テラーノベル
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#ラブコメ
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#ハッピーエンド
二次試験までの10日はあっという間に過ぎ去っていった。初日と2日目を除いて、時雨は俺に付きっきりで試験対策という名の特訓をしてくれたのだ。
同じ特待生候補である真昼と小夜子らに比べて、俺の知識や経験が数段劣っているという自覚はあったので、時雨が特訓をしてくれると聞いた時は素直に嬉しかった。俺の知らないスティースの話や、契約の種類についてもいくつか聞くことができた。紅華ともずいぶん仲良くなれたと思う。しかしだ。これらを特訓だと言ってしまうのはなにか違うような気もするのだ。なんせ、時雨と衣食住を共にしながら紅華と遊んでいただけなのだから……
こんなことをしていて本当に大丈夫なのかと不安になり、何度も時雨に確認をした。そんな俺に対して彼は笑顔で『大丈夫』と返すだけだった。きっと俺には分からない彼なりの考えがあるのだろう。俺の推薦人であり、優秀な魔道士でもある時雨を信じるしかなかった。胸の中のモヤモヤが晴れることはなかったが、今更どうすることもできない。悔いが残らないよう、自分の力を精一杯出し切って乗り切るしかない。
そうして俺は試験当日を迎えることになった――――
「とおるーー!!」
「真昼」
俺の名前を呼びながら駆け寄ってくる少女。日雷に来て最初にできた友人のひとりである『更級真昼』だ。彼女から数メートルほど離れた後ろに、黒髪の小柄な少女の姿も確認できた。黒髪の少女は俺と目が合うと軽く右手を上げて控えめに微笑んだ。真昼とは見た目も雰囲気も対照的なこちらの少女の名は『ハ名木小夜子』
俺が日雷に来た当日、このふたりの少女には大変世話になった。ろくにお礼も言えないまま別れてしまっていたから気になっていたのだ。試験会場で会えるだろうと予想していたが、早々に実現してくれて助かった。
「おはよう、透。元気そうで安心した。心配してたんだよ……私たちの前でいきなり倒れてそれっきりだったから」
「ふたりには色々と親切にして貰ったのに連絡もしないでごめんな」
「榛名先生経由であんたの状況はなんとなく分かってたから、気にしなくていいよ。それで、体の方はもう平気なの?」
「うん。元気いっぱい。小夜子、真昼……改めてありがとう。榛名先生にもお礼を言っておいてくれる?」
「だから、私たちのことはいいって。元気になったのなら良かった。これから試験だっていうのに、体調に不安がある状態で挑ませたくないからね」
「榛名先生には次に会った時に、透の口から直接伝えてあげて欲しいな。その方が先生も喜ぶよ」
「分かった。試験が終わったら、会いに行くよ」
知り合って間もない俺のことをこんなにも気にかけてくれていたなんて……ふたりの少女は相変わらず面倒見が良くて優しかった。
周囲から俺たちの様子を窺うような気配をいくつも感じる。真昼と小夜子がふたり揃って目を引く容姿をしているからだろう。視線の主はほぼ男だった。
今この場所には俺たちを含めて数十人程度の人間が集まっている。男女比は3対2くらいで男の割合が若干多いが年齢は様々だった。彼らは俺たちと同じ、二次試験の受験者だ。一般試験を通過した者と推薦組の区別はされておらず、同じ場所に集められているようだけど……最終的にこの中から何人が合格になるのだろうか。
試験が行われるのは、玖路斗学苑特設試験会場となっている。現在俺たちがいるのは校門を抜けて少し歩いた場所にある開けたスペース。設置してあった案内板に従いここまで来たのだ。
学苑の敷地はとても広く、このような広場がいくつもあるらしい。この場所に何度も訪れたことのある真昼と小夜子に教えて貰った。『千鶴』のスティースに襲われたのもこの辺りだ。俺が投げ飛ばされてぐちゃぐちゃにしてしまった生垣や、スティースの蔓によって薙ぎ倒されてしまった植木も綺麗に整備されていた。
「意外と緊張してないみたいね。これも先生に聞いたんだけど、蓮杖さんに稽古つけて貰ってたんだって? すごいじゃん」
「えっ?……」
「蓮杖さん……魔道士としては超一流だけど、人に教えるとかは全然やらないって有名なんだよ。透を推薦したのが分かった時だって大騒ぎになって先生も驚いてた。きっと透の事は大切に思ってるんだね」
後進の育成も大事な仕事だって言ってたけどな。それは学苑全体の話であって、時雨個人の考えではなかったということなのだろうか。本当に彼と学苑はどういう繋がりなのか……
特訓の話がふたりにも伝わっていて驚いた。美作は時雨の許可無しに言いふらしたりしないはずだ。そうなると、榛名先生に話したのは時雨本人か。プライベートでも連絡を取り合っているとなると、やはりふたりは仲の良い友人同士なのだろう。
「あれを稽古って言っていいのか分かんないけどね。豪華な家で寛がせて貰っただけだよ」
無理やり大量の知識を詰め込まされたわけでもなければ、キツい肉体トレーニングを課せられたわけでもない。時雨の要求といえば朝昼晩の食事を作ることくらいだった。そのおかげか、料理のスキルはちょっと上がったかもしれない。
「内容はともかくとして、蓮杖さん本人が稽古って言ってるんだから稽古なんでしょ。あの人の指南を受けたいと切望する人は後を絶たない。またあんたに対して変にやっかむ連中が出てきそうなのは心配だけど、それだけあんたが蓮杖さんに期待されてるって事なんだから自信を持ちなさいよ」
「絶対3人揃って合格しようね!! 透と一緒に学苑に通えるの楽しみにしてるんだから」
「うん。ありがとう、ふたり共。頑張ろうな」
このふたりは凄い自信というか……落ちる心配とか全くしてないみたいだ。あれだけ身体能力が高くて、魔法も使いこなせているのだから当然か。俺も早くふたりに追いつきたいものだ。
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