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ボクの名前はシロ。ここモンソロの町でしがない冒険者をやっている。


冒険者ランクは【Aランク】だ。これは永遠に変わることはない。


もちろん上には【Sランク】や【SSランク】なんていうのもあるらしいがボクはこの【Aランク】がいいのだ。


単独でドラゴンを倒すほどのボクなので、望めばSSランクにでもなれるのだろうがボクはこれでいいのだ。ご主人様と同じがいいのだ。


もちろんご主人様もハンパなく強かった。楽にSSランクになれていたとおもう。


では、なぜ【Aランク】に留まっていたのか?


「力を持っている者はあまり目立っちゃいけない。人間社会にはいろいろあるんだよ……」


「そしてカッコイイだろ。能あるフェンリルは爪を隠すだな!」なんて言っていたのが懐かしい。






――コトッ。 ボクは器の横に銀貨を1枚置いて立ちあがる。


「シロさんいつもありがとう。もうお休みですか?」


宿の看板娘が銀貨を受け取るのを見届けて階段を上り部屋に引きあげる。宿代のほうは1シーズン(80日)分を前払いしている。


食事のほうは依頼の関係でよく宿を空けるためそのつど現金払いなのだ。


寝床は床で寝たりベッドで寝たりとその日の気分で変えている。






翌朝、ボクは夜明けの少し前に目を覚ます。


なーに、いつものことさ。日課である散歩に出かけるのだ。


んん、今年もだいぶ寒くなってきたなぁ。


吐く息が白いや……。


モンソロの北門から出たボクは、まず北の街道を抜けて森にはいる。


そして、各洞穴や街道なんかを巡回したのち北門へ戻ってくる。このモンソロの北に広がる森林地帯はボクの縄張りになっているのだ。


「あっシロさん、ご苦労様です。今日は寒いっすねー。外の森は何も異常なかったですよね?」


いつもの若い衛兵が背中を丸めながら聞いてくる。


「ワフッ!」


一吠え答えてボクは門をくぐっていく。






宿に戻り、朝食を済ませるとふたたび表に出る。冒険者ギルドへ行くのである。


ご主人様がいつも嘆いていた、朝の混みあった ”むさいギルド” に突入していくのだ。


入口をはいったボクはそのむさい男達を尻目にギルドの階段を上っていく。


そして、2階にある目的の部屋の前にお座りをすると右の前足でドアを3回たたく、2回ではトイレと同じになるのでかならず3回たたくのだ。


「はーい! どうぞー」 と若い女性の声が聞えてくる。家の一族の娘で犬人族のエイミー(16歳)だ。


エイミーはここモンソロの冒険者ギルドで秘書のようなことをやっている。そして、ボク専属の受付嬢でもあるのだ。


入室許可の返事を聞いたボクは、ドアの下部に設けられたペットドアを潜りエイミーの座っている椅子の隣りでお座りをする。






「シロさん、おはようございます。少し待っててくださいね」


いろいろ書類を出しては何やら書きこんでいく。


「はい、できました! 今日は特別な仕事も入っていないので、いつものように魔石集めと、できたらミスリル鉱石の採取もお願いします」


そう言うとエイミーは、魔石集めの依頼書をクルクルと巻いて細紐で止めてからボクに渡してくれる。


コクコクと2回頷いたボクは、依頼書を口にくわえると扉に向けて歩きだした。


「シロさん、【新年祭】まであと7日になりました。今年も家で特製ビーフシチューを作りますので、またいらしてくださいね」


そんなエイミーの言葉にボクは尻尾を振ることでこたえ、ペットドアを潜り部屋をあとにした。









「あっ雪だ! シスター雪が降ってきたよー!」


表で薪割りの手伝いをしていた子供の一人、ブラウンの髪をおさげにしたアロアが曇天の空を見つめて騒ぎだした。


すると周りに居た子供たちも、アロアにつられるように両手を開き空を見あげ、クルクルと踊るように回っている。


「あぁ、とうとう降ってきましたねぇ。ささ積もらないうちに作業を終わらせますよ!」


「「「「はーい!」」」」


ここはモンソロの町、教会の裏にある孤児院である。


冬場……。 特に雪が降ってくると教会へ足を運ぶ人の数もへり、孤児院の経営は途端に苦しくなる。


薪や衣類もさることながら、流通が止まることもあり食材の値が跳ね上がってしまうのだ。


もちろん、それを見こして麦や芋類を貯蔵してはいるのだが。


これより長い冬がはじまる……。


