テラーノベル
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地下は、思っていたより明るかった。
白い光が、壁も床も均一に照らしている。
影がない。
どこに立っても、逃げ場がない感じがした。
機械音が、一定のリズムで鳴っている。
心臓みたいに。
いや、これは街の鼓動だ。
正面のスクリーンが点灯する。
そこに映ったのは、数字と図形。
沈下率、重力値、人口密度、耐久限界。
全部、この街のデータだった。
そして、文字が表示される。
「沈まない理由を開示します」
喉が鳴る。
僕は、画面から目を逸らせなかった。
「この都市は、一定の負荷を超えると沈下します」
「人間は、都市にとっての“重量”です」
淡々とした文字。
感情は一切ない。
「全員を保持することは不可能」
「そのため、都市は保持対象を選別します」
沈む人間。
沈まない人間。
それは価値でも、善悪でもなかった。
「あなたは、都市維持に必要な行動をとる傾向が確認されました」
「避難誘導、情報共有、非破壊行動」
思い当たる節が、いくつも浮かぶ。
昨日まで、当たり前だと思っていた選択。
「あなたは“沈ませない側”です」
画面が切り替わる。
地上の映像。
街は、まだ沈んでいる。
人々は混乱し、逃げ惑い、足元を失っている。
「選別は継続されます」
「都市が維持される限り」
そのとき、質問が表示された 。
「都市の維持を継続しますか?」
指が、わずかに震えた。
続ければ、誰かが沈む。
拒否すれば、この街は崩壊する。
選択肢は、二つしかない 。
どちらも、正しくない。
――でも。
僕は気づいた。
街は、答えを知りたがっていない。
ただ、実行する人間を必要としているだけだ。
画面に手を伸ばす。
選択肢に、触れた。
その瞬間、地上の沈下が止まった。
静寂
機械音が、ゆっくり弱まっていく。
「観測終了。 都市は安定しました」
出口のランプが点灯する。
地上へ戻る階段。
外に出ると、街は“普通”だった。
何事もなかったみたいに。
沈んだ人たちの痕跡は、どこにもない。
スマホが、最後に一度だけ震えた。
『管理者登録完了』
『次回沈下まで:未定』
画面を閉じる。
橘靖竜
n217
空を見上げる。
街は、今日もそこにある。
静かに、重く、何も語らず。
――沈まなかったのは、
運じゃない。
この街が、
僕を必要としただけだ。
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