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夢を諦めるのは簡単で、辞める理由なんて幾らでも思い付く
でも、その中でも、夢を続ける理由が1つでもあるなら
たとえちっぽけで馬鹿にされるようなものであっても
私は、僕は、それを信じて前を向きたい
ザアァァァ
静かなこの教室では雨音はよく響く
普段は外のバイクの走行音に負けない程うるさい教室
でも自習中となると呼吸音、脈拍数がわかる程静かになる
私はこの時間が結構好き
「なんで雨降ってんの?誰か傘貸して〜」「無理無理〜雨粒避けて帰りなー」「”傘”、”貸さ”ないってか?笑」
「天気予報では今日一日晴れだったのに!」「まぁ、予報だもんね〜」
「先生〜こいつが滑って転けて泣いてる〜笑」「泣いてねぇし!」
放課後になると基本どこでもこうなる
私の学校は帰宅部ばかりで、授業が終わると生徒の大半は下校する
うるさくなるから、下校時間は嫌い
でも、部室に入るとそんな気持ちさっぱり消えてなくなる
ここは美術部が使う美術室 部員は私を含め3人
絵を描く子と、本を読む子、そしてぼーっと外を眺めてる子
私は絵を描く子だ
特に絵を描くことは好きではない 見る方が好き
じゃあなんで絵を描くのかって?
私の初恋の人が、絵が上手い人が好きだから
私の初恋の人、想良(そら)はかっこよくて、優しくて、面白くて人気者
きっともう可愛い彼女さんがいて、幸せなんだと思う
もし万が一、彼女さんがいなかったとしても
可愛くない、陰気な私とは釣り合わない
……でも、どこかで諦めきれてない私がいる
だから私は絵を描き続けている
気が付くと、朝になっていた
雨は止み、昨日とは比べ物にならないくらいカラッとした天気となった
今日は火曜日 まだ憂鬱な平日は続く
重たい足を無理やり動かし、校門に潜り込む
「おはよー」「おはよう!!」「あれ?前髪切った?」「そうなの!」
「一限から日本史はダルすぎる」「うわどんま〜い笑」
いつも通り、煩く騒がしい朝 この時間から元気なのは素直に尊敬する
ガラララッ
古臭い扉はどれ程優しく開けても大きな音を立てる
何も変わらない、いつも通りの日々
━━━あれ?何かが違う
いつも人だかりができているあの机の周りに誰もいない
正確には彼、想良一人で過ごしている
いや、”一人”というより”独り”?
言わば……”浮いている”状況だ
不思議に思いながら私は席に着いた
すると、普段は私のことを空気のように扱うクラスメイトの内の数名がニヤニヤしながら声を掛けに来た
その第一声は「想良のあの事、どう思う?笑」だった
訳が分からず、返事に困惑しているとその中の一人が、えー知らないの?と馬鹿にしたような声色で
「あいつ、急に言葉を発さなくなるの笑おかしくない?笑」
……え?
さらに訳が分からない
私の身体が頭が脳が朝っぱらから忙しなく動いているのがわかる
“急に” “言葉を” “発さなくなる” “あいつ” “おかしい”
一つ一つを噛み砕いて理解していく
自慢じゃないが私はかなり前から想良が気になっていた
基本的にいつも彼の事を目で追うようにしている
だが、私の見る限りでは”言葉を発さない”なんて事は無かった
でも…それとも…? これ以上は頭が回りそうがない
「ねぇ、聞いてる?」「だからこいつも独りなんだよ笑」
クラスメイトはずっと私の回答を急かす
…こちらの気持ちも知りえないで
「もういいや、あんたも”そっち側”って事ね?」「うーわまじか笑」「ちゃんと発言しない所、一緒じゃん笑」
そう一方的かつ乱暴に言葉を投げつけ、クラスメイトらは立ち去った
今日一日、私の頭は想良の事で埋め尽くされていた
……まぁいつもと変わらないと言われれば、それはそうなんだけど
でもいつも考えている事とはかなり違う
“急に言葉が出なくなる”とはどういう事なのだろうか
彼に直接尋ねたくて堪らない気持ちに蓋をして、いつも通りを偽りながら授業を受けた
キーンコーンカーンコーン
HRの終了を示す鐘が鳴る
今日は特に部活もないので、さっさと帰り次に書く絵のモチーフでも考えようと胸に決めながら鞄に荷物を詰める
きっとそうすれば彼の事を少しでも忘れられるだろう
━━━━━だがそこで事件は起きた
朝、私に集って来たあの集団が想良と何かを話している
もう関係が戻ったのか、と少し驚いたのもつかの間
よく観察するとそのような楽しそうな会話をしているようには見えなかった
悪い笑みを浮かべながら話す集団と、明らかに困った様な顔をした想良
……私に助けに行ける勇気があれば
私は逃げるようにこの教室を去った
誰かがこちらを見ているような気配さえ気づかない程に
教室であの様な想良を見てしまったのだ、描く絵のモチーフなど考えられるはずが無かった
あの状況で、手を伸ばせば届いたあの距離で、何も出来なかった、何もしなかった自分に嫌気がさす
悔しくて、辛くて、悲しくて、なんとも言えない重く冷たい感情に押し潰される
ずっと昔から好きな人1人も助けられないなんて、私はなんて弱いのか
次の日、昨日とは違う教室の雰囲気に寒気がした
私はその寒気の正体にすぐ気が付いた
━━━━想良がいない
私は彼が小学校からずっと皆勤賞であることを知っている
流行りの病にも掛からず、ズル休みなど以ての外
部活の公欠はあったものの、それ以外は休まない新手の化け物のような人だ
そんな想良が高校生になった今、急に休んだ
彼は部活に入っていなければ公欠など無い
驚きを隠せず、その場に立ち尽くしているとHRの予鈴が鳴る
それでハッと意識を取り戻し、忙しなく席につく
するとまもなく昨日のクラスメイトらがまたあの時と同じ顔でこちらに来た
無言で見つめていると、その中の一人が口を開いた
「お前って結局、想良側なの?」
……は?
長くなる為後編に続く