なかなかそれらだけでは乗りきっていけないのが現状なのである。









ここは迷宮都市デレク。


町からダンジョンへ向かう沿道にはさまざまな屋台が立ちならび、威勢のいい声があちらこちらから聞こえてくる。


そして、いつも立ち寄っているのがここの串焼き屋だ。デレクにある孤児院の子供たちがやっている。


まだ幼い5人の子供たちは、寒空の下串を焼いたり客寄せのために大きな声を出し呼び込みをおこなっていた。


「あっシロさん! いらっしゃいませー!」


「いつものヤツでいいですか?」と元気がいい。


ボクが頷くと5本の肉串が一斉に焼かれていく。


……あいかわらず良~い匂いだ!


この匂いに吊られるように次々と客が集まってくる。


この串焼きのタレはご主人様が編みだした【秘伝のタレ】なのだ。


その秘伝のタレに継ぎたし継ぎたし年月をかけ、今のコクのある黄金のタレができあがっているのだ。


客が寄ってきたことを察知した子供たちは、焼きたての串1本分細切れにすると、


「味見です。おひとつどうぞ~!」


すかさず配ってまわっている。フフフッ♪


そうなると、この匂いと味にホダされてしまった者たちは、もはやココに並ぶしか選択肢がなくなってしまうのだ。


あっという間に10人近くの行列ができるのだが、【オーダー取り】と【人員整理】で2人の子供がすぐに飛び出していく。


マニュアルがあるとはいえ、すばらしい連携作業だ。これをニコニコと笑った子供たちがやっているのだから。


――あざと過ぎる。


これを考えたご主人様もマジで半端ないよね。


「…………」


この分なら、こちらの方は大丈夫かな。


少し多めに銀貨2枚を器の側に置くと、ボクは立ち上がりダンジョンへと進んでいった……。









今日の依頼の報告を終えたボクは、冒険者ギルドをあとにした。


いつもの宿屋に戻って夕食を済ませると自分の部屋に入る。


今年もあと7日だとエイミーが言ってたなぁ。


すると今夜あたりで良いのかな?


ご主人様が言っていた【クリスマス】。


子供たちにいろんなものをプレゼントしていたっけ……。


わざわざ真夜中にボンボンつきの赤白帽に【変身サングラス】までかけて。


それじゃあ誰があげたのか分からないよ? それでいいの?


「これでいいんだよ。みんなが笑顔になってくれるならさ」


「頑張っていれば、きっと女神さまが見ていてくださる。そう思えてくるだろう」


ご主人様……、いい笑顔だったなぁ。






それからボクは【クリスマスリース】を首にかけ、頭にはボンボンつきの赤白帽をかぶった。


画像


ボクはワンコの冒険者から『シロサンタ』へと変身する。


そして真夜中にモンソロの町を巡っていくのだ。


孤児院にはお肉や冬野菜を中心にした食材をどっさりと。


子供たちには、マフラーにもできるようフワフワの【赤い手ぬぐいタオル】を。


さらにスラムを根城とするストリートチルドレンには……。


ぺしぺし! ぺしぺし!


「……なぁ~に~? えっこれって!」


少女は寒さに震える手で、目の前に置かれている大きなパンと木の器にはいった温かなスープを夢中でかき込んでいく。


そしてお腹には目立たないようにと、ベージュ色の【腹巻】がしっかりとりと巻かれていた。






ここは弱肉強食のスラム。


こうでもしないと、与えたものはすぐに周りから奪われてしまうだろう。


皆が今日を生きぬくことで精一杯なのだ。


ここでは他人を思いやる気持ちはなかなか持てないのだろう。


そしてまた一人。 ぺしぺし! ぺしぺし!


すべてを配り終えたのは東の空がうっすらと明るくなったころであった。




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まだ、薄暗い空からはチラチラと雪が舞っている。


そんな空を見上げながら ― Merry Christmas ―




ボクの唯一の望みは…………。




もう一度あなたに会いたいです。…………ご主人様。






―――――――――――――――――――――――――――――――

この物語は「俺とシロ」のスピンオフ作品となっております。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

U•ɷ•)ฅ 皆さん良いクリスマスを!

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