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待ち合わせの時間。
「……はあ」
キヨが小さく息を吐く。
「緊張してる?」
隣で、うっしーが聞く。
「……してない」
「してるだろ」
「してない」
即答。
でも、手は少しだけ冷たい。
「……行ける?」
「……行くしかないでしょ」
そう言いながら、一歩前に出る。
でも。
次の一歩が、少しだけ重い。
⸻
「……キヨ」
「ん」
「無理そうならすぐ戻ってこい」
「……子供扱いすんな」
「してねえよ」
「してる」
軽く言い返す。
でも。
「……ありがと」
小さく付け足す。
⸻
「あ、あと」
うっしーが、少しだけ真面目な声で言う。
「ん?」
「約束」
「……なに」
「戻りそうになったら止めろって言っただろ」
「……うん」
「ちゃんと止めるから」
「……」
その言葉に、少しだけ安心する。
「……頼むわ」
「任せろ」
短いやり取り。
でも、それだけで十分だった。
⸻
「……じゃあ」
「おう」
キヨが、一人で歩き出す。
振り返らない。
でも。
(……いる)
後ろに、ちゃんと“待ってる人”がいる。
それだけで、足が動く。
⸻
待ち合わせ場所。
「……久しぶり」
元カレが立っていた。
「……うん」
キヨは、少し距離を取ったまま答える。
「やっぱ元気そうじゃん」
「……普通」
ぎこちない会話。
でも、前とは違う。
あのときみたいに、心が揺れてない。
⸻
「この前はごめん」
元カレが言う。
「……何が」
「色々」
曖昧な謝罪。
「ちゃんと向き合ってなかった」
「……」
キヨは黙って聞く。
「お前のこと、ちゃんと見てなかった」
「……今さら?」
思わず出た言葉。
「うん、今さら」
元カレは否定しない。
⸻
「でもさ」
一歩近づいてくる。
「やっぱりお前がいい」
「……」
「離れてわかった」
その言葉。
昔だったら、揺れてた。
でも今は——
(……ああ)
違う。
⸻
「……遅い」
キヨが、はっきり言う。
「え」
「全部」
静かな声。
でも、ちゃんとした拒絶。
⸻
「俺さ」
キヨが続ける。
「ちゃんとしんどかったんだよ」
「……」
「そっちが適当に扱ってる間も」
「……ごめん」
「今さら謝られても遅いって言ってんの」
少しだけ、感情が乗る。
でも、それは怒りというより——整理。
⸻
「……戻れない?」
元カレが聞く。
「無理」
即答だった。
迷いは、なかった。
⸻
「……なんで」
「なんでって」
少しだけ考える。
でも、すぐに答えは出る。
「もう、違うから」
「……何が」
「全部」
短い言葉。
でも、それで十分。
⸻
「……他に好きなやつできた?」
核心を突く質問。
「……」
少しだけ、言葉が止まる。
でも。
「……うん」
小さく、でもはっきり。
⸻
その瞬間。
元カレの表情が変わる。
「……そいつのがいいの?」
「……うん」
迷わない。
⸻
「……どんなやつ」
少しだけ、悔しそうな声。
キヨは少しだけ考えて、
「……ちゃんと見てくれるやつ」
ぽつりと言う。
「……」
「放っとかないし」
「……」
「一人にしない」
一つずつ、言葉にする。
それは、全部——うっしーのことだった。
⸻
「……そっか」
元カレが、少しだけ笑う。
「負けたな」
「……勝ち負けじゃない」
「いや、負けだろ」
少しだけ自嘲気味に。
「……もういい?」
キヨが言う。
「……うん」
「ちゃんと終わった?」
「終わった」
その一言で、全部区切る。
⸻
キヨは、そのまま背を向ける。
今度は、迷わない。
振り返らない。
⸻
そして。
少し歩いた先。
「……」
うっしーが、いた。
壁にもたれて、待ってる。
「……早かったな」
「終わった」
それだけ言う。
⸻
「……どうだった」
「ちゃんと終わらせた」
「……そっか」
それだけで、十分伝わる。
⸻
少し沈黙。
でも。
その沈黙は、重くなかった。
⸻
「……ねえ」
キヨが、小さく言う。
「ん?」
「俺さ」
一歩、近づく。
「うん」
「ちゃんと選んだ」
その言葉。
一瞬、空気が止まる。
⸻
「……誰を」
わかってるくせに、聞く。
「……バカ?」
少しだけ笑う。
でも。
次の瞬間——
キヨが、うっしーの服を掴む。
前みたいに、無意識じゃない。
ちゃんとした意思で。
⸻
「……お前だよ」
はっきり言う。
逃げない。
⸻
「……」
うっしーが、一瞬黙る。
「……それさ」
少しだけ低い声。
「責任取れんの?」
「……は?」
「中途半端なの一番いらねえ」
真っ直ぐな言葉。
⸻
「……取るけど」
キヨも、負けずに言う。
「……じゃあ」
一歩、距離が縮まる。
「もう逃げんなよ」
「……逃げねえよ」
即答。
⸻
そのまま。
自然に、距離がゼロになる。
触れそうで、触れない距離。
でも。
もう時間の問題だった。
⸻
「……ほんとバカだな」
うっしーが小さく言う。
「どっちが」
「お前」
「うるさい」
軽く言い返す。
でも。
その空気は、もう完全に変わってた。
⸻
“ただの居場所”じゃない。
“ちゃんと選んだ相手”になった。
⸻
キヨはそのまま、小さく呟く。
「……もう離れないから」
それは宣言だった。
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「……望むとこだわ」
うっしーが答える。
⸻
春のはじまり。
二人の関係は、ここでやっと名前を持つ。
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