テラーノベル
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俺の人生は、一年前に一度終わっている。
春だった。桜がやたらと綺麗で、やけに風が強かった日。
彼女――ほとけが、通り魔に襲われて帰らぬ人になった。
目の前で、なんて劇的な話やない。
俺が着いた時には、全部終わってた。
白い布。赤色灯。泣き崩れる人。
現実味のない景色の中で、俺だけが取り残されてた。
「もっと一緒におりたかったなぁ」
最後に交わした言葉は、たったそれだけやった。
冗談みたいに軽い言葉。
まさか、それが本当に“最後”になるなんて思わへんやん。
それからの一年、俺はずっと空っぽやった。
笑うことも減ったし、夢もなくなった。
何をしてても、どこか遠くにいる感じ。
そんな俺に届いた、一通の通知。
【国安人民救助・悪霊殲滅部隊 育成機関 入学許可】
「……は?」
意味わからん名前の学校や。
詐欺か宗教かと思った。
けど封筒には、俺の名前、住所、過去の記録まで正確に書かれてる。
『あなたには霊的適性が確認されました』
適性?
俺が?
「いやいや、俺そんなキャラちゃうやろ……」
霊感ゼロ。運動も普通。成績も中の下。
特別な力なんて、持った覚えない。
でも最後の一文が、引っかかった。
『これは、あなたの大切な人を守れなかった過去を変える機会でもあります』
……卑怯やろ、そんな書き方。
結局俺は、その学校に入学することにした。
理由?
自分でもよう分からん。
ただ――
もう何も守れへん自分が嫌やっただけや。
入学初日。
山奥にある校舎は、見た目は普通の高校やった。
でも空気が違う。
なんというか、静かすぎる。
鳥の声すら遠い。
「今日から君たちは、“霊を視る側”の人間になる」
教師らしき男が、そう言った。
「この世界には悪霊がいる。人を傷つけ、心を蝕み、時には命を奪う」
ざわつく教室。
俺は半信半疑やった。
でも次の瞬間、空気が凍った。
教室の後ろに、黒いモヤみたいなものが現れた。
顔はない。
形も曖昧。
でも――
確かに“何か”やった。
生徒の一人が悲鳴を上げる。
教師は指を鳴らした。
光が走って、モヤは消えた。
「今のが悪霊だ」
静まり返る教室。
冗談やない。
本物や。
「これから“属性鑑定”を行う」
属性鑑定。
それによって守護霊の系統や、戦い方が決まるらしい。
炎、水、雷、結界、治癒――
色んな属性があるらしい。
俺は列の最後やった。
前のやつらは、次々と結果を出されていく。
「炎属性・中位」
「雷属性・高位」
「治癒属性・希少種」
歓声が上がるやつもおる。
落ち込むやつもおる。
そして俺の番。
「名前」
「いふ、です」
水晶みたいな装置に手を置く。
教師が少し驚いた顔をした。
「……霊力値、低いな」
後ろでクスクス笑いが起きる。
ほらな。
やっぱり俺は凡人や。
ところが――
水晶が、突然光り始めた。
淡い、白銀の光。
「なっ……!?」
教師が目を見開く。
「こんな反応、見たことない……」
光の中に、人影が浮かび上がる。
細い輪郭。
長い髪。
見覚えのあるシルエット。
心臓が跳ねた。
「嘘やろ……」
その影が、はっきりと形を持つ。
透き通るような存在。
そして――
「久しぶりだね、いふくん」
聞き慣れた声。
忘れるわけない声。
ほとけやった。
あの時と同じ、優しい目。
少し困ったように笑う癖。
「僕が、君の守護霊だよ」
頭が追いつかん。
「……夢、か?」
「夢じゃないよ」
彼女はふわりと浮かび、俺の前に立つ。
「ずっと、そばにいたんだから」
胸が締めつけられる。
「なんでや……なんで今さら……!」
声が震える。
「守れへんかった俺の前に、なんで出てくるんや!」
教室は静まり返っていた。
でもそんなのどうでもええ。
「俺は……」
言葉が詰まる。
悔しさも、後悔も、全部混ざる。
すると彼女は、優しく言った。
「守れなかったって、決めつけないで」
「え?」
「君はあの日、最後まで僕を想ってくれてた」
ふわっと、温かい感覚が胸に広がる。
「それにね」
彼女は少し微笑む。
「これからは、僕が君を守る番だから」
教師が震えた声で告げる。
「守護霊・人格保持型……しかも完全自立型……伝説級だ……」
ざわめく教室。
でも俺には関係ない。
目の前の彼女しか見えへん。
「……ほとけ」
「なに?」
「ほんまに、お前なんか?」
彼女は少し考えてから言った。
「君の机の中に、こっそりチョコ入れたのは誰?」
「……お前や」
「君が風邪ひいた時、看病しに行ったのは?」
「お前や」
「君のこと――」
少しだけ照れた顔で。
「一番好きだったのは?」
俺は、何も言えんかった。
代わりに涙が出そうになった。
「……ずるいわ」
「ずるくていいよ」
彼女は言う。
「だって僕、もう幽霊なんだから」
この日から、俺の人生は二度目のスタートを切った。
悪霊と戦う日々。
命の危険がある世界。
でも――
俺のそばには、いつも彼女がいる。
守れなかったはずの存在が、
今は俺を守ってくれている。
これは偶然やない。
きっと意味がある。
そう思った時、教師が言った。
「明日から実戦訓練だ」
教室の空気が張り詰める。
「死ぬ可能性もある。覚悟しておけ」
死。
その言葉に、一瞬だけ怖くなる。
でも横を見ると、彼女がいた。
「大丈夫」
柔らかい声。
「僕がいる」
その一言で、不思議と恐怖が薄れる。
俺は小さく笑った。
「頼りにしてるで、相棒」
「うん」
彼女も笑う。
まだ知らなかった。
この力の本当の意味も、
彼女が守護霊になった理由も。
そして――
彼女の死に、悪霊が関わっていたことも。
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