだろう。だけどその言葉があまりにも愛おしく何よりも嬉しかった。
「もちろんだよォ!」
巽の背中に手を回しギュッと抱きしめた。
「それはよかったです。」
そっと頭を撫でてくれた。今日はいい夢が見れそうだ。
「タッツン先輩、おやすみなさい!」
「はい、藍良さんもおやすみなさい。」
この幸せからは永遠に抜け出せずにいればいいのにと強く思った。
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